ソフィー・シモン。
その名前は国を越えて周辺国にまで知られている。それは彼女がリュミエール王国の第二王女であることだけが理由ではない。
腰まで伸びる絹のような銀髪。
染みひとつない白い肌。
作り物のように整った顔。
宝石に例えられる碧い瞳。
一言でいうとソフィー・シモンはとても美しい少女だった。まだ14歳と若く、幼さの残る容姿でありながら既に大陸でも有数の美姫として認められているほどだ。
リュミエールの至宝、青玉の姫、月の女神リュンヌの生まれ変わり──等々、彼女を表す言葉は多い。
「リュミエールの国王の名は知らなくてもソフィー・シモンの名を知らない国民はいない」などと言われるほどである。
──さて、そんなソフィー・シモンは現在。自室のベッドに腰掛け、その美しい顔を曇らせていた。
そんな姿さえ絵になる美貌の姫は「カチャッ」とドアが開く音を聞き、その憂いを帯びた瞳を入口へと向けた。そこで今しがた入室して来た一人のメイドの姿を捉えると、その表情を更に暗くする。
「そろそろ出発するみたいですよ、姫様」
「……あの、本当に行かないといけませんか?」
「その質問3回目ですよ? いくら王族でも教会の決まりには従わないといけませんって」
ソフィーの言葉にメイドは呆れた様子でそう返す。王女相手に不敬とも取られかねない態度だが、幸い室内にそれを咎める者はいない。
「……でも、恥ずかしいわ。私、その時になったら羞恥心で死んでしまうかもしれません」
「そんな大袈裟な……。全ての女性が経験することですよ? 私も14歳の時に受けましたがなんて事ありませんでした」
「絶対嘘です。うぅ……お父様にだって見せた事ないのに……」
「陛下に見せてたらそれはそれで問題ですけどね。──さて、そろそろ準備しないと間に合いませんので、話は馬車の中でしましょう」
メイドはそう言って会話を切り上げると、主人の支度を整え始めた。ソフィーもまた、万が一にも時間に遅れるわけにはいかない為、渋々と立ち上がって準備を始める。そして白を基調としたドレスに着替えると用意されていた馬車に乗り込むのだった。
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リュミエール王国の国教であるエメ教には幾つもの規則がある。その中でも特に厳しい事で知られているのが女性の性行為の制限である。
男尊女卑の考え方が強いエメ教では女性の処女性は絶対視されており、未婚であるにも関わらず処女を喪失している女性は犯罪者のごとく扱われることがある。
しかし、それでも10代の少女の中には若さゆえに興味本位で過ちを冒してしまう者がそれなりにおり、婚約時に問題となる場合があった。
その対応策として教会は、およそ50年前より全ての女性に結婚適齢期である14歳〜17歳の間に一度だけ処女検査を受ける事を義務化した。
この検査で非処女であると判断された者は例え王族であっても批難を免れない。それは教会と王族の力関係をはっきりと示しているようだった。
そういう訳で、先日14歳の誕生日を迎えたリュミエールの至宝たるソフィー・シモンも本日、その処女検査を受けることとなったのである。
検査は18歳になるまでに一度受ければいいとは言え、成長して心身共に大人の女性となってから行うよりは14歳になってすぐの方が抵抗はない。その為、大抵の女性は14歳のうちに検査を受けるのだ。
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「お待ちしていましたソフィー姫殿下」
「神父様、今日はよろしくお願いします」
教会内の一室に案内されたソフィーを40歳程の男性が笑顔で迎えた。彼が今日の検査を担当する神父だった。彼は部屋の中央へとソフィーを誘導すると、さり気なく彼女の身体へと視線を向けた。
ソフィーは神父の目に僅かに性的な欲望を感じとり、一気に不安を強くする。
彼女は知るよしもないことだが、今回、ソフィーが処女検査を受けることが教会に伝えられると、誰が検査を担当するかで争いが起きた。というのも、検査の方法は神父の前で秘所を晒すという内容だからだ。
つまりリュミエールが誇る美姫の最も大切な場所を間近で見ることが出来るという訳である。いくら聖職者といっても男である以上、ソフィーに惹かれない者などおらず、少なくない金が動いた結果、目の前の貴族出身の神父がその座を勝ち取ったのだった。
「さっそくですが検査を始めたいと思います」
「……はい、お願いします」
「では、私から姫殿下の御召し物に触れる訳にはいきませんので、まずご自分で秘所が見えるようにして頂けますか?」
「……わ、わかりました」
処女を検査する為であっても、未婚の女性が男性に服を脱がされるのは外聞が悪い。その為、女性は神父の目の前で自ら服を脱ぐという辱めを受けることになるのである。
貞淑さを求められる貴族の女性の中には、この行為を屈辱的に感じる者も多い。
それはソフィーも同じだった。彼女は返事をした後もしばらく動くことが出来ず、困ったように視線を彷徨わせる。しかし、神父が「姫殿下」と声を掛けるとおずおずと手を動かし始めた。
彼女はドレスの中に手を入れると、下着の縁に指を掛けた。そしてゆっくりと下ろしていった。ドレスの中で行われるその行為は神父には見えていない。それでも男性の目の前で下着を脱ぐ恥ずかしさに彼女は顔が熱くなった。
下着が秘部から離れ、太ももの辺りまで移動すると、そこからはストンと足首まで一気に落ちてしまう。ドレスの生地が直接秘部に触れ、自分が無防備な格好になったことを自覚すると、ソフィーはおかしな気分になりそうだった。
(なんだかイケナイことをしているみたいだわ……)
ドキドキと鼓動が早くなる。ソフィーは不思議と嫌な気分はしなかった。よく分からない解放感と僅かな屈辱感。その味わったことのない刺激を、彼女は心地良いと感じたのだ。
足首まで落ちた下着は、ドレスの裾に隠れて神父には見えていない。ソフィーは一瞬躊躇してからそれをドレスの中から取り出した。
小さく丸められた白い下着は毎日数十人の処女検査をしている神父からすれば見慣れたもののハズだ。しかし、ソフィーは神父がそのショーツを目で追っていることに気付いた。
当然だ。絶世の美姫の下着がそこらの女の物と同じワケがないのだ。彼は下着を手の中に隠そうとするソフィーに穏やかな表情で声を掛けた。
「それを持っていては手が塞がってしまいます。どうぞテーブルに置かれてください」
「……い、いえ、自分で持っておきますから大丈夫です」
「女性が下着を握ったまま男性と話すことは、あまりよろしくないかと」
神父の言葉を一度断ったソフィーだが、そのように言われては再度断るのは難しかった。たとえ彼が下着を握る自分の手をイヤらしい目で見ていることに気付いていても、今日この場において神父の心象を悪くする訳にはいかなかったのだ。
ソフィーは神父の顔と手の中の下着を数度見やり、諦めたように側にあるテーブルの上に下着を置いた。
(あ……下着見られてるわ……)
くしゅくしゅと丸められた下着を神父が横目で見ている事に気付く。あしらわれたレースやワンポイントのリボンも見えてしまっており、ソフィーは自分の下着の好みを知られた気がして恥ずかしさを感じる。
しかし、同時に胸がドキドキして何か満たされるような感覚を覚えた。自分が脱いだただの布切れがひとりの男性の視線を釘付けにしている。その事実はソフィーの女としての自尊心を高めたのだった。