二人の心は、そういうもので。
どこまで行っても、そういうもので。
結局は、そういうもので。
愛さえあれば、そうなるもの。
オトコノコとオンナノコ、ですもの。帯紐解いて、休む事もあるわいな。
結婚までの過程なのに、直接的な色っぽさが無かったのが純情っぽくて可愛かったですよね。
あとコンビニシーンで水着先輩が浮き輪してたのは、下半身を妄想するのが恥ずかしかったんでしょうね。
大喜くん可愛い。凄く可愛い。
匡には、ああ言ったけれど。
正直、理由が付くというのは大きくて。インターハイ出場を決めたその夜、俺は千夏先輩に……言ってしまったのだ。
「先輩、好きです」
言って、そして少し後悔した。結局それは俺の都合を、俺の感情を押し付けるだけでしかない。それに、千夏先輩が猪股家に居づらくなるような事にもなってしまう。千夏先輩は、優しいから。千夏先輩は、自分の夢を追っているから。俺なんかに、気を遣わせたくない。
突っ走ってしまった俺の顔を見詰め、ほんの数秒。いや、俺の感覚としてはもっと長かった気もする。でも、なんにせよ、千夏先輩は少しだけ黙って、そして。
「うん。――ありがとう、大喜くん」
そう言って、微笑んだ。それはまるで、天使のようで。全ての後悔が、消え失せるのを感じて。俺は、泣きながら千夏先輩の手を握りしめていた。
「爆発しろ。もげろ。宙を舞え、叩き付けられろ。プランクトンの役に立って土に還れ」
冷ややかにというか明らかに憎しみが籠った声の幼馴染み。ひでぇ。人が相談しようかと思えば、この通りだ。何を怒ってるんだ匡のやつ。やっぱ雛に相談した方がよかったかな……。
「先輩に告白して幸せ一杯、って報告なんぞいらんわクソが。くたばれリア充」
どんどん口が悪くなるな毒舌メガネめ。
「いや、……なんか、な。こういうもんなのかなー……ってさ」
そう、なんか。なんか、違うのだ。
告白はしたし、一緒に出掛ける事も増えた。水族館、遊園地、レジャープールと行ったけど毎回とても楽しくて。先輩も、いつも笑顔で。家にいる時も、どっちかの部屋で二人過ごす時間がどんどん増えていって。毎日とても、とても、とても――楽しい。
でも、それだけなんだ。俺と千夏先輩は、いつも一緒にいるようになって。それはまるで、中学までの俺と雛のようで。俺たちは、きっとまだ、
「ようやく友達になった、って感じなんだよなー…」
ただの後輩から少しだけ段階は上がったけど、告白してもまだそこ留まりっていうのは、なんだか寂しい。
千夏先輩とその、――恋人とかそういうのになるには、一体どうすれば良いのか。
「知らん。お前がどうにかするべき話だろ」
「ひでぇ……。友達だろ」
「友達だから、だ。俺が何かしてやる、ってわけにも行かないだろ。お前が向き合え。お前の為にな」
そう言われても、だ。突っ走ってばかりの俺が、そんなに上手い事いく訳がない。
それでも、このままではいけない。部屋で一人、そう思いながら考える。ついさっきまで隣にいた、大好きな先輩のことを。
――千夏先輩は、俺をどう思っているのだろう。告白を受けてくれたのは、只の優しさだったんだろうか。俺は千夏先輩が好きで、千夏先輩もそうだと思いたいけど。千夏先輩は、俺を――後輩として家族として、友人として――好きというだけなのかもしれない。
考えてみれば、千夏先輩は「ありがとう」としか言ってない。俺の「好き」と千夏先輩の「好き」は、同じなんだろうか。
もし。
…もしも。
考えたくないけれど。
何もかも、俺の思い込みだったとしたら。
千夏先輩は、俺をそもそも異性としてなんか見ていなくて。
ただ一個下の友達とか、可愛がっている後輩とかでしかなくて。
俺はデートだと思っていたけど、千夏先輩的には休日の暇潰しでしかなくて。
家で一緒にいるのも、年が近い話し相手ってだけでしかなくて。
俺は、何処までも、一人突っ走っているだけでしかなくて。
千夏先輩には、何一つ、伝わっていなくて……。
ああ、……辛い、な。
告白したら、もう楽になるとさえ思ったのにな。
千夏先輩が、
遠い。
届かない。
俺じゃあ、
あの人には、
…………
………
……
…
「――ああっ、もう!」
憤りと共に、ベッドの柱に額を打ち付ける。俺の頭なんて、そんな上等じゃない。こうやって力尽くで迷いを振り払えるくらい、適当な出来なんだ。
一人で考えてどうする。一人で悩んでどうする。どうせ無い頭なら、使わない方がいいんだ。バカは黙って突っ込め、それしか出来ないんだから。
疼く額を押さえて立ち上がり、部屋を飛び出す。行く先は、決まっている。すぐ隣だ。
「先輩! ちょっといいですか、千夏先輩!」
ノックもしないまま上がり込む俺。目を丸くする千夏先輩に、それでも。言いたいことを、直球で。使う頭がない俺には、それが一番の最適手だから。
「先輩、俺、千夏先輩が好きです! でもそれは千夏先輩を、……女性として好きなんです!」
上手い言い方が思い付かない。それでも。言わないよりは、良い。このまま一人で悩むよりは、きっと。
「んー……、そっか。そうなのか」
千夏先輩は呆れたように、俺を見ている。ああ、やっぱり。千夏先輩にとって俺は。結局。きっと――
「じゃあ、私もちゃんと言うね」
こほん、と千夏先輩が一つ咳払いをする。そして。真っ直ぐに俺を見て。
「私も大喜くんが、好きです。友達でも家族でもなく、特別な人として、大喜くんが好きです。生まれて初めて、そういう「好き」を感じたのが、大喜くんです」
――淀みなく。優しく。でも、ハッキリと。千夏先輩は、――俺が欲しかった答えを。俺が、有り得ないと思った答えを。微笑みながら、俺に向けてくれた。
俺は、また泣いて。泣いて。千夏先輩に抱き締められながらも尚、泣き続けた。
「伝わってると思ってたんだけど、な」
ようやく泣き止んだ俺を膝枕しながら、千夏先輩は苦笑している。
勘違いの方向が、そもそも違っていたのだ。先輩は最初から、そういう「好き」としか思ってはいなくて。でも、やっぱり先輩だからとか居候だからとか、そういうのがあるから、あまり急には変われなかった。……らしい。
「まあ、私も悪かったかな。友達みたいな扱いするから、勘違いさせちゃったんだよねー…」
いや俺が一方的に悪いんです、と起き上がって言おうとした。でも、それを口にするより先に、
「ん……っ」
――俺の唇は、柔らかく温かい…千夏先輩の唇に塞がれていた。そして唇を何かが割り広げ、その内側が熱い塊に愛撫されていく。粘膜が蕩けていくようで、頭がどんどん痺れていく。やがてそれが名残惜しげに離れてようやく、俺はそれが千夏先輩の舌だと理解することが出来た。
「ふー……、キスって結構気持ちいいね。初めてだから加減できなかったけど、平気?」
「えあ、ええ、あ……はいっ」
平気なもんか。頭の奥が壊れそうなほど熱くなって、沸騰しそうだ。でも、それ以上に。頭を乗せている千夏先輩の膝が、熱い。その熱はきっと、そこだけでなく。もっと、奥から。
「もう、勘違いしないように。――恋人同士ですることを、しましょうか」
千夏先輩の身体は、思っていたよりも華奢に見えた。俺より少しだけ小柄なのは分かっていたけど、改めて見ると、――造りそのものが違う、という気さえする。当然か、だって千夏先輩は、見てわかるように……女の人なんだから。
何も纏わない、その身体。白くて美しい、先輩。まるで、現実ではないような。そんな、感覚。
「あー……あんまり大層なものでもないけどね」
照れたように笑いながら、千夏先輩はベッドに腰を下ろす。いや、大層じゃないとかそういう次元じゃないと思う。千夏先輩は、綺麗だ。全てが、綺麗だ。触れたらバチが当たるんじゃないか、というくらいに。
大層じゃないのは、俺の方だ。改めてそう感じる。……千夏先輩もそう思ってるんじゃないかな、と思ってしまいそうになる。貧相な身体、とか男の子ってそんなもんなの、とか。……思ったほどじゃないなー、とか。
…でも千夏先輩の表情には、そんなものは読み取れない。いや、きっとそんなの俺の思い込みだ。悪い癖だな。
お互い遮るもののない格好なのに、余計なことを考えても仕方ない。今は、それじゃない。そんなのは、必要ない。
「千夏先輩、好きです」
「私も、大喜くんが好き」
これが今必要な、たった一つの事。俺は千夏先輩が好きで千夏先輩は俺が好きで。それは特別な相手として。好きなんだ。それだけが、あればいい。全部、さらけ出そう。全部、口にしよう。もう勘違いなんかしないように。真っ直ぐ、大好きな人に愛をつたえる為に。
そして、もう一度千夏先輩とキスをする。さっきの感触を思い出して、唇が近づくだけで肌が熱くなりながら。キスひとつに死ぬほど興奮している自分が恥ずかしいけど、千夏先輩もきっとそうだ。二人同じなら、何の問題もない。
唇を貪りあい、抱き締めあい。そしてからかうように身を捩る千夏先輩の首もとに、唇を落とす。千夏先輩のどこか甘い体臭と僅かな汗の匂い、そして焼けるような熱さが伝わってくる。
千夏先輩は、美味しい。……いや、なんか違うか。でも、そう思ってしまう。もっと、味わいたい。そこも、ここも、全部。何もかも、欲しい。無我夢中で、千夏先輩の身体を味わいながら、
「ん……っ、大喜くんは甘えんぼさんだね……」
頭を撫でられて初めて、俺は自分が千夏先輩の胸に吸い付いている事に気付いた。
……後輩どころか、赤ちゃんになってしまってないか俺。でも、気持ちいい。千夏先輩の身体は、気持ちいい。
千夏先輩の手の柔らかさを頭に感じながら、目を閉じて口に集中する。それこそ、おっぱいをねだる赤ちゃんのように。
――心地良い。次に生まれるなら、千夏先輩の子供になりたい。千夏先輩のお腹の中は、きっと居心地が良いから。そして生まれ落ちた瞬間から、千夏先輩は俺を愛してくれるから。そう、思うほど。千夏先輩が、好きだ。
「大喜くーん、私まだおっぱい出ないでちゅよー」
からかうような声に目を開けると、千夏先輩は笑っていた。楽しそうに、笑っていた。
ベッドに横たわった千夏先輩に、またキスをする。千夏先輩は少しだけ考えるような顔をして、そして「ん……っと」脚を広げて――俺に、微笑んだ。
「ごめんね、大喜くんの触ったりとかは、まだ…ちょっと怖いかな」
謝って貰うような事じゃないと思う。そりゃ、……そういうアレだと、あれやこれやするのが普通みたいになってるけど。興味がないわけではないけど。それでも、だ。
俺は、千夏先輩が好きだから。千夏先輩が嫌だと思うなら、無理なんかしてほしくない。だって、好きだから。好きだから。理由なんか、それ以外にない。
「んむ……っ」
先輩の、千夏先輩の――その、奥へ。俺は、キスをする。
沸き立つような、女の子の匂い。濡れた肉が纏う、汗と混じった薄い粘液。
千夏先輩が、好きだ。千夏先輩の全てが、好きだ。その思いを込めて、舌を力の限り伸ばして千夏先輩の中を進んでいく。
ゆっくり、抉じ開けるように。溢れてくる、千夏先輩の熱を浴びながら。千夏先輩の愛を、感じながら。
やっぱり千夏先輩は、美味しい。
どんどん頭の芯が焼けて、心がショートしていく。
もっと、もっと。
千夏先輩を、知りたい。
千夏先輩を、愛したい。
たった一つの感情が、止まらない。
千夏先輩が、好きだ。
千夏先輩の、全てが、欲しい。
「大喜くん……良いよ」
千夏先輩も、きっと同じ事を考えたんだろう。それは、俺が欲しかった答えだった。
仰向けになった千夏先輩に、覆い被さるようにして。胸と胸が、脚と脚が、触れ合って。そして、千夏先輩の「入り口」に、俺自身を向ける。
「んー……、私あんまり一人でしないし、しても指とか入れないからなー……。正直、こういうのは勝手が分かんないんだよね」
「……今言いますかそれをっ」
上手くいかなかったらどうしよう。スゴく間抜けだ。
……まあ、良いか。二人揃って間抜けなら、笑いあって済む話だ。それに、例え出来なくても。
「千夏先輩、……好きです。世界中の誰よりも、大好きです」
「私も、大喜くんが大好きです。誰よりも、何よりも」
お互いがこう思っていれば、幸せだ。どうなろうとも、永遠に。
息を吸い、腰に力を込める。千夏先輩と俺が密着し、僅かに抵抗を感じて。そしてぐちゅりと音を立てて――俺は、千夏先輩と繋がった。
ぞわぞわと背筋が粟立つような、初めての感覚。柔らかく、熱い、千夏先輩の内側。気を抜くと意識まで飛びそうで、でも、止まりたくない。千夏先輩を、一番奥まで感じたい。もっと、もっと、もっと、もっと。
これ以上行けなくなると僅かに下がり、勢いをつけ前へ。下がっては、前へ。もっと、もっと、もっと、もっと。
「大喜く、んっ、ちょっと待っ、一旦ストッ、プっ、ダ…メっ」
俺は夢中で、千夏先輩の言葉も、どこか遠くて。止まれと言われても、止まりたくない。
「大喜く、んーっ、……怒るっよっ?」
千夏先輩がそう言った次の瞬間、視界が反転した。身体がぐるん、とひっくり返り天地が逆転する。
気が付くと、俺は。
「あ、なんかこっちの方がしっくり来るかな」
……千夏先輩に、乗られていた。専門用語で言うところの、騎乗位。何をどうしたのか分からなかったけど、どうやら千夏先輩が寝返りを打つようにして、一気に体を入れ換えたようだ。
いやいや。いやいやいやいや。どんなアクロバットだよ、しかも繋がったままで。
「なんだろうなー、これ。こういうのって私好みかもねー……」
不思議がっている場合でも、なかった。俺の胸に手を置いた千夏先輩の目には、肉食獣の光。明らかに、捕食者の視線を向けている。
そう言えば、あの日。「よろしくね」と微笑んだ千夏先輩の目も、こんな感じだった気がする。……もしかしたら、あの頃にはもう、俺たちは同じ事を思っていたのかもしれないな。
「大喜くーん、私ストップって言ったよねー?」
千夏先輩は、笑顔。笑顔で、だけど。
「人の話は、ちゃーんと聞かないとダメだよー?」
……怒っている。まあ、うん。俺また突っ走っちゃったしな。
この姿勢からだと逃げ場がないし、殴られるくらいはあるかな、と思ったけれども。
――千夏先輩はニヤッと笑い、まるでスクワットするように。上下に、動き始めた。それもさっきの俺より、余程激しく。
「私も、好き勝手、するから、ねっ」
……俺は一体、何で怒られたんだろうか。自分でストップとか言っておいて、なんだったんだろう。やっぱこの人Sだ、Sみを感じる。それも理不尽なレベルで。
良いけど、ね。こんな先輩も、好きだ。千夏先輩が、大好きだ。
いや、好きだけど。でも、これは。
腰の奥がゾワゾワしていく、見知った感覚がやって来る。リミットが、告げられる。
「あの、千夏先輩、ちょっと止ま」
「聞ーこーえーまーせーんー」
ケラケラ笑いながら、千夏先輩は俺の上でロデオを緩めない。不味いのに。止まってくれないと、不味いのに。もう、これ以上はもたない。そう感じた、一瞬の後に、それは――やって来た。
「ちなっ、先輩、あ……っ」
身体の奥が、爆発していく。脳の裏側が白く染まり、全身が震える。快感が、弾け飛んだ。
そしてそれは、千夏先輩にも伝わったようだ。激しかった動きを止め、ちょっと不思議そうな顔になっている。……ほんっと可愛いなこの人。天使か。
「おっ……、あれ? 大喜くん、これはひょっとして。あー……射精っていうやつ、かな」
「あ、は……い。ち……先っ輩、激し、過ぎ、……っ」
先輩の中で、果ててしまった罪悪感。最後まで繋がっていた満足感。それらが入り交じり、頭が働かない。また千夏先輩のせいにしてしまっている。そんな自分が、なんか恥ずかしい。
「むう。ふーむ……」
千夏先輩は指で何か数えながら、ちょっとの間考えていたけれど。
「まあ、良いか。とりあえず、良いや」
と笑って、俺にキスをしてくれた。そのキスは甘く、柔らかく、気持ちよく。俺の動きの悪い頭を、染め上げていく。
「千夏先輩、好きです」
もう、何度目かわからない。でも、それだけが俺の頭に残っている。千夏先輩を愛したい、先輩に愛されたい。
「大喜くん、好きだよ」
そう言った千夏先輩の中が、まるで促すように蠢いて。俺たちは、また。それから、また。夜が明けるまで、ただひたすら、愛し合った。
「大喜、って呼んでいい?」
今更ながらにそんなことを千夏先輩が言ったのは、次の日の昼下りだった。
まあ、なんと言うか。一睡もしないまま夜が開けて、日曜で良かったねーとか言いながら一階へ降りた俺たちは、そのまま母さんに全力でお説教された。……うん。俺が親だったら多分殴ってると思う。よそさまから預かった、大事な娘さんを傷物にしたんだから。
とは言えうちの母さんと千夏先輩のお母さんは最初から「多分そうなる」と思っていたそうで、それ自体をそこまで怒られたわけじゃない。深夜に近所迷惑も省みず大騒ぎしまくった事に関して、思いっきり怒られただけで。直接部屋まで殴りに行こうか、と何度も思ったらしい。……うん。それに関しては一切言い訳しませんし、そもそも俺の頭じゃ出来ません。反省はします。後悔はしないけど。
で。ようやく雷も通りすぎて、空腹を思い出した頃に、千夏先輩がそう言い出したのだ。
断る理由なんか、思い付きもしない。むしろ歓迎だ。
そして俺たちはどれほど交わしあったか分からない、でも何度しても変わることなく心地良い、大好きどうしのキスをした。
「……なんか腹立つんだけど。大喜の顔見てると」
あれからしばらく経って、風も冷たくなり始めた頃。俺はナゼかそんな理由で、雛にどつかれるようになった。いや、知らん知らん。
千夏先輩とそうなってから、多少俺は変わったのかもしれない。でもそれと雛の腹が立つ理由が繋がるわけがないし、さっぱりわからん。立って困るんなら横にしとけ。
「なんかさー、千夏先輩と進展あったわけー?んなわきゃないだろうけどさー」
くるくると回る幼馴染みには、なにも言っていない。と言うか、そんなこと言えるか。匡の時みたく饒舌にディスりだされるのは嫌だ。本気の悪口雑言モードに入った雛は、ルール無用の残虐ファイターだからな。長い付き合いだけあって、急所を的確に抉りやがる。
「そーいや千夏先輩さー、最近大喜を名前で呼ぶよねー。あーあー、仲よくって結構ですねーっと」
……いやもう手遅れかもしれない。でも、雛も分類上は一応女子だからな。そういう話はさすがに不味いだろう。親しき仲にも礼儀あり、だ。
あ、そうだ。そろそろ千夏先輩を、名前で呼んでみようか。物凄く照れ臭くて、いまだに「千夏」とは呼べないままだ。先輩であることは変わらないし、正直女子を名前呼びするのは恥ずかしい。雛はともかくとして。でも、そう呼びたい気持ちはある。特別な、大好きな人だから。
そうと決まれば、早く帰ろう。そして、そして――。
「あ、大喜。今帰り?」
……噂をすれば、というのはこういう事かもしれない。私服の千夏先輩は、荷物を抱えて笑っている。
今日は用事があると言って学校を休んだ千夏先輩だけど、様子はいつもと変わらない。そして、変わらないのは、こっちも。
「うー……!」
雛は千夏先輩を見据え、荒ぶる新体操のポーズで威嚇している。なんか知らないが、このところ雛は千夏先輩に会う度この通りだ。何か千夏先輩が気に入らないらしい。なんなんだか。
「はは……私やっぱり、蝶野さんからすれば敵だもんね」
「え、なんかあったんですか?」
敵だなんて、随分と不穏当な話だ。そもそも二人が喧嘩してたなんて、俺は全然知らなかった。二人の接点なんて行き付けの整体院以外あまりない筈なのに、一体何があったんだろう。
……と思ったのだが。
二人はまるで鏡に写したように同じ表情で、信じられないものを見たような呆れ顔で、俺を見ていた。
「そういうとこだよ……全部そういう所だよこのダメ大喜ー! バーカバーカ、バァーーカ!!」
ワケわからない事を言いつつ雛はシャーッと吼え、そして。千夏先輩は、
「まったく、しょうがないパパでちゅねー」
……と、自分のお腹に語りかけるようにして微笑んだ。
今度は、俺と雛が鏡写し。先輩の爆弾発言に、揃って目を丸くした。
それは。つまり。……つまり。
「こうしてこうすりゃこうなるものと、知りつつこうしてこうなった、ってね」
都々逸なんか唄いながら笑う千夏先輩。学校を休んだのも、それでか。そりゃ、心当たりは物凄くあるけども。
そして、更に。
「これからも、もっと一緒に居たいな。大喜、結婚しようよ」
目が丸くなったままの俺たちに、二発目の爆弾発言が直撃する。そして俺たちはまるで双子のようなユニゾンで、驚きに崩れ落ちた。
そんな俺たちを前に、千夏先輩は楽しそうに笑っていた。
それはそれは、楽しそうに。天使のように、朗らかに。
――ああ、やっぱり俺は。千夏先輩が、好きだ。
今回は徹底的にポジティブです。あと、あれこれとネタ分も多めです。
いやいや、書いてて照れる照れる。