処女検査を受けた日からしばらく。
この日の夜もソフィーは最近日課になりつつある行為に励んでいた。
姿見の前に立つ彼女の格好は、貞淑さを求められる女性にあるまじきものだった。ワンピースタイプのネグリジェを捲り上げ、下半身を晒しているのだ。
ショーツは床に脱ぎ捨てられており、剥き出しの女性器を鏡に写している。指は陰唇を開くように添えられていた。完全に検査の時の姿そのものである。
検査から十数日が経ってもソフィーはあの日の興奮を忘れられないでいた。それどころか、一度火をつけられた性的なことに対する関心は日に日に強くなっている。それに比例して彼女の行為も少しずつ大胆になっていった。
最初の数日は鏡の前で下着を露出させるくらいで満足していたのだが、今では女性器を晒すことに躊躇がなくなり、いつ誰かが訪ねてくるか分からない緊張感を楽しむようになっていた。
ソフィーは鏡に写るあられもない姿の自分を見て頬を染める。大陸で一番綺麗だと言われ、国民からも慕われている自分が部屋でこんな事をしている。それは国民の期待を裏切っているような気がして、彼女をイケナイ気持ちにさせた。
今の格好にも物足りなさを感じてきたソフィーは、ゆっくりと脚を外側に開いていく。より秘部がよく見えるように腰を前に出し、少しガニ股になった彼女の姿は、とても人に見せられるものではなかった。
(あぁ……端たない……っ。こんなの誰かに見られたらお終いね……)
心の中でそんな事を考えながらも、彼女の顔はこれ以上ないほど上気し、濡れた瞳も愉しげに揺れている。誰もが讃える自分を辱め、その価値を貶める行為が気持ちいいのだ。
しかし、その屈辱とも言えるガニ股姿もしばらく続けていると慣れてしまう。そうなると更なる刺激が欲しくなるのだが、性知識の少ないソフィーにはあの日に経験した以上の事は思い付くことが出来なかった。
(……ここの穴は、ちょっと触るのが怖いわ)
膣の穴を神父の指で軽く撫でられたことを思い出すが、流石にそこが大切な場所だと知っている彼女は自分で触ることを躊躇する。そうなると残る場所は一箇所しかなかった。
陰毛の下部にある陰核。
ずっと疼いていたその場所をソフィーは指で触れる。そして訪れる微かな痛みと快感は彼女が求めていたものだった。
「ん……気持ち、いい……」
ソフィーの指は包皮の上からクリトリスを刺激し、その度に口からは甘い声が漏れ出した。
──その夜、幼い姫は初めて自分で自分を慰めることを知ったのだった。
★
「いたっ……」
ソフィーがクリトリスオナニーを知って一週間が経った頃。彼女は秘部にチクチクとした痛みを覚えていた。鏡で確認すると陰核が少し赤くなり、炎症を起こしているのが分かる。
連日痛みを伴う自慰を繰り返してきたのだから当然であった。白くて綺麗だった陰核の周囲が、無惨に腫れている様子を見てソフィーは少しショックを受ける。
赤くなった突起を指先で触るとジンとした痛みがあり、いつものように擦って刺激するのは躊躇われた。
「やっぱりここは触ってはいけなかったのかしら……」
性知識に疎いソフィーには、恥ずかしい場所に出来たこの腫れが放置していいものなのか判断が付かなかった。恥を忍んで誰かに相談するべきか、それとも数日様子を見るか。
「あ……」
しばらく悩んだ彼女は、ふとある事に気付いた。もし誰かに相談した場合、実際に秘部の様子を見てもらうことになるだろう。そうなると、またあの検査の時のように誰かの前で下着を脱ぎ、大切な場所を割り開かなければいけないのだ。
そして赤くなった陰核を見られ、自分が夜な夜などんな卑しい行為に励んでいるかを知られてしまう。普段は真面目な王女として振舞っている自分が、恥ずかしい場所を触って快感を得ていると知った相手はどう思うのだろうか。
(失望されるかしら……それともあの神父様のようにギラギラした目を向けてくるのかしら……)
それを想像した瞬間、ソフィーの胸はドキドキと高鳴った。彼女にはもう自分を憂鬱な気分にさせていた陰核の腫れが、誰かの前で陰部を晒す為の免罪符のように思えてきたのだ。
そうなると今度は誰に見てもらうか悩み始める。一番無難なのは身の回りの世話をしてくれるメイド達だろう。同性の年長者であるので身体の悩みとして訊ねやすいし、案外簡単に解決策を用意してくれるかもしれない。
しかし、若干目的と手段が逆転し掛けているソフィーはメイドを候補から外すことにした。日頃から着替えを手伝ってくれる彼女達には、下着姿までなら何度も晒している。だから彼女達が自分の身体を見ても何も感じないことは分かっていたからだ。見せるなら情欲のこもった視線を向けてくれる相手がよかった。
それに何かとおしゃべりな彼女達に見せてしまえば、自分の夜の秘事が城中に知られてしまう気がしたのだ。
(……男の人がいい、かも……)
ソフィーは神父の目を思い出しながら、頭の中で次の候補を探す。身近な男性なら護衛の騎士達がいる。彼らなら美しい王女の身体にも興味を示すだろう。特に新人のマルクなど、ソフィーを異性として意識しているのが丸分かりであるので、彼女の裸に興奮を隠せないに違いない。
股を開いて大切な場所を余す事なく晒す自分と、それを凝視する若い騎士。その光景を思い浮かべたソフィーは自分の頬が赤らむのが分かった。それはきっと最高にドキドキするはずだ。
──しかし、当然ソフィーは騎士に見せる案も却下する。
秘部の腫れを男性である騎士に見てもらうなんて意味不明だからだ。女のソフィー自身が分からないことを男性が分かるはずがない。それでは完全に異性に裸を見せ付けたいだけの痴女にしか見えないだろう。正にその通りなのだが、相手にまでそれを知られるのは彼女的には問題外だった。
ソフィーは身体のことに詳しくて口が堅い、そんな都合の良い男性はいないかと考える。そして、その条件に合う人物が城内にいる事を思い出すとすぐに部屋を出るのだった。
★
ジュール・モネはリュミエールの城で働く医師である。彼は今日も小さな医務室で暇を持て余していた。
32歳という若さでこの職に就いたことは彼の誇りではあるのだが、日に数人しか来ることのない患者を待つだけの日々を、彼は退屈に感じていた。
宮廷医と言えば通りは良さそうだが、彼の仕事は訓練で傷を作った騎士や体調不良の使用人の対応をする程度のもので、高度な医療知識が必要になることは皆無だった。
王族が病気になった時には外部から高名な医師が呼ばれるし、使用人達も重症であれば掛かりつけの病院を頼るのだから彼の仕事が応急処置の域を出ることはない。
今日も包丁で指を切った料理人が一人来ただけだ。もしかしたら今日の仕事はそれで終わりかもしれないな、と考えながらコーヒーを飲んでいた彼は「トントン」とドアがノックされるのに気が付き、慌てて立ち上がった。
「騎士の訓練の時間には早いし、メイドの誰かだろうか」と思いながらドアを開けたジュールは、そこに立っていた予想外の人物を見て一瞬固まってしまう。
「ソフィー王女……?」
何度か遠目に目撃したことのある彼には、その美しすぎる少女が誰であるかすぐに分かった。リュミエールの至宝と呼ばれる、この国で最も有名な王女だ。
その妖精のような容姿の少女は緊張した表情でジュールの顔を見上げていた。自分に向けられた宝石よりも美しい碧い瞳に、見惚れそうになりながらも、彼はなんとか職務を全うしようとする。
「ソフィー王女、こんな場所にどういった用事でしょうか……?」
「突然すみません。その……身体が腫れてしまいまして、モネ医師に診てもらいのです」
「はあ……腫れ、ですか。分かりました。えっと、ところで付き添いの方はどちらに?」
「……私一人です。出来れば誰にも知られたくなくて……」
「な、なるほど……」
憧れの姫と直接会話出来た興奮と、彼女に自分の名を知ってもらえていた喜びを感じていたジュールだったが、王女が最後に告げた一言を聞き、困ったように視線を彷徨わせる。
彼はチラッと自分の背後にある小さな医務室を振り返り、そしてまた目の前の可憐な姫君を見た。
(──王女をこの汚い部屋に入れていいのか? いや、それよりも──)
ソフィーは未婚で、しかもこの上なく高貴な存在である。そしてジュールは男。たとえ医療行為が目的であっても密室に二人きりになるべきではなかった。
中で何も起きなかったとしてもソフィーの経歴に傷が付く可能性があるし、いくらでも代わりのいる木端医師のジュールなんて職を追われてもおかしくない。
淑女としての教育を受けてきたソフィーにもそれは分かっているハズなのだが、処女検査を神父《男性》と密室で行った記憶が強い為に、しっかりとした理由があれば良いのではないかと思ってしまっていた。
「あの、モネ医師……?」
固まったまま動かないジュールを、ソフィーは不思議そうに見つめる。その姿は大変可愛らしく、彼は諦めたように溜息を吐くと王女を室内に招いた。
彼女が自分以外には誰にも知られたくないと言うのなら、それを叶えてあげたくなったのだ。それに、憧れの姫と二人きりになれるという誘惑にも抗い難かった。これで無職になるのならそれも仕方がないだろう。
少し躊躇しながらドアを閉めたジュールは、診察用の椅子にソフィーを座らせ、自分もその対面に腰掛ける。