手錠とボールギャグを外してもらった双葉は幾ばくか落ち着き、しかしいまだに拗ねた表情を変えようとはしなかった。
拗ねていようと何だろうと、別に構わないと言いたげに両頬を掴まれて、べろりと唇を舐め上げられているが、それでも彼は憮然としたままだった。
ルキアは唐突にぽつりと呟く。
「実を言えば、なんとなく察していたところがある。直接話を聞いたわけではないが、普段の素振りや反応から近いものを感じるというか。もしやという気はしていたのだ」
今更そんなことを言われても、すでに双葉は諦めている。全身から力を抜いて、煮るなり焼くなり好きにしてくれと言わんばかりの無抵抗だ。
もう遅い。遅過ぎるのだ。一線は越えてしまって、何をどう言い訳しても避けられない。
執拗なまでに唇を舐めてくるウルルをそのままにして、双葉は白い目をしていた。
「だからといってわざと呼び込んだわけではないぞ? 忘れ物をしたのは本当で、彼女が持ってきたのもただの偶然だ」
「いや……もう、どうでもいいんだけどさ」
双葉が口を開いたのを感じると、すかさず舌が差し込まれ、おずおずと躊躇いを感じる動作だが口の中へ侵入してくる。
どうやらキスが気に入ったらしく、ウルルは双葉の顔を掴んで離さなくなってしまい、すでに五分以上も唇をくっつけたままだった。
初めこそ弱気な素振りが感じられたが、それもすぐに忘れて大胆になる。
舌を絡めて、絡まったまま縦横無尽に動き、それでもなおウルルは離れようとしなかった。
本人が語ることこそなかったものの、ウルルもまた抑えきれない衝動を抱えていたのだろう。
こっそり袋に詰める商品を抜き、後になって届けに来たのも、もしかしたらと考えてのことだ。
予想通りの展開になって、もはや自分の意思では止められなくなっているのも、当人が理解することはないがルキアとそう変わらなかった。
ルキアもまた、自らの欲求を優先するあまり、純粋に喜んでいる様子である。
多少の興味を抱きながら、流石に実現はできないだろうと思っていた念願が叶い、想像していた光景を目の当たりにしたことですっかり有頂天だった。
「んっ、ちゅるっ……意外にも同性も平気だとわかったし、得た物は多かった」
「俺は何かを失った気がするよ……」
「そうか? おかしな奴だな。ハーレムは男の夢だろう」
「そう思うならせめて俺に望ませてからにしてもらえるかな」
ぐったりしている双葉は今もまだウルルに唇を舐められている。
同時にルキアにペニスを舐められていて、薬を飲んだ影響か、いまだに元気に勃起していた。重点的に裏筋を責めてくる彼女の舌により、意識せずとも時折呼吸が乱れる。
どんな状況であっても素直に感じてしまう自分が恨めしい。それどころか、罪悪感を覚える現在もどんどん射精が近付いていた。
「そう言いながらも、体は正直ではないか」
「くぅ、ううぅ……!」
「遠慮するな。いつものように思い切り出してしまえ」
言いながらルキアは竿を強く握り、力を込めて激しく扱いた。すでに弱い部分は熟知されているようで、身構えていてもせり上がる射精感は抑えられない。
情けない声を漏らした双葉は思わず射精してしまった。
勢いが衰えずに吐き出される精子は、一切躊躇わずにルキアの顔を汚して、口を開けて伸ばされた状態で待ち構えていた舌の上に乗る。彼女はそれを一息に呑み込んでしまって、いつものように余裕を窺わせた顔で、どこか妖艶に微笑んだ。
ふーっと深く息を吐いて全身の力を抜く。
その間もウルルに唇を舐められていて、すぐにルキアがペニスを指先で支えて口を近付け、ぺろりと舐めて付着している精子を舐め取った。
射精してもすぐにこれだ。落ち着く暇などありはしない。
本当に、どうしてこうなってしまったんだろう。
いつぶりだったか、久しぶりにそんなことを考えて気落ちしてしまう。
窓を見れば以前の日々を思い出す。外はすっかり暗くなっていた。
「あー……もう夜か」
「むっ、もうそんな時間か。時が経つのは早いものだな」
ピンと閃くものがあった。
そもそも、状況のせいで忘れそうになるがウルルは客人であった。この家には住んでいない。今更色々遅い気もするがひとまず落ち着く必要がある。
そろそろ帰ってもいいのではと思い、双葉は尚も唇を求めるウルルの顔を優しく掴み、至近距離で見つめながらようやく声をかけた。
「あ、あのさ、遅くなると家の人が心配するだろうし、もう帰った方がいいんじゃない? 別に帰ってほしいとかそういうのじゃなくて」
「今のは余計な一言だろう」
「う、うるさいな。しょうがないだろ。俺の心に来るダメージが半端じゃないんだ」
「今更、生娘でもあるまいし……」
「それとこれとは話が別!」
口を挟んでくるルキアに言い返しながら、双葉は改めてウルルの目を覗き込んだ。
こうしてきちんと視線を合わせるのは、店で会って以来、初めてかもしれない。もっと真摯に頼んでみれば結果は違ったのか。そう考えた直後、縛られ、喋れなくされて、無理やりに犯される自分の姿を思い出してやっぱり無理かと判断した。
死んだ魚のようになっている双葉の目を見つめて、ウルルはじっと目を離さない。
発言こそないが、あからさまに嫌がっていて、見るからに残念がって離れようとしない。目は口よりも雄弁と言うがその通りだと実感する。懇願するように見つめてくるのは、彼女が幼くなくとも辛いものがあった。
隠しようもなく困惑する双葉の胸中はさらに複雑な様相となっていたようだ。
「あの、でも、家族の人とか心配するし……」
「何も言っていないぞ」
「い、言われてるような気がして」
柔らかくなったペニスをちゅぱちゅぱと弄んでいるルキアは我関せずといった態度だ。普通なら家に帰るのだろうと思いながら、このままここに居ていいとも考えている。どちらに転ぼうとも新たな刺激を得て、好奇心に突き動かされる彼女が困る展開はなかった。
困っているのは双葉ばかり。それは本人も自覚していた。
この状況はまずい。
なんとかしなければと必死に思考を巡らせる。
味方が居ない今、なりふり構っている場合ではない。彼は混乱していた。
ウルルの頬に優しく手を添えて、自らの意思で、そっと唇を重ねる。目を閉じて、恋人にするみたいに優しいキスをした。その行動にウルルがわずかに目を見開いた。
何も考えていないに等しい行動だった。後先などもはや考慮できていない。
それでも状況を打開できるはず、という考えは間違っていなくて、恐る恐る唇を離した時、ウルルの目つきが変わっているのを見て結果を思い知った。
「えっと……また来てもいいから、今日のところは、これで」
「……うん」
なんとなくまずいことを口走ってしまったような気がしながらも、どこか満足そうで、恋する少女のような顔をするウルルが頷き、抱きついてきたのを見てひとまず安堵する。
今日のところはなんとかなった。それは確かなのだ。
「墓穴を掘ったのではないか?」
「う、う、うるさいっ。誰がどの口でそんなことを……!」
「怒るな。言っておくがこの子も普通の娘ではない。細かいことは気にするな」
「お前は鬼畜か」
力強く抱きついてくるウルルをぎゅうっと抱きしめ返してやりながら、双葉は流石に呆れた目を変えることはできなかった。ルキアに向けられる視線は些か刺々しい。
そうは言いながらも彼のペニスは刺激を受けて硬くなりつつあり、そんな自分に嫌気が差す。
大きくため息をついて、気が変わる前に動き出そうと、意を決して立ち上がった。
「そんなに遅くない、とは思うけど、結構暗いから送ってくよ。あーできるなら家族の人とは会いたくない」
「私も行こう」
「えっ」
「案ずるな。どうしても会いたくなければ店の前で別れればいい。とはいえ、暴漢に襲われても叩きのめすくらいは訳ないだろうがな」
「まあ、一応な……一緒に行くのはいいけど、外では何もしないぞ」
「な、なんのことだか」
微妙に焦るルキアに嫌な予感を覚えるが、聞かないことにして会話をやめた。
今度は抱きついて離れなくなったウルルを必死に説得し、体を洗うためにシャワーを浴びる。
風呂場へ移動して、ともすればいやらしい手つきで体を撫でてくる二人から必死に逃れようとしながら失敗し、またしても射精させられてしまった。
「あぁっ、うぅっ、だめだっ、てぇ……!」
「んふふふ。そう言いながら体は正直だな」
うんうんと頷くウルルと共に、ルキアが激しく手コキをしていて、我慢できずに精子を放つ双葉は恥ずかしげに顔を逸らしていた。
今更、とは言われても、どうしたって恥ずかしさで顔が熱くなる瞬間がある。それが、ウルルのような幼い少女の手で一方的にイカされてしまったのなら尚更だ。ようやくルキアに慣れてきた頃だというのに新たな刺激を与えられてしまって、余裕を取り戻すことができなくなってしまった。
その後も、一旦シャワーを止めてパイズリを試みようとする二人に亀頭を乳首で擦られ、小さな膨らみに挟まれて、またも射精してしまう。
責められ続けてすっかり弱々しくなった双葉に抵抗の力は残っていなかった。
「うぅぅぅ、はあぁぁ……! あっ、また、イクっ……!」
「ん、もっとイッていいぞ。ほら、我慢するな」
顔や胸に精子を浴びて、うっとりしている二人はちっともやめるつもりがなかった。
このままではいけないと奮い立ち、二人の舌で丹念にペニスを舐められながらも、双葉は再び説得を試みる。あまり遅くなると心配されるから早く帰らないと。本心でもあったが、この状況を変えるために必死だったのだ。
「うむぅ、別に、いいのではないか? 泊まっていけば」
「えー……」
まずいと考える双葉とは裏腹に、活発に動いたウルルがうんうんと小刻みに頷いている。賛同する意思があったのは間違いない。
泊めること自体は問題ない。部屋はあるし、父と母が使っていたベッドもある。最悪、双葉がリビングのソファで寝ることだって可能だ。
寝床や食料の心配はないだろう。しかし重要なのはそこではないと双葉は考えていた。
仮にウルルを泊める場合を考えてみる。
頭の中に浮かぶ映像は、ついさっきまでしていた光景ばかり。朝まで続いて、ぐったりした自分が動けなくなっている姿が、少し前の体験も踏まえて想像できた。
嫌な予感がしてならないのは自分がヘタレなせいなのだろうか。
気付けば汗を掻いている。
体が小刻みに震えて、無意識的に何かを恐れている様子だった。
ウルルは不思議そうに双葉の顔を見上げていたが、彼と暮らして少し経つルキアは理解を深めたおかげだろうか、動じることもなく熱っぽくペニスを吸い上げていた。
彼の男の象徴だけは違った理由でぶるりと震えていて、まだまだ余力が感じられた。
「んふぅ、んむぅ、んんふっ……ちゅぱっ。またつまらないことを考えているな。そのくせここはこんなにガチガチにして」
うんうんと同意するウルルも離れるつもりがなく、ルキアがペニスに頬ずりしているのをじっと見つめてから、自身も真似してすりすりと頬に擦りつけた。
やはりどうあっても落ち着くことなどできるはずがない。
このままでは危険だ、人の道を踏み外す。双葉は焦って尚も説得を繰り返した。
「仕方ないな。それでいいか?」
問われたウルルは頑として首を縦に振らなかった。表情は普段と変わらないのだが、懇願するようにルキアの目を見つめて動かない。
それとなく意図は伝わる。考えていることはおそらく同じなのだ。
「だめらしいぞ。泊めてやるか」
「だめ」
ガーンといった様子でわかりやすくウルルがショックを受けていた。
あからさまに肩を落として落ち込む姿を見ると心が痛むものの、この件に関してはきつく言い聞かせる必要がある。双葉は余計なことを言いかねないルキアの口を手で押さえて、可能な限り会話を排除して自分も含めて二人に服を着せた。
日頃にも増して統率力を発揮して二人に指示を出し、きびきびと行動する彼は嫌に頼もしくて、こんな時だからこそ認めたくはない。どうせならその行動力で泊める方向に話を進めてくれればいいのだが、残念ながら二人の理想とはほど遠かった。
双葉は豪胆にも二人を連れ出そうとする。
渋々という顔のルキアとウルルは足取りも重く、まるで乗り気ではない。
「さあほら、早く。もう9時回ってるし。遅くなると怒られるから」
「怒られないと言ってるぞ」
「いや怒られるって。帰った方がいいんだって」
双葉の目が死んでいるのは明らかだった。しかしこれと言って聞かず、名残惜しそうにしながらも諦めたウルルは繋いだ手を引かれて連れられていく。
そうして決断から数時間、ようやく浦原商店に辿り着いたのだ。
「えーっと、何か聞かれたら……あー、正直には言ってほしくないんだけど、友達の家で遊んでたとか言ってもらえれば」
ウルルは見るからにしょんぼりしていた。
彼女を止める必要がある、そう考えていたのに、今の彼女を見ていると胸が痛んで仕方ない。
それでも強行して、本人の意に反していても倫理を守る必要がある。自らに言い聞かせて別れを告げようとした、その時にルキアが口を挟んできた。
「鬼畜はどっちだ」
「お前っ、人を縛り付けて無理やりやった奴がどの口で……!」
反抗的にそっぽを向くルキアは相手にしようとせず、状況からして、今はウルルの味方をするつもりのようだった。責められている気がして双葉はますます落ち込む。
しばし立ち尽くしたままだったのだが、ぺこりと頭を下げて、やがてウルルが店の中へ入ろうと踵を返す。ちらちらと振り返って様子を窺っていたのだが、やはり双葉は唇を閉じて何も言わず、結局は残念そうにウルルの姿は店内へと消えていく。
ルキアはジト目で双葉を見上げて、日頃より声を冷たく呟いた。
「恨まれるぞ」
「お、俺が悪いみたいな言い方……」
「求めていたのに、あんな拒み方をして」
「いや、俺は、あの子の未来のこととか色々考えてさ……!」
「それにしては伝え方も悪いな。これだから女心のわからない奴は」
やれやれと言いたげなルキアが首を横に振った瞬間、頭の中で何かが切れた音がした。
今までは大目に見てきたが、そもそもは、レイプ同然に襲ってきたのは誰だったか。
壊れたロボットのように緩慢な動作で振り返る双葉は、重々しく歩き出しながら小声で呟いた。
「……もうお前とはしない」
「なっ!? ま、待て! それとこれとは話が違うだろう!」
声をかけても止まらずに、双葉は颯爽と歩き去ろうとしている。その背中からは今までに感じたことがない怒りが見えて、流石に追い詰め過ぎたのだと瞬間的に理解した。
途端に慌てふためいたルキアは急いで追いかけ、声色が別人のように変化し、焦りを感じさせながらも優しく声をかける。
「いや、うん、確かにそうだな。あの子のために強引にでも突き放すことも必要だ。今回の判断は何も間違えてはいなかった」
「どうせ、俺は女心なんかわかりませんよ。ええ、そうですね。力尽くで無理やりされても男だから嬉しいし? 被害者とは思われないし? 悪いのは全部俺なんですね」
「わ、悪かった。確かに、今日は少しやり過ぎた。これからはちゃんと話を聞くから。な?」
「フンッ」
今度は双葉がそっぽを向いてしまって、優しく話しかけても相手にしてくれない。出会ってから今日まで一度も経験したことがない、初めての出来事だった。
ルキアは家に帰るまで、家に帰ってからも、想像以上に深いらしい傷を埋めるべく必死に語りかけるのだが、へそを曲げた双葉はやはり反応しないまま。
セックスしないで眠る夜など、関係が変わってからは初めてであった。