※この作品はR-18です。

ピュア ~水仙は腐り落ちヘデラが生い茂る~   作:まうす〜

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純粋な愛/私の愛は生きています


六話【ホワイトカーネーションⅡ】

「天海……大丈夫?」

「お母さん!お母さん!何でどうして!?もう私たちは関係ないんじゃないの!?」

 

 真っ白い部屋、散乱するメスなどの医療器具、辺りには血と消毒薬の濃いむせ返る匂い。

 その匂いに何度も吐きかけたけど何とか我慢して。

 強く縛られてアザが出来た手で母さんの手を握る。

 

「しょう…が……ないの。これは罰、私…のミスよ……だから泣かないで」

 

 まだ麻酔が切れていないのか小刻みに震えた手で私の頭を優しく撫でて。

 

「で…も、あなたが無事で良かった……ご…めんね?」

 

 そう言って母さんは涙を流す。

 でも強いよ、母さんは強い。

 私がこんなことをされたらきっと狂ってしまうから。

 

「かぁさん。う!オエェぇぇ」

 

 されていたことを思い出して数時間溜めに溜めていたモノが床に撒き散る。

 もうヤダ助けて…誰か助けてよぉ。

 

「母さん!天海!…え」

 

 ドアが乱暴に開かれそこには兄さんが血まみれで立っている。

 どうしたの兄さん?そんな血まみれで?ああ、あの人たちの血かな?

 助けに来てくれたんだ?あ…り……がと――

 

「なんだよこれ?何なんだよこれ!?アイツらぁぁぁぁぁぁ!ぶっ殺してやる!!」

 

 そんな今まで聞いたことがない兄さんの声を聞きながら私は意識を失った。

 どうしてこうなったの?

 理由は簡単だった、ただ私達は運が悪かっただけ。

 母さんが天野の本家で不手際を働いたそんなありもしない罪を擦り付けられて。

 そのハメた相手は下衆な笑みで頬を歪めながらこう言った。

 

「あーあ、何してんの?そうだ!お前!俺と一発ヤレよそしたら許してやるからさ!」

 

 そう言いながらそいつはズボンを脱いで母さんを襲おうとする。

 それは天野の家にいればたまに見る風景。

 天野の女は彼らを悦ばすために色っぽく喘ぎ続け脇を通る使用人たちは透明人間みたいに通りすぎていく程度の風景。

 でも、その場にいた私はとっさにそいつを突き飛ばしてしまって。

 

「痛!お前!俺を誰だか知ってんのか!?天野の道具がぁ!何調子にのってんだよ!このクソアマ!」

「うっ!?」

 

 いきなりお腹を蹴り飛ばされた。

 ああ、馬鹿だ。

 天野の女が彼らにこんな事をしたら許される訳ないのに。

 

「くっそ痛え。あ、良い事思いついた。ひひ!お前らコイツら車まで連れてけ!」

「は、はい!」

 

 そう言って下端らしき黒服は私達と母さんを引きずるようにして車に乗せる。

 

「どこに行くの?」

「どこに?どこだろうなぁ?楽しみにしてろよ!ひひ!」

 

 その気味の悪い笑い声に悪寒を感じながら車に揺らされた。

 助けて!兄さん!そう思ってバレない様にメールを送って。

 文章は単純に「助けて」って、私の携帯はGPSが付いてるからきっと助けてくれるって信じてたから。

 でもその日、兄さんは親族会議だったのを思い出して少し。

 少し涙を流して気を失う。

 

「ひひひ!じゃあ始めようか?」

 

 その声で気が付いた時にはどこかの手術室らしき所に車椅子に縛られていて。

 目の前にはストレッチャーに縛られた母さんが。

 

「母さん!」

「ん、起きたの?丁度いい!おら!見てろ?今から一生に一度見れるか見れないかってレベルのもん見せてやるからよ!」

「な、なにを?」

 

 その問い掛けに口端を釣り上げ不気味に笑いながらこちらを凝視する。

 

「あぁ、その不安に染まった顔最高!あぁ興奮する!そうだそれだよその顔。本当に最高!まあ安心しろよ、なにも殺すわけじゃないんだからよ?ひひ!」

 

 気味の悪い男の声、それに続くようにして手術着を着た大人達は母さんの股を開いて両足をよく分からない器具で固定して。

 手にはメスを握って。

 やめて何をするの?鼻にツンとくる消毒の匂いが嫌に気持ち悪い。

 

「やめて、やめてやめてやめてやめてやめてやめて!」

「チッ、いい加減うるさくなってきたな。お前らそいつの口を塞いとけ」

「んむ!?んんぅ!!むー!」

 

 駄目やめて、何をするの?助けて誰か助けて。

 口を布で塞がれて次に見た光景は。

 母さんの、母さんの股から血が吹き出た瞬間だった。

 

「ひゃひゃ!すげー!やっべマジで興奮する!あーヤバイちょっと他の奴とヤってくるからお前らそのクソ女にこれ見せとけよ」

 

 その声の主、私たちを連れてきた男、背中しか見えないから素顔は分からなかったでも声だけで分かる。

 笑っている、この状況楽しんで興奮している。

 助けて。

 

「はい」

 

 そしてあのクズ野郎は手術室から出て行く。

 それでも私は目をそらすことが出来ず母さんの体がグチャグチャになるのを見せられる。

 気持ち悪くて吐きそうになっても口を塞がれているから吐いたものは私の口の中で溜まって呼吸が出来なくなりそうになって無理矢理飲み込んで。

 

「んグ!?おぇ!ぁぁ…」

 

 その繰り返し、気を失いたくても胸にこみ上げる気持ち悪さと布に染み込んだモノの匂い、母さん体を切る金属と金属の音で無理やり意識が現実を見せる。

 それが大体二時間ほど、やっと母さんの手術が終わって解放された私は母さんに近づく。

 

「お母さん……」

 

 そして最初に戻る。

 それから私と母さんは兄さんに保護され家に帰れた、その後知ったけどあの時母さんの体の股、クリトリスが切除されていて。

 それから一ケ月、母さんには使用人がつきっきりで生活をして、それがより一層された事の辛さが伝わって、父さんや兄さんはずっと私達に謝り続ける始末。

 

「ごめん」

「すまない」

 

 やめてそんな顔をしないで何時もみたいに笑ってよ。

 それから私の中の仮面が濃く浮き出るようになった、誰にも剥がすことができない仮面が。

 学校では何時もの私、家だと仮面の私。

 家では何時もの私、学校だと仮面の私。

 もうどっちが本当の私か分からないけど。

 天野になった日から私は頑張った頑張ってるはずなの。

 でもどれだけ頑張っても結果が変わらない、逆に恨まれたりもする始末。

 辛い、でも誰にも言えない、兄さんは次期当主になるために忙しくしているし母さんは時折お腹を辛そうにさするそれを見て助けてなんて弱音を吐けるはずがない。

 父さんには言えるはずがない、どれだけ今のこの状況が悪いか分かっていても天野で育ってきた人だから。

 だから頑張る、学校では元気でちょっとぬけた子を演じて、家ではおしとやかで少し意地悪に演じて、どっちが本当の私?

 分からない、でも頑張るきっと泣きながら知った技術は無駄にならないから、きっと涙を流しながら得た知識は無駄にならないからって信じて。

 それは高校に入学してからも変わることがなかった、でも時折自分の中で風船がはじけるみたいに悲しくなって。

 そんな時は夕方になると誰も入らない放課後の赤く染まる美術室で少しだけ涙を流す、ほんのちょっとだけ声を絞り出して。

 そんな毎日が続く中私だけしかいなかった場所に彼がやってきたの。

 

*********

 

 

「どうした?」

 

 私しかいない、そう思っていた場所に知らない男の子が入ってきた。

 ネクタイの色が違うから二年か三年の先輩。

 怖い。

 

「泣いてる?もしかしてどこか怪我したのか?あ、もしかして怖がってる?」

 

 見られた、学校の私じゃない私を。

 怖い。

 

「あ、あのだな?怖がんな、て言ってもこんな目つきの悪い奴に言われても説得力なんてないか……」

 

 その優しい笑顔は何?その優しく差し出す手は何?

 怖い。

 

「立てるか?」

「あ…ああ……あぁぁ」

 

 やめてそんな優しい顔を向けないで、そんな顔を向けられたら私は。

 私は学校の私でいれなくなっちゃうから。

 

「ん?ほら大丈夫か?」

「あ」

 

 そう言って彼は私の頭をなでる、髪の筋をなぞるように優しく。

 怖い?

 

「ん~?目立った外傷なし周囲に俺ら意外に人の気配はなし……あ!もしかして」

「え?」

「すまなかった!!」

 

 言うか早いか、いつの間にか土下座をしている彼に目を丸める。

 意味不明。

 

「あ、あれだろ?好きな人に振られてちょっと傷ついた心を夕日と一緒にランデブー的な?」

「ぷ!」

 

 変な人、自分が何を言っているのか分かってるのかな?

 夕日と一緒にランデブー(デート)って仮に振られて泣いていたとしてもそんな例えを言うの?

 面白い。

 

「あ、あのじゃあもし私が本当に傷ついた心を夕日と一緒にランデブーしてたらどうするんですか?」

 

 だめだ、自分で言ってても可笑しくて吹き出しそうになる。

 不思議と高鳴る鼓動。

 

「え!ま、マジかよ。くっそなんだよタクの野郎、面白いもんが見れるって言ってたくせに騙しやがって糞」

「え?何ですか?声が小さくて聞こえませんよ~?」

「う、え、えと。そのだな本当にそうなら……」

「そうなら~?そうならどうなんですか?セ・ン・パ・イ?」

 

 ふふふ!可愛い、私の質問でしどろもどろする彼を見ているうちにさっきまで流れていた涙は自然とやんでいて。

 他人にまで聞こえそうなぐらいにまで高鳴り始める鼓動。

 

「あ、泣きやんでる」

「あ、そうですね。それよりも答えてくださいよ~」

「うっさい!お前もう楽しんでるだけだろ!」

「あ、分かっちゃいますか?へへへ~センパイの可愛いお顔。ご馳走様です!」

「たく、からかいやがって。ん、先輩?ああお前一年か?」

「はい?一年生の天野天海でっす!」

「天野?お前もしかしてタクの妹?」

「タク?ああ、もしかして兄貴のお知り合いですか?」

「ん、友達」

「え、兄貴に友達っていたんだ」

「ひでえなぁ?」

 

 そう言って彼は笑いながら先ほどと同じ優しい手を私に差し伸ばす。

 更に激しく破裂しそうになる心臓。

 

「三年の九城恂、よろしく」

 

 そんな彼の握手を求める手に恐る恐る手を差し伸べ触れる。

 血が巡るに巡ってボーっとなる視界。

 

「よろしくです!」

 

 ブンブンと彼の手を握り締めながら先程の泣き顔はなんのそのと。

 私の鼓動の音が伝わらないように強く強く。

 

「ん、よろしく。ああそうだ今からタクと一緒に帰るけど一緒にどう?もう一人女の子もいるし心配しなくても大丈夫だと思うけど?」

「え、本当ですか~!?でも今日はごめんなさい!今日は友達と一緒に帰る約束してるので、また今度誘ってください!では~!」

 

 そう言って美術室を駆け足で出てすぐに階段を上がる。

 

「恂先輩、か」

 

 そう言ってクルンと先程までいた場所に視線を向け。

 

「また、会いましょうね」

 

 そうボソッと呟く、その声は小さく夕焼けに溶ける程に小さく。

 まだ収まらない鼓動を両手で感じながら。

 その日私は初めて恋をした。

 なんて単純なんだろう、ただ頭を優しく撫でられただけなのに。

 ただ優しい顔を声を私に向けてくれただけなのに。

 でもしょうがない、だってこれが。

 恋ってものでしょ?

 

*********

 

 

 ジリジリと肌を刺す日差しの中私と兄さんは走っていた。

 

「クソが!あの狸オヤジ用事があるって言ってんのに一向に話やめようとしないとか信じらんね!」

 

 蒸し暑い中兄さん先程まで対談していた池水さんとのことを愚痴り出す。

 

「でも良いじゃないですか?彼はもう後がない、だって彼ご期待のご長男が次期当主のモノに手を出したって言う失態もありますし、この前あったトンネルの陥没事故、幸いにも死者は出ませんでしたがそれが彼ご自慢の手抜き(裏ワザ)で作ったものですから更に追い打ちをかける形になって、更に更に不幸なことにそれがマスコミにも伝わってしまいましたし」

「リークしたお前が言うかよ」

「ええ、この程度で済んだのが奇跡みたいなものです、だって私天水(かみな)の人達好きじゃないですし。あ、水奈ちゃんは別ですよ?あの子は素晴らしいです屋敷の仕事なんて一週間程で憶えきりましたからね。そして可愛い!」

「知るかよ、てかそのせいで今日の待ち合わせ遅れそうなのわかってるのかな~?」

「あ、先輩達もう来てるみたいですね?」

「露骨に話そらすなし。ん?タクの奴」

 

 そう言って兄さんは先輩たちの方を凝視して。

 

「……よし。貸してくれ、ちょっと現金に変え――使ってくる」

「ほう」

「恂センパイらしいですね~」

 

 そう言って苦笑い。

 

「ジュン~?何してるのかなぁ?」

「いやなに、時間の有意義な使い方とお金の大事さについて語っていた所だ」

「はあ~。まあ良いや、ごめん遅れた」

「おっくれました~!天野天海ただいま到着しました!」

「15分遅刻。てか今日じゃなくても良かったんじゃね?なんでショッピングモールのオープニングセレモニーに参加しなきゃいけないんだよ?」

「いや~申し訳ないです!本当であれば兄貴と2人だけで参加する予定だったんですけどね~。招待券、結構もらったのでせっかくだからセンパイ達も来て欲しいな~と思ったしだいです!」

「ふん!本当は一般人ふ入場できないんだから感謝してよ~?」

 

 そう言って兄さんは自慢げに話し出す。

 全く自分が手に入れた訳じゃあないのに。

 今回のこれだってオーナーの――――

 

「天海ちゃん」

 

 そんな事を考えてると横から小声で飯村先輩がこちらに近づいてくる。

 耳元に口を寄せて。

 

「あ!飯村センパイどもです!」

 

 背筋に少し汗をかきながら少し距離を離す。

 相変わらずこの人は苦手、嫌いじゃないけど。

 

「うん、今日は誘ってくれてありがとうね?恂は気にしなくていいよ、あんな感じだけど本当は嬉しがってるんだから」

「ええ!そんなの言われなくても分かってますとも!」

「うん、そう。分かってるよね?だってあなたも恂のこと好きだもんね?」

「っ!」

 

 その離した距離をさらに詰めて私の目をのぞき込む。

 口元に息がかかるぐらいに。

 流石に驚いて後ろに倒れる。

 それに続くようにして飯村先輩も私の上に覆いかぶさる。

 太陽で焼かれたコンクリートのせいか背中はさっきよりも汗が流れ出す。

 

「大丈夫?痛くない?さっきの続きだけどね?恂は渡さないよ?だって恂は私の大切なヒーローだもん」

 

 全くこの人にも困る、私と違った二面性。スイッチのON、OFFみたいな所それが無ければいつでも任せるのに。

 

「ええ、それも分かってますよ。でもまだダメです」

「え?」

「そういう事は人目につかない所でやりなさい」

 

 そんな恂先輩の声で今の状況を理解。

 暑さで顔が赤くなってる私達、お互いに息が軽く荒い。

 極めつけは飯村先輩が押し倒してるみたいになってるこの姿勢……

 

「ち、違いますよ~!?ちょ、ちょっとたわむれていただけですって!ねえ枢センパイ!?」

「う、うんそうだよ!遊んでただけ、遊んでただけだから!」

「たく、暑い中ようやる。さっさと行きますよー、皆さん迷子にならないように手を繋いでいきましょうねー」

 

 ああ、恥ずかしかった。

 あれ?兄さんの声がしないけどどうしたんだろう?

 そんな事を思って兄さんのいた方を見ると兄さんが顔を真っ赤にしてボーッとしてる。

 兄さんのいた場所はちょうど私の真ん前、つまり飯村先輩の真後ろ。

 もしかしてパンツが見えたとか?え、それだけで気絶するの!?

 ああ、嘆かわしい次期当主がこんななんて本当に兄さんは、だからまだ童貞なんですよ。

 不意に私の口は笑っていて。

 

「は~い。先生~天竺君が顔を真っ赤にして意識を失ってま~す」

「はい天海ちゃんよく気づきましたそんな悪い子は置いて行きましょう。では皆さん行きますよー」

「「はーい」」

「はい、招待券確認させていただきました。ようこそいらっしゃいませ3名様ですね?本日はお楽しみください」

「は!ちょ!?待って!?置いてかないで!?」

「たく、しょうがねえなー」

 

 全くもうみんな困ったさんだ、これだから他人任せには出来ない。

 それに飯村…枢先輩が言ってた。

 

「ヒーローか」

「どうした~?」

 

 本当に彼女は苦手だって私も彼のこと。

 

「ヒーローだって思ってますよ。私だって、ね」

 

 まあ細かく言うと彼らのことなんですけどね?

 

「?」

 

*********

 

 

 私は汚れている。

 誰よりも。

 だから彼の傍にいられる訳がない。

 でも愛してるの彼のことをずっとずっと。

 だから私は願ってる彼の幸福を、どんなに歪んでいても。

 あの日彼は幸福だったのかな?

 それにはもう答えてくれないのは知ってるけど。

 頬に一筋の涙が流れるのを感じながら私は思うの。

 神様、どうして?どうか叶うなら彼らにまた合わせてください。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回で天海、過去回想編は最後です、次回は枢、過去回想編です。
回想ばかりですいません、話のよいしょよいしょで回想編出せば良いと思うんですけど自分不器用なので。
枢回は二話程度で終わると思いますので。

最後に、読んで下さいました皆様からの感想やご要望など随時お待ちしております。
では皆々様、また。
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