10月15日:学園祭(朝)
翌朝。
学園祭当日。
開場まで残り1時間を切ったにも関わらず、僕たちのクラスは未だ設営に奔走していた。
クラスの内装は、暗幕で窓全てを多っているため、室内は薄暗く、段ボールが乱雑に積み重なって迷路のように入り組んでいる。
僕たちのクラスが学園祭で提供するのはお化け屋敷。
教室は前日まで授業で使っていたのだから、お化け屋敷に改装するのは、実質、昨日の放課後から開場までの数時間。
クラスメイト全員、昨日は遅くまで学校に残り、朝も早い時間に登校していた。
周りを見渡せば、目をこすりながら設営に取り組む生徒が大半で、その中には桂さんの姿もある。
小泉:「あーあ、これほんとに間に合うの?」
小渕:「さぁ? でも間に合わなくても実行委員様なら何とかしてくれるでしょ?」
教室の隅から声があがった。
うんざりした声で、初めに声を上げたのは、
そして、その声に反応したのは、
小泉:「何とかって?」
小渕:「え? そりゃぁ、あの豊満な体を使って入場を待ってもらう……とか?」
小泉:「ぷっwww、体使うって卑猥すぎでしょwww……クスクス」
他の生徒が黙々と作業を進めている中、クスクスという笑い声が、静かな教室に響き渡る。
二人の声量は決して大きくないのだが、疲労感漂うクラスの中、他のクラスメイトは誰一人として喋っていない為、彼女らの周りにいる生徒はもちろん、少し離れた場所で作業している僕の所にも、彼女らの声がはっきりと聞こえた。
小渕さんと小泉さんの近くには桂さんがおり、嘲笑の対象となった桂さんは、言い返すことなく黙々と作業している。
加藤:「こっちの準備は終わったよ」
森 :「あっ、そうだ! そっちの椅子持ってちゃったけど大丈夫だった?」
暗幕で囲まれた空間から出てきたのは二人の女子生徒。
小泉:「乙女、來実、お疲れ~」
小渕:「あれ、來実? 椅子ってもしかして受付のを持ってたの?」
森 :「そうそう。あれ……もしかして、まずかったかな?」
小泉:「あちゃ~」
森さんの言葉に返答したの小泉さん。
小泉さんは額に手を当てて大袈裟なリアクションをとるも、その表情に深刻さは窺えない。
加藤さんたちが設営していたのは、お化け屋敷とは別の空間。
お化け屋敷の巡回ルートから死角になるように作られたその空間は、秘密の休憩所と呼ばれる空間だった。
どうやら、秘密の休憩所の設営は女バスが中心らしく、それぞれの学年に一つずつ設けられ、1学年は、加藤さんのいるこの四組に設営が決まったらしい。
加藤さんは女バスに所属しており、設営は彼女が主に担当し、加藤さんと仲の良い、小泉さん、小淵さん、森さんも設営に協力していた。なので、彼女ら四人は、お化け屋敷の設営にほとんど関わっていないのだが、それを指摘する者はこのクラスにはいない。
それは、彼女ら四人がこのクラスのカーストトップであることの証明だった。
森 :「うぅ~~ どうしよう、乙女ちゃん~」
加藤:「はぁ~ 受付の椅子ならどこからか調達できるでしょ」
小渕:「でも……どこにあるか知らないよ?」
加藤:「…………そういえば、椅子は桂が用意したんだよね?」
小渕:「うん……確か……」
小泉:「ああ、実行委員様にまた持ってきてもらえばいいのか」
加藤:「そうそう……ねぇ、桂――」
桂さんに声をかける加藤さん。
桂さんの身体がビクッと震え、今の作業を中断する。
言葉:「はい……なんでしょう……」
加藤:「受付の椅子が足りないんだけど」
言葉:「え? えと、一応、昨日のうちに必要分は取ってきたはずですけど……」
小泉:「必要数に誤りがあったんでしょ?」
言葉:「そんなっ!」
加藤:「とにかく、このままじゃ受付の準備できないから、急いで椅子持ってきてよ」
森 :「とりあえず4つかな?」
言葉:「4つ!?」
小渕:「えっ、もっとあったほうが良い?」
言葉:「いえ、そういこうとでは……」
『学園祭開始30分前となりました。――』
加藤:「ほら、早くしないと間に合わないよ」
言葉:「えと、椅子がある倉庫までは距離があって……」
小泉:「だから?」
言葉:「あの、私、四つも同時に持てないので、その、誰か手伝ってもらえませんか?」
森 :「え~、なに可愛い子ぶってるの~」
小泉:「頼むなら男子に頼みなよ。桂さんの頼みならなんだって聞くと思うよ? クスクス」
小泉さんの発言に釣られて他の3人もクスクスと笑った。
スカートの裾を握りしめる桂さんは、他の人に協力を求めようとせず、そのまま教室を出ていこうとする。
□□:「僕が行くよ――」
言葉:「えっ!?」
小泉:「…………はぁ?」
僕の発言に桂さんは驚き、小泉さんや他の三人は明らかな不快感を示している。
小渕:「なんでアンタが出しゃばるわけ?」
□□:「僕も学園祭実行委員だから……」
加藤:「…………」
□□:「桂さんは
言葉:「えっ!? でも……」
小泉:「ふ~ん……良かったじゃない? 王子様が運んできてくれるってさwww」
森 :「確かに、お似合いかもwww~」
彼女らに冷やかされるのは分かっていた。
今までの僕であれば決して取らなかった
僕は、加藤さんたちを一瞥してから教室を出る。
背中から投げかけられる侮蔑の込もった笑い声。
しかし、今の僕には何ら痛痒を与えない。
これが初めの一歩。
決意を持って踏み出した一歩は、思ったよりも軽かった。
それはそうだ……
僕は今日、桂さんに告白するのだ……
それに比べれば、先ほどの出来事は些細な事。
パイプ椅子を取りに向かう道中、目に入るのは慌ただしい生徒達の姿。
他の教室も装飾が施され、学園全体がお祭りモード。
□□:「(隣のクラスはメイド喫茶か……)」
教室を覗くと、カフェを模したテーブルの周りにウェイトレスやウェイターの恰好をした生徒。
そして、簡易キッチンの傍にはエプロンを付けた男女が二人いて、仲睦まじい姿が見て取れる。
□□:「(あっ……クリームを舐めとった……)」
簡易キッチンで繰り広げられる光景。
今しがた僕の目に映りこんだ光景は、女子生徒が男子生徒の頬についたクリームを指で掬い、そのまま口へと運び舐めとるという光景だった。
□□:「(僕も……)」
二人の姿に重ねるのは、僕と桂さん。
桂さんは、僕の頬についたクリームを人差し指ですくうと、そのまま口に運び、指を舐めた。
□□:「あっ!?」
言葉:「んっ……ふふっ……甘いけど、少ししょっぱい味がします……」
僕の頬についたクリームを舐めとった後、桂さんは、はにかみながら、クリームの感想を述べる。
クリームがしょっぱいということは、僕の汗が含まれていたのかもしれない。
それでも、嫌な顔せず、うっとりとした表情で感想を述べる姿は、もっと欲しいと
男子:「あーあー、この馬鹿カップルはまったく!!」
□□:「(ハっ……)」
突然、響き渡る男の声。
その声によって、僕の意識が覚醒する。
再び教室を覗けば、先ほどのカップルが男子生徒に冷やかされているのだが、そこに加藤さん達のような悪意はない。
さらにはその輪に二人の女子生徒が新たに加わり、微笑ましい表情でカップル二人をからかっている。
そうだ……大丈夫……僕たちも必ず……
何気ないカップルこそ僕が思い描く理想の未来。
僕は先ほどのカップルを脳裏に焼き付けると、急ぎ足で倉庫へ向かうのだった。
【後書き】
学園祭の日数について
当作品:1日
小説・ゲーム版:1日(多分)
アニメ版:2日(多分)