額の傷のジクジクした痛みを感じながら、ダンテは体力回復薬を一気に飲み干した。
レンズが割れたゴーグルは頭の飾りにするだけだ。利き手にはリボンだった布紐が巻かれている。
「あー、あの、例の女のことなんすが……ヒッ」
斥候担当のワーウルフに声をかけられたが、即怯えられた。苛々から来ている殺気を向けられたからだ。
「ジャンヌが見つかったのか?」
もとよりもうすぐジャンヌを追う準備が済ませられる。今から捕まえに行けば、時間的にまだ下山してない可能性も高い。街まで帰還されると少々厄介だが構うものか。
ダンテの目的がすっかり変わっているようだが、以前より確固たる意志を感じる。いつも飄々としたこの男の様子をここまで変えるなんてと、人狼は尻尾を丸めた。やはり、この男の件の少女騎士への執着心はかなりのものだ。だからこそ伝えなければならない。
「あ、ああ……落ち着いて、聞いてよ」
神妙な態度に怪訝になったが、ダンテは黙って報告を聞いた。
内容を耳にして理解した次の瞬間、ダンテはこの場を後にした。
何処に潜んでいたのか、岩に擬態する触手の怪物が次々と自分達の拠点に還っていく。自分達の巣に帰っていくマンイーター。その数が無数に等しい位に増えている。まるで山中の一族が会するように。それを安全な、目視出来る場所にて山犬師団と自称するワーウルフ達が呟き合っていた。
「……どうやら本当みたいだな」
「だな、植物モンスターにとっても極上の餌だったってことだ。あの女は」
「ミルワームの巣に落とされても、オークやサハギンに輪姦(まわ)されても、しぶとく生還してきた奴だったが、ダンテと戦った直後の傷じゃ流石に……な」
「マンイーターの苗床で終わり、か。なんだか勿体ないな……」
「……助けるか?」
「バカ云え、そこまでする義理はねぇよ。大体あんな巣窟に入るなんて餌にして下さいって言ってるような――――」
瞬間、猛風が吹いた。
ワーウルフ達のすぐ横を紅い影が通り過ぎる。
その風はマンイーターの巣の中へ吸い込まれるように入っていった。砂塵が洞窟内から散らばっていく。
「もん……だ、ろ…………?」
「い、今の、ダンテ、だったよな……?」
無数の触手がずっと全身を弄っている。
膣穴は子宮口まで尿道まで犯されて、口内も喉奥まで、尻穴は腸まで深く入り込まれ粘液を練り込まれ体液を貪られ、かき混ぜられている。
時間の感覚も分からない。長いのか短いのか。
絶頂した回数を数えるのもばかばかしくなっていた。
とにかく肌を満遍なく這われて啜られて、穴という穴を嬲りものにされているジャンヌに、抵抗する力はとっくに無かった。
(これで、終わり……?)
ジャンヌは自分の終焉を悟った。
さっきまで、あれだけ諦めないと意地を張り続けたのにね。
バカなこと。しちゃったなぁ。と自嘲もしたくなった。
(ごめんなさい、ひめさま、せんぱい、みんな……)
(ダ……ナ………つ……る……もう………ちゃった……)
意識が深い闇へと落ちる直前、風切り音がジャンヌに聞こえた。
その音はなんだか親しくなって、すっかり身近な存在になってしまったような、でもこんな所で聞きたくなかった気もする、そんな音だった。
(ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな――――)
下山中にマンイーターに捕まった、らしいと聞いた瞬間、真偽を確かめる前に移動していた。ギアを全開にした風魔法は十秒も経たずに巣までの移動を可能にする。
転移魔法でないあくまで加速の為の魔法だ。魔力はともかく身体の負担は大きい。だがそんな些事を考慮している余裕なんてなかった。
オレから逃げれた癖にモンスターに捕まっただと?
苗床で終わりだと?
よりによってまだ手が届く範囲で、直ぐに追いつけた所に居て、なのにこんな形で手に入らなくなるなんて。
「ふざけんなよジャンヌ!!!」
巣に入った瞬間、悍ましい蠢く触手の群れが視界一杯に収まる。
突然現れた侵入者に入口の近くのマンイーターが触手を伸ばすが風弾に切り裂かれる。
何処だ。
刹那に、触手の中から一筋の光が見えた。
あれはまさか、ジャンヌの持つ王家の指輪の光か。
其処なのか。
うっとおしい触手生物を蹴り飛ばして吹き飛ばして切り裂いて、無理やり突き進んで、特に怪物が集っている箇所までねめつけるように目星を使えば。
特に集まっている怪物が触手を集めている場所に。
触手の海の中から一瞬、垣間見えたのは、リボンと、金の髪。
「――――っああああああああああ!!!」
そいつはオレの獲物なんだよ!
雑草風情が肥料扱いしてんじゃねぇ!!
塞ぐように並び立つマンイーターを蹴って切り裂いて吹き飛ばして。
尚厚い壁に殺意を漲らせながら風魔法を放ち続けて。
その中の触手から毒入りの粘液が浴びせられ、避けなかったそれが額の傷にかかった瞬間、激痛が走ったがこんなことで怯んでいる場合ではない。
風魔法で触手を殴るように切り裂いてやっと見えた肌。
漸く掴めた肩を抱こうとすれば、腕に触手が巻き付いていく。
構わず力ずくで引きちぎった。
リボンと指輪以外何も身に着けてない少女を咀嚼し綴る触手が絡んでは、ご馳走を奪われまいと引き戻そうとする。
それを裂いて、裂いて裂いて裂いて裂きまくった。
雄叫びは洞窟の外まで響き渡っていた。