第0話
――……人類を……
――……人間を
――……辛いこと……いっぱいありましたね
――……悲しいことも……いっぱいありましたね
――……もうこれ以上、苦しまなくてもいいんです
――……タケルちゃん……
……また、あの夢だ。ベッドから身を起こし、そしてオレはかぶりを振る。
窓の外には青空。今日も天気は良好のようだ。
穏やかな空気。和やかな時間。それが夢と現実の境界を教えてくれる。
無意識のうちにストレスでも溜め込んじまってるのか、ここのところどうも夢見が良くない。あんなワケ分からん夢にうなされて目覚める毎日なんて、どう考えても健康に良くないよな。
「たまにはパーッと気晴らしでもした方がいいかな……?」
寝ぼけ眼をごしごしとこすり、部屋の中を眺め回す。
黒い学習デスク。
使い込まれたゲーム機。
そこかしこに放られた段ボールと雑誌の山。
中身のゴチャゴチャしたクローゼット。
うむ、極めていつも通り。あんな夢の光景、オレの身近には一つだって存在してやしない。
――いや、無いことも無いか。部分的には。
「タケルちゃん? いる~?」
しばらく呆けていたその時、階下からオレを呼ぶ呑気な声が響いてきた。いるに決まってんだろ。そう返事したい気持ちを堪え、オレは掛け布団をかぶり直す。そうしないとアイツが機嫌を損ねるからだ。
のしのし、と階段を踏みしめる音が近づき、その気配はオレの部屋の前で立ち止まる。
「開けるよ~、どうせまだ寝てるんでしょぉ?」
ノックも無しに、ガチャリと戸の開く音。
足音は予想通りまっすぐこちらへ近づいてきて、「ほぉらやっぱり」という声と共に、どこか満足気な鼻息が漏れたみたいだった。
「さあさあ、起きてータケルちゃーん! 朝だよ~~~」
ためらいなしに掴まれた掛け布団ががばりと捲られる。内側のオレはしっかりと目を閉じ寝たフリを決め込んでいた。その体を遠慮ゼロの勢いで、ソイツはゆさゆさと揺さぶってくる。
「起きて! 起きてよタケルちゃ~んっ」
「――うぅー……ん、あと、五分……」
そんな風に唸ってみせると、ソイツはますます強くオレの体を揺さぶった。
「ダメだよぉ、早くしないと遅刻しちゃうんだから~」
毎度のようにこうして急かされ、一緒に学校へ通って、一緒に授業受けて、放課後は日が暮れるまで一緒に遊んで。こんな日常をもう何年も、オレとコイツは繰り返してきた。
何故だろう。最近妙に、そんな当たり前の日常に強烈な嬉しさを感じてしまうオレがいる。
他愛もない光景の一瞬一瞬、突き刺さるように目頭を熱くするオレがいる。
それはオレの中で何らか心境の変化があったせいなのだろうか。それともここしばらく見ている、あのヘンな夢のせいなのだろうか。
「起ーーきーーろーー、タケルちゃぁぁぁん」
揺さぶりはますます激しく……つうか、もうほとんどヘドバン状態になりつつある。やめろ。これ以上は首がもげちまう。
「……だあああああああっ! いい加減にしろっ!!」
叫ぶなりオレは身を起こす。やっと起きたぁ、とこぼしたその呆れ顔は、すぐに満開の笑顔へと塗り替えられた。
「おはよう、タケルちゃん!」
コイツ――