サイバーパンクな忍者世界で不死身の剣士してます 作:ニゴリエース
森の中でカムイが長老衆の忍達と戦いを始めて数十分が経過していた。そこには見るのも悍ましいほどの惨状が広がっていた。
「死ね裏切り者が!」
二人の忍がカムイの正面と背後から刀で斬り付ける。その刃はカムイの身体を切り裂き血飛沫を上げるが、カムイは怯むこと無く右手に持った無銘剣虚無で反撃を繰り出す。
「がぁぁぁぁあああああああっ!!」
―――ザシュウッ!!
「ぎゃぁあああっ!!?」
「ぐぅっ!?」
長老衆の忍達が胸を斬り裂かれて地面にうち捨てられる。一人は見るからに致命傷だが、もう一人は一撃で絶命していないのを見抜いたカムイは無銘剣虚無を逆手に持ち替え、心臓に向かって振り下ろす。
―――ドスッ!ブシャアァァァアアアアアッ!!
無銘剣はまっすぐ突き立てられ血を噴き出し、カムイの身体に浴びせられる。彼は忍が確実に絶命したのを確認すると無銘剣を引き抜く。しかしすかさず別の忍の二人が前に飛び出て両手に持った鎖分銅をカムイに向かって投げ放つ。
「「はっ!!」」
―――ジャララララララララッ!!
「ぐっ!?」
鎖分銅がカムイの両腕に絡まり、忍達はそのまま鎖を引いて彼の動きを封じようとする。しかしカムイは逆に絡まった鎖を掴むと力の限り振り上げる。忍達は咄嗟のことに鎖を握った手を離すことができず、上空へと放り投げられる。そしてカムイは勢いをそのままに鎖を引っ張り上空から忍達を地面にたたき落とした。
「おらあぁぁああああああっ!!」
―――ドグシャァッ!!
「ぎゃっ!?」
「がっ!?」
頭から地面にたたき付けられ、二人はまるで潰れたトマトのように頭から夥しい血をまき散らして絶命する。そしてカムイは両腕の鎖を引きちぎり地面に投げ捨てる。
「このバケモノがぁっ!!」
彼の隙を窺っていた一人が上空から飛び降り、カムイに向かって刀を振り下ろそうとする。カムイは腰の必冊ホルダーに無銘剣虚無を納刀しトリガーを押す。
『虚無、居合!!』
「―――はあぁぁあああああああっ!!」
『黙読一閃!!』
そして一気に無銘剣を引き抜く。炎を纏った居合斬りが放たれ、忍は上半身と下半身を両断され地面にうち捨てられる。忍は悲鳴を上げることなく絶命したのであった。
ファルシオンの装甲が纏われた彼の身体はすでに自分の血と長老衆の忍達の返り血で紅く染まっている。そして周囲には彼によって斬り捨てられた忍達の死体がいくつも転がっており辺り一面が血の海とかしていた。
「はぁっ……!はぁっ……!ハハハ……あとは、アンタだけだな……?」
「ぐっ、ぐぐっ!」
カムイは戦いによる疲労と興奮で心臓が早鐘を打つのを感じながら肩で息をし、仮面の下で悍ましい笑みを浮かべながら最後に残った一人を睨み付ける。死体を積み重ね、血に染まった彼の姿はまさに悪鬼そのものであった。それを見た長老衆の忍で最後の一人は思わず怯んでしまう。
その忍は長老衆に長いこと仕え、いくつも死線をくぐり抜けてきた。彼だけでなく、すでに死体となって転がっている者達も、決して弱いわけではなかった。しかしそれがたった一人の、まだ十を過ぎたばかりの子供に為す術無く斬り捨てられたのだ。しかもこれだけの惨状を作り上げた子供は、敵を斬り捨てながら嗤っているのだ。恐怖ですくんでしまうのも仕方ない。
「―――くそがっ!ガキが粋がるんじゃないっ!!」
しかしそこは腐っても歴戦の忍であり、彼は恐怖を振り払い刀を構え忍法を発動させる。その瞬間、忍の動きが先ほどと比べ格段に速くなる。彼は奇しくも井河アサギと同じ、隼の術を使う忍だったのだ。スピードはアサギのそれと比べるまでもないものだが、長時間の戦闘で疲れ切っていたカムイはその速さに対応することができなかった。
―――ザシュザシュザシュザシュッ!!
「ぐっ!?」
周囲を縦横無尽に駆けながら放つ斬撃の嵐にカムイは全身を切り刻まれる。いくら身体が再生すると言っても痛みがないわけではない。それに血を流しすぎたためか、カムイは視界がぼやけぐらりと身体が傾く。そしてその明らかに致命的な隙を長老衆の忍が見逃すことはなかった。
「―――とった!!」
―――ドスゥッ!!
忍びは一気にカムイの懐に飛び込むと彼の胸に刃が突き立てられ、腕から無銘剣虚無が滑り落ちる。長老衆の忍は確かに心臓を突き刺した感触が手に伝わり勝利を確信する。しかしその瞬間、カムイの片腕が動き、忍の腕を掴む。しかし刃を引き抜くのでは無く、逆に自分から押し込んだのだ。
「なにっ!?」
まさか心臓に刃を突き立てられても死なないとは思いもよらず、さらには自分から刃を押し込んできたことに忍は驚愕の声を漏らす。そして次の瞬間、カムイはもう片方の腕を彼の首に伸ばした。
「がっ!?」
手が男の首を掴み、凄まじい力で締め上げてくる。男は首を絞められ息が詰まり、すぐに抜け出そうとするが刀を握った手の上からカムイが握りしめて離さないので逃げられない。カムイが突き刺さった刃を自らでさらに押し込んだのは、首を絞めた忍を逃がさないためである。
―――ギリギリギリッ!!
「がっ……!?かはっ……!?や、やめっ……!?」
「……恨むなら、葉取星舟に仕えた自分を恨むんだな」
「た、たしゅけっ……!」
男は万力の如く首を絞められ息ができない。それを仮面越しにカムイが眺めながら彼の身体を持ち上げ、冷たい言葉を放つ。男は足をバタつかせか細い声で思わず命乞いをするが、そんなものに耳を貸すはずがない。カムイは更に男を締め上げる腕に力を込めた。
―――ゴキリッ!
鈍い音が響く。先ほどまで抵抗していた男の腕がだらりと垂れ下がる。男は窒息する前に首の骨を折られ、絶命したのであった。
「これで、ここは終わり……あとは、アサギさんに合流して……」
カムイは胸に突き刺さった刀を抜き取り地面に投げ捨てる。そしてすでに葉取星舟の居所へ向かっているであろうアサギ達の元へ急ごうと足を動かす。
しかし長時間気を張り詰めた戦闘による疲労と多量の出血によりカムイはすでに疲労困憊であり、その足取りはおぼつかない。そして地面の血に足を取られ、カムイの身体が傾いた。
「あっ……」
ついには変身も解け、カムイの身体が傾き地面に倒れそうになる。しかし、倒れる寸前で彼の身体を受け止める者がいた。
「―――まったく……無茶するなと言ったはずだが?」
「……九郎、さん」
カムイの身体を抱き留めたのはアジトの近くで別れた八津九郎であった。彼はカムイと別れた後、アサギとは別働隊として動き五車の里の要所を奪還してシステムを復旧させるとその場を部下達に任せカムイの援護に駆けつけたのである。援護といってもカムイの方もすでに終わった後であるのだが。
九郎は受け止めたカムイが自身の腕の中でだらりと力なく身体を預けているのを感じ、すでに疲労でほとんど動けそうにないのを感じ取る。そしてそのことに彼はため息をつき、彼をひょいと肩に担ぐ。
「一人で片付けたのは大したものだ。だが任務中に疲労で動けなくなるとは、一流の忍とはほど遠いな。まだまだ修行が必要だ」
「……面倒かけます」
「次はこんなことにならないようもっと体力をつけることだ」
疲労で動けないカムイに軽口を叩きつつ、九郎はその場から歩き出す。カムイは肩に担がれてなすがままであったが、歩き出して少ししてから彼に言葉をかける。
「……戦況は、どうなりました?」
「さっき終わったところだ。五車の重要拠点を取り戻しクーデターを企てた長老衆は壊滅……葉取星舟は取り逃がしたが、アサギに手ひどくやられたようだから時期に捕まるだろう。井河扇舟は両腕を切り落とされたが命に別状はない。情報を引き出すために生け捕りにしてある」
「……そう、ですか」
「あの女がそう簡単に口を割るとは思えないがな」
カムイは小さく返事をする。九郎はカムイが井河扇舟が生きているということに彼が僅かに安堵しているのを感じ取る。そして彼が次に何をしようとするのか予想もできた。
「……九郎さん、頼みがあるんです」
「井河扇舟に会わせろと言うつもりか?」
「……」
「……いくら今はアサギについたと言っても、お前は元々長老衆側だったんだ。扇舟に会うのはあの女を逃がすためと疑われて却下されるのは目に見えているぞ」
「……だから九郎さんにお願いしてるんです。アサギさんに信頼されているあなたなら、ある程度融通が利くでしょ?」
「……はぁ、まったくアサギといいお前といい強引なところがまるでそっくりだな」
彼にいくら言っても無駄だと悟った九郎はわざとらしくかぶりを振りため息をつくのであった。
数日が経ち、長老衆の一部が起こしたクーデターは終息へと向かっていった。井河アサギによって深手を負いながらもその場から逃走した葉取星舟は行方知らずとなり、頭を失った長老衆は一気にその勢いをなくしていった。長老衆に与した忍は次々と拘束されるかアサギ側の勢力の対魔忍によってその命を落としていった。
そして捕らえられた忍の中には星舟の実の娘でもある井河扇舟の姿もあった。牢屋に入れられた彼女は手首から先がなく、情報を引き出した後にアミダハラ監獄へ移送されるためその身を拘束されているのである。
しかし牢屋につながれた彼女は一切の抵抗をすることはなかった。というのもどういうわけか彼女の顔に生気はなく、目はどこか虚ろでその美貌に陰りを見せていたため話すらまともにできないでいた。
なぜ彼女がこんなことになったのかというと、それは扇舟のお気に入りであった井河カムイの突然の裏切りと彼女の母である星舟の冷たい言葉が原因であった。
星舟がアサギによって敗れる少し前のことであった。自分にとってなくてはならないと思えるほど大切にしていたはずのカムイに裏切られ、アサギの策によって部下を悉く失い星舟の元へとおめおめと逃げ帰ったのだ。
そして母である星舟への申し訳なさや叱責される恐怖から平伏する扇舟に対し、星舟は冷ややかにあることを告げたのだ。
『―――扇舟……まさかカムイが本気であなたのことを愛していたと思っていたのかしら?』
『あの子は自分の母を殺した一族への復讐のためにあなたに近づいたということに、あなたは今の今まで気づかなかったのね』
『若い子供の身体に欲情して夢中になって、あの子がアサギに情報を流していたことにも気づかないほど愚かなんて』
『そんなことだからカムイをアサギや不知火に取られてしまうのよ』
カムイが自分に対して絶対の愛と忠誠を誓っていると思っていた扇舟は、星舟の言葉に愕然とした。そして同時に母からの失望の言葉も彼女の心は傷つけられた。
自分の愛する者を奪い取り、母から失望される原因となったアサギと不知火に対して扇舟は激しい怒りを覚えた。そして彼女らの元へと乗り込んできたアサギ達と対峙した。
汚名を返上し母からの信用を取り戻すため、そして愛するカムイを奪い返すために扇舟は不知火へ戦いを挑むが、終始不知火の幻影と技量に圧倒された。しかし彼女は不知火に対して憎悪の炎を滾らせ、鬼気迫る勢いで攻撃を続けた。
愛する旦那と娘がいながら不知火は、自分から愛する者さえも奪おうとしていると思い込んだ扇舟は心の底から彼女を憎んだ。そして扇舟は不知火に、自分から愛するカムイを奪うなとも叫んだ。
『愛する者ですって?―――それは違うわね。あなたはただ、カムイ君という都合の良い人形が欲しいだけよ』
しかし扇舟の思いは不知火に正面から否定され、両手を切り落とされた。
母と愛する者を失い、戦いにすら敗れた扇舟は深く絶望した。言葉も発さず食事にも手を付けないため、もはや彼女は生きる屍のようである。その変わり果てた様子に見張りの対魔忍達は不気味に思う反面、散々非道の限りを尽くしたのだからいい気味だと内心あざ笑っていた。
このままアミダハラ監獄への収監までぼんやりと時がすぎるかと思われたその時、牢屋へ近づく者が二人現れた。井河カムイと八津九郎である。
彼ら―――というより九郎の姿を見て見張り達は驚くが、すぐに姿勢を正す。そんな彼らに九郎はねぎらいの言葉をかける
「見張りご苦労」
「お疲れ様です九郎殿―――このような場所に何用でしょうか?」
「ちょっとした野暮用だ。井河扇舟とカムイの二人で話をさせたい……悪いが少し席を外して貰っていいか?」
「―――お言葉ですが九郎殿。今牢につながれているのはあの井河扇舟です。そしてそこにいる井河の狂犬は奴の部下でもありました……その二人を会わせるなど」
「扉越しなら大丈夫だろ……安心しろ、何かあれば俺が対処する」
「……九郎殿がそう仰るならば」
見張りは難しい顔をするが、九郎の言葉にしぶしぶ頷き彼の後に続いて牢屋を後にする。一人残されたカムイは人の気配がなくなったのを確認すると、井河扇舟の牢の前に立つ。すると捕らえられてからほとんど動きを見せなかった扇舟が、カムイの気配を感じて顔を上げたのだ。
扇舟はカムイの姿を見ると、少しだけ微笑んだ。しかしそれは今までのような聖母を思わせるような微笑みでも残虐な本性を滲ませた笑みでも無く、吹けば消えてしまいそうなほど儚さを思わせるものであった。彼女はそのままのろのろと立ち上がり、牢屋の扉の近くまで歩く。
「……ここにいるということは、私に会いに来たのかしら」
「……扇舟様」
「扇舟様……まだ私をそう呼ぶのねカムイ」
扇舟は格子の隙間から手を伸ばしてカムイに触れようとする。しかし不知火によって手首を切り落とされたため、その手は彼の頬を触ることができず空を切る。それが彼女を余計に惨めな気持ちにさせる。
「ふふっ……私をあざ笑いにきたのね。あなたの復讐心も見抜けず、私を愛するという演技を続けていたあなたに夢中になって、馬鹿正直に悦んでいた愚かな私を」
「……」
「お母様が呆れるのも頷けるわね……本当に、惨めだわ」
「……」
「……それでもね、カムイ……私はね……あなたと一緒にいた時は本当に幸せだったの。あなたを、本当に愛していたの」
「……俺は」
「といっても、あなたにとっては迷惑な話よね……ふふふっ。いいわ、今の言葉は忘れてちょうだい」
聖母のような見た目でありながら残虐で冷酷非道と言われた井河扇舟からの愛の言葉に、カムイはうつむく。扇舟は心の中で、まるで乙女のように青臭いことだと自分自身を嘲笑する。しかしそれでも言わずにはいられなかったのだ。不知火には否定されたが、それでも彼を愛していたのだと扇舟は信じてやまなかった。
そして言いたいことを全て言い終えた扇舟はそのまま牢の奥へと再び戻ろうとしたその時であった。カムイは彼女の腕を掴み引き留める。
「えっ―――んんぅっ!?」
「……っ」
カムイは扇舟を傍に引き寄せると、彼女の唇に自身の唇を合わせる。まるで恋人同士のような、優しくも触れ合うだけのキスである。
一瞬のことに扇舟は思わず呆気にとられた。しかしカムイは気にせず、自らの思いを扇舟に告げる。
「―――確かに、あなたに近づいたのは復讐が目的でした」
「――――っ」
「でも、俺を拾ってくれたあなたへの想いは……嘘偽りは一切ありませんでした」
「カムイ……」
「それでも俺はアサギさんに付いていくことを決めたんです……だから、さようなら扇舟様。あなたを、愛していました」
カムイの手が扇舟から離れる。愛する人への別れを告げた彼は踵を返し、牢屋を後にするのであった。
取り残された扇舟はそのまま動かずに顔を伏せていた。その場には彼女だけであり、静寂が辺りを包んでいた。
「……っ」
すると扇舟の肩が小さく震えだす。そして小さく彼女の嗚咽が聞こえ始める。だがすぐに彼女は狂ったように笑い声を上げ始めた
「ふっ……ふふふっ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!そう、そうだったのねカムイ!!ふふふふっ!!心配して損したわ……あなたも、私を愛していたのね!!」
彼女は頬を上気させながら自身の身体を掻き抱く。両の瞳は蕩け、口は耳元まで裂けんばかりに笑みを浮かべている。先ほどまでの生気の薄さが嘘のようである。
“愛していた”―――カムイはそう自分に告げた。つまり自分はなにも間違っていなかったのだと扇舟は確信した。ならばすることは当然決まっている。愛する者が奪われたのなら、奪い返すまでのことだ。
「いいわアサギ!!それに不知火!!今はあの子を預けてあげるわ……でも私は必ず戻ってくる。そしてあなた達を殺し、カムイを奪い返す……必ずね!!待っていてね、私の可愛いカムイ……あなたは永遠に私のモノよ」
カムイが扇舟に会ったのは自身の心に区切りを付け、彼女に別れを告げるためであった。だがそれが、牢屋で一生腐っていくしかないと考えていた井河扇舟の心に再び火を付けてしまったのだと彼は思いもしないだろう。
数日後、井河扇舟はアミダハラ監獄へ収監された。しかしその顔は牢につながられる前と比べ晴れ晴れとしており瞳には決意が漲っている。
彼女とカムイが再会するのは、まだ先の話である。
長老衆のクーデターが終息し、数ヶ月が経過し五車は復興と事後処理に追われていた。葉取星舟が行方不明となった今、井河アサギは五車の里において実質的に対魔忍の長となった。そして頭目を失った長老衆は弱体化していったのだった。
長老衆の者達の動きはそれぞれであった。アサギによる新体制により権力を失った者達は反発し里を抜ける者が多数であったがそのほとんどが散り散りとなり統率が取れていなかった。
そして彼女に恭順を示し里に残る者もいた。彼らは地位も立場も失うことで五車に移住することを許されたのだ。その中にはカムイにとって復讐の対象であった彼の一族の姿もあった。
甘い汁を吸うためにアサギにすり寄り、最終的には自らの尊厳まで捨てて彼女に平伏する一族の者達の姿は惨め以外の言葉がでなかった。そしてそんな彼らの姿を見て、カムイは自身の復讐心が侮蔑へと変わっていくのを感じた。
こんな奴らへ復讐するために自分は十年も長老衆として生きてきたのかと、カムイはそう思わずにはいられなかったのであった。もはや彼らは眼中にもなかったのである。
主も復讐も全て捨てたカムイは、ぼんやりと桜の木の下で散っていく花びらを寝転びながら眺めていた。その姿から井河の凶犬として敵味方に恐れられていたとは到底思えないものである。
そしてそんな彼に近づいてくるのは井河アサギ―――カムイにとっての新しい主であった。
「こんな所でぼんやりしているなんて、随分ヒマしているようねカムイ」
「クーデターも終わって、長老衆も実質的に解散になったからやることなくなってヒマなんですよ。おまけに新しい主様が全然任務をまわしてくれないからヒマでヒマで仕方ないんですよ」
「あら、そんなにヒマならサボらずに学校に行けばいいじゃない。折角里で新しく開かれた学校に入れたのだから」
「今更勉学なんて習う必要ないよ、知識はある程度身につけてあるし……アサギさん、もしヒマだったら稽古つけてくださいよ。そっちの方が有意義だと俺は思うんで」
「まったく……」
アサギを新しい主と仰ぐカムイはすぐに対魔忍としての任務に身を置くこととなるかと思っていた。しかし彼女はカムイが幼少期から対魔忍として活動しており、ろくに勉学も習わずにいたことを知るやいなや、彼を無理矢理学校に入学させたのである。
当然カムイはそのことに反発し、隙を見ては学校を耽りこうしてぼんやりと毎日を過ごしているのである。そんな彼の様子にアサギは思わずため息をつく。
「―――悪いけど稽古はなしよ。学校はちゃんと通いなさい」
「ちぇ~……」
「……もしまたサボってるのを見つけたら不知火に言いつけるわよ」
「げっ、それは勘弁してくださいよ」
「それが嫌なら、ちゃんと勉学に励むことね」
「はいはい、分かりましたよ」
カムイはやれやれと言った様子で立ち上がる。そしてそんな彼を見ながらアサギはふっと笑い、彼の頭をなでつける。
「心配しなくても、もう少し大きくなったら手伝ってもらうわ。ただ今は少しだけ、普通の生活も楽しんでみるべきよ」
「……今更、普通の生活なんて」
「カムイ……あなたは前に、戦うことだけが自分の存在意義だと言っていたけど、私はそうは思わないわ。ただあなたが戦い以外のことに慣れていないだけ」
「……」
「だから今はただ穏やかに暮らしてみなさい。あなたはまだ、小さい子供なんだから」
「……はぁ、分かりましたよアサギさん。そこまで言うんだったら、これからは学校もサボりませんよ」
「はい、よろしい」
カムイの観念したかのような言葉にアサギは笑いかける。端から見ればそれは、微笑ましい姉弟のようであった。
それから数年が経過した。アサギはあの時、カムイと話をしていた桜の木を一人でじっと眺めている。
対魔忍として任務をこなしながら五車学園を卒業したカムイは、アサギのように彼女の妹であるさくら、そして八津紫と共に教師となった。彼は五車学園で対魔忍としての実技を教えながらまだ入学していない小さな子供達が通う学校にも赴き、教鞭を振るっていた。
幼少期とはまた別の意味で忙しそうにしているが、その表情凶犬時代と比べ穏やかであったとアサギは感じていた。そしてそんな彼女をカムイは不知火と共に支え続け、五車の里の礎を築いていった。
しかしカムイはとある大事件を起こし、抜け忍として五車の里から姿を消したのであった。
二年前、カムイは突如としてとある村の一角をまるごと焼き払ったのである。その場にいた住民は全て皆殺しにされており、生存者は誰一人としていなかった。その後カムイは里を出奔し行方知れずとなった。
その後の調べで、長老衆としての権力を失いその立場も失墜するばかりであったカムイの一族が、新たなクーデターを起こそうと画策しているのが露見したのだ。しかも外部勢力にもコンタクトを取っており、里の位置をリークしようともしていたという情報すら出てきたのだ。もしこれが本当なら、今頃被害は甚大なものとなっていただろう。
これを見たアサギはすぐさま里中に情報を開示した。里の者達は口々にカムイを“里を救った英雄”と称えた。だが彼と深い関わりを持つ者の一部には決して浅くない傷を残していった。
なぜカムイはクーデターのことを事前に知らせてくれなかったのか、なぜ何も言わずに出て行ったのか……彼らからはそんな言葉が聞かれており、アサギ自身も同じ気持ちを抱かずにはいられなかった。
だがアサギはカムイが出て行った理由にも大体の察しが付いていた。その事件によってカムイに殺されたのは、彼の一族全てであった。その中には当然女子供も含まれる。
カムイは戦闘狂ではあるが、女子供を好き好んで殺すような外道ではなかった。そんな彼がまだ幼い子供すら手にかけたのは、よほどの理由があってのことだろう。
そしてアサギは、カムイがクーデターとは直接的な関わりがなく抵抗もできない者達を手にかけたことに責任を感じ、里を出て行ったのであろうことも理解していた。
だからこそ、こんな事態になる前にちゃんと話をして欲しかったとも彼女は心の底で思ってしまうのであった。
そして二年が経った今でも、彼は里に戻ることはなかった。
「カムイ……あなたは今頃どうしているのかしら」
アサギはぼそりとつぶやく。そして、ふと視線を下ろすと木の根元に誰かが横になっているのが視界に入った。近づいてみると、一人の男が寝息を立てて眠っていた。
よく見ると、それは五車学園の生徒であった。制服の色からして恐らく一年生である。今の時間はまだ授業の最中であるため、この生徒は授業をサボって昼寝しているのだとアサギはすぐさま理解した。
「まったく……君、授業はとっくに始まっている時間よ。起きなさい」
「んん~……」
アサギはその姿に思わずかつてのカムイの姿を重ねてしまうが、すぐに頭を振って幻影を振り払い生徒の肩を揺すって起こそうとする。そしてアサギに声をかけられた生徒は目を覚まし、寝ぼけ眼でアサギを見つめる。
「……えぇえええっ!!?あ、アサギ先生!?なんでここに!!」
五車学園の生徒はすぐさま飛び起きた。まさか眠りから覚めてすぐ目の前に自分が通う学校の校長がいるとは思いもしなかったのだろう。その慌てた様子にアサギは思わずくすりと笑う。
「午後の授業はもう始まっているわよ……君、一年生ね。名前は?」
「え、ええっと……ふ、ふうま小太郎です」
「あら、あなたが噂のふうまの跡取りの……時子から色々と聞いているわよ」
「えっ!?そ、それってどんな……」
「ふふっ、色々とね」
カムイがアサギと再会するのはまだ、もう少し先の話である――――。
これにて『ZERO』編は終了となります。
一気に書いたのでちょっと荒いかなぁと思ってるので、そこも執筆活動を続けていく際の課題かなと思ってます。
今後の外伝は学生時代でのさくらや紫とのやりとりなどを書いていこうかと考えてします。
オリ主のヒロインに追加するなら誰が良い?
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甲河アスカ
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鬼崎きらら
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神村舞華
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馬鹿野郎全員ふうまの嫁だろ