毎度ながら区切りを付けるのが下手な様です
水の道場の門が開く。
「やあアドル君」
「お、お前……何処から出て来やがった」
水の道場の扉から、無垢で爽やかな少年がアドルへ気楽に挨拶をする。
誰であったか、見覚えは有るのだが、名前は聞いた事が無かったと思う。
「何処って、勿論水の道場からだよ」
「そういう事を聞いているんじゃねぇ!」
水の道場から出て来た、それを意味する可能性の一つが脳裏に過ぎる。
「ああ、そうか。これを獲得しているかどうかが気になったんだね」
エロ娘図鑑をバッグから取り出して見せ付ける。
そこには察する通りの印が刻まれていた。
「勿論、獲得しているよ。水の証!」
「な、な、なっ……」
アドルが大きく口を開いて驚愕の表情を浮かべる。
タイミングからすると彼の方が先に水の証を獲得していた事になる訳だ。
「ああ、彼、ストリム君はとても素晴らしいエロ娘使いであったな。爽やかな顔をしていながら容赦の無い激しい攻めでね、ボクは忽ちに果ててしまったよ」
シノンが仄かに顔を火照らせながら語る。
いったい何の事を言っているのか、勝負の行方だというのは察するのだが聞く人によっては別の事に聞こえそうだ。
名前はストリムというらしい。
しかしシノンのストリムを見る目が怪しい。一個人を見る目ではなく、熱を帯びた乙女の様な視線だ。
「つまり俺様が追い抜かれたじゃねーかよぉおおおおおお!!」
「そうなるが、結局の所は微差みたいなものだぞ」
第33期卒業生の首席で堂々トップの快進撃を繰り広げて来たアドルが、ここで初めて躓いて失速した。
その間にストリムが出し抜いたのだ。
「あの時にちゃんと勝利をしていれば……」
「結果は結果だ。過程がどうであれ、過去は変えられん」
過去は変えられない。
彼女の命も、戻らない。
水の証という証明を貰ったものの、私の心は晴れないままだ。
「くそがぁあああああ!! 俺様が負けただとぉおおおおおお!!」
水の試練にも負けて、同級生にも追い抜かれてしまった。
惨めではあるのだが、試合に勝つ事も有れば負ける可能性も有るのだ。
負ければ悔しい。だから次に活かす為に悔しさを噛み締める。
「ボクとしてはアドル君の方が強かったと思うのだがね」
強さが認められたからこそ証が貰えた。
だけれども後から来たストリムはシノンにそのまま勝利したと察するのだが、実力はどれ程の物なのかが気になる。
「僕もそう思うけれどな……でも僅かな差とはいえ、僕が先に水の証を獲得したのも事実。その僅かな差に悔しがるのも本当にアドル君らしいや」
天才だが子供っぽい。というか糞餓鬼だ。
尻の青さが抜けず、癇癪でエロ娘に八つ当たりして殺害する最低な糞餓鬼なのだ。
そういう所が本当に欠点だと思う。持っている才能は凄いというのに。
「おいストリム! 次の風の試練は絶対に俺様が先に獲得してやるからな!!」
「期待しておくよ」
ストリムが新緑の様に爽やかに返す。
糞餓鬼なアドルとは大違いだ。
「こうしちゃ居られん、行くぞバーニング!」
次は負けない為にと、勇んで次の街へと足を踏み出す。
こういう負けず嫌いな部分は悪く無いと感じる。
「待て、アドル君」
踏み出す矢先にシノンが呼び止める。
他に何の用が有るというのか。
「何だよシノン、俺はさっさとノークタウンへ言って風の試練を突破する予定なんだが」
「それだ」
「それだって、どういう意味だ」
行き先は既に学園卒業と同時にプランとして用意されているので問題は無い筈だ。
四天王リーグに挑戦するには各所から証を集める必要が有るので、冒険をするルートは予め大凡を定められている。
もしかしてノークタウンのルートに何か問題が有るのか。
「今は無理だっていう事だ。ノークタウンへ行くには船が必要なんだが、その船が今週だけ欠航しているんだ」
「は? どうしてだよ」
シーサイドの半島からノークの半島へは海路を行くのが最も早い。
船が出なければ陸路を行く事に成るが、少なくとも一週間以上掛かる見込みだ。
出来る事為らば海路を使いたい。
だというのに一週間も欠航するのか。
「この時期はどうしても海が荒れやすくてな。この一週間だけ、マーメイド達が盛んに歌うんだ。だから船を沈められかねないから欠航している」
マーメイドが歌うなら致し方無い。
彼女達のセイレーンの歌は海を荒らすと謂われている。真相は定かではないが、海での事故は「セイレーンが歌うから」だと伝えられて来ている。
「どうにかならねぇのかよ!」
「無理をいうな。船を出す事は一切許可しない」
最も事故の多い時期だから船は出さないという昔からの伝統なのだそうだ。
船を出さない事が覆る事は無い。
「しかし、この様な海の街で船を出せないんじゃ経済に大きな打撃が入るからな……この時期だけは街総出でお祭りを行うんだ」
船を出さない代わりにお祭りが行われる。
街総出で一週間もお祭りが開催されるとは相当大きなお祭りか。
「その名も『シーサイドパラダイス』だ! 各地から様々な出店が集まり、この地方で最も大きなお祭りになる。是非楽しんで行って欲しい」
凄い規模のお祭りの様だ。
息抜きには丁度良さそうだが、アドルは顰めっ面を浮かべる。
「俺様は祭りなんざに興味は無い」
予想通りの言葉が出た。
アドルは花や歌みたいな芸術に関心が無い。
果てはエロ娘の色気にも関心が無い。
洗礼もただの作業だ。事務的に挿入して精を出すだけの儀式で、性交の快楽なんて欠片も無い。
ただ強く成る為だけの儀式、他のエロ娘使いの間では喜びに溢れる愛しい行為なのだそうだが、アドル相手では不快感しか感じないただの儀式だ。
興味を持つ対象は戦う事、それとザンジという男だけの様だ。
そう、アドルはエロ娘よりも男の方が好きなのだ。
「アドル君もそんな事言わずにさ、折角のお祭りを楽しもうよ。それにエロ娘達も戦い続きで疲れが溜まっている筈だよ。良い機会だからリフレッシュさせようよ」
「……ちっ、それもそうか……仕方がねぇな」
珍しく考えを曲げた。
船が出ないなら冒険を中断せざるを得ない。致し方の無い事だ。
ハードスケジュールだっただけに息抜きが可能なら喜ばしい。
仲間達にはこの機に充分に羽根を伸ばして貰いたい。
「良かった。それじゃ、僕はそろそろ」
「待てよ」
「え、何かな」
アドルがストリムの肩をがっしりと掴み、勢い良く強引に自らの下へと近付ける。
鼻とおでこをくっつけて睨み付ける。唇も寸前でくっついてしまいそうだ。
「俺様から勝ったまま帰らせはせんぞ」
腹から威を込めた低い声で言う。
やっぱりアドルは男の方が好きだと思う。エロ娘にはそんなに近寄ろうとしないのに、男相手には凄く距離が近い。
「勝ったって……うーん、あっ、水の試練をちょっとだけ先に獲得した事か!」
「それだ。だから、俺様と勝負をしろ」
ボールを手に持って見せ付けながら言う。
エロ娘使い同士の宣戦布告行為だ。
昔でいう手袋を投げ付ける行為みたいなものらしいが、それよりは気安い娯楽みたいな行為だ。
「もう、アドル君てば相変わらず負けず嫌いだな。でも良いよ、僕達はエロ娘使いなんだ。勝負をしようじゃないか」
勝負を取り付けて場所を人気の無い荒野の様な広場へと移る。
見渡しが良く、起伏も無い良い場所だ。とても走りやすそうだ。
「風の噂でも聞いているよ。実戦が始まってもアドル君は本当に凄まじく強いんだってね。楽しみだな……」
さあぁぁっと、荒野に風が吹く。
向かい会う相手は、勇ましい炎の様なアドルとはまた違う、新緑の様に爽やかな美男子だ。
果たしてどの様なエロ娘を使用するのか、今から思考が複雑に巡ってしまう。
「お前もずっと俺様の数歩後ろに付いて来ていた奴だからな。まさか、出し抜かれるとは思わなかった……そんな俺様を出し抜いた実力、見せて貰うぞ!」
アドルが意気込む。
使用するエロ娘を思慮深く選び、勝利の方程式を脳裏で組み抜く。
「行くぞお前等!」
「行くよ。ドライアド、アフロディーテ、ストーム、フェアリー!」
アドルが出すのは、バーニング、ドラゴン、サンダードラゴン、キョンシーだ。
対するストリムは風属性が主体の魔法に比重が寄った編成だ。
水の試練のシャーク対策にドラゴンではなくスライムを編成していたが、今回は攻撃力を重視してドラゴンを編成している。
「ねえアドル君、ひとつ聞きたいんだが」
「何だよいったい」
敵の前衛はドライアドだ。耐久力が高く、触手を活かした奇抜な戦法が厄介且つ強力だ。
「ザンジ君とは一緒に冒険をしないのかい?」
「ああ、奴は俺様の宿命のライバルだからな。一緒に行く訳には行かねぇんだ。さ、試合開始だ!」
開幕の合図と共に改造ローラーブレードのエンジンを吹かし、敵の中央へと駆け抜ける。ドラゴンは咆哮を上げて気合いを入れる。サンダードラゴンはチャージアタックで気力を充実させる。
「ライバル? どういう事なんだいそれは」
「分からねぇのかよ。馬鹿だなお前」
フェアリーの風魔法が鋭利な刃と成って私達に襲い掛かる。しかし大きなダメージには至らない。キョンシーが冷静に回復の護符を使ってダメージを回復させる。
「馬鹿って……もう。でも、控え目に言っても彼は見劣りする生徒だったよね。それなのにライバルとはね。てっきり僕は気の合うお友達同士だと思っていたのに」
「友達じゃねぇさ。それ以上の親友だ。そして……宿敵でもある。奴は強いぞ。はっきり言ってお前よりも、断然な」
「意味が分からない。僕はアドル君以外の生徒とは全然負けた事が無い。ましてやザンジ君は底辺の劣等生だ。誰がどう見たってザンジ君が勝ち上がって来るとは思えないよ」
私も意味が分からない。
ザンジといえば、最初に出会ったあの弱い龍の主だ。事ある毎に会いに行くのだから贔屓が強い。
そんな弱い奴が何故宿敵になるのか。恐らく友人故の贔屓目といった所か。
改造ローラーブレードのエンジンを唸らせて爆炎の蹴りを放ち、ストリムのエロ娘達を蹴散らす。
「その様子じゃまだ知らねぇみたいだな」
「何をだよ」
「あいつな……リエスタに勝ったんだぜ」
リエスタ、先日にザンジと面会した時に話題に上がった人物だ。
「リエスタ!? リエスタさんが誰に負けた!?」
「そのザンジだよ。馬鹿だなお前、それ位察せっつーの」
「何回馬鹿って言うんだよ! それにリエスタさんは学年順位一桁で女子のトップだった筈だ!」
強さの基準が良く分からないのだが、あの弱い龍に負けるのなら大した事も無いのだと察する。
アフロディーテが魔法を行使すると、私が与えたダメージが跡形も無く回復する。凄まじい回復力、非常に厄介極まりない。
あのアフロディーテを崩さない限り、こちらに勝機は無さそうだ。
「あんな女にザンジが負ける筈がねぇんだ。本気を出したザンジは凄えぞ」
「信じられない……全く信じられないよそんなの!」
私達はアドルという覇道を行く天才の手持ちである。
性格は最低最悪だが、強さは本物だ。
アドルにとっては同世代の子供は須く取るに足りない相手なのだ。
あのザンジという男は真逆と言って良い程に無気力で卑屈であったと思う。そんな男がどうして強いというのか、本当に意味が分からない。
「だったら本人に聞いてみりゃ良いじゃねーか」
「……そうするよ」
ドライアドの触手が私に迫る。改造ローラーブレードに炎を纏わせた蹴りで対応するがしかし、手数が多いので劣勢状態だ。私にダメージが積み重なる。
「だけどね……ひとつ、訂正をして欲しい」
「何をだ」
「この僕よりザンジ君の方が強いって言葉をだ」
何かが、私に重くのしかかる。
まるで全身が鉛と化したみたいに体が重い。
ストームの唇が三日月を描く様に笑みを浮かべている。
これは、まさか魔法「グラビティ」か。
「悪いがそりゃ無理だ。だって事実だからな」
「無理だと!? 僕がザンジ君よりも劣っているだと!? 馬鹿にするのもいい加減にしろ!!」
私の動きが鈍った所にドライアドの触手が私を捕える。
そこへフェアリーとアフロディーテから雷の魔法が降り注がれる。
エースである私に攻撃を集中させて真っ先に落とす作戦だ。
ダメージがあまりにも大きく、瀕死に陥ってしまう。
「だってお前馬鹿じゃん。俺様に勝てねぇんだし馬鹿なのも事実だよな。ぷぷっ、ばーかばーか。悔しかったら俺様に勝ってみろよばーか」
「何度も何度も……何度も何度もぉ……いい加減にぃぃぃ……しろぉおおおおおおおおおーーーーーーっ!!!!!!」
ストリムが怒髪天を衝いて激昂する。
「おっ、きれたな。ぷぷっ、そんなに悔しいのか。ぷくすっ」
そういえば、あの龍にもこうやって激昂させて対戦に至った気がする。
どうやらアドルは安っぽい挑発が好きらしい。糞餓鬼極まる奴だ。
「そうやっていつもいつもいつもいつも僕を馬鹿にしやがって、学年首席がそんなに偉いのかよ!」
「だって一位だし、事実じゃん。事実って分かる? 実際に起きた事を言うんだぜ。あっ、すまんお前馬鹿だから分からんか」
「それ位知っているわ! ああもう! ああもう! あぐぁあああああああああああーーーーーーっ!!!!!!」
苛立ちを地面にぶつける様に何度も脚で踏み付ける。
冷静さを欠いて指揮が疎かに成り、敵達のチームワークが乱れる。
周囲への警戒が疎かで、こちらの攻撃がどんどん決まる。
キョンシーの足払いがアフロディーテに決まる。
サンダードラゴンのチャージアタックがフェアリーに直撃する。
ドラゴンの強烈な火炎放射が敵全体に決まる。
「ぶっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、ひゃあーーーーひゃひゃひゃひゃひゃ」
「うぐっ、劣勢じゃないか……」
アドルの下品な笑いは兎も角、試合中に油断する方が悪い。
ドライアドがダメージを受けて拘束が緩んだ瞬間に抜け出し、ダメージをキョンシーの回復の護符で癒やして貰う。
「よしサンダードラゴン、派手なのをぶちかませ」
サンダードラゴンの気力が充実して奥義の準備が整う。
これから最大級の火力が放たれる。
「あいよー。とびっきり派手な稲妻をぶちかましたるでぇ」
耳を貫く様な雷鳴が激しく轟く。
あの謎のエロ娘には容易く回避されたがしかし、私はあれを回避する自信は無い。並大抵では回避など不可能だ。
「土属性に雷は効かないんだよ! 天才という癖にその程度も知らないのか! ドライアド、迎え撃て!」
「了解、マスター。ナマズだか電気ウナギかわからない相手なんかに負けない!」
ドライアドも魔力を高めて奥義の準備に入る。
しかし属性差によるダメージ減衰など、圧倒的な暴力の前では意味を成さない事を理解した方が良い。サンダードラゴンの奥義はそれ程までに圧倒的なのだ。
それにしても一向に分からないのはサンダードラゴンはナマズなのか電気ウナギなのか、いったいどれなのか。少なくともドラゴンでは無い筈。
いや、ドラゴンとは必ずしも蜥蜴風だけを指す訳じゃないからもしかしたらドラゴンに分類されるかも知れないのか。
「あちきサンダードラゴン、とっても強い稲妻の龍なんやでぇ。宜しゅうなぁ!!」
「全ての生き物は大地の力の前に飲み込まれる。それが……自然の摂理!!」
外見からは信じられない事に、サンダードラゴンの魔力は想像を絶する程に凄まじい。対するドライアドもかなりの魔力を秘めているが、果たしてサンダードラゴンにどれだけ対抗するのか。
ドライアドの触手が大地を貫き、莫大な魔力を注ぎ込むと大地が慄き震え出す。
サンダードラゴンは背負う意味不明な被り物から巨大な雷球を発生させる。
「ショックウェーブッ!!!!!!」
「大地の怒りッ!!!!!!」
強大な力と力がぶつかり合う。
大地が割れて噴火する。それをサンダードラゴンが放つ霹靂が尽く粉砕する。
サンダードラゴンが優勢だ。霹靂が大地をいなしている。
「どういう、事!? 電気が何故これ程までにっ!?」
「あちきの稲妻はそんじょそこらの安っぽい電気とはちゃうでぇ、大地なんざイチコロやがな」
「そんな馬鹿な!? 電気で岩を砕ける筈が無い!」
アースの原理も何のその。サンダードラゴンの霹靂は大地如きには阻まれない。
「あちきの稲妻は岩石をも粉砕する。よーく覚えときや!」
「いっ、嫌ぁあああああああ!」
怒る大地を尽く粉砕し、とうとうドライアド達に猛る霹靂を浴びせて大ダメージを負わす。
「ドライアド!? そんな馬鹿な!?」
「おっ、ようやく自分が馬鹿だって分かったか」
自分の事を言った訳ではないが、相変わらず厭味ったらしい。
サンダードラゴンの奥義も相変わらず凄まじい威力で戦況を一発で覆してしまう。
「いちいち煩い! アフロディーテ、癒しの風で回復をするんだ!」
「回復などさせるものか。ドラゴン、やれ。一気に畳み掛けろ!」
「了解だ!」
激しい電撃の余韻が残る荒野で、アフロディーテがよろよろと痛む体に鞭を打って立ち上がり、抜群の回復力を持つ魔法を発動させようとする。
あの回復魔法が発動したら、折角の優勢も傾いてしまう。
正直に反則レベルだ。あの回復力はどうかしている。
ドラゴンが私のスピードに迫る勢いで駆け抜けてアフロディーテの下へ迫る。
「ドラゴンが齎す破壊力、その身で味わうといい!!」
鋭く力強い龍の爪牙を怒らせ、凶刃と化す。
「ドラゴンドライブッ!!!!!!」
龍の逆鱗に触れたら最後、止められる者など誰も居ない。
「きゃあぁあああああ!!」
ドラゴンの大木が如き重い爪と牙がアフロディーテに直撃し、派手に吹き飛んで大ダメージを負う。
再び立ち上がれる筈も無く、倒れ伏す。
「そんな……アフロディーテ!?」
「回復の要が落ちたな。これで形勢は俺様に傾いた」
勝負の行方はもう決まった様な物だ。
だが、未だ決着した訳ではないので最後まで気を抜いてはいけない。
「まだだ! 最後の一体が倒れるまで勝負は付いていない!」
「嫌いじゃないぜ、その最後まで諦めない勝負心はな」
私達は誰も落ちてはいないがしかし、消耗はしている。
ドラゴンにサンダードラゴンは奥義を放った為に息切れをしている。
キョンシーは忙しく回復作業から手が離せない。
逆転される可能性も有り得る。
「ストーム、フェアリー、本気を見せてやれ!」
「「了解!」」
敵が魔力を体の芯から高めて行く。
必殺の奥義が二人纏めて迫る。
あれが放たれたら私達は耐えられそうも無い威力だ。
「ふん……遅いな。バーニング、出番だぞ」
「了解だ」
遅い。その通りだ。
魔法が完成する間近で発動まで秒読みだが、私にはその程度の時間、充分過ぎる。
「この髪は鋼鉄さえも斬り裂く刃なの。あなた達に耐えられるかしら」
「あたしの最強魔法で決めちゃうからねっ!」
魔法奥義が発動する直前の輝きが大きく成る。
私達を殲滅するのに充分な威力を誇る奥義が撃ち放たれるまで、残り僅か。
「このローラーブレードは私の自慢の特別製だ。音速を超えた領域に付いて来られるなら来てみるがいい!」
エンジン全開、爆発するかの様に弾け飛んで荒野を疾走する。
「ツイストミキサーッ!!!!!!」
「メテオッ!!!!!!」
フェアリーとストームの魔法がついに発動する。隕石を召喚するフェアリーに、自らの髪を鋼の糸の様に鋭い物に変質させる。
しかし、未だ間に合う。
私の改造ローラーブレードが超高熱を発して青白い閃光と成り、空気の壁を突き破り私は音速を超えた領域へと到達する。
鋭いソニックブームが周囲に飛び散る。
「勝ったな」
アドルが勝利を核心する。
憎き主だが、その実力と信頼は確かだ。私に失敗は無い。
敵の魔法奥義の発動、私達に攻撃が届くまでのタイムラグ、その一瞬を潰す。
隕石が迫る、髪の刃が届く、その前に私が敵の下へと到達する。
「バーニングブレードッ!!!!!!」
瞬きする一瞬の間も存在しない音速を超えた青白い蹴撃が襲い掛かる。
何が起きたのかが分からない。そんな表情のままフェアリー、ストーム、ドライアドが纏めて吹き飛び、気絶する。
「なっ……なんだ、何が起きた!?」
敵の魔法奥義がコントロールを失い四散する。
青白い大きな傷跡が戦場に刻まれて煙を吹く。
「馬鹿に教えてやるから有り難く聞け。これが俺様のエースの奥義、バーニングブレードだ。音速を超えた領域はどうだったよ」
「お、音速だとぉ!? そんな……」
音速の領域に達するエロ娘など私以外には知らない。
速度ならば誰にも負けない。あの凶悪な謎の敵からもこれで逃げ切った。あのシャークにももう、絶対に負けてなるものか。
「風は所詮空気を流れるだけだが、音速は風を破壊する。音速の方が強いのは当然だな」
風を突き破るからこその音速だ。
音速が風に負ける道理は無い。
「……悔しい……悔しいけれど、僕の負けか……」
倒れ伏すエロ娘達をボールに回収し、負けた事実を噛み締める。
「やっぱりお前ってクソ雑魚だなぁ。全然弱っちぃでやんの」
「うぐぐぐぐぐ……厭味ったらしいなぁもう!!」
アドルの挑発が追加されるとまた顔を真っ赤に染めて怒りを沸騰させる。悔しさを胸中に抱きながら踵を返す。
実際の所ストリムが弱いなんて事は無く、アドルの指揮が無ければ私達は敢え無く負けていた可能性が高い。彼の実力は相当な物だ。
強敵であった。充分ライバルと言って差し支え無い。
だが私達が勝利する事で、私達の方が強いと証明された。
だが、試合に勝利はしたものの、私の心はもう、喜びが感じられない。
―――― 2番通路 ――――
「ご主人、お腹が空いたぞ」
「燃費が悪い奴だな」
「意地悪言わないでくれよ」
同級生であったリエスタとの激しい戦いを繰り広げた後だからお腹が空くのも無理は無い。あの奥義、ジェノサイドストリームは激しく消耗をする。
「そう言われてもな……獲得賞金も心許無いし、宿屋も近くに無いみたいだし、どうしたものか」
「食べ物が足りないのか。それなら私に任せてくれ!」
「任せてって、おいっ」
ヴィセラが飛び出す。
いったい何処に行くというのか、瀕死状態の所に申し訳ないが致し方無い。フィーに監視を頼みレインとグーリに護衛して貰いながら後を追い掛ける。
2番通路の南側に広がる草原を駆けるヴィセラを発見する。
何をしているんだか、駆ける先には、野良牛の群れが居た。
「夕飯の為だ。許せ」
群れに突っ込み逞しく育つ雄牛と格闘し、自慢の尻尾で捕縛し――
――仕留める。
「狩ったぞー!」
「まじか……」
雄牛を一頭、獲得した。
牛には無駄な部分が殆ど無く、どの部位も大金に換わる。
先ずは血液を抜き取る。血液は非常に菌が繁殖しやすいので殆どの場合は処分するのだが、菌が繁殖するのは即ち栄養価がとても高いのである。スープ等に利用させて貰う。
皆で協力して解体作業を行い、肉を落としたらボールの捕獲機能から作られた異空間バッグに収納する。臓器も新鮮なら非常に美味しく食べられる。骨も意外と大事な部位であり調理に使ったり肥料にも成ったりする。皮を剥げば大変丈夫な衣類やバッグの材料に成る。
「ええ肉じゃんね。今日はうちに調理をさせとくれ」
「そうか。是非頼むよ」
グーリが料理当番に立候補する。いったいどんな料理になるのかとても楽しみだ。
調理はグーリに任せて、他のエロ娘達は牛の解体の続きにキャンプの準備を進める。
金網の上で肉が熱を帯び、脂が滴り落ちて真っ赤に燃える炭に降り注がれる。
脂は忽ちに炎と成って香ばしい匂いを放ちながら蒸発する。
「ようけ燃える炭じゃんねぇ。ちんちんに焼けとるよ」
「ちんちん? えっと……」
思わず股間を押さえてしまう。いったいどういう意味だ。
この炭はヴィセラが薪を焼いて作った物だ。
薪を土に埋めた状態で高熱に晒す事で作り上げた。
本来はアルミホイル等で閉じ込めた状態にしながら焼き上げる事で作るのだが、この方が手っ取り早いとヴィセラが提案した。
土の中の薪を焼くなんて難しい芸当をやり遂げるのだからエロ娘は凄い生き物だと思う。
「ちんちんは熱いって意味だら。ほら良い具合に焼けたじゃん。レインちゃん、このうちの手前味噌で作った特性味噌だれに付けて食べりん」
「わっ、ありがとう」
ちんちんとは熱いという意味の方言であったのか。卑猥に聞こえてしまうがしかし、他意は無いらしい。
ちょっと炭で黒ずんだ肉をスライムのレインの取り皿に盛る。
ぴりっと甘辛い味噌だれに肉を付けて食べる。
「お……美味しい! こんな美味しいお肉初めて食べたよ!」
「ほらみりん、どえりゃあうみゃあだら」
凄く美味しい。驚いて頬を落っことしてしまいそうな程だ。
歯応えが無いっていう位に蕩ける柔らかさ、脂とは違う旨味成分から成る蕩け方だ。肉汁が溢れ出して濃密な旨味が舌を歓喜に導く。
味噌だれも非常に素晴らしい。味噌と聞くと主張が激しい味をイメージするのだが、これは違う。素材の味を殺さず引き立たせる役割りを担っている。甘過ぎず、辛過ぎず、絶妙な良い塩梅で肉の旨味を大幅に増幅させる。
本当に、とても美味しい。食が止まらない。
「お肉って固くて食べにくいって思っていたのに、まるで溶けるみたいに口の中で蕩けちゃうよ」
「ちゃあんと発酵させとるからじゃん。卸したてのままじゃあお肉は固いまんまになるんよ。ほら、パンも焼く前に一晩寝かすっていうだら。あれは酵母菌を繁殖させなきゃいかんからじゃんね」
料理とは奥が深い。
茸のエロ娘だからこそ菌の扱いに長けている訳だ。
舞茸を混ぜていると思ったらこういう意図であったのか。
本当に料理上手な良いエロ娘だ。これから毎日グーリに料理を作って欲しく思う。
「おみゃあさんには最もうみゃあサーロインを焼いたらんとね。頑張ったヴィセラちゃんも食べりんよ」
「そうか!? この肉も凄く美味しいのに、これよりも美味しいのか!?」
「そうなんよ。どえりゃあうみゃあて期待しときん」
赤身の間に白い脂が細かく入り込んだ腰辺りの部位を取っ手付きの網に乗せ、真っ赤に燃える炭火で焼き上げて行く。
肉は既にグーリの魔法で超熟成され、指が軽く貫通してしまいそうな程に柔らかくなっている。
「本当ええ感じにちんちんな炭火じゃんね。焦げ過ぎず、ぬる過ぎず、丁度ええちんちん具合だら」
ちんちんちんちん連呼しているが他意は無い筈だ。可愛い女の子がちんちんちんちん言うと股間に悪い。
肉が炭火で熱されると脂が激しく滴り落ちて轟々と火が燃え上がる。焦げ目が付かない様に網の取っ手を持って高く上げ、火のぎりぎり届く高さに調節する。
脂が炭で焼ける匂いが非常に香ばしくて食欲が唆られ過ぎて涎が止まらない。
――ぐぎゅるるるるる。
まるで獣の声だ。何の音かと思ったらヴィセラの腹の音であった。
「あう……早く食べたいぞ」
「あっははは、ヴィセラちゃんってば。待っとりんよ、もう直ぐ焼き上がるじゃんね」
本当に暴力的な香りだ。
炭火特有の黒ずんだ焼け跡が少し見栄え悪く感じるかも知れないがしかし、この香りの前では些細な事だ。
網から上げられて、皿に肉が移される。
「焼けたのだな!」
「あともうちょい待っとりん。仕上げが残っとるんよ」
「うぐぅぅ」
「このお肉はそのまんまでもうみゃあて良いけど、仕上げが入ればどえりゃあ違いが出るじゃんね。味噌だれもええけど、味噌は主張が激しくて肉の味わいが勿体無くなるもんで、こりゃあシンプルが一番なんだら。だもんで、黒胡椒に岩塩をまぶし、レモン汁をちょいっと」
ぱらぱらとブラックペッパーにロックソルトをまぶし、レモンを軽く絞る。
「完成じゃん! こりゃもうどえりゃあうみゃあて吃驚仰天しちゃうだら。食うてみりん!」
じゅわり肉汁が溢れ出すサーロインの炭火燻しステーキが完成だ。
先ず香りが途轍も無い。早くしゃぶり付けと理性が壊れてしまいそうになる。
フォークを挿し込むと、ナイフが必要無い程に解ける程に柔らかく、むしろ掴み取るのが困難な程だ。
「いただきます……」
止まらない涎。尋常じゃなく煽られる食欲。
俺とヴィセラは意を決して肉を口の中に放り込む。
瞬間――
――超絶美味。
「うっ……ううっ……美味いぃいいいいいいいいい!!」
液体なのかという位に蕩ける肉。
されどしっかりと肉の旨味が凝縮されており、感動的な美味しさが口いっぱいに溢れ出す。
他の部位も非常に美味しかったのだが、このサーロインはまた格別な美味しさだ。そもそもこれまで食べて来た肉はもう肉もどきでしか無いと悟ってしまう。
真の肉の美味しさを知ってしまった不幸を嘆く他に無い。もうグーリと共に生きて行くしか道が無くなってしまった。
「美味し過ぎるぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
ヴィセラが感動のあまりに空中へと飛び出す。
夜空の月を壊しかねない勢いで咆哮すると共にジェノサイドストリームをぶっ放す。
大袈裟に思うかも知れないが、それだけ感動的な美味しさなのだ。
俺も本当ならあんな風に飛び回ってジェノサイドストリームをぶっ放したい。
「もう、おみゃあさんもヴィセラちゃんも大袈裟だらぁ」
「いいなぁ。ボクも食べてみたい」
「グーリちゃん、そのサーロインってもう無いの?」
「ごめんなぁ、貴重な部位だもんでもうあーへんの。でも代わりにランプや内腿とかもうみゃあから食うてみりん」
本当ならシャトーブリアン等の貴重な部位も残っている筈だが、それは俺に提供するとの事。主人だからってそこまで優遇しなくても良いのだけれども、慕ってくれているのが本当に嬉しく思う。
レインにフィーも俺達が食べたサーロインに負けない美味しさの肉を食べて歓喜に震える。
グーリも自分が仕込んだ肉を食べて、何やら考え込む。味に妥協をしない様子だ。
「ありがとうなグーリ。こんな美味しい物を食べたのは初めてだ」
低身長な女の子で俺の胸元までしか無く、頭に手を置きやすい。
サラサラな髪の頭を撫でる。
「あう、おみゃあさん……不意打ちはずるいじゃんね……どう致しましてだら」
照れているのか顔を赤くしている。凄く可愛いぞ。
肉だけでなく野菜も焼く。
鍋を置いて血液でスープも作る。
こんな美味しくて楽しい夕食は初めてだ。
彼女を殺害した矢先に、またあのザンジという男に会いに行くと言い出す。
情報端末で居場所を探し出し、現在は2番通路に燻ぶっている。アドルは初日で踏破したというのに随分とのんびりした様子である。
「近場に宿屋が有るっつーのに、あいつは野宿でもする気なのか?」
よく確認すれば分かるがしかし、初めてでは気付き難い宿なのかも知れない。
2番通路宿に転移して、情報端末が示す場所を頼りに歩き出す。
「何処に居るんだよ……」
アドルは本当、ザンジが好きみたいだ。エロ娘よりも。
情報端末では近くまで来たらしいが、夜間だと精度が弱まり範囲が絞り込み辛くなる。
野宿をするなら火を起こす筈だが、周囲を見渡しても煙が登る様子は見えない。
しかし、妙に食欲を唆る香りが漂って来る。これは、近くに居そうだ。
「美味し過ぎるぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「……居ました」
「……居たな」
あの弱い龍が絶叫しながら飛び回ってジェノサイドストリームをぶっ放す姿を発見した。
楽しい夕食中にまた厭味ったらしい奴が現れる。
今日も来るとは思っていたが、まさか本当に来るとは殊勝な奴だ。
「ようザンジ」
「アドル……何の用だよ……」
「俺様が居なくてお前が寂しくないかと思ってな」
「生憎と俺はお前が居ない方が精々する性分でな」
エロ娘達と戯れて癒やされている最中にこんな奴の顔を拝まないといけないだなんて運命の残酷さを呪いたくなる。
「つーかめっちゃ美味そうだな。ちょっと寄越せよ」
「あっ、おい!?」
俺の皿からグーリの焼いたサーロイン炭火燻しステーキを一切れ指で摘んで奪い取る。
行儀の悪い奴だ。
「美っっっ味!! なんだこれ超美味ぇ!!」
「この辺を走っていた野良牛の肉だよ」
「はあ!? ただの野良牛がこんなに美味いのかよ!?」
俺達が天界で食べて来た物が覆される美味しさだ。
俺自身も俄には信じられないでいる。
「このマタンゴのグーリが調理したからな」
「へえ……じゃあ俺様にそのエロ娘をくれよ」
「やるかボケ! つーかマタンゴならお前も持っているだろ」
アドルがマタンゴを入手していない筈が無い。
俺のマタンゴがここまで料理上手だとしても、同じマタンゴ為らば同じく料理上手の筈だ。
「確かに持ってはいるが、そういえば野宿で料理なんてして来なかったわ」
「そいつは勿体無いな。こんな美味い料理を食う機会を逃すなんてな」
尋常じゃない速度だからキャンプをする前に宿屋に辿り着いてしまう。だから炊爨もして来なかった。
アドルが懐からボールを出し、エロ娘を召喚する。
「ようマタンゴ、お前もこういう料理作れるか?」
「んー? えぇ、なにこれ凄い! ちょっとこれどうやって作ったの!?」
自分のマタンゴを出して、グーリが仕込んで焼いた肉をフォークで運んでマタンゴの口に放り込む。
するとマタンゴが歓喜に震えて驚愕し、グーリに教えて欲しいと掴み掛かる。
「おー、興味有るかい。教えたるよ」
「ありがとう! あたしじゃここまで美味しく仕上げられなくて、グーリちゃんだっけ、宜しくね」
「アドルさんちのマタンゴちゃん、うちも宜しゅうな」
アドルのマタンゴは言葉が訛っていない様だ。言葉が分かりやすくて助かる。
うちのマタンゴはちょっと分かり辛くて困る。
「そりゃおみゃあさんの手前味噌の方がすげーだら。うちじゃそんな上手く作れへんに」
「何言っているのグーリちゃんの手前味噌だって凄く美味しいのに。寧ろあたしのよりも美味しいと思うわよ」
早速情報交換をして料理のレシピを増やす。
同じエロ娘だとしてもそれぞれに違う特徴が現れる。うちのグーリの方が発酵による仕込みが上手らしく、アドルのマタンゴは手先が器用で調理が上手みたいだ。
「「ちんちん♪ ちんちん♪ ちんちこちんのあっちんちん♪」」
下品な歌だ。
二人で下品な歌を歌いながら焼き肉を焼き上げて行く。
焼き加減ではアドルのマタンゴが少しだけ上手に焼けている。
味噌だれの味はうちのグーリの方が上だ。
実際は殆ど互角で素人目には違いが分からない程度である。
アドルが他のエロ娘達をボールから開放し、俺達と夕飯を共にする。
何故だか表情が暗いのだが、食事を始めたら次第に笑顔に成る。
凄く数が多い。牛一頭じゃ足りないかも知れない。とは言い過ぎか。
皆が皆ヴィセラの様に体重を無視した食欲という訳ではない。普通は一人300g、多くて500g程度も有れば充分だ。
「おい、俺から夕飯を奪うっていうのか」
「良いじゃねえか。折角だから俺様のエロ娘達にも寄越せよ」
「せめて金か食材を出せっつーの」
「それもそうか。ほら、これでどうだ」
10万Gを軽く手渡される。
「なっ、こんなにも」
「足りねぇか?」
「い、いや、充分過ぎる」
こいつは天界でも富豪であったが外界でもトップクラスなのか。
恨めしい。
エロ娘使いは対戦で勝利する事により、パトロンから賞金が振り込まれるシステムになっている。俺も少しばかりの対戦を勝利して僅かな金銭を獲得したが、こんな大金は未だ拝んでいない。
連戦連勝の常勝不敗な天才アドルは人生もイージーモードで羨ましくなる。
「やっぱりすげーな……俺は未だリエスタに勝った程度で1万Gも得ていないのに」
「おっ? リエスタってあの同級生の女子で一番強い奴か。流石だな」
「ぎりぎりだったがな。そういうお前はどうせ水の試練を突破して来たんだろ」
「……あー、それがな」
歯切れが悪い。
その含みは、まさかと思わせておいて結局勝ったぜと言って来るパターンだ。
長い付き合いだからそれ位分かる。
だから勿体振らずにさっさと水の証を見せ付けろ。
だが、今日は何故か凄く歯切れが悪い。いったいどういう事だ。
ふと周囲が騒がしくなる。どうも揉め事が起きている様だ。
「お前は、あの時のバーニング!」
「……あの弱い龍だな」
ヴィセラとバーニングだ。
天界で対戦して以来の再会になる。
鉄板の上で焼いた焼きそばをもぐもぐと口いっぱいにしながらいちゃもん付ける。
バーニングもホルモン焼きをもぐもぐと噛み切れない状態で噛み続けたまま澄まし顔で返す。
「弱いとは言い草だな! 私はこっちに来て以来は未だ負けた事が無いんだ!」
「有象無象に勝った程度で意気がるなんてお目出度いな」
「有象無象ばかりじゃない!」
「知った事か。私にあれ程までに無様に負けておいて強がるな。負け犬が」
苦汁を舐めさせられたからって拗らし過ぎだ。
焼きそばを口から吹き出すな行儀が悪い。
苛立ちから尻尾で地面を叩き散らし、地響きで周囲が飛び跳ねてしまう。
バーニングは噛み切れないホルモン焼きを噛み千切る事を諦めてそのままごくりと飲み込む。
「このぉ! お前なんかにはもう絶対に負けない!」
「……愚直が。全然変わらんな」
一触即発。
ヴィセラが真っ向から突撃し、バーニングは膝のみを残す形で回避する。膝にヴィセラが自分から激突する。
「かはぁ……!?」
「弱い」
鈍い衝突音が鳴り響く。
自爆に近い形で大ダメージを負う。
しかし強靭な根性で耐え抜き、決して倒れない。
「そんなダメージを受けてまだ立つの?」
「もう絶対に……あんな無様に負けたりしないんだ!」
根性は立派だが、俺達は戦う事を許可していない。
「何しているんだヴィセラ!」
「ご主人! 私はもうこんな奴に負けない! 絶対に負けるもんかっ!!」
「馬鹿が、今は戦う時じゃない!」
強制命令で無理矢理に中断させる。
しかし煮え滾る闘争心が収まり切らずに尻尾をばたばたと地面を打ち鳴らし続け、バーニングは名前に反して涼し気に焼き肉を続ける。
「そうだぜぇ。余裕綽々で勝っちゃ楽しくねぇからな」
「……言ってろ糞野郎。その鼻絶対に潰してやる」
「そいつは楽しみだ」
ヴィセラには後でしっかりと反省をさせる。今は食事時なのだ。折角狩った生命を喧嘩なんかで無駄にする訳にはいかない。
アドルには、今は勝てないとしてもいつか絶対に勝つ。
「あー、そのな……ちょっと話し辛いんだが」
「何だよ改まって」
「ここじゃ話し辛いからちょっと場所を移してくれるか」
やけに活きの無いこいつは初めて見る。一体何なんだ。何があった。
エロ娘達とは離れ、清らかに流れる小川に場所を移す。
隣の奴の顔も見えなくなる暗闇で空に瞬く星々と月明かり、川の水を飲みに来る蛍の光が頼りだ。
「いったい何があったんだよ」
「俺様な……負けちまった」
「…………そうか」
薄々そうじゃないかと思った。
天才だとしても、世界は広かったのか。
「初めてだぜ……こんな屈辱」
「そんな屈辱を俺は何度もお前に味わわされたんだがな」
「ザンジは強いな」
「お前が言うな」
具体的にどう負けたのか聞いてみたら、情報端末から動画を見せられる。
相手はシノンという水の師範、氷属性のマーメイドが二体にエースのシャークが一体、凄まじい強さで迫る。
「こんな奴が第二の試練の師範なのか」
「まさか一撃でバーニングが落とされるとは思わなかったぜ」
こんな強さの師範が居るんじゃ、どれだけ人数が絞られるのか。
いや、絶対に割りに合わない。このシノンは明らかに加減をしていない。アドルだから手を抜いていないのだと思われる。
「お前の事だから想定をして対策をしていると思っていたが」
「俺様は確かに天才だが神じゃないんだぜ。予測ができない時も有るわ」
「スライムなら『水を無効化』にできて攻撃を『引き付ける』事が可能だ。バーニングを一撃で落とされる事態はこれで未然に防げた筈だぞ」
「そうか……やっぱりお前って奴は……」
月明かりに照らされる美男子が俺をきつく睨み付ける。
何だその顔は。
俺にその気は無いから勘弁しろ。
腰に腕を回すな気色悪い。
男の癖に甘い匂いの香水を使うな。
「こいつ、強いな……」
「そうだよな。シャーク、次は絶対に仕留めてやる」
「いや違う。この白い鳥みたいなエロ娘の事だ。凄く良いスキルを持っている。それに、まだまだ伸び代を感じる」
このエロ娘はとても良い。
見た事が無いエロ娘だが、補助に長けていて戦闘を大幅に有利に運んでくれる。
アドルが何やら真剣な表情をしている。何を考えているのやら。
「このエロ娘は何ていうんだ? 絶対に強く成るから大事にしろよ」
「そうか……そう、だったんだな……くっ……くそがぁ!」
「悔しいのは良く分かるが、お前なら大丈夫だろ。敗北の悔しさを忘れない事が大事なんだ」
アドルはまた更に強く成る。
敗北するなんて凄く珍しいがしかし、こんな真剣に悔しさを噛み締めている。
大丈夫だ。アドルの心は折れていない。
そうでなきゃ、目指し甲斐が無い。
「……あぁ、忘れねぇよ。絶対に、な……」
リエスタさんとアイスドラグーン
「フフ腐……やおい本は良いわね。私を絶対に裏切らない」
私達は雑魚と侮っていた同級生のザンジに負けた。
リエスタ様はショックで意気消沈し、リーネの村の宿に閉じ籠もり黙々と何かを描き綴っている。
「ご主人様、何を描いているのですか。私にも見せて下さい」
「良いわよアイスドラグーン。ほら、綺麗でしょう」
耽美な男と男が濃密に絡み合う絵だ。
「こっ……これは……!! 男同士でなんて破廉恥な!? 破廉恥です! 破廉恥ですっ!!」
「とか言いながら視線は釘付けね。可愛いわ」
破廉恥だというのに、視線が離せない。私もエロ娘だから男性の体には興味津々なのだ。欲求には逆らえない。
「ご、ご主人様……その、もっと有りますか? 良かったらもっと見せて欲しいです」
「勿論よフ腐……これであなたもやおいに目覚めなさい。男は男と恋愛をするべきなのよね」
「はい! 世の中にはこの様な世界があったのですね。破廉恥です。破廉恥です……でも、耽美ですね……」
熱の籠もった視線でリエスタ様から渡された、やおい本なる物を眺める。実に破廉恥、けしからない。もっとくれ。
「そういえばストリム様はそろそろ水の試練に挑む頃でしょうか」
「そうだったわね。映像を出してくれるかしら」
宿屋の部屋に配置されているモニターに電源を付けて映像を出す。
予想通り、リエスタ様がお慕いするストリム様が水の試練に挑む頃合いであった。試合が始まる前に気付けて良かった。
水の師範シノンはエロ娘に匹敵するグラマラスな美女でストリム様も頬を染めている。リエスタ様が若干血管を浮き立たす。
「綺麗な女性ですね」
「なにそんな女に見とれてんのよ……」
「水使いと同時に氷使いでもありますか。中々巧みですが、本当為らばもっと強そうに思えます」
「そりゃあ二番目の試練がそんな本気を出したら誰も勝てないでしょう」
「それもそうですね」
私達がザンジと戦ったレベルよりも低次元な戦いである。余裕綽々にストリム様が勝利を収める。
水の師範シノンが両腕を広げて魔法を行使し、水の証を展開、ストリム様のエロ娘図鑑に授与する。
「は……? えっ、はあ? 何してんの!?」
「あら、あらあら、キスですねっ!」
水の師範シノンが、ストリム様の頬に口付けをしている。
ストリム様が惚気けている。美女に口付けされて恍惚とするのも無理は無い。
「なに唾付けとんのじゃあのクソアマぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!」
リエスタ様が、切れた。
「あのアバズレぶっ潰す!! 行くわよアイスドラグーン、クソビッチをファックしてやるわ!!」
「了解です」
塞ぎ込んだままでは流石に私達もやり甲斐が無い。
経由がどうであれ、立ち上がる為の起爆剤になってくれて良かった。
久々にリーネの村の宿から外出する。
「アイスドラグーン、あのスキルを頼むわ」
「分かりました」
しかし私達も不貞腐れて燻り続けていた訳ではない。
バーニングの使っていたヒートランをヒントに編み出した新スキルを披露する。
「アイススケート!」
足にブレード状の氷を履かせ、大地に氷を張り巡らす。
「さあ、行くわよ。クソビッチのプッシーにあなたのアイスディックをファックしてやりなさい」
「わ、私の氷はそんな下品な物じゃありませんからっ」
言葉がとても下品だ。リエスタ様はストリム様にエロ娘以外の女が付く事が気に食わないらしい。
だが、これで良い。
私達はこんな所で留まる器ではないのだ。
私がリエスタ様の手を引きながら、氷の道を華麗に、されど音速に匹敵する速度で駆け出す。