小康
「どう思うかね、小島水色君」
「どうなんでしょうか、浅野啓吾隊長」
「なんだか空気がおかしいとは思わないか」
「思います。特に一部からとんでもない怒りが感じられます」
昼休みの教室を見回して、啓吾と水色は肩を並べて難しい顔をしていた。普段と変わらぬ態度でふざけられる程度には余裕がある一方、如何ともしがたい問題に直面している。
今日に始まったことではない。
およそ一週間ほど、状況が変化することなく続いている。いよいよ息苦しさを覚えて無視できなくなってきたのだ。
「どうも空気が重い気がするんだが」
「そうですね。そう思います」
「特に有沢が、その、びびって声もかけられないくらい怒り散らしている」
「あれはもう鬼ですね。睨むだけで殺せそうです。先週から先生も声をかけられてません」
教室の一角、自分の席についている有沢竜貴は、抑えようとしているのだが全身から発せられる怒気が抑えられていない。周囲も気遣って声をかけられずにいて、日頃の友人ですら事情を聞くことさえできていないようだ。
傍には親友と呼んでも差し支えない井上織姫が居て、何かと機嫌の悪い竜貴に声をかけ、普段通りに過ごそうとしている。事実、彼女自身は心配する一方でさほど気にしていないように見えた。
声をかけるのは当然無理として、考えることさえ嫌になる。
以前までは何も考えずに平然と話していたのに、ここ数日は気付けば会話していない。啓吾は友達が離れていく気がしてううむと唸るのだが、水色はさほど気にしておらず、むしろこの状況を楽しむ様子だった。
「理由が知りたくて堪らないんだが、声をかけたら間違いなく殴られるな」
「確かに。その通りです」
「しかし井上さんは可愛いな」
「もう注意逸れた」
「有沢が機嫌悪いのはそんなに珍しくない感じもする。まあそんなキャラだしな。しかしそれでも健気に話しかけて近くに居る井上さんがいいじゃないか」
「ちょっと気持ち悪い見方だね」
「気を使ってるんだろうけど仲はいいし寂しいし、そっとしておいた方がいいかもしれないけどやっぱり近くに居たい。なんて一途で可愛いんだろう。あぁ、あの相手が俺だったらな……」
「もう向こう行っていい?」
流石に付き合い切れないと思ったのか、水色は避けようと少し遠のいた。
慣れているようで啓吾は微塵も気にしていない。
ため息をつきながら改めて見回す啓吾を見て、水色も踏みとどまって話に付き合う。
「しかしどうしてこう殺伐としてるかね。一護もなんか難しい顔して付き合い悪いし、チャドもなんとなくテンション低いし、クラスのみんなも気ぃ使ってるし。朽木さんだけだ。いつも通り、いやいつも以上に美しいのは」
「美しさは関係ないけどね。でも今回ばっかりはそれもわかるかな」
「そうだろ? クール&ビューティー&キューティーなんだよ」
「それはもういいから」
冷たく言い放って水色は考えてみる。
タイミング的には朽木ルキアが絶好調になった日と道野双葉が絶不調になった日、それを学校でみんなが知った日はきれいに重なっている。そして翌日、竜貴はああなっていて、それがしばらく悶々とした状態で続いていた。
察してはいるものの、流石に大っぴらに言う気にはなれず、ひとまず黙っている。
双葉は友達だ。一護を通して仲良くなったし、信用もしている。
幸せになってくれたらなと素直に応援する気持ちなのだ。嫉妬に狂いそうな啓吾とは違って。
「やっぱり双葉なのかなぁ」
「やはりそう思うか小島水色隊員!」
「もうそれやめて。さっきので君の隊抜けたから」
「双葉の奴は、色恋なんて興味ございませんみたいな顔して、今までほとんど恋バナにも乗ってこなかったし、好みの異性のタイプなんか言われてもわからんとか言ってたのに、最近になってどうも急激に怪しいんだよ! しかもその相手がく、くっ、朽木さんだとぉ!? 一体何がどうなったらそんな世界線になるんだええおいっ!?」
「みっともないからやめなよ。みんなリアクションしたくてもできないんだからさ」
大声で騒ぐ啓吾を無視するのは至難の業だろうに、誰も何も言わない。あからさまに機嫌が悪い竜貴を恐れている。教室内は驚くほど静まり返っていた。
当人の竜貴も周囲に意識が向いていないらしくちっとも反応しない。普段と違って呆れることも睨みつけることもせずに、織姫とは何か話している様子だ。
不穏な雰囲気は払拭されぬまま、なんとなく居心地の悪い時間だ。
「真偽を確かめに行こう! 双葉はどこだ!」
「居ないよ。さっき顔見に行こうと思ったけどどっか行ったらしいから。ちなみに朽木さんも見当たらないね」
「ちくしょう!? 俺だって、俺だって女の子と昼休みにどっか消えてぇよぉ~!」
「その分じゃしばらく無理そうだね」
騒ぐ啓吾を遠くから眺めて、一護は眉間に皺を寄せている。日頃から顔が怖いと言われがちな彼だが今は隠すつもりもなくはっきりと呆れていた。
偶然傍に居たチャドも同じく眺めて近付こうとはしない。
「……あいつら、元気だな」
「ム……まあ、心配する必要がないのはいいことだ」
教室が落ち着かない空気に包まれている頃、早々に抜け出したルキアは、別のクラスに所属する双葉を呼び出して、体育倉庫に隠れていた。
「学校と言えば体育倉庫だろう」と主張する彼女に連れられて、何をするのかは詳しく聞かなくても予想することができた。
昼間とはいえ窓から差し込む光はわずかで薄暗い。
物陰に隠れるようにして、二人は抱き合って座っていた。背中を壁に預けて、胡坐を掻いた双葉の上にルキアが尻を置き、すっかり躊躇いなく顔を近付けている。
正面から抱きしめ、何度となくキスを繰り返していた。
大半の時間、敢えて動くことも少なく、ただ唇を触れ合わせたままでじっとして、たまに思い出したように弱々しく吸い、首の角度を変えてまた押しつける。そんなことをずっと続けている。
どちらも飽きる様子はなく、キスは穏やかだが、反対に体を撫でる手の動きは些か落ち着きがなかった。服の上から相手の体に触れ、するりと怪しく撫でている。
ルキアのそれには明らかな意思が含まれていて、服の下にまで侵入し、時折彼の乳首を指先で転がそうとする。双葉は必死に回避しようと身をよじった。
反面、彼女の首筋や背中を撫でて、負けじと服の下にある肌を直接撫でてもいて、しかし決して一線を越えようとはしない。
ルキアは学校でしたがっていたが、双葉がそれを拒んでいた。
確実に一回や二回では済まない。端的に言えば怖いのだ。
「んんっ、ふぅっ……はぁっ。なぜ逃げる」
「だから、やり過ぎはだめだって、言ってんだろうが」
逃げる素振りの双葉をルキアがむっとした顔で問い詰める。
何を今更とは思うのだが、彼はあれこれ心配していて、細かいことを気にしてやまない。
意見は完全に対立していた。
「私だって馬鹿じゃない。やり過ぎるわけがないだろう」
「そう言ってトイレに連れ込まれて、後処理が大変だっただろ……」
「あ、あれは……忘れる必要はないが、そういうこともある」
「そういうことがあるとまずいから言ってるんだ。誰かに見られるかもしれないし」
「見られるものか。体育倉庫だぞ?」
「その信頼は何なんだ?」
むしろ見つかりやすいだろうと思うのだが、ルキアはちっとも恐れていない。
以前に学校の個室トイレへ連れ込まれた時もそうだった。バレることは望んでいないがスリルを感じて興奮している。どこか楽しそうに見えるのはそのせいだろう。
呆れる双葉はため息を禁じ得ず、不服そうな顔でルキアは腕に込める力を強くした。
「嫌がってないんだから、別に家でゆっくりすれば――」
「ええい、うるさい口だな」
再びルキアが唇を奪う。今度はすぐさま舌を入れて、ぐるりと彼の口内を巡った。
水音を立てて唾液をすする。
舌を捕まえてフェラをするように強く吸った。
嬉々として普段通りに振る舞い、手加減を一切しないルキアに、双葉は即座に黙らされた。キスさえすれば彼が黙って受け入れることは今までの経験からわかっている。強引に奪いに行くことが多いのは、敢えて言葉にして伝えないが彼の習性を知っていたからだ。
口を離してぷはっと息をした時、双葉はすでに拒む素振りはなくて、目つきが変わってとろんとしている。
態度こそ普段と違わないように思えるのだが、キスをするだけで明らかに違う。
ルキアは密かにだがふふんと勝ち誇り、彼の唇の端を舌先でそっと舐めた。
「時間だって、あんまりないぞ」
「その気になればすぐ出せるだろう?」
「俺は、ゆっくりするのが好きなの」
「知っているさ。いつも相手にしているのは私だぞ」
彼の顔にキスの雨を降らせながら、ルキアは些か乱暴にも思える様子で双葉の体を撫でる。
頬から首筋へ。わざと乳首に触れて胴体を降りていき、シャツの下に潜って脇腹に触れ、さらに下りるとズボンの中へ入り込もうとする。ベルトを外してボタンを開け、チャックを下ろす仕草に躊躇いは一切感じられなかった。
下着の中へ入って、勃起しているペニスの先端を指先で摘まれる。
「ふふふ。なんだかんだ言いながらすっかりその気じゃないか」
「そのつもりで触ってくるからだろ。正常な反応なんだ」
「そうだな。こうなった以上、発散しなければ教室には帰れないな」
静かながらうきうきした様子はよく伝わって、力を入れて強引にズボンと下着を下ろして、ペニスを外部へ引きずり出す。
晒されたそれはルキアの手で撫でられた。すっかり手慣れた様子であり、触れるか否かという優しいタッチも、痛みは感じないが力強い触れ方も、今や思うがままに操る。
亀頭には絡みつく糸のように繊細に指先で、裏筋には指の腹をぎゅっと押しつけ、それより下へ行けば竿を掴んで皮を下ろすようにぐっと下へ力を加える。
双葉は深く息を吐き出し、ルキアはその表情を見て笑みを深めていた。
されるばかりではなく、応じた双葉も手を伸ばし、スカートの下へ手を忍ばせる。
白い淡白なショーツの上から、小さいが丸い尻を撫で回して、さらにその奥にある秘部へ布越しに指の腹を押し当てた。力を加えれば、彼女も反応して身を捩る。
双葉はしばし、尻や背中を撫でて時間を使ったが、時折彼女が待ち望むそこへ触れた。
ルキアは些か不満そうな態度でもあるものの、あまり火を点けると離してもらえなくなる。気をつけながらもある程度は喜ばせないと後が怖い。難しい状況だ。
「んっ……自分だけ気持ちよくなるつもりか?」
「だって、汚れたりしたらさ」
「案ずるな。こういう時のためにティッシュもウェットティッシュも持ち歩いている。それに下着は大抵濡れているからさほど変わらない」
「妄想し過ぎなんだよなぁ……」
呆れて呟く間もルキアの手はペニスを撫でて、にちゅにちゅと漏れ出した体液が絡んでいやらしい音を奏でている。
双葉も負けじと、誘いの言葉も手伝い、下着の中へ手を突っ込んでおまんこに触れる。興奮して濡れているそこは確かにショーツまで濡らしていた。
膣の入り口を指先で弄り、わずかに腰を揺らす。
どこまでしていいものかわからない。しかし始めると抑えが利かなくなるのは双葉も同じだ。
少しだけとは思いながらも、触れてしまうと指を挿入していく。ずぶずぶと呑み込まれていって柔らかい肉に包まれる。指を動かせば、ルキアはんっと小さく声を漏らした。
「んんっ、はぁっ……はっ、あぁっ」
「ふぅ、早く……終わらせないと」
「ん、そう、急ぐな……あんっ、あっ」
お互いの性器を必死に触り合う。
刺激は徐々に強くなっていき、呼吸はだんだんと乱れていった。
昼休みの終わりが気になり、双葉は早めに終わらせたがっている様子だが、ルキアはそれを拒む様子でいつも通りに過ごそうとしている。
「ふぅ、どうせ、一回出しただけでは満足できないだろう? んっ、はっ、こうなった以上は、最後までするしかないぞ」
「いや、まだ授業あるし……」
「一時間くらい、んん、平気だ」
「そんな勝手な……ふぅ、んっ」
せっかくの機会だ。漫画や小説や動画、様々な媒体で情報を集めた結果、体育倉庫はそういった行為の温床だと知っている。ルキアにしてみれば、なぜ双葉が興奮していないのだろうと不思議でならない。
すっかり興奮しているルキアはますます乗り気で、考えるだけで熱くなってくる。
顔を寄せてきて唇を舐めてくるあたり、相当に抑えられなくなっているのだろうと、双葉も諦めるつもりで理解していた。
いつしか言葉を交わすのも忘れて黙り込んでいる。
行為に集中して、手慣れた快楽に耽る。
焦っていた双葉も熱中し始め、ルキアのために膣内をゆっくりと掻き回していた。
すでにびしょ濡れだがこのままでもまずそうだ。双葉がルキアのショーツを脱がして、双葉も下着とズボンをまとめて脱いだ。
ルキアの手が激しくペニスを扱いて、双葉の指が膣から大量の愛液を掻き出してくる。
やがて双葉も堪らず射精し、びゅっと飛び出した精子が床を汚した。
「あっ、んんんっ……! はっ、はっ……ふ、ふふふ、イッたな」
「う、うるさい……そっちだって、イッたくせに」
どちらも脱力して、ぐったりした状態で互いの性器に触れたまま動かなくなる。
すっきりしているが満足もしていない。いつもならこのまま何度も繰り返す。
結局はルキアの言った通りなのだと双葉も自覚せずにはいられなかった。
「イッてない。私は、イッてないぞ」
「嘘つけ。ただの、強がりだろ」
「強がってなどいない」
「この前勝負した時だって俺より先にイッてた」
「あれは、始めるタイミングが違ったから不公平だ」
「じゃあ今から勝負するか?」
双葉がちらりと顔を見た時、視線が合ったルキアは驚き、すぐに笑顔になる。
わくわくして、ドキドキしてもいて、彼女は見るからに身を乗り出した。
「いいのか? 午後の授業に出られなくなるぞ」
「まあ……その、まだちょっと、な」
「ふふふ」
ルキアが握っているペニスは、一度射精してもまだ硬いまま。
当初の考えとも違っているがやはり我慢はできない。こうなってしまうと授業をすっぽかしてでも発散しなければ、このまま帰っても勃起している姿をクラスメイトに見られてしまう。
そんな言い訳を考えながら、双葉は膝に乗ってくるルキアを受け入れ、腰に腕を回して早速挿入しようと協力する。
「今度は雌雄を決してやろう。手加減は抜きだぞ」
「よく言うよ。いっつも先にイクのに」
「イッていない」
ちゅっとキスをして、ゆっくり腰を下ろしてくる。
ルキアはゆっくり息を吐き出して、双葉は彼女を強く抱きしめた。
願わくば誰の邪魔も入りませんように。
そう思いながら鳴り響くチャイムの音を聞いて、二人は息を合わせて動き始めた。