みんなに優しいアイドルが陰ではぐちゃぐちゃにされてるなんて… 作:人の心を捨てないと書けない
「……すごいなぁ」
一人暮らしになって何年か経ったこのころ。今日も一人、餃子を包みながらテレビを見る。見ている番組は毎年恒例の、新人アイドル発掘と銘打った番組だ。
この番組は推しのアイドルを見つけ、有名になった時に古参として推せるのだ。
……テレビに映っているといえど新人。本番慣れをしておらず、私が推してる地下アイドルの子の方がいい演技してるんじゃないかな。推しって言う贔屓目が出てるのかもだけど。
今回も、ぼくの方が顔良くない?
…あ、終わってる。
気づいたらパフォーマンスが終わっていた。そして次のグループが出てきた。その瞬間、目を惹かれた。
「……ふぉぉぉ、顔が良い…!」
三人のユニット。両端のそっくりな女の子二人に挟まれるように、すこし長身の蒼い髪の女の子が出てきた。まず、見栄えがいい。左右対称なその配置がこの三人への興味を引き立てる。
特に真ん中の子の顔が私にぶっ刺さりだ。
はっ……またいつの間にか終わっていた。でもさっかまでのぼんやりとしてたらなんとなく終わっていた、と言うものでは無く、見入っていて…もっと見ていたい、そう思わせてくれた。
余韻で体が痺れている。餃子を包む手は数分前から止まっていた。
急いで、テロップに出ているユニット名と名前をスマホで調べる。
……346プロの、三好蒼紗。両隣の子は久川という名字の姉妹、かな。
古参として…これから推そう。そう決意した。
そこから出てくる子達が不憫になるくらい、あの三人の演技は完成していた。いや、別にこれといって歌とダンスが抜きん出ていた訳ではないが…。ただ、言い表せないが、圧倒的な魅力があの三人にはあった。
それ以降の番組はまともに見ていなかった。というより、頭に入ってこなかった。間違いなくテレビはつけたままだし、視線をそこに送ってはいたのだが…あれ以上の感動はなかったらしく、全く覚えていない。
「うん…だよねー」
一位の結果発表は一番盛り上がり、緊張する場面なのだが…テレビの向こう側は盛り上がっているが、こっちとしてはわかりきった結果だった。ドキドキ感も何もない。
そして、ヒーローインタビューに入った。
最初にマイクを向けられた双子の姉妹は緊張して、言葉に詰まっていた。そんな時、二人を両脇に抱えて抱き寄せて、にこっと笑う蒼紗ちゃん。二人に代わって喋り出す。
「うわぁ……尊い…」
蒼紗ちゃんのユニット間の友情というか、愛情というか…諸々を感じた一瞬だった。
「いえぇぇーー!」
翌日、ボクはいつものようにライブハウスに向かい推しのアイドルのライブへと駆けつけた。今日は少し来るのが遅れてしまい、いつもは最前列を取っているが…今回は一番後ろだ。
背の低さも相まって全然姿は見えないが、もちろん音楽と歌声は通っている。それに合わせてコールをするだけだ。
…おや、後ろでぼーっと立っている人がいる。といっても、いつも最前列にいる為気づかないだけできっといつもそういう人はいるのだろうが。でも、マスクや帽子で顔を隠してはいるが、体つきから考えて間違いなく女の子だ。
自分で言うのはなんだが、この場所に女の子が来るのはとても珍しい。
この場所に来る女の子は基本的にはガチの子ばっかなのだが…そのせいかやけに目についた。
ちょっと近づいてみた。……目元しか見えないが、結構可愛い。
ぼーっとしているように見えたが、実際は今パフォーマンスをしている子を見つめて、時折メモをしている。
「すごいな……現場は。……?」
やば、見つめていたのがバレた。首を傾げている。
「えっと…何か…?」
「あ…その、何してんのかなって」
「えっと……勉強、かな」
勉強?とてもじゃないがこの喧しさでは勉強なんて捗らないだろう。それにメモを取っているだけにしか見えないが…?
「ライブの雰囲気っていうのを直に感じてみたくってさ」
つまり…どういうことだろう。とりあえず楽しむ目的で来てるわけじゃないのはわかった。
その子はまたすぐにメモに目を落としたので、ボクもライブに集中することにした。
……ちらっと横目でもう一回見てみる。なんとなく気になった、特に理由は無い。
少し後ろを向いて、ペットボトルを取り出す。それを飲むために…マスクを外し…て…
横顔しか見えないが…あの顔は、知ってる。だって、昨日テレビで見たんだもん。
「そ、その…ちょっといい?」
最後の曲が終わってすぐ、外へ出た彼女を追った。外は先程までのライブハウスの中とは違い、とても静かだ。声がよく通る。
「はい、何か…?」
今はマスクをつけているが、その内側の顔が容易に想像できる。
「み、三好…さんですか?」
「……!わ……わかります?」
驚いた顔をしてから、少し顔を綻ばせた。
「そ、そのぉ…よく来るんですか?」
「んー、今日が初めてだよ。ほら、ボクも観客が入ってのライブが近いからさ。空気感っていうのを知っておきたくてさ」
だから何かしらメモを取っていたのか。
「ボクよりも先輩だから、何か学べるものがあると思ってね」
その謙虚な姿勢がとても好感が持てる。
「ぼ、ボク…その、蒼紗ちゃんのファンです!」
「へ…へぇ、ボクにファン…かぁ。なんか、ボク…アイドルになったんだなぁ…」
少し遠い目をして、感慨深そうにそう言った。暗くなってきた辺りの、電灯の下に立つ蒼紗ちゃんは、凄く幻想的だった。
「そうだ…連絡先、交換しようよ」
「え……えぇ!?」
ぼ…ぼくが蒼紗ちゃんの連絡先を…?
とても魅力的な言葉だが……だめだ。だって蒼紗ちゃんはアイドルなんだから。
「だ、ダメだよ!ボクみたいなやつと連絡先なんて…それに、ほら…みんなのアイドルなんだから…?」
「……?別に、友達と連絡先交換するなんてそんなおかしいかな」
と、友達…ぼくが?
「こ、こんな頭おかしい髪色してて、ドルオタで…ちょっとしか喋ってないのに…?」
「……? だって、悪い子じゃ無いってわかるから。……あっ、名前…まだ知らなかったね」
ボクの名前すら知らないのに、どこからその自信が湧いてくるのかはわからない。が、蒼紗ちゃんは裏表が無い。本心からぼくを友達だと思ってくれている。
「あ…えと、よ…よろしくお願いします…」
「うん、よろしく」
スマホを差し出して、メッセージアプリを開いた。