※この作品はR-18です。

ピュア ~水仙は腐り落ちヘデラが生い茂る~   作:まうす〜

3 / 7
軽蔑


三話【イエローカーネーションⅠ】

「これより代表会議を始める」

 

 重苦しい雰囲気が張り詰めた畳張りの大部屋に声が響く。

 そこには計17枚の座布団に15人の男が思い思いの座り方をして鎮座していた。

 

「おや~?次期当主のお姿が見えませんがどうしたのでしょうね?」

 

 そう言って座布団に胡座(あぐら)をかいているタヌキ顔の太った男が言う。

 

「おや?池水(ちすい)殿は我が息子のことばかり心配なさいますな?もう少し御子息に関心を向けられては?」

 

 そう言って先程号令をかけた男が流し目で池水と呼ばれた男に話しかける。

 

「ほほほ、あんな親の脛(すね)を噛るしか能がない愚息、先日飛ばしましたよ。もう私には必要ないのでね~。それよりも私はあの将来有望な天竺君とお話したほうが有益だと思っただけですよ」

「ははは、将来有望ですか。あれはまだその様な器ではありませんよ。そう言えば池水殿、第四子が生まれるとかおめでとうございます」

「いやはや、私もまだ若い者に負ける訳にはいかないのですよ!それにいい加減あれにも優秀な子供を産んで欲しいものです。全く天輝(あまき)殿の器は素晴らしいですな!優秀な跡取りと器、2つも産んだのですからな~?それに噂ではかなりの名器だったとか、いやはや一度でいいから抱いてみたかったものですな?ほほほ!」

 

 池水と言われた男の不快な脂ぎった声が部屋に響く中、襖の向こうから声が聞こえる。

 

「天野天海、次期当主、天野天竺様をお連れしました」

「入れろ」

「かしこまりました」

 

 その声の直後、襖が開かれその向こうには顔の良く似た制服姿の紺色の髪の若い男女がそこにいた。

 

「どうぞ、お入りください」

 

 と、正座して襖を開けた髪を後ろに束ねた制服の少女が言う。

 

「天野家次期当主、天野天竺。入ります」

 

 と、堂々と立っている少年は大部屋に入っていった。

 

*********

 

 

「天野家次期当主、天野天竺。入ります」

 

 重苦しい部屋。

 汚い男たちの部屋。

 3ヶ月に一度の代表会議。

 この会議だけは全国に散らばっている天野財閥の代表者16名が一堂に会する大事な会議だ、とは言っても話すことと言ったら次期当主の補佐官には誰を付けるか、もし次期当主が不幸にあった場合など下衆な勘ぐりが夜どうし続くクソみたいな恒例行事。

 

「ほほほ!元気そうだな天竺君!遅かったな~おじさん随分と待ったぞ~?さあさあ!座りなさい学校からこっち休んではいないんだろ~?さあ!おじさんの横に座りなさい!」

 

 この人は天野池水。

 天野の建設関係を担当している、優秀ではあるが他者より自身を優先するため近々代表者の席から外れる噂が立っている。

 最近ではそれに焦りを感じているのか良く僕にゴマをするのがよく見える。

 

「ええ、すみません。池水さんもお元気そうでなによりです」

 

 その様子を見る代表者の目は冷たく、それが僕に向けられたものかそれともこの狸オヤジに向けられたものなのかは定かではないが背中に不気味な汗を流れるのを感じながらとなりに座る。

 

「皆集まったな。ではこれより親族会議を始める池水殿から現状報告を頼む」

「ええ、では先日起きた陥没事故について――」

 

*********

 

 

「以上で親族会議を終える。各々天野の血に恥じぬ名君たらんことを、解散」

 

 そんな親父の言葉で約6時間にも及ぶ会議は終わった。

 僕は疲れた体を休めようと自室に戻ろうとすると。

 

「ほほほ!天竺君!そういえば先日送ったお土産はどうだったかね?アレは私のお気に入りでね~。気に入ってくれたかい?」

 

 そう言って池水のオッサンは今もまだ部屋に残る代表者にも聞こえる声で喋る。

 

「ええ、確かに素晴らしいものでした。ですが僕には少し脂が強く感じましたね、僕はどっちかと言うと骨まで美味しくいただけるモノの方が好みなんですよ」

「ほう?そうかそうか!じゃあ安心したまえ〜!今日のは君の好みに合うと思うぞ!それに初物だから中々に美味だろう!」

「ははは、ですが僕はあまり夜食は好きではないんですがね」

「ん?そんな事、気にしちゃ駄目だぞ!まだ若いんだそれぐらいペロっと食べたまえ!」

 

 そう笑いながら脂ぎった手で僕の肩をバシバシ叩いてくる。

 明日が土曜で良かった、こんなクズが触った服で皆に会うなんて我慢できない。

 

「ははは、そうですね。では僕はお先に失礼します」

「ほほほ!天竺君!またな!」

 

 ――またなんて嫌に決まってるだろクソ狸!

 

 そんな声に心で返し部屋から出る。

 

「売女のガキが」

 

 そんな誰かの声に殺気を抱きながら。

 

*********

 

 

「ふぅ。早く皆に会いたいな~」

 

 そんな独り言を呟きながら寝室のドアを開けるとそこにはバスローブ姿の僕と同い年ぐらいの黒髪の少女が立っていた。

 

「誰?」

 

 その声に反応してか少女は今にも泣きそうな潤んだ目でこちらを覗き込んでくる。

 

「あ、あの。旦那様からのご命令で来ました。天野水奈(みずな)と言います、今から私は天竺様のモノになりましたのでお好きにお使いください」

「水奈?ああ、狸オヤジの2番目か。てかあの狸、実の娘使うとかどんな神経してんだ?」

「あ、あのなにか不快にさせるような事をしてしましたでしょうか?」

 

 そんな言葉に僕は今、ひどい顔をしていたことに気づく。

 

「ああ違う違う。別に水奈ちゃんが何かした訳じゃないよ、ただ。ただ君は良かったの?こんな会ったこともない男の所有物にされて?」

 

 その言葉に水奈ちゃんは不思議そうな顔をする。

 

「え?べ、別になんとも思ってはいません、天野の掟に従ってのことですので」

「天野の掟か……はあ。しょうがないな~」

 

 そう言いながら僕は充電器につなげていた携帯電話を点けて電話をかける。

 

「ああもしもし?まだ起きてるな?今からこっちに来い、世話して欲しい女がいる。違う犯罪的なことはしてないから、まあ早く来いよじゃあな」

 

 そう言って通話を切ると横に居た水奈ちゃんは酷く悲しい顔をしている。

 

「え!?あの~どうしたの?」

「あ、あのもしかして私はいらないのでしょうか?先程から天竺様は私に一切触れませんがそれはつまり私が欠陥品であるということでしょ――!」

 

 彼女にこれ以上言わせないように無理やり口を手で押さえる。

 僕のいきなりの行動に水奈ちゃんは最初は驚いたみたいだけどすぐに反応しなくなった。

 

「僕のモノになったって言ったよね?じゃあ命令するよ」

 

 その言葉に彼女の目が僅かに揺らいでいる。

 ああ、クソがそんな目をすんなよ?こっちだって好きでやってるんじゃねえぞ?

 

「今後、僕の身の回りの世話をする専属メイドこれでどう?」

「え」

「ああ、それとちゃんと3食朝、昼、晩。僕と一緒に食べること、お風呂も1日1回は絶対に入ってね?お手伝いの大浴場でもいいしそれが嫌なら僕の部屋のお風呂も使っていいから」

「え、あの私は天竺様のモノ。所有物ですそんな人並みに接して頂かなくて結構ですのでモノとして扱ってください。それが旦那様の命令ですので」

 

 僕の言葉を理解できないのか額に汗をかきながらまくし立てる。

 

「それが池水の教え?」

 

 その言葉に体をこわばらせ体が震える。

 

「は、はい」

 

 虫も殺せないような声で返事をする彼女の目にはいっぱいの涙が溜まって今にも溢れそうになっている、その目はあの時見た妹と同じ目で。

 

「クソが。じゃあさ、モノのお前に命令する。今から来る僕の妹に従え。そして人として俺に接するように教育してもらえ良いな?」

「失礼します」

 

 タイミングを見計らったように妹がノックもせずにドアを開ける。

 毎度のことだけどいい加減ノックしろっての。

 てかこのタイミング絶対聞こえてたろ。

 

「おう話は聞こえてたか?」

「はい、断片的ですが理解しました。そこにいる水奈ちゃんにここで天野のではなくただの使用人として教育をする。それでよろしいですね?」

「ああ、そうすりゃ他の天野の奴も下手に手は出さないだろ。頼む」

「かしこまりました、それと来週の金曜は1日暇をもらいますので」

「接待か?」

「ええ、少し」

「……そうか。気を付けて行けよ」

「ふふ、ええ。では水奈ちゃん?行きましょうか」

「え!?あの?私は一体?」

「あなたには“天野”の女ではなくこの屋敷で働くただの使用人として生活していただきます。詳しいことは彼女に」

 

 そう言いながら扉の向こうを見ると白髪頭のメイドのババ――

 

「いったい!何すんの!?」

「ほっほ。坊ちゃんまた失礼なことを考えていましたね?今度は拳骨ですよ?ほほほ」

「ひ!?」

 

 プロ顔負けの威圧感をだしながら僕の屋敷のメイド長が立っていた。

 

「天海様、ではこの子を?」

「ええ教育の方お願いします。天野の教育を受けていると思いますので苦労することはないと思います」

「ええ、かしこまりました。では水奈さん?今から使用人用の部屋に来ていただいて今日はもう夜も遅いので指導は明日の朝6時からにします。よろしいですね?」

「は、はい」

「では失礼いたします。坊ちゃん?」

「ん?」

「あまり抱え込まないように。坊ちゃんの周りには沢山の味方がいることを忘れずに」

「……おう。おやすみ」

「おやすみなさいませ。さあ行きましょう」

「はい……ありがとうございます」

 

 そう言って水奈ちゃんとメイド長は部屋を出て行った、残ったのは部屋主の僕と妹だけで。

 少しの静寂の後、妹が口を開いた。

 

「天野の掟ですか」

「ああ、あの子は生まれた時から教えられてきたんだろうさ。器としてモノとしての一生を」

「ええ、早く失くしたいものですそんな狂った考えは」

「ああそうだな。あんな掟があるからあんな目の子が産まれるんだ」

「ふふ、でも今日は大人しかったですね?前の時はあんなに怒っていらっしゃったに?」

「そりゃあ寝ようとした瞬間に押し倒されて股開かれたら怒るに決まってんだろ?」

「ああそう言えばそうでしたね?元気にしてましたよ?たまには顔を見せては?」

「バカ言え、ハズい」

「全く、相変わらずヘタレですね?それだから枢さんに相手されないんですよ?」

「うっせバーカ」

「ふふ、では失礼します。お休みなさい」

「ん、お休み」

 

 そう言って部屋から出ていく妹を見送ってベットに倒れ込んだ。

 

「は~疲れた……寝よ」

 

 照明のスイッチ切ってベットに横になった。

 でも脳裏によぎったのは水奈ちゃんが言った言葉で。

 

「天野の掟に従ってのことですので」

 

 天野の掟。

 天野が世間に出るようになったのは江戸時代、元々は商人の家系であったと聞いている。

 その時の当主、天野真(まこと)が天性と言える程の手腕で徳川家お抱えの商家になったと聞く、この時から真と言う名は称号になり当主になる者はなった瞬間に天野“真”と呼ばれるようになる。

 そして初代天野真は死ぬ間際に「天野の血に恥じぬ名君たらんことを」と言う言葉を残した、ここまでは良いその言葉はただの祈りだったんだ。

 これからも天野の名に恥じないようにって単純なこと。

 それを呪いに変えたのは2代目天野真、彼は初代の熱心な信者であったらしい。

 彼は初代の言葉を胸にある提案、命令をしたそれが……

 

「天野は天野との交配しか許さず」

 

 つまり近親相姦での繁栄。

 天野の血を継ぐ者は自身の母を姉を妹と血の繋がった者と交配し天野の血を汚さない、恥じないためにということであった。

 まあ江戸時代には近親婚は多かったって聞いたしその頃はまだ当たり前だったんだと思う。

 まあ一番の問題がそれを今の今まで続けてるってことで。

 この「天野の血に恥じぬ名君たらんことを」が一般に認知されてる天野の掟だ。

 まあ世間では江戸時代の凄かった人に恥じないように頑張ろう!程度にしか思われていないんだけどな。

 だがこれ以外にも世間に知られてはいない、知られてはいけない掟があるそれは。

 

「天野の女は人であらず」

 

 これは3代目天野真が作った掟だ。

 内容は……

 天野の血を受け継ぐ女は天野のモノである、天野の男に従い優れた天野を産みより良い天野真を産む器又は天野に益を生むモノであれ。

 天野のために己を殺し献上せよ。

 そんな狂った掟を作りやがった。

 噂では3代目は年少の頃、母に酷(むご)い虐待を受けてきたらしいと聞いたが知ったことか。

 そんな自己満足に他人を巻き込むな自己完結して死ねば良かったんだ。

 そのクソッタレな掟がある嘘のような現実、今の今まで続いてきている夢みたいな事実。

 それに従い女は女ではなくただ男を悦(よろこ)ばせるだけのモノも出来る始末だ。

 あの水奈って子だって……

 

「クソが」

 

 それ以上のことは考えないように目をつぶる。

 次第に襲ってくる眠気。

 微睡(まどろ)む意識の中、僕は昔の夢を見た。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
2週間に1話投稿できれば良いですね……

最後に、感想など随時お待ちしてます。
では皆々様、また。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。