男は当たり前のように新しいコンドームを装着する。母さんは文句を言うどころか「うつ伏せになって」という男の命令に当たり前のように従って、ベッドの上でころりとひっくり返った。
男は母さんの脚をずるりと引きずり下ろし、腰を使いやすい高さに上げさせる。反った背筋はほっそりとしている。
自らに差し出された母さんの尻……その女性器に、男は何気ないふうに指を挿し入れた。それだけで母さんの性感に再び火が入り、「はぁアンッ……」と切なげな媚声を出す。
「まだ欲しいだろ?」
「はい……」
「犬みたいに犯してって言って」
「い……犬みたいに、犯してください……」
「もっと大きな声で」
「っ……、いっ……犬みたいに……! 犯して……」
大きな声を出そうとするが、恥が勝って尻切れになる。
パァンと乾いた音が響いた。男が母さんの尻を叩いたのだ。ぺちぺちと尻たぶを叩きながら、もう一方の手で濡れそぼった隙間から、母さんの内側をクチュクチュ刺激して理性を削り取っていく。
「欲しくねえのか?」
「ほ……ホシいです……」
男は母さんの髪を掴むと無理矢理顔をあげさせた。
「だったらちゃんとオネダリしろ!」
「あアハぁあ……!」
潤んだ瞳で男を見返る。一瞬、目が合った気がしたが、母さんの瞳に僕は映らない。
「あ……私、の……年増マンコを……あなたの立派なおちんちんで、いっぱい、メス犬みたいに犯してくださ――アああァアあンンッッ!」
言い終わる前に、男は母さんの奥まで一気に突き入れた。
「ア、ハぁあ………! これへぇ……やっぱ、スゴ……キクぅ、ふ、ンんぁ……!」
ぎゅっと握りしめられたシーツの皴が、母さんの快楽を物語っていた。
「オぐっ、イいのっ! オッ、おオホぉ……そッ、こォオ………。あ、ハはァ、もっと、もっとぉ……イイのぉ……。あッ、イイ! もっ、オっ、それぇッ! あっ、ハァああ……あー……ンぁあっ!
まさしく動物の交尾のように、母さんは悦楽にむせび泣き、男は女を味わっているばかりだった。愛や信頼の表現などではない、肉欲を貪り合うだけの原始的な、だからこそ究極的な性行為だった。すべての虚飾や倫理を剥ぎ取られて男を受け入れる母さんは、きっともう取り戻せないのだと悟った。僕の母さんなどではなく、あの逞しいオスの物なのだと思い知った。
「ああっ! そこほオオぉッ! おぉおおオッ……!」
男が強く腰を打ちつけるたび大きくなる母さんの喘ぎ声から僕は逃げ出した。鼓膜に焼き付き、脳に刻み付けられた母さんの、どうしようもない女の声が、いつまでも後を追ってくる気がして、僕はあてもなく日が暮れるまで歩き続けた。
玄関先で凍り付いた足を、ようやく動かして家に入った。いつもより重いドアを開けると、間接照明の優しい灯りが、どこか暗く感じられた。
脱いである靴は、母さんの物と、姉さんと妹の物だけ……つまり、家族の分だけがきちんと揃えられていた。
それでも僕は呼吸が嗚咽になりそうな苦しさで、転びそうになりながらリビングへ向かった。
ドアを開けると、眩しいほどの光に目がくらむ。ゆっくり目を開くと、姉さんと妹はソファに並んで座り映画を見ていた。どちらもこちらに顔を向け、
「あ、おかえりー」と、姉さんは優しく微笑む。
「遅かったじゃん。遊んでて大丈夫なの」と、妹が意地悪そうに笑う。
いつも通りの……僕の知る日常風景だった。
「……ただいま」
なんとか口にして、視線を二人と反対へ向ける。
対面式のキッチンがあって、母さんがそこで夕食の調理をしている。
「おかえり」
いつに変わらぬ母さんだった。柔らかな雰囲気で、優しい瞳で見つめてくれる、僕の知っている、僕の母さんだ。
羽織ったシャツの中で、それとなく形を主張するサマーニット。動くたび上品に揺れるロングスカート。家を出る前と同じ服。化粧をしたみたいに美しいすっぴん。ひょっとしたら全ては夢だったのではないか……なんて、考えてしまう。
「ただいま」
返事をする僕を、小さく手招いた。近寄ってそれとなくにおいをかいでみるけれど、醤油の香ばしさしか感じない。夕飯は鶏の照り焼きらしい。
母さんはちらりとリビングの二人を見てから、
「大丈夫だからね」と、僕を安心させるように微笑んだ。
「あの人……優奈の彼氏さん、わかってくれたと思うから」
「あ……うん……」
「もしまた何かあったら、お母さんに言って。力になるから」
「……うん」
「だから孝之は心配しないで、受験勉強に集中してね」
優しい母さんの言葉にぞっとした。
もし――もしも志望校を地元の大学にしたいと言ったら、母さんはどんな反応をするのだろう。喜んでくれるだろうか、それとも東京行きを勧められるのだろうか。母の愛を確かめるために、僕はそれを口にしたかった。
けれどもそうしなかったのは、フライパンでジュージュー焼ける鶏の美味しそうな匂いの底に、かすかに煙草の臭いがあったからだ。僕はそれに臆してしまった。
「ありがとう」
笑顔を繕ってリビングを出た。ふらふら階段をのぼって自室へ逃げ込もうとした足がふと、母さんの部屋の前で止まる。
ドアは閉ざされている。家族はみんな、リビングだ。
何かに憑りつかれたように、僕の手はドアノブを回していた。
室内は窓からの明かりで薄明るい。
じっとり濃厚なオスとメスのおいが充満していた。
化粧台のわきのゴミ箱に、ティッシュと使用済みのゴムが捨てられていて、それだけではなく部屋のあちこちに落ちている。母さんの下着が一対、ゴミ箱の陰に置かれている。乱れたままのシーツには大きなシミ。たぶんそれは、母さんが出したものだ。饐えたような甘いような香りに僕の男に突きささった。ズボンの中で、痛いほどに主張していた。どこにあったのか、化粧台に灰皿がおいてあった。
染められていく。染みついていく。
ひとつ、またひとつと、母さんたちの日常が、あの男に染められていく。それよりもずっと早く、深く、体の奥底、魂そのものに、男が刻み付けられてしまう。
ふと、ベッドサイドチェストが目に入る。飾られた家族写真。そこに使い終わったコンドームが引っかかっていて、溢れ出した精液の垂れた跡がついている。
ここはもう……僕の家などではない。
見知らぬ男を迎えるために、女三人が設える巣なのだ。