※この作品はR-18です。

マブラヴ トータルイクリプス ~桜舞う帝都より~   作:ろっくLWK

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episode 3
情愛の返報


 

  ZAP.YUI

 

『会社の意向だ何だと言うが、やりたくもないことをそうは言わない。むしろ逆でね、会社を利用しているんだよ。――そんな人間に建前を語って、響くと思うかな?』

 

 

 いつからだったのだろう。正確には覚えていない。

 初めのうちはぶつかってばかり。この重要な計画を左右しうる主席開発衛士がよもやこんな男とは。そんな風に辟易としていたことは、今でも良く覚えている。

 武(たけ)御(みか)雷(づち)を駆って刃を交え、これでも解らぬのなら見込み無し、と切り捨てるつもりだったことさえもある。互いの印象は恐らく最悪と言えた筈だ。

 なのに、いつからだったのだろう。契機と呼べる何かは自分でも知らぬ間に訪れていた。

 共に幾度も死線を潜り、高邁な目標を掲げ、それに向かって遮二無二取り組んでいるうちに、いつしか二人の見る景色が一つになっていた――心からそう思えたとき、私は嬉しかった。

 他人に、ましてや異性にこんな想いを抱いたことなど、それまでには一度も無かったことで……それに気付くまでには少なからず時間を要した。後から振り返ってみたとき、いつからそうだったのか分からなくなっていたほどに。

 それでも、やっと手に入れたこの感情だけは手放したくない。私は心からそう思っていた。

 

 

 けれどハイネマンさんから真実を、その身に宿る血の因縁を知らされた時、私は絶望し悲嘆に暮れた。

 何故運命は斯くも私を翻弄するのだろう。

 どうして私だけが茨の上で血反吐を吐くような思いをしなければならないのだろう。

 ……その全てを恨まなかった訳が無い。だがそれでも、弁えたつもりだった。けじめを付け、篁の志を託し、それを己が峻別としたつもりでいた。

 元より己の歩む道が地獄なら、そして選んだ結果が元の道に戻るだけでしかないのなら、自分は甘んじてそれを受け容れようと。

 

 

 そしてあの男は全てを棄て……愛する者と共に生きる道を択んだ。

 あの時私には、口を噤んでそれを見送るより他は無かった。

 

 

 諦める……? それは少し、違う。

 私の中で想いの尺度は何ら変わっていない。ただ質が変わっただけ。

 そうであるならば、私があの男を想い続けることに何らの罪深さも無い。誰に赦しを乞う必要も無い。

 ただ父様を母様を愛し、そして恭子様をお慕いしたように……あるがままの想いをあの男へ、そう、『血の繋がった肉親として』向けるだけ。

 だから、私は私の尺度であの男を想い続けていられれば、それで良い。

 

 

 そうやって私はいつの間にか――いや、またしても――自分を、誤魔化していたんだ。

 

 

 

* * *

 

 

 

「私は、ユウヤが――ユウヤのことが、好きなんだ……!!」

 

 言ってしまった。

 とうとう、この想いを。自分の口から本人に、告げてしまった。

 あまりの高揚と羞恥に、唯依の思考はうまく回らない。目の前のユウヤにとってもこれは完全に想定外の事態だった事だろう。震える唯依の肩を優しく抱き留めながらも、彼の相貌は緊張に固く引き攣り、息を呑んでいるさまが窺えた。

 

「こんな私を貴様は気持ち悪いと思うかも知れない。突然何を言っているのかと混乱しているかも知れない。だがそれでも私は……貴様が血を分けた兄妹であったという事実を知るよりもずっと前から、ユウヤ=ブリッジスという男を、好いていたんだ」

 

 これ以上、当人の顔を見ることは出来なかった。かぶりつくようにユウヤの肩へと顔をうずめ、嗚咽を必死に殺しつつも、唯依は包み隠さぬ己の心を止めどもなく吐露してゆく。

 

「私はユウヤを愛したいと思った。ユウヤに愛されたいと願った。だがユウヤが父様の子だと、兄妹だという事実を知って、一度は断腸の思いで決心した。この想いを終生誰にも告げず、墓場まで持っていこうと――」

 

 けれど、言ってしまった。

 それは斯衛の仕来りや篁の家、己の決断、世情の変化や法律……そういったありとあらゆるものが今、真に伝えたいことを伝える上ではただの柵(しがらみ)にしかなり得ないから。

 そしてそれは奇しくもあの日ハイネマンに言われたことと、形は違えど全く同じ事だった。

 

『やりたくもないことをそうは言わない。――そんな人間に建前を語って、響くと思うかな?』

 

 そう。無意識のうちに自分は、建前でユウヤと話をしようとしていた。だからユウヤも建前で自分を諭そうとした。互いに胸の内を曝け出せていない。だから互いに響かない。それではダメだとあの日あの時、身をもって思い知った筈だったのに。

 

「……それなのに、こうして貴様に告げてしまった。ユウヤを困らせるばかりだと知りながら……それでも私は、もう自分に嘘はつきたくなかった」

 

 思いの丈を吐き出し切り、唯依はおずおずと顔を上げる。やはりと言うべきか、ユウヤの表情にも苦渋が滲んでいた。

 けれどそれはきっと嫌悪や拒絶の意志ではない。何の根拠もなくそう思えたのは、これまで歩んだ道のお陰で、自分がユウヤという人間のことを幾らかでも理解できるようになったからだ。

 

「――済まなかった唯依。お前がそういう気持ちでいてくれたこと……今の今まで、これっぽっちも気付いてなかった」

 

「……良いんだ。元より私も、ユウヤには伝えるつもりなど無かったのだからな……」

 

 ユウヤの体温があったかい。ユウヤの匂いが優しい。許されるならもう少しだけ、この心地良さに包まれていたい。そんな想いに身を委ねるように、唯依はユウヤの胸へ頭を預ける。

 

「正直を言えば、オレだって兄妹だ何だというより先に、お前のことを女として見てる部分はある。血の繋がりなんて今まで思いもよらないことだったし、それに――男からそういう目で見られるのも当然なぐらい、唯依は魅力的な女だ。お前の気持ちだって、本音を言えば嬉しくも思ってる」

 

「……ユ、ウヤ……」

 

 その言葉は、何よりも嬉しくて、泣きたい気持ちでいっぱいだった。

 ユウヤが自分をそういう目で見てくれている。仲間としてでなく、一人の女として。それなら良かった。勇気を振り絞った甲斐があった。

 先ほど湯殿でユウヤの前に己が裸体を晒したこと。恥ずかしさを堪えつつも、身を挺して彼の身体を洗い上げたこと。それらは当然『篁流のもてなし』でも『自分なりの恩返し』でも何でも無かった。女として意中の男の気を惹かんとする、色恋沙汰に不器用な唯依なりの精いっぱいの行動だった。

 

「けどだからこそ、お前の気持ちに応えるためにも、オレは言わなきゃならない。聞いてくれ唯依。あのな、オレ……」

 

「言うな」

 

 開きかけたユウヤの唇に、唯依は人差し指で封をする。

 

「言わなくても解っている。ユウヤのことなら」

 

 ユウヤの息遣いを頬に感じる。ユウヤの体温を胸に感じる。ユウヤの瞬きを眼に感じる。それが、狂おしくて、せつない。

 

「貴様の心にあるもの。未だ忘れ得ぬもの。……それはビャーチェノワ少尉――いや、クリスカのことだろう?」

 

 その名を口にしたとき、ユウヤは明らかに目を瞠った。

 クリスカ=ビャーチェノワ。彼女はソ連軍の開発衛士であり、戦術機開発において自分たちと雌雄を争った好敵手であり、同じ戦場で命を懸けた戦友であり、そしてもっと個人的には……

 

「……知ってたのか」

 

「帝国の情報収集力を甘く見るな。貴様とシェスチナ少尉の安否が確認されたのと、ほぼ同時に……な」

 

 ソ連から飛来したと思しき戦術機一機、国連軍北海道基地に強行着陸を敢行。我が国に亡命を申請する国籍不明の搭乗者二(・)名(・)。

 その報せを聞いた時から、予感はしていた。

 持ちうる伝手を辿って詳報に行き着いた時、唯依は自分のこと以上にユウヤとクリスカに待ち受けていた運命を、その過酷さを呪いもした。

 何故だ。何故なんだ。愛する者同士がやっと手を取り合える時が来たというのに、どうしてほんの僅かなひと時しか、それは許されなかったのか――

 

「それまでユウヤが必死の思いで積み上げてきた開発衛士としての実績も、米国民としての地位も何もかも、全てをかなぐり捨ててまで彼女を選び取ったんだ。それがどれほどに重い選択であったことか……。彼女をどれほど大切に思っていたか、別たれる二人の苦しみや悲しみが如何ばかりであったか、私には想像を絶する。お世辞にも、ユウヤの気持ちが分かるなどと言えたものではない」

 

「何だよ……そこは嘘でも慰めてくれるところじゃないのか?」

 

「そんなことは出来ない。何故なら、私とクリスカは……恋敵(こいがたき)、だからだ」

 

 そう。その一点で今も、自分とクリスカは繋がっている。どんなに歪であっても、他人から理解されがたくとも、それは二人にとって確かに『絆』と呼ぶに相応しいものだ。

 

「こい……がたき……」

 

 何かを思い返すように、ユウヤがおぼろげな口調でその語句を復唱する。

 

「だからこそユウヤがクリスカを択び、私の元から去った時……私は祝福したんだ。クリスカがしあわせであって欲しいと。……その幸せがどれほど長く続いたかは解らない。私の願いなど何の意味も無かったのかも知れない。それでも私は願ったんだ、恋敵の幸せを。何故だか分かるか?」

 

「――いや」

 

「クリスカの幸せが、ユウヤの幸せ――私自身が、心の底からそう信じていたから」

 

 ユウヤが択んだクリスカが、クリスカが択んだユウヤが、互いが幸せであったのならば。そうして結ばれた二人ならば、例え死によって別たれたとしても、残された方はその存在を胸に宿し生き続けられる筈だと、そう信じているから。

 

「だから……いいんだ。ユウヤの中には今もクリスカがいて、ユウヤは今でもクリスカを愛している。それでもいいんだ。私はそれすらも含めて、丸ごと全部のユウヤを愛している。兄妹としてではなく、一人の……女として」

 

「唯依……」

 

「もし私という存在が、ユウヤを少しでも幸せに出来るのなら……私は迷いなくこの身をユウヤに捧ぐ。それをきっと、クリスカも望んでいる。もし立場が逆だったなら、私もきっと、クリスカにそうして欲しいと願った筈だから」

 

 ユウヤが無言でこちらを見つめている。抱き留められた肩が少しずつ、ユウヤの胸元へと引き寄せられていく。

 

「今すぐに答えを決めなくても良い。……だが、もしもこんな私を、ほんの少しでも想ってくれるなら、」

 

 ユウヤの唇がすぐ目の前にある。一度弾けた想いの波濤は、もう止めることなど出来そうも無かった。

 

「せめて今宵だけでいい。――……私の想いを、受け止めてくれ……」

 

 蒼の夜空に滲んだ欠け月。初めて重ねた接吻は、冷たい泪の味がした。

 

 

 

・

・

・

 

 

 

「――はッ、ふむ……んぅっ。ちゅ……んふ、」

 

 何度も交わした口づけのせいで、唇の周りは互いの涎でべとべとになってしまった。それにも構わずユウヤは唯依の唇を吸い尽くし、唯依はそれに応えてユウヤの舌先を口中へと受け入れる。

 敷かれていた布団の上で、二人は何もかもを忘れ、互いを貪り合っていた。

 

「んむ。れるぅっ、ぷは、……ユウヤぁっ、ユウ、ヤぁ……っ」

 

「唯依……」

 

「んちゅ、……ふむんっ、んうぅぅっ。くちゅ――はぁぁ、ん、んくっ」

 

 混ざり合った唾液を嚥下すると、鼻腔から脳の裏側を撫でつけられるような甘ったるい快感に襲われる。唇同士で啄み合うと、その柔らかさが胸の奥まで広がってゆく。

 未だ男を知らぬ唯依にとって、こんな感覚は初めてのものだった。

 

「いいのか? 着物……着崩れしちまうぞ」

 

「気にするな……これは浴衣だ。はだけたところで困ることは何も無い」

 

「なら、もっとはだけさせてもいいってことか」

 

「……もぅ……やけに積極的だな、ユウヤは」

 

「こういうのは男がリードするもんだって、相場が決まってんだよ」

 

「なら、好きにしろ。……私はもうユウヤのものだ」

 

 その一言を受けて、ユウヤの手が唯依の裾に差し込まれる。高鳴りし過ぎてうるさいぐらいの心音をユウヤに悟られはしまいか。そんな益体もないことを気にしつつ、唯依は後ろ手に掴んだ帯の結び目をほどき、ユウヤが手を動かしやすいようにと心を配る。

 

「――んぅ……っ!」

 

 硬くてごつごつしたユウヤの指。それが唯依のたわわな胸に食い込む。

 初めのうちは優しく、次第に動きの幅と大きさを増して。

 先端に触れられぬもどかしさを感じ取りつつも、じわじわと湧き上がる快感の小波に体は勝手にひくつき、喉の奥からは無意識のうちに変な声が洩れ出てしまう。

 

「あ、あぅんっ、ふわっ。胸、胸がっ。――ふ、ふあああっ」

 

「胸が、どうしたって?」

 

「せつな、く、て……あつ、いっ。こんな、こんなの、初めてぇっ………!」

 

 しきりに揉まれたせいか、胸全体が張っているような錯覚さえする。窮屈で、息苦しかった。いっそ全てをユウヤに解き放って欲しいと、そう願うほどに。

 

「あ……ッ」

 

「きれいだ……唯依」

 

 ユウヤが手首を捻っただけで、自分ですらまともに弄ったことの無い豊満な二つの膨らみが唯依の帯びた浴衣の裾からまろび出る。けれど無垢な筈の己が躰は、その先に待ち受ける奔流の訪れを、明らかに期待していた。

 

「結構でかいよな、唯依のおっぱい。それに形も良い」

 

「あ、あ……そ、そんなの、知らないっ」

 

 ストレートなユウヤの物言いに、唯依は頭から湯気を上げそうなほど高揚してしまう。剥き出しにされた唯依の乳房。そこへ躊躇いなくユウヤの手が伸びる。ぷるぷると左右に揺すられ、側面を手のひら全体で撫でつけられ、指で上下に押し潰され……己が胸をユウヤに好き勝手に弄ばれるのを、唯依は内心興奮しながら眺め、されるがままにその身を委ねる。

 

「あッ、その……ユウヤ」

 

「何だ」

 

「あの、その……――先端、は?」

 

 ユウヤの手つきは明らかに、頂点を避けるようにしていた。それは初めてである唯依への気遣いなのか、それとも何か瑕疵があるせいなのか。それさえも唯依には判断が付かない。

 

「弄って欲しいのか?」

 

「い、いや、そうではない。そうではないぞ! 決してそんなはしたないことを言っているのではなくてだな、つまり、ええと……」

 

「つまり?」

 

「……私の身体がどこか、気に入らないのだろうか、と……」

 

「バカだな唯依は。んなことあるワケ無えだろ」

 

「ぅあ……」

 

 顔がかあっと熱くなる。バカと言われて腹を立てたのではない。懸念には及ばないと、そうユウヤがお墨付きをくれたのが嬉しかったのだ。

 

「焦らしてんだよ、わざと」

 

「焦らす……? 何故そんなことを……」

 

「――こういうことだ」

 

「な……――ひぅッ!!」

 

 薄紅色をした唯依の乳首。それにユウヤがむしゃぶりついた途端、唯依の背筋にびりりと電流が走る。だめ、だめ、という必死の制止も虚しく、片方の乳首を唇と舌で、もう片方を指でこりこりと執拗に責められ、唯依は仰け反りながらも嬌声を上げてしまう。

 これが焦らされるということなのか。直接的な刺激をずっと避けられていたせいで、愛撫を求めた乳首はより敏感になっていた。

 

「あ、あ、あっ! 先っぽ、かりかりしないで、それダメえっ! それ、弱いっ。私、弱いからぁっ!」

 

 親指の腹でごく小さく、しかし短い周期で、ユウヤが唾液に濡れた乳首をこすってくる。屹立した乳首はさらに鋭敏になり、ユウヤがどんな風にそこを苛めているのか、目を瞑ったままでもハッキリと感じ取れてしまう。

 

「ダメッ。体、おかひく、なるぅっ! あ、はっ、あ、――ぁうぅぅんっ!!」

 

 ちゅううううぅぅ、と淫靡な音を立て、ユウヤの唇が乳嘴を吸う。その内側でユウヤの歯が乳頭の付け根を優しく食む。身体の全神経を根こそぎ持っていかれるような感覚。それがひとしきり収まる頃には、唯依の全身から止めどなく汗が噴き出ていた。

 

「感じやすいんだな。胸弄られてる時、ビクビクってなってたぞ」

 

「はぁ、はぁ……。ば、バカに、してぇっ……ユウヤが、床上手なだけだ……ぁ、」

 

 もはや自分でも何を言っているのか支離滅裂だ。快感のせいでじんじん疼く胸が苦しくて、ちゃんと発声できているかどうかすら定かでは無い。それを見透かされたのか、再び丹念に乳房を揉みしだかれ、さっきまで感じていた胸の疼きはじわりと沁みる心地良さに置き換わってゆく。

 

「柔らかいのにパツパツっつうか、すげえ揉み応えだ。やっぱりここも普段から鍛えてんのか?」

 

「……あッ、ふあっ……? ばか……意図して、鍛えてなど、んふぅっ、いな、い……ッ」

 

「そっか。じゃあ、こっちはどうかな」

 

「――!? あ、だめ、」

 

 そのうちにしゅるりと帯を抜き取られ、浴衣は完全に敷き物同然になり下がってしまった。

 これではユウヤに大事なところを見られてしまう。

 恥じらいの一念から唯依は太ももを擦り合わせ、隠すべき秘所をしっかりと手で覆う。

 

「おいおい、何だよこの手は」

 

「だ、だって……」

 

「そんな風にされたら、オレ触れないだろ?」

 

「さっ、ささ、触るつもりだったのか!? こんなところを? ふ、不潔だっ!」

 

「不潔って……当たり前だろ。オレたち今、何してると思ってんだよ」

 

「あ……そ、そうか。そうだな。私たちは今、しているのだものな。そういうコトを。うん。凄くとても納得した」

 

 明らかに常日頃の自分ではない。そう頭では解っていても、未知の興奮と快感に翻弄されっ放しなせいで、己の体が全然言うことを聞いてくれない。

 

「じゃあ手、どけてくれるか?」

 

「……う、ん」

 

 ユウヤの視線がそこに集中しているのが解る。手入れはきちんとしてあるけれど、恥ずかし過ぎていたたまれない。ゆっくりと太ももを開き、覆っていた手を引き……とうとう曝け出してしまった。ユウヤに、自分の、秘めたる所を。

 

「――……死にそう、だッ……」

 

 ユウヤにまじまじとあそこを見つめられ、唯依は顔から火が噴き出るほど紅潮してしまう。おかしな点は無いか。ユウヤはどう思うか。思考はそれだけで一杯に埋め尽くされた。

 

「――ひゃああぁんっ!!?」

 

 ぬるり、という艶めかしい感触が割れ目の上をなぞる。ユウヤの顔は自分の恥部にすっぽりと埋まっていた。完全に予想外なユウヤの行動に、唯依は驚きを通り越して恐懼すらしてしまっていた。

 

「あ、な、何を、ユウヤ……?」

 

「安心しろ、痛くしねえから。唯依が気持ちよくなれるように、口と指でたっぷり弄ってやる」

 

「ばか、やめろっ、そんなとこ、汚……ッ、あっああっ」

 

「汚くなんかねえよ。これっぽっちも」

 

 じゅる、じゅる、という水っぽい音が股間から洩れ聞こえる。肉の隙間に舌を差し込まれ、内側の粘膜がざらざらとした感触に侵略されていく。

 なにこれ。こんなことするなんて、聞いて、ない。

 声にならない悲鳴が、唯依の声帯を猫の唸りのように掻き鳴らす。

 

「あっ、あぁあっっ! こんな、こんなの……そんなトコ、な、舐めるなんて。んああっ、変態、だっ」

 

「なんだよ、日本じゃやらねえのか? クンニ」

 

「くん、に……?」

 

 聞き慣れない単語はしかし、間違いなくこの行為のことを指していた。女性器を口で愛撫する。男女のまぐわいでこんなコトをするという知識自体、唯依の脳内情報にはまるで存在していない。

 自分さえも知らない領域を今、ユウヤに嬲られている。誰にも許したことの無い己の内奥にユウヤを刷り込まれている。

 その認識は眠っていた唯依の被虐心に火を点け、手付かずであった女の部分を激しく揺さぶってゆく。

 

「こうやって口でたっぷり舐めて、濡れてきたら……これでどうだ?」

 

「っっつうッ!!?」

 

 つぷり。突如として膣口に骨ばった異物が挿入(はい)ってきた。これは、ユウヤの、中指。そう悟るまでに時間は幾ばくも掛からなかった。くちょくちょ、とはしたない湿り音を立てながら、ユウヤの太い指が陰唇をほぐすようにのたくっている。

 

「ユ、ユウヤッ、それ、もぉ、入ってるっ。入って、私の、あそ、あそこにぃっ」

 

「まだ第一関節までしか挿れてねえよ。ちゃんとほぐしとかなきゃ、本番キツイからな」

 

「な……何ぃっ……、これでもまだ、っく、本番ではない、と、言うのか……!?」

 

 息も絶え絶えになりながら、唯依は愕然となってしまう。今まででさえいっぱいいっぱいだというのに。これ以上耐えられる自信なんてこれっぽっちも無いのに。ならば来たる『本番』を迎えてしまったら、その時自分は、一体どうなってしまうというのだ。

 ユウヤに為されるがままぐちょぐちょに搔き乱された花弁がしとどに濡れそぼっていることすら、今の唯依には解っていない。理性よりも先に本能が、男を受け入れる体勢を着々と整えつつあった。

 

「唯依、ちょっと息止めてろ」

 

「え……? 突然何を……」

 

「いいから」

 

 言われた通りに軽く息を吸って止め、唯依はへその下に見えるユウヤの口元を凝視する。ふうふう、と陰部に掛けられる吐息がくすぐったい。そこから伸びた舌が恥丘にめり込み、丸ごと頬張られたと思った次の瞬間、

 

「ッ!?! あ、ああぁぁぁ……~~ッ!!」

 

 頭の中に閃く稲光。全身が針金を通したみたいに硬直し、弓反りになったお腹の下端からじゅわりと熱が広がる。陰核(クリトリス)。女にとって最も敏感なそこを舌で舐られていることに気付いたのは、その時になってようやくだった。

 

「きゃうっ! だめぇ、そこぉっ! あ、やだ、そんなされたらっ! おかしくなるうっ。あ、あ、そんな、やさひく、舐めないれぇえっ。――あ、あ、あ、つんつんするのも、らめぇぇえっ!! ふあっ、ぅあああっ、ひああああんっ! あああああっ、んあああぁあぁぁあ――……!!!」

 

 だらしなくも、それを押しとどめることは叶わなかった。目の前で火花が弾け飛んでいる。ちかちかする。快感の杭で貫かれた全身がびりびりと痺れている。それ以上は、もう何も考えることが出来なかった。

 ぷしゃあっ。びくびくと痙攣するに任せて二度三度、唯依は割れ目から液状の何かを噴射させてしまう。

 

「ぁ……ぁ、……おひっこ……出ひゃ……わたひ……おもら、ひ……」

 

 あまりの強烈な刺激と羞恥のせいで呂律が全然回らない。恥ずかしくて、情けなかった。身体に力が入らないせいで、こんなみっともない表情を覆い隠すことさえ出来やしない。

 愛する人にこんな醜態を晒してしまうなんて。じわりと滲む視界は快感のせいなのか、みっともなさのせいなのか、もうぐちゃぐちゃすぎて訳が分からなかった。

 

「ああ、う、うぅ……ユウヤぁ……私、私……なんてこと……」

 

「安心しろ唯依。今のは『潮噴き』っていうんだ」

 

「……し、しお…………?」

 

「女が最高に気持ち良くなると今みたいになるんだ。まさかいきなりこうなるなんてオレも思ってもみなかったけどな。まあ要は、それだけ唯依が感じてくれたってことだ」

 

「感じ、て? 今のはその、し、失禁してしまった、のでは、ないのか……?」

 

「だから違うって、色も匂いも全然違う。まあ仮に失禁したとしても、唯依ならエロいからオレは許せるけどな」

 

「エロ……っ!?」

 

 それは『淫乱』ということではないのか。途端、さっきまでとは別種の羞恥心が込み上げてくる。

 未だ力の入らない手足をじたばたさせて少し動いてみると、さっきまでお尻を置いていた辺りのシーツがシャワーを撒いた跡みたいにぐっしょり濡れているのが肌の感覚で分かった。

 こんなになってしまうなんて、モノの本でも見たことがない。それこそ『淫乱』というやつだ。

 

「ユ、ユウヤのせいではないかぁっ……私の体を、おもちゃみたいにしてえっ……!」

 

「はいはい、そう怒んなって。でもすげえ気持ち良かっただろ?」

 

「う、――……そ、それは、まぁ……やぶさかでは無かった、が……」

 

「――さて、こんだけビショビショならもう、準備は万端だろ」

 

「ふぇ……準、備?」

 

 その疑問にユウヤは口では応えず、代わりにヘンテコな結び方をしていた己の浴衣の帯を解き放った。日頃の訓練で鍛えられた彼の裸身。その下方にそそり立つ男性の怒張を目にしてしまい、唯依は大いに狼狽する。

 

「それ、って、ユウヤの、」

 

 男性器。こんなに間近で、それも勃った状態を見たのは、当たり前だが初めてだった。

 赤く張り詰めた先端。その縦穴から滲み出た透明な雫が、光の糸を引いて垂れ落ちる。唯依の両手にさえ収まりそうにない長さと太さ。そして硬さ。それが今、もの欲しそうにぴくぴくと跳ねながら唯依の下腹部にこすり付けられている。

 まるで別の生き物みたいなその威容を今から唯依は文字通り、己の中に受け入れなければならない。

 

「怖いか?」

 

「う……す、少し……」

 

「ここまで来て、今更やめるなんて言うなよ」

 

「い、言うものか! 私は、へ、平気だぞっ。凄くとても!」

 

 明らかに強がりを言っている。自分でもそう思えるくらい声が上擦り、顔が真っ赤になっているのが鏡を見ずとも解った。

 寝そべる唯依の下半身に割り込むようにユウヤが足を差し込み、体全体で覆いかぶさってくる。分厚い胸板とユウヤの匂い。それを全身で受け止めるのは、えもいわれぬ心地だった。

 とろみを帯びた固い感触が秘裂の周囲を撫でつけ、その熱塊が先ほど指で弄られた程度の深さまでめり込んでくる。――いよいよなのか。そう思った刹那、ユウヤの両手が唯依の胸を再び鷲掴みにした。

 

「ふぁ、」

 

「なるべくゆっくり行くからな。痛かったら我慢しないで言えよ」

 

「な、情けは無用だ……っ。いっそ、ひと思いに……」

 

 初めては痛みを伴うものだということは、さすがの唯依も聞き及んでいる。けれど、この世で最も愛する男に操を捧げられるのだ。それも一時は想うことすら許されぬと思った相手に。

 その喜びを僅かな痛み如きで手放すなど、あってはならない。

 だから。

 

「刻みつけてくれ……ユウヤを、私にっ……」

 

 がくがくと顎を震わせながら、それでも唯依は懇願する。それに応えるかのように、ずちゅ、とユウヤの男性自身が肉襞を掻き分け内部に侵入してきた。

 

「んぅ――っ……!!」

 

 さっき挿れられた指より何倍も大きい。それに熱くて、脈打っている。貫き挿れる、というよりも押し広げられるようなその感覚は、痛みと形容するに十分なだけのとてつもない圧迫感を唯依にもたらした。

 裂ける。これ以上あんな大きいのをねじ込まれたら、あそこが裂けてしまう。

 食いしばった歯をかちかち鳴らし、涎と涙で顔中をグシャグシャにしながらも、唯依はひたすら破瓜の苦痛に耐えようとする。

 

「んふ、ふうぅぅっ、くあぁ……っ」

 

 苦しい、と感じ始めたところでユウヤは腰の進行をいったん止め、唯依の乳房を優しくまさぐり始めた。手のひらで乳首をころころ転がされると、悶えたくなるような快感の二重螺旋が乳房全体へと注ぎ込まれていく。

 

「あ、はぁぁ……~~ッ。んぁぁっ、ユウヤの手、やさ、しいっ。……んんっ!」

 

 ……しゃぶって欲しい。そう念じただけなのに、まるでその思考を読み取ったかのようにユウヤは左右の乳首を交互に啄み、乳輪までたっぷりと唾液をまぶしてからもぐもぐと甘噛みをし始めた。

 

「あはぁ……っ。ユウヤ、ユウヤぁ……!!」

 

 胸の先端から幸せが溢れる。じわりと広がる快感が全身をほんの少し弛緩させ、その隙にユウヤの怒張はさらに肉の海を分け入ってきた。

 痛い、だなんて言いたくない。彼の広い背中に全身でしがみつき、言葉の代わりに爪を立て、唯依はユウヤを受け入れることに専心する。

 あとちょっとだ。あともうちょっとで私はユウヤのものになる。そう思ったのと、ユウヤが一段深く腰を突き入れたのは、ほぼ同時だった。

 

「いッ――……!!」

 

 ぶつり、という強い衝撃。

 痛みの頂点を超えた唯依が身体をがくがくと震わせているうちに、肉竿がずるずると奥深くまで侵入してくる。やがてその侵攻は止まり、中のモノを四方から取り囲んでいるという感覚を唯依は得た。

 膣内で脈打つユウヤの剛直は、唯依の最奥までを、確かに貫いていた。

 

「……あ、あぁぁぁ……ユウヤ。私、ちゃんと、出来ているか……?」

 

「出来てるぞ。唯依の中あったかくて、別の生き物みたいにうねってて、すげえ気持ちいい」

 

「私は……ユウヤにきちんと、処女を捧げられたか……?」

 

「ああ。よく頑張ったな、唯依」

 

「ユウヤ……。ユウヤぁ……」

 

 手を伸ばし、ユウヤの顔を呼び寄せる。ユウヤもそれに応え、唯依に熱い接吻を与えてくれた。

 お腹の中で微かに蠢くこの異物感こそ、ユウヤが自分を女にしてくれた証。ユウヤが自分の初めての男になってくれた証なのだ。

 この満たされるような感情は果たして脳のどこから分泌されたものなのだろう。胸から溢れ出るこの豊かな波濤を何と呼べば良いのだろう。そういった諸々の感動が、唯依の全身をあっという間に支配してゆく。

 

「唯依、今のお前、すげえ可愛いぞ」

 

「ふぅぅぅっ、んううっ――」

 

「あんまり息むなよ、却って辛くなるから。リラックスして、中のオレの動きを感じててくれ」

 

「うん、うんっ……ユ、ユウヤのしたいように、してっ……」

 

 やがて、ユウヤの腰が前後に律動を開始する。初めはなだらかに、段々と大きく。痛みに怯えるうちはその動作を受け入れるだけでも精一杯だったが、刻みに合わせて息を吸っては吐いてを繰り返すうち、次第に奥底から広がる快感の方が勝ってきた。

 

「あっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。んんんっ……はぁぁ……んっ」

 

 小さな波がゆっくりと押し寄せ、昂奮を高めては返していく。肌と肌のぶつかる音。混じり合う汗のにおい。ぐちょぐちょとぬめり合う接合部。それらは混然一体となって、唯依の性感に拍車を掛けていく。

 

「んあぅっ、やあぁっ。それ、その、ぐりぐりするのぉ……いいっ。もっと、もっとぉ、いっぱいしてぇぇっ!」

 

 怒張の先端で膣内の上壁を抉られる度、刺激的な迸りが内側から溢れてくる。最奥の子宮口を突かれる度、強い快感が背骨から脳天まで駆け抜けていく。

 締まりのない声で喘ぎ乱れ、全身汗だくで律動するユウヤを焦点の定まらない瞳で見つめながら、唯依は痛感していた。

 これが、これが男に抱かれるという事なのか。

 愛する人に犯されるという事なのか。

 それに打ち震え、涙を流して悦んでいる自分が居る。「もっともっと」とおねだりをしてしまう己のはしたなさが余すことなく剥き出しになっている。

 自分でも知らなかった唯依の中の『女』は今、ユウヤという『男』の猛々しさによって隅から隅まで蹂躙されていた。そんな中、行為を通じて嵩を増し続ける快感の高波が今まさに、唯依を完全に呑み込もうとしていた。

 

「んはぁぁっ、はぁはぁ、ぅ、ああっ。ユ、ユウヤぁ! いいのっ……きもち、いいっ。もっと奥ぅっ、ずんずんって、してぇっ」

 

「唯依っ。そろそろオレも、イキそうだ。このまま、一番奥で……っ」

 

「んあ、あっあっあっ、欲しい、欲しいっ。ユウヤの情け、私に、私の、なか、にぃぃっ!!」

 

 ぜんぶ、注いで。声にならない唯依の求めに応じて、ユウヤの腰が速度を上げて突き動かされる。ぶちゅぶちゅと結合部が鳴らすはしたない音も、擦れ合う粘膜の生々しい感触も、揺すられる律動も、揉みしだかれ捏ねられる胸も、何もかもが気持ち良すぎて堪らない。

 

「あ、あ、あ、あ、あっ、だめ、あたま、まっしろに、なるっ。あ、あっ、ふああぁぁあぁぁあぁんっ!!――……」

 

 ぶわりと広がる強い快感の渦。それは瞬く間に全身を呑み込み、その感覚ごと天高くまで、唯依を押し流してしまった。

 

「……あ、ふあぁ……あぁぁあぁ……っ。ぅああぁっ――はぁ、はぁ、はぁ、はあ……」

 

 ――飛び抜けた快感の余韻に全身が震える。ふと気付いた時、ユウヤはぐったりともたれかかるように唯依の胸へと顔を預けていた。感覚的にはほんの一瞬のことだったのに、どうやら意識が飛んでしまっていたらしい。あるいは自分が正気に戻るのを待つうちに、彼は疲れて寝落ちてしまったのだろうか。

 

「ユウヤ……?」

 

 試しに体を揺すってみると、ユウヤはすぐに顔を上げた。寝ていた訳では無く、彼もまた快感の只中にしばし陶酔していたらしい。びく、びく、と数度腰を跳ねさせた後、彼は「……ふうっ」と切なげな吐息と共に、再び唯依の胸へと顔をうずめた。

 呼吸はまだ収まらずにいる。接合部は溶けてしまったかと思うほどに熱くて、感覚が無い。触れ合う互いの肌は火照り切っていて、それがこすれ合うのがくすぐったくて、気持ち良かった。

 しばし見つめ合い、そして二人は言葉無く唇を重ねた。絡み合う舌と唾液。その感触が唯依を恍惚とさせる。

 

「……唯依。良かったぞ、すごく」

 

 身体を震わせたユウヤが、ぬぽん、と卑猥な音を立てて唯依の胎内から男性自身を抜き去った。さっきまでユウヤと繋がっていたそこを、唯依も上半身を起こして眺めてみる。

 花弁の内からこぽりと溢れ出てきたのは、二人の愛欲を混ぜ合わせた濁りと臭気の強い粘性の液体だった。

 

「……赤いもの……これは、私の血……?」

 

「ああ。お前の純潔の証だ」

 

「ではこれは、この白いどろりとしたものは……」

 

「そりゃあ――まあその何だ、恥ずかしいから言わせんな」

 

 ユウヤの態度から唯依は自ずと察した。そうか。これが子種なんだ。注いでくれた。ユウヤが、私の中に、子種を……。その過半が奥でとぷりと波打っているのを感じ取り、唯依は顔を綻ばせる。

 

「そのままだと気持ち悪いだろ? ほら、今拭いてやるから」

 

 気遣いから枕元のティッシュを手に取ろうとしたユウヤを、しかし唯依は「いい」と制した。

 

「もうしばらく、このままで居させてくれ。――今はこうして、ユウヤを……ユウヤが注いでくれたものを、感じていたい」

 

「そうか……?」

 

「それに情事の後というのは、二人寝そべって余韻に浸るものなんだろう……?」

 

「まあ、な。――それじゃあ定番だし、ほら、こっち来いよ」

 

 隣に寝そべったユウヤがその腕をこちらへ伸ばした。そこに頭を付け、腕枕の体勢を取った唯依はユウヤの厚い胸板へと顔を寄せる。ユウヤはしばらく唯依の背中や乳房をゆっくりとまさぐり、絶頂に昂り切った唯依の心身を落ち着かせてくれた。

 

「――……ふふ、ユウヤはあったかいな。……不思議なものだ。こうしていると、一人でいるより何倍も心が安らぐ」

 

「人ってのはそういうもんだからな。お互いに無い部分を求め合うし、心や体で埋め合い補い合う……その繋がりがどんどん大きくなって、色んな人同士が固く強く、繋がっていくんだろうな」

 

「似た話を、ずっと昔にも聞かされたことがある……とてもお世話になった、私の尊敬する方から……」

 

「そうなのか?」

 

「ああ……もう亡くなられたが、その方もユウヤと同じくらい暖かくて、お優しい方だった」

 

 きっと恭子の言葉とユウヤのそれは、本質の部分で同じだ。人は誰もが周囲から何かを受け取って育ち、そして何かを明け渡して育ててゆく。そうして紡がれた営みの中に誰もが身を置いて生きている。

 だからこそ、受け取ったものは返さなければならない。そして与えてくれた本人にそれを返せるのは、本当に幸せなことだ。

 今の唯依にはそのことが身をもって理解できる。この体に注がれたユウヤの愛と一緒に。

 

「……なあ、ユウヤ。私はお前に……沢山のものを、与えてもらった。本当に、沢山のものを、だ」

 

 夢見心地のひと時。唯依の視界は徐々に輪郭を失い、ぼわぼわとたわみ始める。

 

「それを、私は……ほんの少しでも、お前に、返せて、いるだろうか……?」

 

「唯依、眠いのか? 疲れちまったか……?」

 

 いま感じるのは、ユウヤの温もりだけ。瞼を閉じ、唯依はその揺り篭に身を、心を委ねる。

 

「いいや、『返したい』じゃないな……。ほんとうは『与えたい』……与えられるように、なりたい。そう思わせてくれたのは、ユウヤなんだ……だから……」

 

 

 

 

 

 ――ありがとう、ユウヤ――

 

 意識がふつと閉じる寸前。ユウヤの唇が額に触れた、ような気がした。

 それだけで、唯依はしあわせだった。

 

 

 

 

 

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