みんなに優しいアイドルが陰ではぐちゃぐちゃにされてるなんて… 作:人の心を捨てないと書けない
「すっかり有名人だね。蒼紗」
「あはは……全然落ち着かないよ…」
アイドル活動を始めて数ヶ月が経過した。プロデューサーの助けもあり、活動は順調…というか、うまく行き過ぎているぐらいだ。アイドル業界は厳しい…というのが前世からのイメージであり、実際そういうものだ。でも目に見えない何かがボクの背中をどんどん押していくのだ。
そういった辛い世界を知らずに活動できている。
ただ、油断するつもりはない。自分に出来ることは精一杯やり、妥協は絶対にしないと心に決めた。そういう心意気が無ければ、ボクなんてすぐ蹴落とされてしまうから。
でも…
「この…日本に初めてやってきたパンダみたいなのは…ちょっとね」
なまじ人気が出てしまったため、クラスに人が集まってきてしまっている。
「あれだけ目立ってたんだから当然でしょ」
実は、新人アイドルユニット発掘!…みたいな番組に、久川姉妹…凪ちゃんと颯ちゃんと出場したのだ。
そこで優勝してしまって今に至る、というわけだ。
その番組を見ていた人は少数でも、学校にアイドルがいるなんてビッグニュースに高校生が食いつかないわけが無い。
「すげぇ…三好さんって可愛いな」
「おいおい、俺は昔から気が付いてたぜ」
「お前フられたからな」
「俺…行ってみようかな…」
「はわわ…透ちゃん達と一緒にいる…」
「…少し黙らせてきましょうか」
「まぁまぁ、しょうがないよ」
クラスに有名人がいたら見にくるなんて自然だ。私だってそうすると思うから…私が我慢しなきゃいけないだろう。
サービスってことで、手を振って見る。
「な…おい、今の見たか!」
「間違いなく俺にだろ!」
「お前は一番ねーよ」
「よし…俺は放課後に行くぞ…」
「ぴゃ!?す…すごぉ…い」
「あーあ、良くないと思うよ。そういうの」
「はあ…そういう所ですよ…」
いっぱいいたギャラリーは忽然と姿を消した。ボクなんか悪いことしたかな…?
「…で、今日は仕事ですか?」
「あ…うん。今日明日は仕事」
そうですか…と呟く円香。最近、透達との時間が取れてないから少し申し訳無い。
「その…明明後日は大丈夫だから、埋め合わせさせて?」
「へー、じゃあ私も良いよね。一緒に」
明明後日の予定が埋まったところで、荷物を背負い下校しに向かう。
…と、何か校門に人だかりができている。一体何が…
って、あれは…
ボクが見たその人はこちらに近寄ってくる。
「…ちょっと、何か用ですか。近寄らないでください」
円香は私の前に出て庇うように立ち、その人に敵意を剥き出しにする。
「いえ…私は…」
「ストップストップ!違うから、円香!」
円香との間に割り込む。もう…ここにいるのもわからないけど…
「は?この男は誰なんですか」
「はぁ、なんで学校に来てるんですか、プロデューサー!」
武内さんがボクの学校の前で待っていたらしい。人だかりは、不審者と間違割れてたんだろう。顔怖いし…しょうがないけどさ。
「そのー、三好の知り合いなんだな」
「はい、そうです」
教師まで後ろから来ていた。まぁ…ここまで不審者扱いされるプロデューサーは不憫だが、迎えに来たのは初めての事だった。
「もー…ほら、行くよプロデューサー」
周囲の目線も痛かったので、プロデューサーの手を引いてその場を立ち去ろうとした。たぶん近くに車でも停めているだろう。
「待って…あなた、蒼紗に何かあったら…」
「大丈夫だよ、もぉ…」
ボクのことを心配してくれてるのは嬉しいが、円香自身が敵を作りそうで心配だ。
「はい、三好さんは私が責任を持ってお預かりします」
なんか、その言い方…ちょっと恥ずい。
「…責任?ちょっと、蒼紗…どういう」
「ほら!行くよ、プロデューサー!」
プロデューサーと円香の相性というか、言葉足らずな点が噛み合わないと思いその場から立ち去る。近くのコインパーキングまで歩き、車に乗り込む。
「で!何かあったんですか」
「いえ、近くに営業でやって来ていたので、ついでと思いまして…」
まぁ、電車代は浮いたから…うーん、でも、
「はぁ…その、迎えはこれからいいですから。ちょっと、視線が痛いので…」
「そうですか。失礼しました」
まぁ、アイドルやってて視線がきついと言うのは如何なものかも知れないが…ボクのことをよく知らない人たちに見られるのと、ボクのことを知ってる人に見られるのとでは感覚が全然違う。少し小っ恥ずかしいというか…ね。
「そういえば、言い忘れていました。今回はおめでとうございます」
「いえ、凪ちゃんと颯ちゃんのおかげですよ」
ソロの部門もあったのだが、そっちに出ていたら間違いなく潰されていただろうし、それにあの二人の個性あってこその結果だと思う。ボクが真ん中にいなくてもあの二人ならきっと、ね。
「いえ、あれは三人での結果です」
「と、はーちゃんも思っています」
「なーもそう思ってるよ」
「きゃ!?い…いたの?」
後ろの席に久川姉妹がいた。うぅ…なんで気づかなかったのかな、まったく…
「蒼紗さんと私たちで取った賞です。蒼紗さんがいたから取れたんです」
「…うん、ありがとねはーちゃん」
「っ……」
うん…そうだよね。三人で取った賞なんだから、それを否定するのはおかしい…か。……もう少し自信持っても良いのかな…?
「はーちゃんは呼び方の変化から、距離の近づきを感じて赤面しております」
「なっ…なー!そんなんじゃ無いから!」
颯ちゃんって呼ぶより凪ちゃんみたいにはーちゃんって呼んであげた方が良いのかな?じゃあ…
「ふーん…、じゃあ、凪ちゃんのことも、なーって呼んで良い?」
「——っ……はい、なーちゃん、ぎーちゃん、ご自由にお呼び…下さい」
なんか、歯切れが悪そうだ。やっぱり悪かったかな……だとしてもぎーちゃん呼びはないかな。
「蒼紗さん、なーは距離の近づきを感じて、ムグッ…」
「なんでもありません。ぜひともなーちゃん、なーと呼んでいただければ」
「うん…やっぱり凪ちゃんって呼ぶことにする」
なー、はーちゃん、という呼び方はこの二人だからこそ良いのかもしれない。二人の特別な絆…というのを薄ら感じて、私がそこに入り込むのは少し違った気がした。
「…着きました。今日の予定は…」
今日の予定も楽なものでは無い。が、今日も一日、アイドルを頑張っていこう。