書き手の解釈により原作と矛盾した設定等も存在します。
以上の事をご理解下さい。
―――― マルドシティ ――――
「てめーが噂の元チャンピオンか」
隠遁生活な私の下に訪れる若者は、決まって新人のエロ娘使いである。
今年もシーズンが始まり、一番乗りをする者は即ち優等生だ。
「いかにも。私が第33回の四天王リーグでチャンピオンの座に着いたザンジである」
「単刀直入にいうぜ、俺と勝負しろ」
自信満々に言い放つ若者だが、既に私は隠遁した身である。
「ふむ……申し訳無いが、それは不可能というものだ」
「何故だ?」
それは、今思い出しても腸が煮えくり返る。
「君達も天界の学園を卒業して来たのならば知っておろう。殿堂入りを果たしたエロ娘は運営に献上されるのだと」
「道具の一部を取り上げられた程度のハンデでビビってんのか?」
本当であれば未来有望な若者の為に指導鞭撻してやりたいのだが、生憎と手持ちが居ない。
そこで私は決まってひとつの質問をする。
「ふむ……ひとつ聞きたい。君はエロ娘の事は好きかい?」
「はあ? エロ娘は戦いの道具だ。好きも嫌いもねーよ」
返された言葉に妙な懐かしさを抱く。
『はあ? エロ娘が好きだ? 頭おかしいのかお前。好きも嫌いも無えよ。戦いの道具は好きか嫌いかで選ぶんじゃねえ、勝てる奴を使うんだよ!』
エロ娘使いも様々だが、チャンピオンにまで登り詰める者は非常に稀だ。
「強いていうなら強い奴が好きだな。敵を圧倒する力と技、俺の指示を的確に遂行する忠実さ、そんな便利で有能な、俺を勝利に導く奴が好きだ」
「ふふ、ふふふ……」
とても、似ている。
良い目付きをした強者の目だ。
「何がおかしい」
「いやなに、すまない。昔にも君みたいな奴が居たと思ってな……」
とても、懐かしい。
「そいつは、私がどうしても超えたかった壁であったのだ……」
―――― 天使学園 ――――
慈悲深い女神像が俺達を祝福する。
淡いステンドグラスから溢れ落ちる光で神々しく彩られる。
俺達天使が18歳の成人を迎え、晴れて「エロ娘使い」としてこの学園を卒業する。
パイプオルガンを奏でるのはいつもフルヌードのエロ娘、アフロディーテ。担任教師のパートナーである。
散々俺の股間を苛立たせてくれたものだ。
長ったらしい祝辞もいよいよ終わり、卒業記念として最初のパートナーが贈られる。
「さあ、最初のパートナーを選ぶが良い。どれも一級品の性能を持つが、様々な違いが有る。お前達がこれまでに習った事を思い返すと良いぞ」
これから俺達は第33回四天王リーグに挑戦する権利を獲得する為に地上へと降ろされる。
地上にはエロ娘と呼ばれる、力を持った魔女達が蔓延っている。
エロ娘には天使の身では敵わないのだがしかし、この捕獲ボールの技術のお陰で隷属させ、戦わす事が可能だ。
「ザンジ、先に選ばせてやるよ」
「アドル、どういう風の吹き回しだ?」
俺の隣りに立つこいつは常に俺を見下すいけ好かない野郎、アドル。いわゆる悪友という奴か。
「俺様は誰よりも優秀な首席様だからな。どんなエロ娘を使おうとも一流に使い熟せるのさ。哀れな一般天使様に慈悲を与えようっていうんだ。有り難く思えよ」
「そうかよ……」
悔しいが、こいつが強いのは紛れも無い事実だ。俺が一歩を進む間に奴は十歩を進む。
一言でいえば天才だ。
そんな天才が何故俺に構うのかといえば、劣等生の俺を見て優越感に浸りたいからに他為らない。
「エロ娘のタイプか……」
「俺様がお勧めを教えてやるよ。その左に有るバーニングだ」
「なるほど。確かにな……」
エロ娘は炎氷雷水土風光闇、合計8つの属性のどれか一つを持つ。どれも一長一短で甲乙付け難い。卒業記念品として今ここに残っているエロ娘は4つの様だ。
一つ目、バーニング。改造したローラーブレードを駆使する炎タイプのエロ娘。そのローラーブレードによる機動力を活かした足技がとても強力だ。
天才のアドルが勧めるだけに最も優秀な戦績を誇る最有力候補である。
二つ目、アイスドラグーン。儚げな表情を持つ氷タイプのエロ娘。圧倒的な魔力を持ち、氷魔法の威力は他を寄せ付けない程に凄まじい。
三つ目、ドライアド。植物を自在に操る土タイプのエロ娘。大変優秀なスキルを駆使するのだが、触手を使った自慰が好きだという卑猥な一面も持つ。
四つ目、こいつは、こいつだけは評価が低い。
だが、何故だか妙に惹き付けられる。
「あん? 何だザンジ、そいつは最も微妙なエロ娘だぞ。見掛け倒しって奴だ」
「そうだな。だが、俺はこいつで行きたいと思う」
その評価の低い四つ目のボールを手に取る。
「ははっ! 頭悪ぃなお前! 折角俺様がお勧めを教えながら先を譲ったっていうのによ!」
アドルは悩まず真っ直ぐにバーニングを受け取る。最も実用性の高い優秀なエロ娘を選んだ。
流石はアドルだ。本命を先に選ばせようとするだなんて、劣等生の俺にも施しをする余裕を持っている。
だが、俺はこれで良い。所詮俺は劣等生なのだから、低評価な俺だからこそ同じく低評価なこいつが相応しい。
俺は早速受け取ったボールからエロ娘を開放して挨拶をする。
「エロ娘、今日から俺がご主人様だ」
燃える様な赤い髪、雄々しく広々とした翼、重圧的な尾。
均等の取れた肢体は引き締まっていて健康的な印象を受ける。
そして切れ長な瞳には自信に溢れていて頼もしく映る。
実に見栄えが良い。
見栄えだけは本当に見事な物だ。
「そうか。私の名前はバハムート……ご主人は運が良いな。この最強の私をパートナーにするのだから」
言うに事欠いて最強か。評価が低い癖に自尊心が高い奴だ。
バハムートの最強という台詞を聞いてアドルが腹で茶を沸かす勢いで大笑いをする。
「ぶふうっ! 最強っ、最強って! バハムートが最強な訳がねぇだろ!! ぎゃははははははは!!」
「何が可笑しい!」
「何の芸も無い脳筋エロ娘は脳味噌が足りてねぇみたいだな! 低能無勢は身の程を弁えろって。ぶひひひっ」
「貴様……」
バハムートが翼を引き攣らし、尻尾を床に叩き付け、闇の魔力を唸らせて怒りを表す。
「この私を侮辱するか!!」
「侮辱も何も事実だろうがよ! 悔しかったら実績を示せよ。実績って分かる? 現実に成績を残す事だぜ」
「その程度は知っているわ! 馬鹿にしているのか貴様ぁ!!」
「ばーか、ばーか、ぷぷぷっ」
アドルの安い挑発にバハムートが怒髪天を衝く。
猛々しい闇の魔力が溢れ出して教室の天井をちりちりと焦がす。
「貴様ぁ!! そこへ直れ!! 私の最強の奥義で今直ぐ引導を渡してくれるわぁ!!」
「お、やるか。良いぞ」
軽いノリで先程受け取ったバーニングを開放する。
「……騒々しいな。何事だ?」
「ようバーニング。俺様がお前のご主人様だ。早速で悪いが実戦だぞ」
「そうか。宜しく頼む」
随分と礼儀正しいエロ娘だ。ボーイッシュで理知的な印象を受ける。正解の選択肢はとても頼もしそうだ。
打って変わって俺のエロ娘はちょっと頭が悪そうで扱いに困りそうだ。
「で、あの傲慢ちきの頭を冷やせば良いのか?」
「イエス、ザッツライト! と、言いたいがお前さんは炎技が得意だよな」
「そうだな。代わりに骨の髄まで温めてやるとしよう」
しかし当然の如く教師に咎められて場所を訓練場に移動する。
「とりあえず落ち着けよ」
「これが落ち着いてられるか! 主人のパートナーである私が馬鹿にされたのだぞ! 主人の方が怒ったらどうなんだ!?」
「いつのもの事だしなぁ……」
「あぁもう! 主人はもっとやる気を出せ!!」
いきなり対戦を始めようとして教師から怒られたものの、こういう受け取った矢先に対戦をしたい事は良く有る恒例行事だそうで誘導も慣れたものであった。
「最初だから軽く一本で良いな」
「それで頼む」
俺なんかがどうせ勝てはしない。
バハムートには適当に負けて身の程を知って欲しい。
「主人、私が最強だという所を見せてやる!」
「期待はしていないから適当に頑張れ」
「もっと期待をしろ!! 私のご主人だろうが!!」
期待して欲しいなら「ポンコツ」だとか「脳筋」だとかそんな「低評価」を残さないで欲しいものだ。
広々とした訓練場で伸び伸びと準備運動をするバーニング、ふつふつと怒りを沸き立たせて尻尾を唸らすバハムート。
傍目からも結末がどうなるかが分かり易い。勿論大穴がバハムートだ。
「じゃ、試合開始だ」
適当な軽口でアドルが開始の合図をする。
合図を聞いた瞬間にバハムートがバーニングに飛び掛かる。
「うりゃああああああ!!」
「馬鹿が……単調過ぎる」
バハムートの突撃を軽いステップでいなし、反撃にミドルキックを貰い「うぎゃ」と情けない悲鳴が上がる。
「うぐ、やるじゃないか……」
「あなたが情けないだけだから」
「言うかこのっ」
バサバサと翼を羽撃かせ空高く飛び上がり、大きな尻尾を鞭の様に撓らせて攻撃するのだが、予備動作の大きさで狙いが分り易い為に背後に回られてニーキックを貰う。
甲高く「きゃんっ」という悲鳴が上がり、前のめりに倒れる。
「まだやる?」
「まだまだぁ! 私の力はこんなものじゃない!」
強力な反撃を受けても立ち上がる。なかなかのタフネスだ。
そして威勢良く飛び付いては、ひらりと回避されてキックを貰う。ひらりと回避されてキックを貰う。ひらりと回避されてキックを貰う。
「まだやる?」
「うぐうぅぅぅぅぅぅ」
どれだけ攻撃を受けても諦め切れない、その根性は一人前だ。だが、実力が備わっていない。
不屈に立ち上がろうとするものの既に満身創痍なのが見て取れる。
打って変わってバーニングは余裕綽々だ。
「そろそろ止めを刺してやれ」
「分かったわ」
バーニングのローラーブレードが唸りを上げる。高熱の火炎を吹き出して爆速の機動力を発揮し、広い訓練場を駆け抜ける。
得意の必殺技が来る。
「ヒートラン!」
バーニングが駆ける灼熱の道を阻める者は誰も居ない。
燃え上がる灼熱の蹴りがバハムートに炸裂。
派手に吹き飛び訓練場の壁に激突。
「勝負有りだな」
「……そうだな」
俺の、負けだ。
大ダメージを受けたバハムートが気絶し、地べたに這い蹲る。
「じゃあなザンジ。良いサンドバッグだったぜ」
アドルが生意気な程に清々しい笑顔で先に地上へと旅立つ。
サンドバッグ、結局バーニングに一撃も当てられなかった。
悔しい。
あれ、何故、悔しいんだ。
俺は奴に負ける事に慣れている。だから負けて悔しいなんていう感情は持っていない。その筈だ。
だというのに、何故だか俺の胸の内から悔しさが込み上げて来る。
―――― 地上 ――――
バハムートの傷を癒やし、他の卒業生達とは遅れて俺も地上に降り立つ。
生憎と俺達の旅立ちは雨模様。
雨具も忘れて来たので直に雨を受けて濡れる。
「ご主人っ、私は悔しい!!」
「そうか」
雨の飛沫を散らしながら俺に訴えかける。
しかし負けた事実は覆らないのでどうしようも無い。
「主人は悔しくないのか!?」
悔しいのか、いや、そんな事は有り得ない筈。
「別に……」
「……顔に嘘と書いてあるぞ」
俺の反らした顔に、バハムートがわざわざ移動して俺の顔を覗き込む。
こいつは弱っちい癖に美人だ。間近で見ると整った愛らしい顔立ちだというのが良く分かる。
「何を言うかこいつ」
「負けたら悔しい、当然の事じゃないか。ご主人だって本当は悔しい筈だぞ」
阿呆の癖に良く言う。
負けた癖に厚かましい。
だが、認めるべきか。俺の胸の内には、確かに悔しさが有る。
「……そうだな。俺も、悔しい」
「そうか! やっぱりそうだ! ご主人だって悔しいに決まっている!」
雨に濡れる俺の手を取り強く振る。
天使の力はエロ娘に敵わないのだからかなり痛い。勘弁して欲しい。
「だから、強く成ろう。何せ私は最強の龍、バハムートだ! 絶対に誰よりも強く成るのだ!」
「だったら証明して見せろよ」
その証明が無いからこそ評価が低い。
どうせ劣等生の俺ではリーグなんて勝ち残れないので最初から諦めている。
だけど、挑戦をするだけしてみるのも良い。
だってこんな俺でも負けたら悔しくて堪らないのだから。
「最強っていう証拠を見せろよ!!」
「勿論だとも! 私は最強だ。それを今から証明してやる!」
きりっと眉を吊り上げて意気込む。
内に秘めたる膨大な闇の魔力を掻き集め出す。
バハムートは「ポンコツ」だとか「脳筋」だとかいう「低評価」を下されているが、必ずしも弱い訳ではない。
「しっかり見ていろよご主人……これが、私の奥義……」
エロ娘は一人一人、自身が誇る最高の技、奥義を持つ。
勿論それは、このバハムートにも備わっている。
だけれども実戦では全くこの奥義を見る事が無いので評価が低いのだ。
「絶対的な王者たる所以、圧倒的な力の差を見よ!!」
しかし、それは正当な評価なのか。
真の実力だといえるのか。
「ジェノサイド・ストリームッ!!!!!!」
鉛色の雨雲に向かって絶大な魔力が放たれる。
空が、切り裂かれる。
「……凄い……っ!!」
凄まじい破壊力。
圧倒的な力。
塵一つ残さない殲滅力。
雨雲が闇の劫火で切り裂かれ、真っ青な空、輝く太陽が顔を覗かせる。
バハムートが秘めている可能性は、本物だ。
バハムートは、真の実力を未だ発揮していないのだ。
「見たか! これが、私の力だ!」
自信満々な表情のバハムートに虹が舞い降りる。
このバハムートに秘めたる圧倒的な力を引き出すのも、エロ娘使い、そう、俺次第なのだ。
「ふんっ、調子に乗るな」
「……そうだな。今の私は、確かに弱いんだ」
強く成る為には、自らの弱さを知る必要が有る。
「だが、それは寧ろ幸運な事。私は弱さを知れたのだ。だから、これを糧に変える!」
勝ち続けるだけが経験じゃない。敗北して学べる事も有る。
俺は誰よりも敗北を知っている。
実際は誰よりも悔しさを噛み締めているのだ。
「次は、絶対に負けない!」
そうだ。
次は、絶対に負けない。
絶対に負けてなるものか。
俺達の冒険は始まったばかりだ。
「たのもー」
「ほう、威勢の良いお嬢さんだな」
今日もリーグに挑戦する新人エロ娘使いが私の下へ訪問に来る。
「ここにチャンピオンが居ると聞いて飛んで来たぞ!」
「いかにも。私が第33回の四天王リーグでチャンピオンの座に着いたザンジである」
長い間を生きて来たが見た事の無いエロ娘だ。まるで人間みたいでどの様なエロ娘なのか、非常に気になる。
「やはりそうなのかっ! 私の名前はレミー、そんでこっちの無愛想な奴はナイトブラック。私達もリーグに挑戦中だ! そこで、チャンピオンになる為の秘訣を是非あなたに教えて欲しい!」
「なるほどのう……秘訣とな」
「……いやお前の名前はガールナi」
「やはり戦って戦って戦いまくるのか!? チャンピオンに成るまでにどれだけ戦って来たのだ!?」
「確かにそれなりの数を戦って来たが」
捲し立てる様に言葉が飛ぶ。
「そうなのか! やはりチャンピオンにも成ると並大抵じゃない戦いをく潜り抜けて来たのだなっ!」
「そう」
「凄いぞチャンピオン! 私も戦って戦って戦い抜いて早く最強の座に着きたいものだ!」
「その」
「そうなればあの三馬鹿を剣の錆にする時までモンスター娘を斬って斬って斬りまくるしか無いな。チャンピオンも同世代の連中にライバルは居たのだろう? それはどんな奴だった!?」
「それは」
「やはり奴等みたいないけ好かない連中なのだろうか!? あんな奴等には絶対に負けたくないっていう闘争心を燃やして修行に励んだりしたのか!?」
「そう」
「ああそうかチャンピオンにも成る人が修行しない訳が無かったな! 絶対に修行をするに決まっている! 修行して努力の果てに最強の技を編み出すのだよなっ!」
「そのとおr」
「チャンピオンが編み出す奥義ってどんな感じなんだろうか!? 絶対に普通じゃお目に掛かれない特別な技を用意していたりするんだろうな」
「」
「ああ、私も新たな必殺技が欲しい! こうしちゃ居られん、行くぞナイトブラック! 私も技を磨いてリーグを勝ち上がるぞ!」
「」
「世話になった! とても為に成ったぞ!」
まるで嵐だ。
嵐の様にやって来て、嵐の様に去った。
毛色の差は有れども彼女の向上心にも妙な懐かしさを抱く。
あの掛け替えの無い濃密なひとときは、どれだけの時を刻もうとも決して忘れられない。
「……ヴィセラ…………」
鍵付きラックの扉を開く。中には、自信に満ち溢れた龍の少女が映るフォトフレームに納められた写真と、赤いリボン。冒険に使った思い出の品々、そして全く手の付けていない5000兆G。
「つくづく向いてないな、私は……」