意識せずに吐かれたため息を聞いて、水色は思わず苦笑した。
「珍しいよね。双葉が誰かと喧嘩するって」
「ん? あー……まあ」
気まずそうにする双葉は遠くを眺めて、話題にされるのを辛そうにしている。おそらく触れてほしくはないのだろうが、こうもわかりやすく落ち込んでいると言わないわけにはいかない。
どうやら罪悪感があるらしいのだ。
そんな顔をするなら早く謝ってしまえばいいのに。そう思っても彼にはできなかったようだ。
「大体、その相手が朽木さんっていうのがなぁ。ちょっと前まで俺と同じ立場だったのに」
「だから、別にそういうんじゃないって……」
「ほほう? そういうのって? 俺は別に詳しく何も言ってないんだが? 一体何を想像して否定してきたのかな?」
「お前も無視されたいのか?」
「嘘ですごめんなさい。無視されたくないです」
前を歩いている啓吾が態度を豹変させて素直に謝る。
それがきっかけだったのだろう、また双葉がため息をついてしまった。
どうやら今回は重傷らしい。問題が解決するまではずっとこんな調子が続きそうだ。
「そんなになるなら謝っちゃいなよ。じゃないとずっと辛いままだよ」
「いや……そりゃ俺だって、やり過ぎたかなって思うけど、なんか、色々振り回されてばっかりな気もするし」
「だから最近中々会えなかったんだね」
「調子悪いとか聞いてたし、一護はやたら心配してるしで、ひょっとしたら死ぬんじゃねぇかなんて言ってたんだぞ」
「ごめん……いや、俺が悪いのかわかんないけど」
今の双葉は見るからに元気がない。何かしらの変化を感じるのは当然だった。
そういえば、一緒に帰るのも久しぶりだと不意に思う。
水色は改めて隣を歩く双葉の姿を確認した。
それほどはしゃぐような人間ではないのだ。恋愛に興味がないという話も知っていて、前触れすら感じさせずルキアに接近したのが不思議でならない。
その一方で、他人には言いたくない秘密があるのだろうな、というのもなんとなく察している。
何かに気付いた様子で何もない場所へ目を向けて、尋ねてみればなんでもないと言う。幽霊が見える一護が傍に居るのに、彼のその態度は頑なだった。
思い返してみると以前から謎はある。別にいいかと流していたが、今になって思い出した。
変化と言えば双葉だけでなく一護もそうだ。突然教室を飛び出したり、愛だの恋だの興味はないくせにルキアとよく話していたり、近頃は特にやたらと双葉の体調を気にする。それで何もないだなんて嘘としか思えない。
敢えて指摘することはないものの、なんとなく寂しくなったりすることもある。
「一護は前から知ってたんでしょ?」
早く帰りたいと言わんばかりに先頭を歩いている一護へ尋ねる。
不機嫌そうにも見える表情なのはいつものことで、声色はいつも通り。怒っているわけではなくただそう見えるだけだ。
「俺だって知らねぇよ。四六時中一緒に居るわけじゃねぇんだから」
「嘘だな」
「嘘だね」
「嘘じゃねぇ。むしろ何もかも知ってる方がおかしいだろ」
「その割には最近気にしてたのにね」
「ははぁん、嫉妬か? 朽木さんを取られそうだから焦ってたんだろ。いやいや、いいんだ恥ずかしがらなくて。結局男って奴はみんなそうなんだから」
「よぉし、かかってこい。いやむしろこっちから行く」
鞄を投げ捨てた一護が拳を構えて、ぎゃあと啓吾の声が跳ねた。
並んで歩く水色と双葉は眼前で繰り広げられたヘッドロックをまるで気にせず通り過ぎて、一番後ろを歩いていたチャドだけが視線で追いつつ、やはり足を止めずに追い抜いていく。
これもいつものことだ。いちいち気にする必要もない。
日頃は各々が好きに行動しているため、子供でもあるまいし、揃って帰ることは多くない。しかし実際にこうしてみると、久しぶりだなと懐かしく思った。
前にこんな風に帰ったのはいつだったか。思い出すのにも苦労する。
特に間近の数週間、立て続けに色んなことがあって、みんなの傍で落ち着く暇もなかった。そういえばなどと以前の感覚を思い出して、双葉はようやくため息を呑み込めた。
「最近、生活変わったの?」
「なんで?」
「前とは違う気がするからさ。だって、チャドと深夜徘徊よくしてたんでしょ?」
「言い方が悪い。ただの散歩だよ。コンビニでちょっと食い物買って、その辺歩いてただけ」
「ム……」
以前はまるで状況が違っていた。生活習慣も時間の使い方も、一人で気ままに適当にしていた。
事情があって一人暮らしである共通点もあって、チャドが双葉の家を訪れることも多く、口数が多い二人ではないがなんでもない話をして、何はともなく一緒に居ることが多かった。いつしかそれがすっかり変わってしまったのは、口にこそ出さなかったが寂しさを感じる時もある。
泣きじゃくって求めるほど子供ではないが、ふと思い出して、なくなってしまったなと感じ入ることくらいは何度かあった。
「捨てられてる子犬を拾ったこともあったな。元気か?」
「元気だ。丸太郎は……」
「丸太郎って名前? 独特のネーミングセンス」
「俺がつけたんじゃないぞ」
「結構、丸くてな。太ってて……餌もよく食べる」
「その前にインコもらったばっかりなのにさ。やめとけって俺が言うのに離さなくて、最初は俺の家で飼おうとしたんだ。何かあれば預かるけどさ」
「ム……流石に、見捨てられなかった」
それほど昔の話ではないのに、ずいぶん前のことのように感じる。
いつの間にか双葉は力を抜いて笑っていた。おそらく本人は気付いていなかっただろうが、疲れていたり思い詰めていたり忙しなかった近頃では最も穏やかな顔をしているだろう。
水色は敢えて指摘せずに微笑んだ。
ただの気晴らしであっても、悩みを忘れるくらいに落ち着けたのならそれでいい。
離れようとしていたなんでもない時間を思い出しつつある。
彼が浮かべた笑みを見て、ようやくほっとした。
「いいね。丸太郎さ、連れてきてよ。僕ら知らないし、双葉の家で会おう」
「なんで俺の家なんだよ。チャドの家でもいいだろ」
「いいじゃない。最近全然行ってないし、気を使わなくてちょうどいいの」
「便利に使いやがって……まあ、別に問題は――」
言いかけて双葉の顔が青ざめた。足もぴたりと止まってしまい、縫い付けられたようにその場から動けなくなってしまう。
せっかく思い出した笑みまで消えてしまい、小刻みに震えているような気もする。
水色とチャドが不思議そうに覗き込むと、彼は動揺した声で呟いた。
「い、いや……やっぱだめだ。うちは、だめだ……」
「え、なんで? 何か問題でもあった?」
「ム……」
「とにかくだめだ。うん、だめだ。来ない方がいい。っていうか来るな。しばらく禁止」
「禁止って、それもまた言い方が悪い――」
「おいお前ら!? 友達が場外乱闘で失神しかけてんのになぜ助けない!?」
空気が変わった途端に啓吾がずいっと割り込んできて、呼吸を荒くしながら大声で怒鳴った。
その時にはすっかり忘れていたのだが、どうやら一護に負けたらしい。
振り返ると鞄を拾った一護が悠々と追いついてきて、もう啓吾には興味がないと言いたげな態度で通り抜け、それはそれで寂しいと構ってほしそうな啓吾が叫ぶ。
「俺は今! 軽く天国を見てきたんだぞ! 天の川だ!」
「へーそう。よかったじゃないか」
「天の川って天国だっけ? その前に渡るものじゃないの?」
「ム……」
「細かいことはどうでもいいんだよ! 瀕死の友達に何か言うことはないか!?」
双葉と水色は顔を見合わせ、チャドは真剣に考え、啓吾を見ると口々に言葉をかけた。
「生きててよかったな」
「大丈夫だって信じてたよ」
「天の川は……きれいだったか?」
「ガーッデーム!? お前らちっとも心配してねぇな!? 俺は本気で助けを求めたのに!」
再び騒がしいが慣れている。
一同は啓吾の言葉を聞き流しながら再び歩き始めて、これからどうしようと話し始めた。そうなれば啓吾も混ざらないわけにはいかず、一瞬で怒りを治めて参加した。
「とりあえず双葉の家に集まる?」
「だからなんで。うちはだめだって」
「見られたくないものがあるから? 女性の物とか」
「なにぃ!?」
「違うっての。でもだめだ。絶対来るな」
「じゃあチャドの家……は狭いよね。マンションだっけ」
「アパートだ……安くて狭い」
「水色の彼女の家でいいだろ。どんな人か見たことないし」
「そうだ! それがいい! ついでにこのモテ男の悪事をバラしてやろう! モテない男の怒りがどれほど恐ろしいか……ふっふっふ、ついに思い知らせてやる時が来た」
「ちょっと、やめてよ。彼女そういうんじゃないんだから。そういう嫉妬をなんとかしない限りこれからもモテないよ?」
「うるせーなぁ!?」
うるさい連中だ、と思って先頭を歩く一護は参加しなかった。
そうした態度を見たからだろう、彼を巻き込むべく水色が言い出す。
「じゃあ一護の家にしよう」
「は? なんで俺なんだよ」
「いいじゃん。お父さんは喜んでくれると思うから」
「余計に嫌だろ……あれがうるさくなるのは」
「一護の親父さんってファンキーだよな。いっつもノリいいしテンション高いし。あの親父からどうしてこの息子が生まれるのか」
「親父があれだから騒ぐの好きじゃねぇんだよ、俺は」
やれやれだと言いたげな顔で気分は落ち込み、一護は嘆息した。
強引に行っても許されそうだが、父親は乗り気でも妹たちは嫌がるかもしれない。配慮する一同は他の案を探ってあーだこーだと言い合うのだがやはり一護は参加しなかった。
どうするつもりなんだとさほど興味もなく思いながら歩いていると、一護はふと前方から歩いてくる人影を見つけて表情を変える。
いい予感はしない。不思議と緊張してしまった。
不意に立ち止まった一護に気付いて、後ろに居た四人も足を止め、その後で近付いてくる人物に気付いた。中でも双葉が愕然としておかしな顔になっている。
「やあどーも。みなさんお揃いで」
「ゲタ帽子……なんであんたがここに」
浦原商店の店主である浦原喜助と、彼の背後には大きなリュックを背負ったウルルが居る。どうやら双葉を見つめているようで、確認した際に視線が合った。
嫌な予感がしているのは双葉のみで、他は彼の素振りにさえ気付いていない。
一護が素直な疑問をぶつけると、喜助は扇子を広げて明るく答える。
「いえね、ちょうどそちらに居る道野さんの御宅へ向かっている最中でして。よろしければ少しお時間頂けます? 大事なお話があるもんですから」
「それ、どういう内容の話だ?」
「あなたにも後でお伝えしますよ、黒崎サン。でも今ここではちょっと。誰にでも聞かれたくない秘密があるものですから」
扇子を口元に当てて怪しく笑う。
風貌からして怪しげな様子だが態度まで怪しい。つまり全体的に怪しいのだ。
一護と双葉は変な知り合いが居るのだなと、啓吾と水色が怯んでいる時、チャドは冷静に見ていたが何かよからぬ予感がした。
双葉を預ける決断をしたのは、意外にも普段は無口なチャドだった。
「行ってこい。何かあれば呼んでくれ」
「ちょ、おい、チャド……」
「俺たちには理解できないこともある。尊重してやるのも信頼だ」
そう言って無理に力を込めることはせず、そっと水色と啓吾の背中を押してやり、その場を離れようとする。戸惑っている様子の二人だがその場は何も言わなかった。
唯一、一護だけが緊迫した表情で喜助を見据えており、簡単には譲らない。
そうなるのも仕方ないと微笑んで、喜助は呟いた。
「大丈夫。あたしは敵じゃありませんよ。彼を想ってる立場です」
「別に危害を加えるなんて思ってねぇ。ただ……あんたはなんか知ってんのか?」
「さあ、どうでしょう。予想はするけど確信はない、とでも言っておきましょうか。何にしても備えておいて損はありません」
緊迫した空気を作る二人に、双葉がはーっと肩を落として息を吐き出した。
軽い挙動で一護の胸を叩くと喜助に近寄る。
「心配するな。自分のことは自分でなんとかする。俺だって助けてもらってばっかりじゃない」
「別に、そういうわけじゃねぇけどさ……」
「行ってくれ。また明日、学校で」
にこっと笑いかける双葉を見て、一護も嘆息した。
簡潔に別れの言葉を告げて歩き出す。
先に行って、離れたところで待っていたチャドたちに合流すべく背中が離れていく。十分な距離ができた後になって、双葉は喜助と向き合った。
「話ってなんですか?」
「歩きながらにしましょうか。こっちもあなたの家に向かうところでしたから」
場所は知っているのだろう、喜助が先導して歩き出す。教えたことはあっただろうかと少し疑問に思うのだが、よく考えればルキアが居候していて、昨日も忘れ物を届けにウルルがやってきた。ここで気にするのは今更だと考えて気にしないようにする。
双葉が歩き出す直前、小走りで隣に並んだウルルがぎゅっと手を握ってくる。
顔を見上げられて、どうやらこのまま歩きたいらしい。ため息をこぼしながら双葉は彼女の意思に従って手を繋いだまま歩き出した。
「話というのはですね、その子のことなんです。あなたの家に泊まりたいって言い出しまして」
「は?」
「昨日も帰りが遅かったですし、帰ってもずーっと悲しそうで、どうしてなんでしょうねぇ」
「あんただったか、鬼畜は」
フフフフ、と含みを持たせて笑いながら少し振り向いてくる姿に殺意を覚える。こっちはずいぶん悩んだ挙句に同居人とぎくしゃくしているというのに、なぜ楽しそうなんだ。
怒りを隠せない双葉に気付きながら微塵も気にせず、喜助は口を止めようとしなかった。
「初めてですよ。ウルルがそこまで強い意志で訴えてきたのは」
「だからって、見ず知らずの男の家に外泊を許すって。もうちょっと考えた方がいいんじゃないですか?」
「おや、何かするおつもりで? こんな幼い少女に」
「な、何もしないけど……うぐっ」
何かされたらどうするんだ、という発言は寸でのところで呑み込んだ。なんとなくバレていそうな雰囲気ではあるものの、ズバリそのものといった発言をしたくはない。
喜助の態度はどこか楽しげに感じられる。それが腹立たしくて仕方ない。かといっていまだに付き合いの浅い、得体の知れない怪しげな人としか見えていないので、関係の浅い大人に暴言をぶつけるのも躊躇われた。
双葉は口数が減っていたが喜助はむしろ嬉々とした様子だ。
しっかり手をつないで、時折顔を見上げてくるウルルを連れて、確実に自宅へ向かっている。
「あたしだってそりゃ心配はしますよ。可愛い我が子のような存在ですからね」
「はぁ、そうですか」
「でも流石にねぇ、命の危険を覚えれば逆らえないっていうか。ちょっと尋常じゃない覚悟を感じましたものですから」
「……ん? どういう意味――」
「いえね。拳で壁をぶち抜いた後でお泊りしたいって言われまして。断るとあたし、バラバラにされちゃうかも、って思ったんです」
あぁ、と気のない返事をして、双葉はウルルを見下ろした。
まだ話の内容を理解できていない。まさか、どんな材質であろうとこんな少女が拳で壁を破ることができるはずもなし、ふざけているのだろう。そう思って疑わない。
表情は変わらないながら、わずかに恥じらっているようにも見えるウルルは可愛らしい少女だ。拳がどうのというより、蚊の一匹さえ殺せそうにない。
一方で喜助はこの場面では真剣に話していて、嘘は一つもついていなかった。
「可愛いただの女の子とお思いでしょうがね、その子は死神と正面切って戦える程度の戦闘力を持ってるんです。死神を知らないあなたには難しいかもしれませんけど、装備さえあれば
「……へぇ」
それが必死に絞り出せた返事だった。
ウルルは双葉と見つめ合ってわずかに照れていて、しかし嬉しそうにもしている。
印象としては気弱そうで口数が少ない、至って普通の少女なのに、もしその話が本当なら、今つないでいるこの手を握り潰すことも可能なのだろうか?
背筋に悪寒を覚えた双葉は、気付けばぎこちない笑顔を作っていた。
「そんな彼女に本気で凄まれると、あたしも流石に折れるしかなかったと言いますか」
「そ、そうなんですね。俺は歓迎します」
「そう言って頂けると有り難いですねぇ。ま、あたしは放任主義で見守る立場ですから、いちいち細かいことは言いませんよ。言うと後が怖いとかじゃなくてね?」
もしかすると立場は似ているのかもしれない。
喜助の態度に違和感を覚えた双葉は、もう少し彼に優しくしようと心に決め、つないだ手を絶対に振り払ってはいけないと自分に言い聞かせた。
「それはそうなんですが、ちょうどいい機会かもしれないと思ってたところなんですよ。あなたの傍に護衛を置いておくっていうのはね」
「護衛? 何のことですか」
「あたしもまだ半信半疑ってとこで調査も難しい。違っている可能性がありますし、あなたを不安がらせたくない。だから今言えることは多くありません」
しかし、と続けて、喜助は双葉の自宅の前で足を止めた。
「もしあたしが思っている通りなのだとしたら、ちょっとまずい状況なのかもしれません。これから気をつけた方がいいかもしれませんね」
「それ……俺の話なんですか?」
「ま、今は普通に過ごしててください。何も気にすることはありませんよ」
「これだけ言いたいこと言っといて……無理でしょ、それ」
「そりゃーそうなんだろうと思いますけど、だからこの子が居るんです」
ウルルの頭を撫でて、喜助の声は柔らかくなった。
よほどの事情なのだろうか。しかし何も告げられていないに等しい。
不安になることだけ言って何が不安がらせたくないだ。双葉の胸中はもやもやしていて、そんな話を聞かされた後では忘れることなどできなかった。
「いいですか? 何が起こるにせよ、あなたはここに生きていて、これまで培ってきた経験があなたを証明することに変わりはありません」
「は、はぁ……」
「あなたを支える人はたくさん居るでしょう? それを忘れないで」
ウルルの頭から手を離して、一歩下がった喜助はその場を去ろうとしていたようだ。
「じゃ、あたしはこれで。なんて声をかけたらいいのかわかりませんけど、あまり無茶はしないように。ウルルと仲良くしてやってください」
「あの、泊まるっていつまで……?」
「その子が満足するまでですよ。日中はうちで仕事してもらいますから。では」
左腕を上げてひらひらと手を振りながら、喜助は振り返らずに去っていった。
家の前に残されたのは双葉と、大荷物を背負ったウルルの二人。
おずおずと彼女を見下ろした時、自然と視線がかち合い、静かにウルルが口を開く。
「あの……プレゼント、持ってきました」
「え? 俺に?」
自ら手を離してリュックを下ろし、中を探って何かを取り出す。
双葉は戦慄した。ウルルが両手で握っていたのは、赤い色の首輪だったのだ。
「似合うと思って……」
呟きと共に幼い少女は嬉しそうに、幸せそうに、そして興奮した顔で、にこりと微笑む。
双葉は咄嗟に喜助の背中を探すが、まるで逃げ出したかのように忽然と消えている。ずいぶん歩くのが速いんだな、などと思うのは現実逃避だったのかもしれない。
生き生きと手を引くウルルに連れられて、双葉は自らの家へ入った。