天竺君の家に新しいメイドが増えたよ。
それと池水ってオッサンはクズみたいだね?
夢を見た、嘘みたいな今とは遠くかけ離れた昔の夢を。
夢を見た、あの懐かしい笑顔に囲まれていた夢を。
夢を見た、七年前のあの普通の日々が……
壊れた日を。
「おきろ兄貴~!」
「ふお!?」
「おきろおきろ~!」
「やめ!ちょ!痛!だー!起きる起きるから!」
「おはよ兄貴!」
「おはよう妹」
俺たちは昔、天野じゃなかった。
ごくごく普通の家で暮らしてごくごく普通の暮らしを過ごして。
「母さん!今日のご飯なに?」
「んー?納豆とお味噌汁」
「おおジャパン」
「ああ今日はパンね?」
「オカズそれなのに!?」
「てへ、炊き忘れた」
「マジかよ」
「マジだぜ!」
「はあ、いただきます!」
「いただきま~す!」
「はい召し上がれ」
そんな毎日が続くと思ってたんだ。
「ん?母さんインターホン鳴ってない?」
「あら?こんな朝早くに誰かしら?はーい!」
「兄貴の納豆いただき!」
「あ!俺の楽しみをー!」
「へっへ~!」
「そ、そんな。どうして?あ、あぁ」
「ん?」
玄関から母さんの声が聞こえた、その声は今まで聞いたことがないくらい震えていて。
「どうした兄貴?」
「いや、誰が来たんだろうね?」
「さあ~?早く食べよ!学校に遅れる!」
「うんそうだ――!」
乱暴に開くドア、そこには僕にとても良く似た顔の大人がいて。
その人がボクらを見る目は哀れんでいたと思う。
「お前が天竺か。それと……お前は?」
「違います!天輝さんやめて!この子達は関係ないわ!せめてこの子だけは天海だけは見逃して!」
「駄目だ。昨日、正式に天野の次期当主が死んだことが発表された。これで次期当主の座に俺が着いた。それによって予備として俺の血を継ぐ者は全てどんな理由があっても連れてくるようにとの命令だ」
「ま、まさかそれって」
「ああ、現当主のご命令だ。よその血が混ざっていても関係ないそうだ。その子は?お前まさか俺以外の奴とヤったのか?は!あの依存だらけのお前がな!だがどうした?見た限り他に男の感じはしないが?ああ、もしかして
「逃げなさい」
「母さん?その人誰?」
「あ、兄貴なんか怖い」
「逃げなさい!早く!どこでもいいから逃げて!」
「「!」」
泣いていた。
今まで見たことがないぐらい顔を歪ませて母さんは泣いていた。
その顔を見た瞬間自然と僕の足は動いて。
「天海!こっち!」
「え?兄貴!痛い!」
手を掴む、妹の手を引き知らない大人が入ってきたドアから急いで出て玄関に向かって。
「おじさんたち、誰?」
玄関には知らない黒服の大人が沢山立っていた。
「その二人を捕まえろ……丁重にな」
後ろから聞こえる知らない大人の声。
「痛い!はなして!」
「天海!離せよ!やめろ!」
「連れて行け」
「了解しました」
「ほら着いてこい」
「クソが!母さん!天海!」
「兄貴!」
「天海!天竺!やめて、天輝さん!せめて天海だけは離して!お願い……」
その後僕たちは別々の車に乗せられて。
最初は暴れていたけど身動きがとれなくされ横に先程母さんと話していた男が座り唐突に事情を説明する。
僕が天野の血を継いでること、そして目の前にいる男は実の父親だってことに。
「お前の母親は分家の女で、まあ好きだったんだよ相思相愛だった。でも逃げたんだ、理由はアイツの極度の依存症でさ。今は面影無いけどまあどこ行くも一緒、何するも一緒って感じでうんざりしたんだ」
「だから母さんを捨てたのかよ」
「は!捨てた?違う。逃げたんだよ、理由はお前さ」
「俺?」
「俺、ヤルときは避妊してたんだぜ?でもまあ、アイツに乗せられて生でヤったら出来ちまってなぁ、お前が産まれた時なんかこれで俺と一生一緒にいられるって。あんな幸せそうな顔初めて見たよ。だから耐えられなくなった。俺にはまだ重かったんだよ。は!まだガキンチョのお前に言っても分からねえか」
「うん、なにを言ってんのかよく分からないけど親父は母さんのことまだ好きなの?」
いきなり聞かされた身の上話。
でも気になったのは母さんのことで。
その質問をすると親父は目を一瞬だけ見開いて。
どこか懐かしむような顔で。
どこか悲しそうな顔で。
「ああ、好きだよ。離れていて分かったやっぱ俺、アイツのこと好きだって。だからこのまま会わないでいた方が良かったんだよ。だからすまない。もう1人子供がいたことは予想外だったしそれが女ってのが不味い。早くあの天海って女の子だけでも安全な所に行かせないと」
額には汗をかき焦ってるのが良く分かった。
でもその時はまだ何でそこまで焦ってるのかなんて分からなくて。
「どうして?」
「今はまだお前には言えない。まず俺の家に行く、今日は何も無いが明日からお前も忙しくなるぞ。なんせ次期当主の補欠なんだからな」
「補欠?でもそこに行けば二人には会えるんだよね?」
「……無理だ。遠分は会えないだろうな」
「なんで!母さんと天海は関係ないだろ!」
「事情があるんだ!こっちで何とか根回しはするがお前が周りから信用を得るまでは無理なんだよ。それまであいつらは……」
親父の
「ねえ、教えてよ。二人はどうなるんだよ!」
「まだ言えない。お前は当面俺の下で教育を受けろ。お前が周りから認められれば二人に会える時期が早まるんだからな」
「クソが。分かったよ」
「……すまない、本当に」
それから無言で車に揺らされて俺は今の家に着きそれに軽く驚いた、今まで住んでいた家とは段違いに広くて豪華な屋敷。
昔のB級ホラーに出てきそうな洋館だった。
見た瞬間に出た言葉が。
「趣味悪!」
「は!まあな。ここは元々アメリカ大使館を改築したところだよ」
「元大使館?それをわざわざ改築って金持ちの考えることはわかんねーな?」
「それには同意だ」
「いや、親父も金持ちじゃん」
「……それにも同意だ」
そんなくだらないことを親父と話していると屋敷の扉からメイド姿のお婆さんが出てきて。
「おかえりなさいませ。旦那様、こちらが御子息様でよろしいですね」
「ああ。こいつが息子の天竺だ」
「ではよろしいので?」
「ああ頼む」
「かしこまりました。初めまして天竺様、私、代々天野家でお勤めさせて頂いておりますメイド長の
メイド長の采女さん今でも信頼する数少ない人の内の一人。
何時も優しい顔でずっと俺のそばで支えてくれている人。
「ん?」
たしかあの時メイド長は手を叩いて。
「さあさあ皆さん!ご主人様を綺麗にして差し上げなさい!」
「「「「「はい!」」」」」
「ふぁ!?」
メイド長が手を叩いた瞬間に複数の綺麗なメイドさん達が屋敷から走ってくる。
「「「「「では参りましょう!」」」」」
「へ?あの、ちょ!?なに!?さわんないで!ちょ!あぅあぁぁぁ」
そのメイド達は僕を囲みいきなり服を脱がしズボンを脱がし、まだ七月だったけどその時はもう夜で少し肌寒かったのを覚えている。
まあそれは置いといてそれから瞬く間に僕は担がれて屋敷に連れて行かれそこから大浴場に連れて行かれた。
「え!なに?マジでなに!?」
「はい!メイド長の命令でご主人様を綺麗にさせて頂きます!」
そう言ってポニーテールのメイドは手をわきわきと動かしながら近づいてくる。
「僕の意思は!?」
「「「「「ありません!」」」」」
「即答かよ!」
そこから更に下着を脱がされて……産まれて初めて家族以外の人に裸を見られた。
軽くあれは今でもトラウマだ。
「ちょ!?待って!お姉さん達は!?服のままで洗うのはダメでしょ!?」
「ご安心を!私たちのメイド服は天輝様の要望で特製防水、防炎、防弾、防刃で何故か通気性抜群!丸洗い可能なスペシャルメイド服です!」
そう言いながらドヤ顔で俺を抑えているショートカットのボーイッシュなメイドが答える。
「無駄にスゴイな!?」
「ちなみに一着四八十万近くします」
「高!」
「NASA製です」
「関係なくね?」
「冗談です。正解はメイドインジャパンですね」
「おおジャパン」
「ええ!ですのでご安心を!」
「安心できるか!」
そう言って何とか逃げようとすると更に僕を押さえつけられ今度はツインテールのメイドが。
「へへ、坊ちゃん安心しな。初めてなんだろ?優しくしてやるからよ。天井でも見てなすぐ終わっから。うひひ」
「だから安心できる訳ないだろーが!」
「へへへ。行くぜみんなー!」
「「「「「おー!!」」」」」
その声と同時に色んなメイドさん達にもみくちゃにけど、痛くもなくむしろ気持ちいい具合に頭や体を洗われその時に聞こえたメイドさん達のハァハァって声がすんごかったね。
まあそんなこんなで洗浄終了、疲れきった僕は瞬く間に知らない高そうな下着を履かされパジャマ着せられ寝室まで連れて行かれた。
「ではこちらがご主人様のお部屋になります!何かお困りになりましたなんなりとお申し付け下さい!屋敷内であればご主人様の声一つで駆けつけますので!ではおやすみなさいませ!」
「ああ、うん分かった」
「おっと!もう一つ旦那様から、明日八時までには起床、メイドを呼びつけ屋敷の案内を受けろとのことです!ではご主人様」
「「「「「おやすみなさいませ」」」」」
「うん。おやすみ」
そう言ってドアを閉め、なれない部屋を眺めため息をつく。
これからどんなことが起こるのか少しの不安を感じながらベッドに横になって。
「やわらかい…やわらかすぎる、かな」
ボソッと何時も横になっていた布団が恋しくなりながらも目をつぶる。
そこには何時も騒がしい妹はいなくて、何時も優しい母さんもいなくて……
そんな事を思い出すと少し背筋が寒くなりギュッと手を握る。
「母さん、天海。早く会いたいよ……」
そう言いながら意識は薄れ眠りにつく。
次の日、朝起きると僕の周りは目まぐるしく動き出した。
最初は朝食、産まれて初めて見る豪華な朝ごはんにお腹を鳴らせすぐさま食いつく。
それを見ていたコック長は嬉し泣きをしていたのを覚えているし、あっちもまだ覚えてるらしくたまにその事を誇らしく話しているのを耳にする。
少し恥ずかしい。
それからメイド長が屋敷の中を案内してくれた、とは言ってもまだ来たばかりの僕にはこの広すぎる家を覚えるには無理があって、慌てている僕を見てメイド長も時間をかけて覚えていきましょうねと言ってくれた。
その後、親父が迎えに来て昨日も乗った車に乗せられる。
「屋敷はどうだ?自慢じゃないが家の使用人たちは質が高くてな、他でも評判なんだぞ?」
「うん、みんな優しかった。あ、メイド服って親父の趣味なの?」
「は!ど、どうした?いきなり?違うぞ決して俺の趣味じゃなくて…あれだあれ。家に合わせたらあんな感じになったんだよ」
「でも昨日、天輝様特製ってメイドさんが言ってたけど?」
「……はい俺の趣味ですデザインは俺がしました。アイツラ言いやがったな」
「デザインまでは知らなかったよ。それで今からどこに行くの?」
「ああそれはな」
先程のふざけた雰囲気を一変して親父は緊張しながら話す。
「本家だよ。これから現当主の十六代目に会ってもらう」
「十六代目それが家の中で一番偉い人?」
その質問に親父は頬を緩ませながら。
「ああ、それにとっても優しい人だよ。俺も色々助けてもらってる」
「ふーん?あ!じゃあその人に母さん達のことを言えば!」
「多分無理だ。まあ言ってみる価値はあるとは思うけどな」
「うん!」
そこから先は、ああ憶えてる。
その後僕は十六代目に会った、話に聞いた通りのいい人だった。
だからその時、母さん達のことを話したんだ。
これならきっとすぐに会えるって思ったから。
でも。
「ならん」
「どうして!?」
その言葉は聞きたくなかった。
「どうして?不思議なことを言うな。そりゃ決まっとるまだあれらには天野の教育を受けとらんからじゃよ」
「そんな!でも妹は、天海だけでも良いから会わせてよ!」
「ならん」
「十六代目。ですが彼女、母親の彼女はよろしいのでは?」
「ほう天輝よ、お前さん忘れてはおらんか?」
「はい?」
「あやつは分家じゃぞ?本来であれば本家の土地にすら踏み入れる資格のないものじゃ。たった数年間あそこで教育を受ければここで生活ができる。何の不満がある?それはお前の娘も同じじゃぞ?」
そう言った十六代目の顔には嫌味な顔は一切なく本当にこれが正しいこと、僕らのためだって思っている顔で。
その時の俺は母さんと天海がいって施設が一体何なのか、知らなかったから親父程にしつこく施設に入れることに反対はしなかった。
もしあの時、何の施設か知ってたなら僕は……
これがこれから続く後悔の始まり、今でも頭をよぎるもしあの時こうしてれば、って。
「じゃあ博打でどうじゃ?」
「は?」
と、いきなり十六代目は突拍子もないことを言う。
その顔には不敵な笑みを浮かべて。
顔に浮かべるシワを更に深くして。
「昔はよくやったもんじゃ。天輝も覚えておるじゃろ?」
「ええ、そうですね。相変わらずの博徒だ、ですが一体なにを賭けて?」
「二人が施設を出れる期間」
「受けます!」
「天竺!」
「ははは!良い良い!じゃあ天竺君、もし賭けに勝てたなら勝った瞬間に施設から出してあげよう、だがもし君が負けた場合二人は正式に訓練を終えるまでは出れないそれでどうじゃ?」
その言葉を聞いた瞬間に僕の答えは出ていた。
「はい!大丈夫です!」
「ははは!若いな、だがそこが良い!天輝こやつ面白いではないか!案外天竺君が次期当主の方が良いのではないか!」
「はははご冗談を」
「冗談ではないのじゃがなぁ?おお!そうじゃった、賭けの内容を教えておらんかった!内容はズバリ!コイントスでどうじゃ?」
「コイントス?」
「そうじゃ!この五百円玉を……天輝、お前さんがやれ」
「私ですか?」
「お前さんがやれば不正はなかろう?ほれ」
「は、はい!」
そう言いながら親父は十六代目から投げられた五百円玉まじまじと見てコインを。
「いきます」
トスする。
金属の弾く音、跳ね上がるコインその瞬間をじっと見続けて。
表裏表裏表裏表裏、クルクル回転するコインを手のひらに落ちて隠されるまで。
「ほれ、お前さんが決めんか」
「はい……」
自然と体が熱くなる、口には涎が貯まる。
そしてその涎を飲み込み答えた。
「絵のある方で」
「それでいいんじゃな?」
「うん」
「よし、見せい」
「はい…では」
どかされる手、そこにあったコインは。
「残念じゃったな」
五百円が書いてあった。
「あ、ああ」
「ははは!残念じゃったな!賭けは儂の勝ちじゃ」
「ま!待ってください!もう一回!」
「ならん!と、言いたいがのう……」
そう言って睨み、何か思いついたように先程と同じように口元を歪ませる。
「そうじゃな、確かにいきなりだったことじゃし。一週間後にまたここでコイントスをする。て言うのはどうじゃ?」
「ほ、本当ですか!」
「ただし!ただしもし次も賭けに失敗した場合はあやつらを返さない。それが条件じゃ」
「十六代目!流石にそれは!」
「黙っとれ!主らは一度は負けた身。どうする?これに勝てばすぐに会える、これに負ければ一生会えない。受けなければまあ早くて三、四年後に会えるじゃろうな。決めるのは君じゃ天竺君」
その顔はとても優しい顔だった、まるで遊びだと言わんばかりに。
その時は少し気味悪かっただけだった。
でも今思えばあれが天野の歪みの一つだったんだと思う。
「やります」
「天竺!お前分かってるのか!もし敗けたらもう会えなくなるんだぞ!お前の母さんや妹に!」
「いい加減黙らんか。儂は天竺君と話しとるんじゃぞ?ふん、まあ来週今日と同じ時間に来なさい」
「分かりました」
「十六代目」
「天輝お主も学習せん奴じゃな」
「助人などを連れてきても良いですか?」
「助人?は!良いぞ、連れてくるがいい!コイントスに助人か!占い師でも連れてくるのか?」
「まあ、似たようなものですよ。では来週またお会いしましょう」
「ははは!今日は中々に楽しかったぞ!用事がなくてもまた来なさい、今度は美味しいお菓子でも用意させておこう」
「はい」
「では失礼しました」
「ああ、天輝。この一週間はあそこで教育させるが、異存は無いな」
その言葉に顔を一瞬だけ歪ませ。
「ええ、異存はありません。ですが今日の約束をお忘れなく」
「ふん、分かっとるわ」
それから無言で車に乗り込み家に帰って――
「天竺、来なさい」
あの日から一週間後、約束の日、親父は一人の女性を連れてきた。
いや、女性だったかもしれない、全身を一枚のフード付きのローブで隠した人物でただ声が中性的なことと体格が小柄だったからその時は何となく女性だと思っただけで。
「初めまして天竺様」
「は、初めまして?」
彼?彼女?は優しい中性的な声で深々とお辞儀する。
「この方は俺が呼んだ助人だ、
「天輝様、そんなに畏まらないで下さい。今回の件あなたのお願いですがやると言ったのはこちらです、ですからもっと堂々としてください」
「申し訳ない。ですがあなた方は……」
「ええ、私たちは知ってのとおり寛容であり合理的なのです。あなたはもう私たちに報酬を渡している。それだけで十分です。それに天野の次期当主であるあなたから貰ったと言うだけでもお釣りが来ますから」
「そうですか…怖いお人だ」
「ふふ、そうでしょうか?あ!」
クスリと笑ってローブの人は置いてきぼりになっている僕を見て。
「あらあらごめんなさい?明日はご安心を導かせていただきますので」
「は、はあ」
「ああ!そうでした。私まだ名乗ってませんでしたよね?……そうですね本名を名乗る訳にもいかないですし、そうだ!天輝様、私のことは“しずね”とお呼び下さい」
ローブの人はまたクスリと笑ってそう言った。
*********
「――様、起きて――さい。あ、―の。私こ――うの初め―でど――れば良い―か良く分か――――けど。え?こう―――良―?分―りま――では失礼―て」
聞きなれない声、もう慣れた柔らかすぎるベッドの感触。
何時もの寝起き、見たくなかった最悪な夢、途中で起きれたことに安堵して。
「もう一眠り」
「え、えい!」
「ふぉ!」
腹部に激痛!布団越しでも伝わる重みのある一撃!
一瞬で目が覚め犯人と思う人物の名を叫ぶ。
「おらぁ天海!お前またやりやがった……な?」
そこにいたのは予想外の人物で。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「あ、あの~?水奈ちゃんだよね?」
「ひぃ!」
昨日会った彼女がメイド服でバットを抱きながら震えていて。
「ご、ごめんなさい!メイド長さんがご主人様を起こしに行けって言われて、そしたら天海様が起こしたいならバットで叩けと言われたものでして」
「あのアマぁぁ」
「も、申し訳ありませんせした!MIZUNOではなくてこちらのKUBOTAのバットのほうが良かったでしょうか?」
「うん、そっちの問題じゃないかな~?てか今バットどこから出した?」
「え?この服に付いている隠しポケットですけど?」
「う~ん、そんな当たり前のこと聞かないでくださいみたいな目やめようね?結構僕、傷つきやすいから。ああそれと」
「ひゃぅ!?」
「起こしてくれてありがとね?次はもっと優しく起こしてよ~?」
頭を優しく撫でながら優しく言葉をかける。
「は、はひぃ」
「それにメイド服も似合ってるよ」
「あ、ありがとうございまふぅ。あの、悲しいですか?」
「え?」
「だって、涙の跡が」
そう言って優しく僕の頬を撫でる。
どうやら寝ている間に涙を流していたらしい少し濡れていた。
まあ、あんな夢を見れば当たり前か。
「あ、あはは。怖い夢を見ちゃっただけだよ気にしないで」
「夢ですか?」
「うん、昔の話だよ僕の後悔の始まり。あの時ああしてれば、こうしてればってね。馬鹿だろ?後悔してももう戻れないのに」
「すいません、私には良く分かりませんけど。でも元気を出してください!私は天竺様に会えてとても良かったと思いますから!」
そう言って笑顔になる水奈ちゃん、でも違うんだよ君を助けたのはただ自分が救われたかっただけなんだから。
「そっか!ん、ありがとう……それじゃ~朝ご飯でも食べに行きますか~」
「はい!かしこまりました!」
あくびをしながら部屋を出る、昨日出会った水奈ちゃん、今日見た夢それのおかげでより一層僕の意思は固まった。
どうしようもない妹を救うことを。
彼女に自分の思いを伝えることを。
そして、あのバカを助けることを。
僕が、腐った天野家を壊すことを。
「んじゃま!行きますか!」
僕と僕を信じてくれる仲間と一緒に。
*********
もし、もしこれがお話なら……
僕はきっと主人公じゃあないだろう、良くて一枚絵のあるモブ又は親友役だ、なら主人公は?
そうなるとアイツしかいないだろうね?
ならそうなった場合の僕のポジションはどうなる?
主人公を邪魔する典型的小悪党?それは嫌だな、僕の趣味じゃない。
主人公を導く兄貴的存在?それは無いな、あいつの方が強くていざって時は行動的だ。
主人公に恋する複雑な心の持ち主?……それは無い。
主人公を影からサポートする……それだな。
もしこれがお話で主人公がアイツならきっと僕のポジションは主人公を影からサポートする友人、それが僕のこの壊れかけたお話の中のポジションなんだろうね。
あの最後の夏休み、僕はその役になりきったのかな?
それに答えてくれるのはもう誰もいないけどね。
やっと投稿できました。
前回よりも文字数が増えちゃったけど大丈夫ですかね?
それと今年の投稿は多分これで終了だと思います。
最後に、感想など随時お待ちしてます。
では皆々様、また。
そしてメリークリスマス!