ちゅんちゅんと、鳥のさえずりを聞きながら寝ぼけ顔で現れた一人の少女。
その少女を見ながらクスッと笑い、話しかけてきたのはクラスメイトだった仲居さん。
「若女将―、今日も眠そうですねー」
若女将と呼ばれるのは、私、高校三年生の相沢涼子です。
数百年続く老舗の旅館に生まれ、厳しい修行を経て若女将となりました。
幼い頃から修行修行……、友達と遊ぶ事も出来ずに不満は多かったです。
「ふあぁ、おはようございます……、って、二人きりの時は涼子って呼んでよ」
「それは出来ません、大女将に叱られてしまいますので」
「それならしょうがないかぁ……」
若女将としての活動と、高校での勉強で毎日精一杯、最近では宿題を終わらすのも深夜になる事もしばしば。
自分が選んだ道とはいえ、正直何でこんな道を選んじゃったのか、後悔しかありません。
それでも続けられるのは旅館に泊まってくれた人達が笑顔で帰るのが嬉しいという事。
それが一番の原動力となっており、この旅館の売りでもあるおもてなしが成功しているという意味になる。
「さーてっ、今日も頑張りましょっか!」
「そだね、今日も頑張ろう」
二人で手を合わせて頑張ろうと誓った日に大事件が起きました。
それは突然起きた大地震によるもの……、その日は多くの客が宿泊している日でした。
このままだと多くのお客様が被害者となってしまう……、私は多くのお客様を助ける為走りまわりました。
その結果……、私は旅館の崩落に巻き込まれてしまった。
「……!!!」
遠くから声が聞こえる、これはクラスメイトだった子の声かな……。
でもその声も聞き辛くし、視界もぼやけ始め意識が薄れてくる。
あぁ……これが死ぬっていうことかな……高校三年生で死ぬって短すぎる。
もっと、もっとしたい事があったのに、沢山の人に接待して、旅館を改築して……。
「(死んでしまったら意味がないんだけどね……来世はもっと長生きできればいいなぁ……)」
気が付いたら真っ白の世界にいた、ここが天国という世界なのだろうか?
そして目の前には……背丈は同じくらいで白い羽を持ち綺麗なドレスを纏った女性が現れる。
頭の上には輪っかだあり、まさに天使という言葉がぴったりとはまる女性だった。
「(天使……??それとも神様??何にせよ早く寝たいわ……)」
「相沢涼子さんですね?私貴女を担当させていただくイリスと申します、この度は大変失礼いたしました」
「(失礼しました?いったいどういう事?よく分かんないんだけど)」
聞けば私が死ぬ原因と至った地震は、天界での神達のいがみ合いが原因だったらしい。
本当にはた迷惑な話だ……、私はそのいざこざに巻き込まれて18歳という若さで亡くなったのか……。
「本当に申し訳ありません、ですが……元の体に魂を戻すことはできません」
「(まぁそれは当然ね)」
「ですが提案がございます」
「(提案?なんですかね……)」
神達のいがみ合いにより、大地震が起きるのは珍しくない。
昔起きた大地震も、神達のいがみ合いが影響していたりするらしい。
そして今回は浮気が原因で私は亡くなった、犠牲者にとってはた迷惑な話である。
「(ねぇ……、それによる犠牲者ってどうなるの?)」
「そうですね、本人が望めば転生……したり、そのまま向こう……、いわゆるあの世と呼ばれる世界にいくかですね」
「(ふぅん……、ある程度は自由にできるんですね)」
「それと改めて……、多くの神々に変わって謝らせていただきます。申し訳ありませんでした」
深々と謝ってくる天使さんを見て、申し訳なく思ってきます。
そう言えば天使って、天の使いって書くのよね……。
いがみ合いで災害を起こす神の使い……、色々と大変なのかも?
そう考えると、どこか同情する気持ちとなった。
「(天使さんに悪気がないのはわかったので……、できたら転生でお願いしたいです)」
「ありがとうございますっ!そう言っていただき嬉しいです、ある程度なら希望を叶えることはできますが……」
「(そうですね……、できれば剣とか魔法のある世界で、私の若女将の知識も引き継ぎたいです)」
特に望む事なんて思いつかなかった、幼馴染から借りたラノベの世界に行けたらいいなという想い。
そして子供の頃から鍛えてきた女将としてのスキル、これも有効活用できるなら使いたい。
18年と言う短い歴史だけど、ここでそのスキルを使わなければ今までの生活の意味がなくなってしまう。
転生先の力とか、戦う能力とかは特に求めていない。
「え、本当にそれだけでいいのですか?願えば転生先で最強になれたりするんですよ?」
「(最強なんて求めません、私が望むのは……、人生を普通に生きて普通に死にたい、それだけです)」
「わかりました、それではサービスとして転生先の言葉がわかるようにしてあげますね、それくらいはさせてください」
「(それはありがたいです、よろしくお願いしますね)」
「では私が指を鳴らします、そしたらすぐに転生しますので……、願わくば静かに暮らせる事を祈っております」
天使の人が頭を下げた後、静かに指をパチンと鳴らしたと思えば周りの景色が一気に真っ暗となり意識を失った。
指を鳴らせばすぐに転生とは言ったけれど、さすがにこうまで急とは思っていなかった。
鳴らす前に最後に一言言っておきたかったけど……、こうなった以上言う事は出来ないので仕方ないです。
行使私は新たな世界で暮らすことになった、向こうでは魔王の娘となる事なんて今の私には知る由もなかった……。