清々しい朝を迎えて朝食を頂きに宿のレストランに向かう。
「そ、その……昨晩は随分と、その……お楽しみでしたね」
「あ、ああー……そうか。すまん」
宿のスタッフが顔を赤くしながら朝の挨拶をする。
いくら部屋が広々としていても、エロ娘の力の強大さは凄まじい。防音を貫通というか、どうも宿を揺らす振動の方が凄かった様子である。
戦いでは「ポンコツ」だとか「脳筋」だとかいう「低評価」で対人戦では役に立たない奴だが、秘めている力はとても強い。
尻尾を地面に叩き付ける地団駄で地震と勘違いする程に揺れるのだから。
「ヴィセラ……激しくし過ぎだぞ」
「何をいうか! ご主人のおちんちんが凄く気持ち良いのが悪いのだっ!」
ヴィセラの破廉恥な台詞に女性スタッフが俺の股間部に視線を吸い寄せられ、忽ちに顔を沸騰させて逃げ出す。
俺の逸物が褒められて悪い気はしないのだが、流石に宿を軋ませる程の振動は控えるべきだ。くれぐれも気を付けたい。
レストランに移動して朝食をバイキング形式で頂く。
各自、食べたい物を自由に皿に盛る。
「レインはそんな少量で良いのか?」
「んー、ぼく、食べ物はそんなに要らないんだ。主に必要なのは水分だからね」
「フィーはデザートばかりだな」
「可愛い女の子は甘い者でできているのだよっ」
「グーリは味噌料理ばっかだな……」
「そりゃおみゃーさん発酵食品は健康的じゃんね」
生態系の違いが食事にも現れる。
フェアリーのフィーは甘味を好み、スライムのレインは水分が多く必要になる。
つーかマタンゴのグーラの方言が強過ぎて会話に苦しむ。
「味噌はうみゃーておみゃーさんも食うてみりん」
「そ、そうか。それじゃ頂こうか」
何を言ったのか理解出来ないのだが、俺のトレイにも魚の味噌漬けを乗せる。
「料理取り放題って良いものだな! バイキングは素晴らしいぞ」
「お前は取り過ぎだ!」
「ひゃー、どえりゃあ山盛りじゃん」
バハムートのヴィセラのトレイには山盛りに料理が盛られる。
そんな細身な体の何処に入るというのか、本当に食べ切れるのか不安になる。
「だ、駄目なのか……?」
「いや……本当にそんな量を食べるのか?」
「勿論食べるぞ」
「そうか……なら、大丈夫だと思うぞ」
宿代の請求はパトロンの財団様が請け負ってくれる筈。だから大丈夫だと思われる。
席に付いて朝食を頂く。
「ガツガツガツガツもぐもぐ……うまうま」
ヴィセラが凄い勢いで料理を口の中に掻き込む。本当にあんな量を食べるのか。まるでサ●ヤ人だ。月を見ると巨大化するのであろうか。
確かにあんな空に穴を空ける凄い技を放つのだから食事量も多く必要だという事か。
「お、この味噌漬け美味いな」
「だらー。味噌はうみゃいんよ」
「このフルーツ盛りも美味しいよ♥」
「虫歯には気を付けろよ」
「大丈夫。後で魔法のガムで歯を綺麗にするから」
便利な物だ。科学の研究者としても一役買うフェアリーだからなのか魔道具の扱いにも長けている。
「もぐもぐもぐもぐ……おかわりだ!」
「ひゃー、ヴィセラちゃん健啖家じゃんねぇ」
凄まじい食欲。推定2000kcalは有りそうな料理をペロりと食べ尽くし、更に追加で盛る。
冒険に出る際は備蓄に気を付ける必要が有りそうだ。
食事を終えてもレストランの会計は財団が代わりに払ってくれる。ヴィセラの食費の為にも多く活用したい所だ。
―――― 2番通路 ――――
次の目的地はマルドシティだ。
地図を確認すると、道程は北の2番通路を行き、金塊山のトンネルを抜ける必要が有る。
「おっ、弱そうな新人を発見だ!」
「弱そうで悪かったな。先輩、試合の申し込みだな」
「話が早くて助かるぜ!」
早速2番通路でエロ娘使いの先輩に絡まれる。天使学園を卒業すると地上に降りるのは良いのだが、地上に残り続けるエロ娘使いはリーグへの挑戦に失敗した天使達だ。しかしリーグを勝ち登るのは、ここ32年間で15人も居ない程に厳しい。約2年に1人程度という狭き門なのである。
「俺のエロ娘の強さを見せてやる! スライム、マタンゴ、フェアリー、行け! トリプルフォーメーションだっ!!」
先輩エロ娘使いが三つのボールを投げ飛ばし、三体のエロ娘が飛び出す。
ここら一帯で捕獲が可能な、初心者に最適とされるありふれた三体だ。
腕試しには丁度良い相手だ。
「良し、ヴィセラ、行くぞ!」
「了解だご主人! ……て、あれ? まさか私一人で三人を相手するのか!?」
「そうだ。今のお前には丁度良い相手だからな」
見た所、然程練度の高くない相手だ。
しかも複数の相手、一度に複数を使うには相応の指揮力が必要で、基本的には一人だけを使うのが最も的確な指示を送れる。
今はヴィセラへの指揮のみに集中したいので、俺から繰り出すのはヴィセラだけだ。
「そんな……いくらなんでも三人相手は」
「自身が無いか? 最強のバハムート様ならこの程度はやって退ける筈だぞ」
「むうっ、やってやるさ! 何せ私は最強のバハムート、ヴィセラだからな!!」
「舐めた真似をしてくれる……」
「じゃあ、試合開始だ!」
試合開始と共に三体のエロ娘が魔力を高め魔法を練り上げる。
「フェアリー、ウインド! マタンゴ、ストーン! スライム、ウォーター!」
「ヴィセラ! 尻尾を振り回せ!」
「分かった! そぉうれぇ!」
くるりと横回転をしながらジャンプをし、自慢の長い尻尾を豪快に振り回す。
詠唱最中であった三体はダメージを受けて詠唱を中断、フェアリーが直撃を受けてダウンをする。スライムが攻撃に耐えて、マタンゴには当たりが弱く然程のダメージを受けていない。詠唱を再開してストーンの魔法が発動する。
「ストーン!」
重い石の礫がヴィセラに降り掛かる。
命中。
だが、平然としたままだ。
「え、効いてない……!?」
「その程度の攻撃で私が怯むとでも思ったか!!」
反撃に鋭い踏み込みで体当たりをし、マタンゴを倒す。
残るはスライムのみ。しかし一気に二人が倒されて戦意消失気味だ。
「馬鹿なっ!? 三対一だぞ!? スライム、回復を急げ!」
「うんっ! ヒール!」
スライムが慌てて受けたダメージを癒やすのだが、勝負の最中にそんな弱い回復魔法では隙だらけだ。
「今のうちだ。一気に倒せ!」
「勿論だ!」
長い尻尾を伸ばし、回復作業中のスライムを掴み取る。
掴んだまま、ぐるり、ぐるり、ぐるり、ぐるり、豪快に振り回し、そして――
――地面に叩き付ける。
「きゃぁああああん!!」
敵のスライムが大ダメージを受けてダウン。全滅だ。
「参った! 俺の負けだ! 何だそいつ、強過ぎるだろ!」
「や……やった! 勝ったぞ!」
初勝利だ。初陣は散々であったが、俺達も無事に勝利を収められた。
ヴィセラが跳ねる様に燥いで俺に抱き着く。本当に勝てるのかと、内心では不安であったのかも知れない。
「私だけでも勝てたぞ! ご主人、私勝ったんだぞ!」
「ああ、凄いぞヴィセラ!」
「何だか凄く調子が良いんだ。これもご主人がシてくれた洗礼のお陰なのだな♥」
俺の腕に胸を押し付けて頬を擦り寄せる。
いちゃいちゃを見せ付けられて対戦相手が舌打ちして立ち去る。
それから更に対戦相手を探し、順次メンバーを入れ替えて戦う。
「レイン、攻撃を引き付けろ! フィー、グーリ、魔法で攻撃だ!」
「分かった!」「了解!」「合点!」
三人のコンビネーションも抜群で対戦相手を難無く打ち負かす。
大丈夫だ。俺でも勝てる。
天界では成績の悪い俺ではあったが、実戦ではなかなか勝率が良い。
俺の勝率を著しく下げていたのは、勿論奴の事アドルだ。
だが、そのアドルとのシミュレーションバトルを積み重ねたお陰で敵の動きが理解し易く、次にどんな対応をすれば良いのかが瞬時に判断が可能だ。
皮肉にもアドルとの対戦経験が身を結んでいる。
奴は本当に強く、非常に刺激的な対戦であったのだ。
「ご主人は凄いな! 支持が的確で助かるぞ!」
「相手の指揮者よりもぼくのご主人様の方がずっと早くて上手いよねっ」
「うん。ご主人様は凄いよ! 劣等生って聞いたけれど本当なの?」
エロ娘達が俺の指揮能力を評価する。
アドルと比べたらまだまだ弱くて遅い指揮能力だが、それは実際だと高水準にまで達している様だ。
「ああ。確かに成績は下の下、底辺だったよ」
成績自体は下の下、だがアドルとばかり対戦して負け続けた結果だ。しかし他の奴と戦ってもまともに勝った試しは無い。
アドルは上の上、というより首席である。俺との勝利数もそうだが、そもそも誰と戦おうが負け無しだ。少なくとも俺は奴が負けた所を見た事が無い。
「そうは言ってもにわか信じられんぞ。今のご主人は凄く立派だからな」
「過去はどうであれ今のおみゃーさんは立派なご主人様だら。うちらは慕っとるよ。自信を持ちん」
まさかこんな俺がここまで慕われようとは、彼女達の為にも期待には応えなければ為らない。
「そうか……そう言ってくれると、俺も自信が持てそうだ。ありがとうな」
道を進み各先輩のエロ娘使いと対戦を重ねて行く。
そんな中で俺以外にも対戦をするエロ娘使いを発見する。
珍しい事に女性のエロ娘使いだ。
女性の使い手は少ないのだが、天使学園にもそこそこの人数は居た。
「あら、ザンジ君じゃない」
「誰だ? ……えっと」
俺の方を見て気安く話し掛けるエロ娘使いの少女。
赤いショートボブで同い年位、かなり整った容姿でヴィセラ程ではないけれども競えそうな位には美人である。
彼女も学園卒業したての新人エロ娘使いを示す天界の制服を着ている。
「酷いわね。クラスメイトだったっていうのに」
「クラスメイト……あー、んー」
思い出せない。誰であったか。
記憶の片隅には居るのだが、学園での俺の記憶にはいつも厭味ったらしい奴でいっぱいであった。
「リエスタよリエスタ。本当にクラスメイトなのか不安になるわね……」
「あっ、思い出した! ストリムの事が好きなリエスタ!」
「もうっ、そういう余計な所で覚えてるんだから」
同級生のリエスタ、成績は上位に位置して筆記も実技も大変優秀な生徒であった。
奴とは違う優秀で王道的な人格者のストリムに恋をしている。
ちなみにストリムはアドルに続き学年二位の成績である。もう告白は済ませたのであろうか。
「ねえ、彼は一緒じゃないの?」
「彼? ストリムなら俺は知らんぞ」
「そっちじゃないわよ!! 私が言っているのは、アドル君の事よ」
「はあ? 奴ならとっくに土の試練を突破してシーサイドに行っている頃だろ」
アドルはそういう奴だ。次元の違う強さをしている。
「……はあ? え? は? ええ!?」
あまりにも異常過ぎて脳味噌の処理が追い付かない様子だ。
俺自身も理解が追い付かない。
「信じられんと思うが、昨日俺の泊まる部屋に転移の書を使って来てな、土の証と10体集まった図鑑を見せびらかして来やがったんだ」
「えぇえええええええっ!! なにそれどんだけ天才なの!?」
「本当、奴は進む世界が違うわ」
奴の事だから今晩にでも俺の所に来て水の証を見せびらかしそうだ。
「私てっきりいつもつるんでいるから冒険も一緒に進むんだと思っていたのに」
「つるむ? 誰と誰が」
「アドル君とザンジ君」
「……やめてくれ。身の毛が弥立つ」
俺と奴はそんな仲じゃない。絶対にやめてくれ。
つるむとは交尾、つまりセックスをするという意味なのだ。
そう理解しながらじゃなく友達という誤用で使ったのだと思うのだが、それでも不快感を抱いてしまう。
「勿論アドル君が攻めでザンジ君が受けよ。ああ、リバースも良いわねっ!」
「うぉぉぉやめろぉおおおおお!!」
そうだ思い出した。こいつは腐っていた。
腐女子グループのリーダー的存在だ。
まさか俺と奴が腐の餌食にされていたとは。
「ねえ、友達じゃなかったの? 凄く仲が良さそうだったのに」
「奴が一方的に絡んで来るだけだ! 絶対に友達じゃねえ!!」
「その言い方はちょっと酷いと思うわよ……それを本人が聞いたら悲しむわ」
嫌だ。絶対に嫌だ。
俺と奴はそんな関係じゃない。
「いいや、絶対に奴なんかと友達じゃねぇから」
「ふーん……ザンジ君て案外薄情なんだ」
「いや、奴の性格こそが問題だから。厭味ったらしい所を直してくれりゃあ付き合い方も改めるんだがな……」
本当、人格さえ直れば完璧な奴だけれども、その人格だけが致命的なのである。
「あらそう。そっかあ、ザンジ君も結構アドル君を気にしているのね。ラブだわ」
「その腐った妄想をやめろぉおおおおおお!!」
脳内薔薇色な女だ。
身の毛が弥立って敵わん。
「そういやリエスタは学園でエロ娘は誰を選んだんだ?」
「あれ、知らなかったっけ。一緒に居たのに」
「……すまん、気にしていなかった」
確かに記憶の片隅には俺とアドルの近くに居た気がする。
ストリムも一緒であったか。
優秀生徒達に紛れて下の下な俺が居る事が違和感たっぷりであった。
「……ザンジ君のそういう所、どうかと思うよ」
すまない、興味の無い事への記録力の無さには自信が有るのだ。
リエスタが胸の谷間から捕獲ボールを取り出す。
そんな所にボールを仕舞うとか、実用性に欠けていると思う。
「良いわ。教えてあげる。ただし対戦でねっ!」
「良いだろう。対戦だな」
元同級生との試合の始まりだ。
俺の実力がどれ程の物か、劣等生の汚名を返上するチャンスだ。
「行きなさい、マーメイド! ペンギンガール! アイスドラグーン!」
「行くぞみんなっ、出て来い!」
バハムートのヴィセラ、スライムのレイン、マタンゴのグーリ、フェアリーのフィー、俺の手持ち四体を全て出す。
絶対に負けられない、全力全開で力を出し尽くす。
「……バハムート。『ポンコツ』で『脳筋』で『低評価』なエロ娘を選ぶだなんて変わっているわねザンジ君て」
リエスタが繰り出して来たのは、どれも氷属性のエロ娘だ。
「あの試合、見ていたわよ。惨敗だったじゃない」
真剣勝負の雰囲気を察し、互いに睨み合うエロ娘達に緊張が走る。
あの試合とは勿論、天使学園を卒業してエロ娘を受け取った直後の、アドルと俺の対戦の事だ。
あんな惨めな勝負はもう二度としない。
「所詮ザンジ君もアドル君のお気に入りな金魚の糞でしかないのよね。足手纏いだから置いて行きぼりにされたんでしょう。可愛そうに」
「吐かせ。俺の苦労も知らんでアドルの金魚の糞だ? だから奴の方が俺に引っ付く鬱陶しい虫なんだっつーの」
金魚の糞、冗談じゃない。
確かに奴は凄い優秀な奴だが、その権威のお零れに授かろうだなんて微塵も思っては居なかった。
寧ろ俺が纏わり付かれて鬱陶しいと思っていた。
「でもザンジ君の成績は下の下でしょう。哀れみながら優越感に浸るには丁度良かったのよね」
それが道理だ。だからこそ劣等生の俺にターゲットが向いた。
「ああ、そうだよ。俺はシミュレーションだと同級生連中にはちっとも勝てねぇ」
天界にはエロ娘達を模擬で競わす対戦シミュレーターが有る。
そのシミュレーターによる対戦では惨敗だ。
だが、その惨敗の経験は無駄じゃない。
「でもな……実戦ではそんなのな、全然約に立たねぇんだよ!! 机上の空論でしかねぇ!!」
エロ娘達が身構える。
得意の魔法を練り上げる準備を行う。
「今から俺が勝つ所を見せてやるよ! 試合、開始だ!!」
俺の合図で開幕する。
氷魔法による吹雪が俺達に迫り、それぞれが堪えて耐え抜く。
「はあ? 劣等生が何を言っているの? あれは実物を忠実に再現したシミュレーターじゃない。あれで勝てなきゃ実戦でも勝てる訳が無いわ」
氷の弱点を持つフィーが魔法の被害に遭いもう瀕死だ。ダメージが回復を上回る為に、この戦闘に参加させ続けるのは難しい。
最後に奥義のメテオを撃たすのだが、敵へ与えるダメージ量は小さくヒーラーのマーメイドによりダメージが癒やされる。
「そう、あなたは私に勝てない。だから、あなたはここで確実に打ち負かされるのよ」
ペンギンガールが補助をし、マーメイドが回復をし、アイスドラグーンが攻撃をする。
見事な連携で俺達が追い詰められる。
アイスドラグーンの氷魔法を受けてフィーが「役に立てなくて、ごめん、なさい……」と倒れ、ボールに回収する。そんな事ない、良くやってくれた。
「そもそも、そんな『ポンコツ』で『脳筋』で『低評価』なエロ娘を連れているなんて試合に勝つ気が無いって言っている様な物よ」
確かに、選んだ当初は勝つ気なんて無かった。
だが、今は違う。
グーリが茸を武器にして必死に攻撃するのだが、状態異常を与える優位性はペンギンガールのアイスシールドに阻まれる。
反撃にアイスドラグーンの強力な氷魔法を浴びて「えらー悴けんね……あかん、うち無理や……」グーリが落ちる。大丈夫、ゆっくり休んでくれ。
「あのね……私達は遊びでエロ娘使いをやっているんじゃないの。四天王リーグを馬鹿にしないで!! そんな甘ったれはさっさと天界に帰ってママのおっぱいでもしゃぶりなさいよ!!」
馬鹿にするな、だと。
ママのおっぱいでもしゃぶれだと。
そんなものよりも、もっと凄いものを俺は昨夜知った。
スライムがマーメイドの槍に圧倒され「ご主人、様……ごめんなさい」力尽きる。ありがとう、後は任せてくれ。
「バハムートが『ポンコツ』で『脳筋』で『低評価』? そんなの誰が決めた。ここに居るバハムートはそんな評価が下されたバハムートとは違う。俺の、俺だけのヴィセラだ! 俺のヴィセラは劣等生なんかじゃない、『最強』で『無敵』な『絶対王者』なんだよ!!」
ヴィセラがアイスドラグーンに鋭く飛び込み体当たりをし、跳ね飛ばす。
続いてペンギンガールを尻尾で掴み、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる、豪快に振り回して放り投げる。
投げた先にマーメイドが居て巻き込まれて倒れる。
「俺達は、絶対に四天王リーグを勝ち上がる。そして――」
大きく息を吸い、灼熱の火炎を吐き出す。
「――あの野郎、アドルをぶっ倒す!!」
三体纏めてヴィセラが吐く灼熱の火炎に巻き込まれる。
しかしマーメイドとペンギンガールが身を挺して主力のアイスドラグーンを守り抜く。
マーメイドとペンギンガールがダウンし、リエスタのボールに回収される。
「吐かすじゃない……アドルアドルって、そんなにアドル君の事が好きなのね……」
「ご、ご主人っ、アドルの奴の事が好きなのか!?」
「違うわボケ!!」
戦闘中だというのにヴィセラが勘違いしてよそ見をし、アイスドラグーンの飛び蹴りが直撃「あうっ」してしまう。
耐久力の高いヴィセラだから怯まず耐える。
「劣等生の癖に……今戦っているのはこの私よ。アドル君じゃないの。私にも勝てないでアドル君にも勝てる訳が無いじゃない」
アイスドラグーンが更に連撃。素早く懐に飛び込み氷の魔法を間近で撃ち放つ。
回避が間に合わない。ヴィセラは身を硬めて耐える。
アイスドラグーンがかなり素早い。防戦一方だ。
「もう虫の息の癖にっ!! アイスドラグーン、決めなさい。アイスントよ!」
「畏まりました……はぁぁぁぁっ、アイスント!!」
氷の上級魔法が練り上げられる。
ヴィセラはダメージが積み重なりフラフラだ。
身のこなしも素早ければ、魔法詠唱も素早く、体制が整う前にヴィセラへ氷河が迫る。
直撃する。
「勝てないって誰が決めた? 俺のヴィセラはまだ屈しちゃいないぜ」
「そんな馬鹿な……決まった筈なのに」
耐え抜いた。
ヴィセラは、まだ膝を折らない。
「信じていたぞ」
「当たり前だ。私はこの程度で屈しない」
本当根性の有る奴だ。
俺もその根性に応えたい。
「証明してやろうか……最強を……」
「何を言っているの。頭おかしくなったの?」
ヴィセラの魔力が上がっている。
あの奥義が、撃てる。
「俺達が『最強』だという証拠を見せてやろうか」
あの雨雲を貫いた、最強の奥義が撃てる。
「俺の、バハムートが……ヴィセラが『最強』だという証拠をな!!」
強大な闇の魔力が渦巻く。周囲の木々が闇の風に煽られて揺れ動く。
「行け! ヴィセラ! お前の奥義を見せてやれぇええっ!!」
「了解だ! 行くぞ……これが、私の奥義……」
ヴィセラが空に浮かび上がり龍の翼を広げ、両腕の間に強大な闇の魔力を集中させる。
「自惚れも大概にしなさい! 身の程知らずな蛙が吠えるな!!」
空に浮かぶヴィセラに向かい、アイスドラグーンに迎え撃つ為の指示を下す。
「アイスドラグーン! あなたの奥義であの身の程知らずの頭を冷やしなさい!!」
「はいっ! あなたなんかが私に勝てる筈が無いのです……っ!!!」
アイスドラグーンも、自らが持つ最強の奥義を準備する。
両腕を大きく広げ、凍て付く魔力を腕の間に練り集める。
闇の龍、氷の龍、両者が互いを睨み合う。
「絶対的な王者たる所以、圧倒的な力の差を見よ!!」
「世界の全てを凍て付かす私の魔力に、並び立つ者など決して居ません!!」
極限まで練り上げた魔力を、目前の宿敵を倒す為に突き出す。
「ジェノサイドストリームッ!!!!!!」
「フローズンワールドッ!!!!!!」
ヴィセラの闇の劫火が、アイスドラグーンの凍て付く吹雪がぶつかり合う。
互いの誇りを賭けた最後の根比べだ。
互角な勝負、先に心が折れた方が負ける。
だが、根比べか。
根性なら、絶対に負けない。
「くっ……いい加減屈したらどうなんですか!」
「負けない……絶対に……絶対に負けるかぁああああああああ!!!!!!」
ヴィセラの勢いが増す。
闇の劫火が大地を激しく削り取る。
押す。押し抜く。アイスドラグーンのフローズンワールドを押し潰す。
「そっ、そんな馬鹿なっ!? 私が押されている!?」
じりじりとアイスドラグーンが後退する。
闇の劫火が目前に迫る。
「私はっ……私こそがっ……!! 最強の龍……バハムート! バハムートのヴィセラだぁああああああああ!!!!!!」
最強の龍の覇気が氷の龍を下す。
ヴィセラの気迫が氷を溶かしている。
「い、嫌ぁ、負けたくっ……負けたくないのにっ……いやぁああああああああ!!!!」
闇の劫火が吹雪を飲み込む。アイスドラグーンを巻き込んで吹き飛ばす。
アイスドラグーンが力尽き、最後まで立ち続けたのは――
「はぁ……はぁ……はぁ……か、勝った……私が、勝ったんだ……!」
――最強のバハムート、ヴィセラだ。
ヴィセラがその力を発揮し『最強』を証明して見せた。
「ば……馬鹿な……私が、そんな……私が、負けたの……?」
「ああ、俺の勝ちだ」
「くっ……!!」
潤む目をきつく閉じて走り出す。
倒れ込むアイスドラグーンをボールの中に回収してリーネの村の方角へ走り去る。
彼女は、泣いていたのか。
―――― リーネの村 ――――
私が負けた、嘘だ。そんなの嘘だ。
あんな劣等生にこの私が負ける筈が無い。
圧倒的な差だ。私と奴とでは圧倒的なまでに私が優秀であった筈なのだ。
負ける道理が見当たらない。何故だ、何故負けた。
「ううっ……うあぁ……ああああっ」
悔しい。悔し過ぎる。
胸の中が張り裂けそうだ。
声にならない慟哭が喉から漏れる。
「うあぁああああっ、あぁあああああああああああっ!!」
喉が張り裂けそうな程の慟哭、惨めだ。
私の誇りが崩れ落ちる。
私は、自惚れていたのは私の方だというのか。
認めたくない。そんなの認めたくないというのに、私の持つボールの中には、敗北を示すボロボロな彼女達が居る。
ナイトブラックとレミーさん その2
金塊山はもう金塊が取り尽くされて人の手が加えられていない洞窟だが、リーネからマルドへと移動するにはここを通る必要が有るのだという。
野生のモンスター娘はキョンシーにゴーレムが新たに現れ、早速忌々しいあのボールを投げて捕獲する。
既に放棄されているというのに、洞窟内にはかなりの魔物使いが居て驚いた。どうも私の魔物使いは珍しいという認識は間違っていた様だ。
「み……みずを、下さい……」
「……役に立たないなこいつ」
敵と遭遇すれば私達ナイトブラックのモンスター娘が戦うのだが、エロスクイーンはぴちぴちと床を「はねる」事しかできないので全く役に立たない。体当たり攻撃も一応可能なのだが、やっぱり非力だ。
だけれども何を思ってかナイトブラックはとりあえず戦闘に出すだけ出している。
この役立たずをかばいながら戦闘するというのは、正直苦痛だ。
これも最強の騎士を目指す私に与えられた試練だというのか。
「ねえ、何でエロスクイーンを戦闘に出し続けるの?」
「いやまぁ、鍛えたら何か違って来るかも知れないからな」
「そうかしらねぇ……」
私は実際だと人間なのだからこれ以上は変化なんてしないのだが、こいつに早速無理矢理襲われてからは何故だか妙に力が湧いて来ている。
天使は精に力を乗せてエロ娘に注ぎ込む事でパワーアップをさせられるらしい。
洗礼でパワーアップをするのだから私もエロ娘なのだという。私は正真正銘の人間だというのに。
強化された私の前ではそこ等の魔物使いの繰り出すモンスター娘では物足りず、鎧袖一触に屠る。
「くそっ、強いな……今年は第100期生だったか。先に通った新人三人も凄まじかったよ」
「ねぇ、アンタもその第100期生?」
「そうだぞ。今年の天使学園の卒業生だ」
三馬鹿は先にここを通り抜けたのか。
私がナイトブラックに性の捌け口にされるのは癪に障るがしかし、強く成るのは願ったり叶ったりだし、冒険して戦い抜く今の環境はとても充実している。
故郷で親の良い成りはもう勘弁だ。剣を取り戦闘に明け暮れる方が私の性に合っている。
「昔さ、ここも発掘作業が盛んだったらしいよ。ビルダーちゃんが頑張って掘って私達が鉱石を運んでいたの」
「成る程な。でも今は掘り尽くされている様だが」
「結構年月が経っているからね……」
ゴーレムが語る。そのビルダーは金が採れなくなったので皆他の場所に移ったのだという。ナイトブラックが捕まえられなくて惜しいと悔しがる。
やって来る魔物使いの繰り出すモンスター娘達を斬って斬って斬りまくる。
魔物使い達からの情報からすると、そろそろ出口が近い筈。
「おっと待ちな! こいつを見付けたのは俺が先だぜ」
「何言ってるのアンタ?」
等身大の二つの石像を前に何かを言っている魔物使いが居る。
「そいつを譲ってくれ! 頼む!」
「はあああ? 何言ってるのアンタ?」
ナイトブラックも何故か石像を欲しいという。
「あっ、これ、ビルダーちゃんが金が採れなくなって暇だから彫刻した奴だ!」
器用なものね。確かに綺麗な女の石像だ。悪趣味だと思うが。
「じゃあこうしよう、勝負して勝ったら片方だけ譲ってやるよ。俺が先に見付けたんだから本当は二つとも俺の物だからなっ!」
どう見てもただの石像だ。かなり卑猥で艶の有るえっちな石像ではあるのだが、男の子はこういうのが本当に好きな様だ。
理由は兎も角早速対戦をし、私の剣で軽く薙ぎ倒し勝利を掴む。
やはり今の私はとても強い。
とても強い自分に惚れ惚れする。
「強過ぎるだろ……ちっ、仕方ねぇな。片方を譲ってやるよ」
「ありがとう! それじゃ俺はこっちを貰うとしよう」
捕獲ボールを投げ付けると、石像の捕獲が完了する。
「………………はあ? え? ええ? どういう事?」
「どういう事って、エロい女だからエロ娘を捕まえただけだぞ」
「はあああああああああああああ??????」
訳が分からない。
エロければ何でも良いのか。
どうやら私達に、ただの石像が仲間に加わった様だ。
「よし出て来い!」
「………………」
「うむ、エロい!」
「………………」
じろじろと石像を舐め回す様に眺める。
「……ねぇ、こいつもエロ娘なら図鑑説明有るの?」
「そうだな、図鑑は……」
【ストーンガール】
『直立不動のエロ娘。例え何年経とうともその場に立ち続ける。そもそも石像なので全く動かないのは当たり前だ。』
つまりただの石像では。
「やっぱりただの石像じゃん!」
「何をいうか! エロい女なら須らくエロ娘だ! だからこそ捕獲ボールの力が働くのだ!」
「なんなのそのボール! 本当に何な訳!?」
人間である筈の私も捕まえるし、石像すら捕獲する。
エロければ本当に何でも捕まえられるというのか。
「……あなたが……ご主人様……ですね……」
「……え、喋った?」
「ああ、俺が主人のナイトブラックだ。宜しく」
「……はい……宜しく……お願いします……」
ただの石像ではなかったのか。
いや、実際はただの石像であった筈。
「ねえ、本当に石像なのよね」
「うん。確かに昔ビルダーちゃんが暇潰しに作った奴だもん」
「…………はい……その通り……です……」
真相が分からない。
石像が何故喋れるのだ。