刀使調教 作:羽衣
エロは次からなので、次の話からお楽しみ下さい
0話 益子 薫
*一
『刀使調教室』は各学院に複数存在し、学院ごとに、調教内容や調教される刀使の特徴が存在する。
例えば美濃関学院は一般的な、何も知らない刀使を調教し堕とすのがメインであり、鎌府女学院は、様々な研究成果によってできた薬や器具を使用して調教を行い、調教される刀使も自ら何をされるのか理解して調教を受ける者が多い。
だがそのどれも、刀使を『飼い主』に引き渡すという目的は変わっていない
そんな各学院なのだが、出荷する調教済みの刀使の数も学院ごとに違うのだ。
そして、長舟女学院なのだが、ここ数年の間、全学院の中で最も調教した刀使の出荷数が少ない。
これは調教内容が特殊なわけでも、刀使を選り好みしているわけでもなく…
*二
「…オレたちがいるからだろう?」
ペラペラと喋っていた調教師の言葉を遮り、小柄な刀使『益子 薫』が呆れた表情で言葉を遮る。
薫は服を着たまま手を後ろで縛られ、足も動かないように固定され椅子に座らせられていた。
だが、御刀も所持しておらず、完全に逃げられない拘束がなされているのにもかかわらず、薫は余裕のある表情でめんどくさそうに拘束された腕をガチャガチャと揺らしている。
そんな彼女を一目見て調教師は目尻に抑え、ため息をつく。
「どうした…?当たりだろ、お前」
薫はさらに調教師を煽り、拘束されているのにもかかわらず、薫は恐怖も怒りも抱いていないように見える。いや抱いているだろうが、それよりもどうにかなるという思いが彼女にはあるのだろう。
そのどうにかなるという思いと、薫の言葉が、正解であり真実であるがゆえに調教師は頭が痛かった。
『刀使調教室』は金や名誉、女が欲しくてやっているわけではない。ただ刀使を幸せにする優秀な飼い主とマッチングさせ、生涯幸せに過ごしてもらうという願いのみで構成された組織だ。
昔から続いており、金などが目的でなくたった一つの共有する目的があり、それに多くの高い地位を持つ者や金持ちが協力しているため、長い歴史の間、完全な秘密組織として活動していた。
しかし、鎌府女学院が行なっていたノロの研究と高津 雪那学長が行なってきた一件が表出てしまったがゆえに、その研究成果の一部を購入する形で協力していた『刀使調教室』はその存在の影を他者に知られてしまった。
『刀使調教室』という存在までは知られていない。知られたのは、『ノロを使った催眠効果のある薬を定期購入していた謎の組織がある』程度のものだろう。
それを調べ始めたのが警察ならば、まだ顧客のコネでなんとかなる。
だが問題なのは、警察ではなく反折神派の組織「舞草」
高津 雪那学長や折神紫の一件を解決した一派だ。
ノロ研究の遺物ともいうべきそんな薬、「舞草」が許すわけもなく。その捜査の手を広げ「刀使調教室」の尻尾を掴もうと暗躍するようになってしまったのだ。
特に長舟女学園の学長は「舞草」の中心人物であり、長舟女学園のお膝元でおかしな行動をしたら、たちまち「舞草」に捕まってしまうだろう。
だから、長舟女学園の『刀使調教室』は動きづらくなり、ここにいる調教師もまた、『刀使調教室』の上司から「舞草」の捜査員に気をつけるように、動くのは控えよと言われていたのだが…
「存在するかもわからない組織の手がかりを探すなんて、面倒な任務をする羽目になったと思ったら…まさか初日でその組織が誘拐してくるなんて思わなかったな」
と笑ったらいいのか怒ったらいいのかわからない表情で薫はため息をついた。
そうなのだ。
まさか、今から調教を始める予定の薫が「舞草」であるとは調教師は、捕まえ調教を開始する直前まで気がついていなかったのだ。
気がついたのはさっき、薫の経歴が書かれた資料を追っていくうちに、別冊子にまとめられていた最新の情報で彼女が「舞草」であることが書かれていたのだ。
薫を前々から詳しく調べればわかったはずなのだが、人気のいない場所で暇そうに昼寝をしていた彼女を見つけた時、捕獲するには絶好のチャンスであったために、つい行動に出てしまったのだ。
これが普通の子ならば、捕まえた後『刀使調教室』の力で、その子を数週間かけて調教を行うための時間を作らせ怪しまれないようにするのは容易い。
だが、目の前の益子 薫は違う。
「舞草」でしかも長舟女学院学長が目をかけている刀使。
消息がわからなくなったことが判明すると、すぐに「舞草」は動くだろう。
それが事実であると、猶予は長くて4日しかない事を、『刀使調教室』の方から調教師に連絡があった。
それ以上の日にちが経てば、薫の行方を怪しんだ「舞草」によって薫の足取りが捜査され、目撃者がいないとはいえ無計画に誘拐した調教師などは、たちまち捕まってしまうだろう。
まぁ、捕まるよりも前に消される事になるだろうが……。
調教師は、事の顛末を報告した際に『刀使調教室』の人物から言われた忠告あるいは脅しの言葉を思い出し、ため息をつく。
一応『刀使調教室』からはそんな言葉だけでなく、急遽調教に必要になったものは集めてもらったが、もしかしたらこれは彼らからの調教師への最後の手土産の可能性すらある
消されないにするためには、今目の前にいる薫を4日以内で、堕とさなければならない。
予定していたゆっくりとした調教を変更しなくてはならないのは確実だ。
だがそんな、薫はくぁ…とあくびを立ててリラックスしている始末。
彼女は分かっているのだ、自分がいないことですぐに「舞草」が動いてくれる事を。
そんな可愛らしくアクビを立てる彼女を本来調教する日数が大幅に減った状態でどう調教するか頭で考えていると、薫が調教師に視線を向け、口を開く。
「分かってると思うが、お前。オレを解放しないとすぐに見つかるぞ?」
余裕そうな彼女の声。捕まったのが自分だけという事実と、助けが来るという状況から心に平穏を保つことができているのだろう。
「調教後の君が協力してくれて誤魔化してもらえば、私のことも『調教室』のこともバレないから大丈夫だよ。」
調教師は、そんな言葉を薫に返し、彼女に背を向け、ごそごそと手持ちのケースから今から使うであろう道具の確認を始める。
そんな調教師の後ろ姿を見ながら、薫はバカにした声で返答した。
「…調教? そんな動物じゃねーんだから、うまくいくわけがない。助かったらすぐにでも今回のこと洗いざらいしゃべって…」
「…それはない」
即座に調教師は断言した。
言葉を遮る彼の言葉。薫は眉をひそめる。
先ほどまで調教師と名乗った男は頭を悩ませていた。
それは、オレをどうにか(彼ら風にいうなら調教)できる日がないからだと、薫は判断していたからだ。
しかし調教師は、薫が洗いざらい喋ることについて、即座にそれはないと断言したのだ。
薫がその事について深く考えるよりも前に調教師は振り返り、さも当然のように狂った言葉を紡ぐ。
「今からの調教によって、君はペットになるか喋れなくなって心が壊れるかしかない。君が「舞草」に情報を持ち帰ることはないよ。」
「なにを言って…」
薫の言葉は続かなかった。薫は調教師の瞳を見て、理解することができた。
調教師は何の疑問も抱かず、今の言葉を紡いだのだ。彼にとっては当然のことなのだと。
目の前の男が悩んでいたのは調教が成功するか失敗するかではない。
調教の結果、薫が愛玩動物になるか精神の壊れた廃人になるかを悩んでいたのだ。
「あ、あったあった」
調教師は、バックの中からシリンダーを取り出し。
そしてそのシリンダーに針などをつけ注射器にする。
シリンダーの中に入った赤色に近い色をしており、薫はその液体がノロに近いものだとわかる。
調教師は注射器を持ち薫に近づいて来る。その注射針がキラリと光る
「や、やめろ…!それを近づけるな…!」
薫は拘束された体を動かし、注射器が打たれる事に反抗する。
暴れていては、うまく注射することができず、怪我をさせてしまう可能性がある。
調教師はため息をつき、本来の予定ならまだ見せる予定のなかった写真を薫に見せた
「な…なにを……!? エレン!ねね!!」
薫が目を見開き叫ぶ。
その写真には、手足を拘束されてベッドで眠る『古波蔵 エレン』と、縄でぐるぐる巻きにされた『ねね』の姿があった。
「おまえ…!!」
薫が憤怒の表情で調教師を睨みつける。
そんな表情をみながら調教師は告げた。
「彼女たちには私は何もしないよ。代わりに暴れないでもらえるかな?約束するよ」
「だれがそんな言葉信じると…!」
「信じなかった場合、そのせいで彼女たちが傷つくよ」
「---っ!?」
薫は調教師を睨みつけるが、すぐに暴れるのを止め、おとなしくなる。
「約束は守れよ…」
薫は一切信用していない目で調教師に言う。
調教師はその返答に優しく笑った。
「もちろん。君とは長くやっていきたいからね」
「誰が…お前なんかと…んっ…」
薫は悪態をつきながら、腕の静脈にノロが注入されていくのを黙って見る。
注射器に入ったノロは、ゆっくりと薫の体内に入っていくが、その違和感などは一切、薫は感じなかった。
だが、その方が薫は恐ろしく感じ、唇を噛み締めるしかない。
そんな恐怖に耐える薫に対して、調教師は注射し終わると、注射器を感染廃棄物用のゴミ箱に入れ、ポツポツと語り始めた。
「そうそう、さっきの話なのですが、調教室には学院ごとに調教の特徴があるって言ってたじゃないですか。」
「…別に、興味なんてない……」
薫はそっぽ向き、調教師の言葉に無視を始める。
だがそれでも調教師は、語りかけた。
「うち長舟女学院の『調教室』の特徴は。一度徹底的に壊してまた作り上げるのですよ」
「…壊す…?」
「はい。精神や人格や心を、完全に破壊して、散らばった破片を組み立てながら元に戻します」
調教師は当たり前のように回答してくれる。
そこでやっと薫の背中に冷や汗が滴り落ち始めた。
捕まった時、ここから先どうなるかの不安があった。
捉えられた時、命を失う可能性がある怖さがあった。
しかしそれは荒魂との日々で常に経験している慣れ親しんだものだ。
だが、精神や人格が破壊されるという恐怖心は薫にとって初めてのものだった。
それでも薫は歴戦の刀使だ。ここで恐怖し泣き叫ぶことなどありえない。
薫は震えそうになる体を気合いで止め、調教師を睨みつける
「……やってみろよ。数日でオレを『飼い主』ってのいうゲスのペットにするんだろ」
「はい。では取り掛かりますよ」
調教師がゆっくりと薫の肌を触り始める。
薫は歯を食いしばりその感触に耐えていく。
薫は何をされようが折れることはないだろう。仲間が、エレンやねねがいる限り彼女の心は折れることはない。
彼女が目の前の男が原因で壊れることはない
次話から『起』『承』『転』『結』の4話を少しずつ投下していきます。