昔々、とある島国がありました。
そこは精霊が踊る島と呼ばれ、ある男が騎士を連れて国を建て上げました。
男は島から生まれた四つの精霊と様々な約定を結んで王となったという。
国の名はベルデ。
ベルデ国は慎ましくもささやかな平穏を過ごしながら時は経ち、今日も約定の一つ、王家のしきたりの一つとして、姫が18歳の時に北の祠で祈りを捧げなければならない――――。
それを狙う影がおりました。
とある魔騎士が、遥か昔日の因縁に決着を付けるべく、恐ろしい計画を立てていました。
目的は姫を捕らえて北の祠の正体を掘り起こすこと。
そして其処に封じられていた存在を弱らせ、こちらが力を付ける為に精霊と姫を生贄にすること。
その為に精霊と対になる共犯者も集めました。
これから計画の実行に移る訳ですが……ああ、堅苦しそうなのはやめやめ。
要するに悪党達がこれからベルデって国をグチャグチャにするんだけど、なんでも初代王が蓋をしていたかなりヤバイ何かにいつか島丸ごとぶっ壊わされるんらしいってことみたいだから、その前になんとかしようぜってだけの話だから。やり口が全然褒められたもんじゃないことには違いないけどな。
てか、オレの目的はただ愉しめればそれで良いんだけどね。
ダンテは軽く宙を浮きながら腕を頭に回して枕にしていた。
退屈で寝そうになっていたからだ。
「兄貴~、いつ例の生贄姫来るんすか~?」
「もうすぐだ」
「それもう三回も言ってるじゃないすか。オレ眠くなってきた」
「ホホ、そのまま寝転んでいると良いわ。肝心な時に働ければそれで宜しい」
「………………」
大体男四人がこんな静かで退屈でしかない所に長い時間待たされたら文句の一つも出たくなる。その内二人はジジイと牛だし。生真面目な性質の魔騎士はもうすぐとしか返さないし。雑談しようにも趣味嗜好も合わないのは分かりきってる。
欠伸を噛み殺しながら、マジで寝ようかなとダンテが思った所で、漸く彼らの目当ての人物が来た。
女が二人だ。片方が姫で確定しているからもう片方は……。
(……へぇ、御付きの騎士さまも女の子とはね)
ダンテは目を細めた。今の時代だと珍しくもないかもしれないが、彼女はベルデ国では初の女性の騎士であった。
騎士の少女は姫の露払いなのか先行して周辺の危険がないか確かめているようだ。それから祭壇場所を手探りで確かめている。
仄明るい祠の中でも明るく輝く金髪を二つ端に括って尾のように垂らしている。
青い瞳も幼さのある目鼻立ちも唇まで大変愛くるしい。こちらが姫のドレスを着ていたとしても違和感は無かっただろう。
計画から姫は汚せないことは決まっている。だがそれよりは格下だが高貴そうな、汚しがいのある存在をつまみ食いするくらいは。
(おっと、仕事仕事)
これからするべきことはそういう目的ではない。そんな寄り道をしてたらメドラウドに怒られてしまう。
けれど別の愉しみとしてとっておいておくくらいは良いだろう。
「何?!あなた達は……姫様っ!?!」
襲撃が始まれば、あっという間に計画の序段は完遂された。
ダンテが風魔法を使って祭壇から姫を引き離し、こちら側に寄せていく。遠目からでも明晰な美貌、流石一国の御姫様。ケーキみたいな服の上からでも分かる実にふくよかな肉付きをしている。この無垢で高貴そのものみたいな存在を、この手で墜とせないのが残念だ。
「手筈通りに頼むぜ、じーさん」
「ホホ、言われんでも分かっとるわ若造が」
アミーの秘術によって四元素の精霊が眠る指輪が光放つ。精霊の気配。マジでいやがったのか、相克する魔力の塊をずっと宿し続けてたなんてとんでもないマジックアイテムだな。ダンテは噂以上の秘宝の力にちょっとだけ驚いてた。顔には出さないようにしたが。
「姫様!!」
と、一瞬気を逸らしてなら御付きの可愛い騎士の方が、こっちに向かったきた。直ぐに雄叫びを上げたミノタウロスに弾き飛ばされるが。姫が悲鳴を上げると同時に転がる少女、携帯していた盾と軽鎧も猪突猛進で怪力自慢の牛男によって呆気なく砕かれていく。気絶しなかっただけ及第点か。しかし少女自身の危機は去っていない。
「こんな簡単に膝をつくのか。それでも騎士か」
痛みを堪えて立とうとする少女の前に仁王立ちする黒鎧の魔剣士。メドラウドが少女の前にまで立って魔剣を構える。
あ、とダンテは一瞬止めようとして、その考えを即辞退した。兄貴分が少女相手でも、邪魔立てするなら容赦しないという態度を諫める理由がないから。
「騎士ならば死しても主を守ってみせろ。それが出来ないようなら……ここで散れ」
あの大剣を食らったら一溜りもない。残念だな、可愛らしいのにと目を逸らした時に。
「ジャンヌ……!だめぇ――――!!!!」
メドラウドの剣が届く前に、騎士の少女は真白い光に包まれて消えて行った。
……どうやら、王家の加護とやらを発動させたらしい。精霊を失ったばかりだから所謂残り滓みたいな状態なのに、この力。確かに何も準備して来なかったらオレなんか触れることすら出来なかったかもな。
本当に手折れないのが勿体ない無垢な白百合姫だこと。
だけど今回の計画にとってメドラウドにとって大事な大事な贄だ。
乱入による儀式の失敗と強制的に覚醒され指輪から解放された精霊の影響で、北の祠は封印されていた黒城と相成った。
姫はここで時が来るまで、ただ静かな囚われの身と化す。
精霊はさっきの騒ぎで颯爽と逃げて行った。と言っても行く所は決まっている。それぞれの己の由来となる霊地だ。
ここも計画通りであり、その為のダンテ達だ。四精霊と同属性を持つ共犯者達は自分に合った場所で精霊を追い詰めていく。ダンテなら風の霊峰、ジェイドへ。
これが今回の件での一番の愉しみだった。精霊なんて滅多な存在だから。それを殺さない消滅させない程度の嬲りものにするなんて、すごく面白そうだから。一国の姫を穢してやるという悪党の王道みたいな愉しみが出来なかった分、精霊を存分に犯して、虐めて、愛でてやって、永遠の存在にオレのことを刻み付けてやろう。
(……あと、それから)
ジャンヌ。と、そう呼ばれていたな。
なかなか可愛かった。女で、それもまだ成人したての子供ながらに騎士か。見た所全然弱そうだったけれど。
(あの子、オレ達の邪魔をしてくるかな?)
だとしたら、次に会った時が楽しみだ。