僕には夢がある。友達や家族、ましてや先生にだって言えないような、そんな後ろめたい気持ちの中に存在する夢。
絶対に叶うことはないと分かっている、そんな……。
「悠馬~今日って金曜で明日休みじゃん? 俺んち泊りに来ない? みんなでモンカリの新作やろって話してるんだけどさー」
こいつは僕、
一年生の頃に出会い、趣味のゲームで意気投合。それから二年に進級した今でも毎日のように一緒にゲームで遊んだりしている。
だけども、泊りに誘われたのは今日が初めてだ。だから僕は少しわくわくしていた。
「いくよ」
僕は一つ返事でその誘いに乗った。
「よっしゃ決まりな。放課後早速俺んち集合で!」
「おっけー」
はやる気持ちを抑えながら、努めて普通の返事をする。
モンカリの新作は前から気になっていたから、超やりたい。それもわくわくする理由の一つだ。
だけどそれ以上に……。
(今日こそは会えるかな……鮎河の姉ちゃん)
僕の胸の内は、過去に一度も感じたことがないくらいの期待感に満ち溢れていた。
僕の誰にも言えない、決して叶うことのない夢。
そう──それは『姉がほしい』というものだった。
***
姉という存在に対して憧れを抱くようになったのはいつか、自分でも分からない。確かなのは、物心ついたときからそうだったということだけ。
両親は仕事の都合で家にいないことがほとんどで、僕は幼い頃から一人の時間が多かった。したがって、家事等の生活必須作業も強いられていた。
そのため、皮肉にも中学生にしてお金さえあれば自立出来るくらいの家事能力は身に付いてしまったのだ。
まあそんなこともあって、きっと僕は寂しかったのだと思う。
家に帰った瞬間一人になる、そこで生まれるどうしようもない孤独。
それを優しく包みこんでくれる、そんな甘い存在を欲していたのだろう。
姉にこだわるのはきっと、家庭という限定された範囲の中で甘えることが出来るのは姉だけだと、そう考えていたからなのかもしれない。
そんな僕にとって、康太は羨望の的だった。
なんでもスタイル抜群で、学園では一番の美少女。昨年の文化祭ミスコンではぶっちぎりの一位優勝、さらには女子バスケ部のキャプテンも務めているのだから、すごいとしか言いようがない。
康太は「あんなガサツな姉ちゃんのどこに人気があるのかさっぱり分かんねー」って言ってたけど、それは家族フィルターがかかっているだけだろう。僕からしてみれば、可愛い姉がいるというだけで本当に羨ましかった。
康太の家には過去に何度かお邪魔したことはあったけど、タイミングが悪かったのか、姉の美空さんに遭遇したことは一度もなかった。だからどんな顔、声、性格なのか、僕は知らない。誰かが康太のお姉ちゃんの話をしていたときに耳にした、断片的な情報だけを知っているくらいだ。
コンタクトを取りたいという気持ちは強くあったけど、親友の姉ということもあって気恥ずかしさが邪魔をしてしまい、一歩踏み出すことさえ出来なかった。
だけど……今日は少し違う。そう、泊りだ。泊りなら絶対に会える。
そう考えるだけで、心臓の鼓動がそのスピードを徐々に上げていく。
鮎河家のインターホンを鳴らすと、しばらくして康太が顔を見せた。
「おそいぞ悠馬。もう始めてるぜー」
「ごめんごめん、ちょっとやることあったからさ、そっち片づけてから来たよ」
「あーそっか。着替えとか持ってきたか?」
「もちろん。ってかほんとに泊まっちゃっていいの?」
「ああ、実は親の結婚記念日らしくてさ、俺と姉ちゃん残して二泊三日の旅行に行っちまったんだ」
「そ、そうなんだ」
どきんと胸が弾む。
そっか……じゃあ今日はいるんだ、鮎河の姉ちゃん。
僕は押し寄せる緊張と興奮に耐えながら家に入って康太の部屋に向かう。
既にほかの友達数人が集まっていて、ゲームが面白いのか大賑わいだった。
こうして友達と居る瞬間は、孤独を抜け出せたようでとても気分がいい。自然と口角も上がる。
「よっしゃやるか。僕のハンティン捌きを見せてやる」
「いけいけゆうまー!」
僕は美空さんのことを頭の片隅に追いやって、モンカリに意識を集中させた。
***
それから数時間が経った頃。
日もすっかり落ちて、そろそろお腹も空いてくる頃合い。
「腹減ったなぁ……と、実はここに親から授かり受けた一万円があります!」
「「「おおぉぉぉぉ~!」」」
「友達が泊まるって言ったらめっちゃくれたわ。ピザでも頼もうぜー」
「いいねー、頼もう頼もう!」
大盛り上がりの中、僕たちは早速ピザを注文。その後康太たちはピザが届くまで時間があるからと再びモンカリを始めてしまった。
しかしそれとほぼ同時に、下の階から玄関のドアが開くような音が聞こえてきた。
ゲームに集中しているせいか、僕以外には誰も反応を示さない。だから最初は勘違いかと思っていたのだが、階段を上る足音まで聞こえてきたので、勘違いではないと確信するに至る。
部屋の扉が開いたのはその後すぐのことだった。
「──康太? 入るよ」
「あっ、姉ちゃん。なんだよいきなり」
「なんだよじゃないでしょー。友達連れてくるなら先に言いなさいよね。そしたら私も気を遣ってどこか泊りにいってあげたのにさ」
「別にいいって。それより今モンカリやってんだから邪魔するなよなー」
「モンカリって……前に言ってた新作?」
「そう」
「えー、いいなぁ。私もやりたい」
「姉ちゃんゲーム下手くそじゃん。ってかもういいだろ? 部屋でてけよな」
「はいはいごめんなさーいっと。あっ、みんないつも康太と仲良くしてくれてありがとね~。今日はゆっくりしていってよ」
「「は、はい!」」
緊張混じりの返事をする友達二人。
一方で僕は、あまりの衝撃にだらしなく口を開けたまま、康太のお姉ちゃん──美空さんをじっと見つめていた。
やばい、めちゃくちゃ可愛い……。
びっくりするくらいに整った顔立ち。大人びていて、えみには肩の上で切り揃えられた桜色の髪は絹のようにさらさら。
声は悪戯なお姉さんって感じで、なんか聞いてるだけでムズムズしてくる。
キュッと引き締まった腰、カッターシャツの上からでも分かるくらいに大きなおっぱい、すべすべで柔らかそうな白い太もも。
こんな人と同じ屋根の下だなんて、康太も大変だろうな。
「