みんなに優しいアイドルが陰ではぐちゃぐちゃにされてるなんて… 作:人の心を捨てないと書けない
「あのー、アオさん…デスよね?」
「…あっ、えっと…しゃーく、ちゃん?」
少し家から離れた、この辺りで一番大きな駅。そこである子と待ち合わせをしていた。そう、ネッ友のしゃーくちゃんだ。
何やら用事があるようで、ついでにオフでもどうデス?と連絡が来たので、是非!と応えた。
自分の服装の特徴を伝えておいて、声が掛かるのを待っていたのだ。そしてそこに現れたのはボクよりも背の低い、マスクを着けた女の子。年下と聞いていたので、大体はイメージ通りだ。
「…!はい。砂塚あきら、デス。よろしくお願いします」
「うん。あった…あきらちゃんで良いかな?ボクは…」
「三好蒼紗サン、ですよね」
あ、あれ。なんで名前バレしてるの…?
「…?だって、テレビ出てたんデスから。声でわかります」
…そうだった。この番組に出る、ということだけは伝えていたので、今までのVC越しの声とテレビでの声が一致すればわかるか。
「えーっと、日帰り?」
「いいえ、近くにホテル取ってマス」
「そっか。じゃあ、行こっか」
2人で買い物…服を買いに行ったり、アニメショップに行ったり…女の子と一緒にアニメショップ行ったのは初めてだなぁ。なんか、ちょっと嬉しい。
その後はゲーセンに行った。色々やったが、プリクラだけは撮らなかった。ボク自身が好きでは無いし、あきらちゃんも同じで助かった。あの加工の感じとかが苦手なんだよね…。
「そういえば、いつ頃帰るのかな?」
「あー、そうデスね。月曜日の昼ごろに帰ろうかと」
「へぇ…じゃあ、2泊するんだね」
来週の月曜は祝日、妥当な日程だろう。ただ、2泊もするとなると学生の財布からしたら出費が結構厳しそうだ。
「ね、どこかいきたい所ある?」
この辺りを一通り行き尽くしたので、どこか行きたい場所があるか聞いてみた。ボクは特に行きたい場所とかは無いから、それに合わせよう。
「……じゃあ、アオさんの家…とか」
「へ?」
「アオさん…デスよね?」
待ち合わせ場所、そこに立っていた女性に声をかける。オフで出会うことを約束した、ネットの友達かつ最近アイドルとして売り出し中の人だ。
疑問形を使ったが、確信はしていた。
名前は知らなかったが、ずっとVC越しに聞いてきた声と、テレビで話す声を一致させれば、特定するのは容易い。どの番組に出るかだけは聞いていたから。
「砂塚あきら、デス。よろしくお願いします」
こっちとしては初めて会った気がしない。アオさん側とは違い、容姿は知っていたから。でも実際会ってみると、高い身長に整ったスタイル。その姿には圧巻される。これがアイドル、というものか。
しかし、テレビで見るイメージと、実際はやはり違う。快活な、それでいて清純なイメージが強いが、結構オタク趣味だったり。ゲーマーだったり
…まぁ、自分は前から知ってましたケド。
「あの…三好さんですか?」
「は、はい。そうですけど…?」
「やっぱり!その、私…三好さんのファンなんです!お写真、よろしいですか!?」
2人で歩いていると、ファンを名乗る女性に話しかけられた。
「ちょっと、プライベートなんだから、悪いよ…」
写真を求めてきた女性と、その連れであろうもう1人の女性がその行動を諌める。やっぱりこういうのあるんデスね。
「あ、大丈夫ですよ。自撮りでいいですか?」
「あ…ありがとうございます!」
はい、チーズ…ぱしゃり
笑顔で二本指を立ててすぐ、シャッター音が鳴る。
「応援、ありがとうございます」
両手でファンの方の手をぎゅっと握って、笑顔でそう言った。
#神対応、ってやつデスかね。
でも本心から言ってるのが伝わって来る。神対応というよりは、アオさんの心が綺麗なだけかも。
「変装とかってしないんデス?」
「んー、まだそこまで人気でもないじゃん?デビューからそう経って無いしさ」
そうでも無いと思う。掲示板とか、青い鳥のSNSとかでは結構話題になっているが…本人はそこまで知らないようだ。もちろんトップアイドルとは遠くかけ離れているが…
「そうデスか…まぁ、アオさんが良いんなら良いですケド」
見知らぬ人に声をかけられるという事は、名が売れている証拠だと思う。もうちょっと自分の知名度とかに目を向けた方が良いのでは無いか。
「あっ…蒼紗さん!奇遇ですね!」
またファンの誰か…かと思ったが、どこかで見た事のある女の子だ。
うーん、どこで見たのだっけ…
「あ、颯ちゃん。奇遇だね」
颯…颯…うーんと、あとちょっとで出てきそうな感じがする。喉に突っかかるようなこの感覚は好きじゃない。早く思い出さねば。
「と、かれこれ二十分ぐらいタイミングを模索していたはーちゃんなのでした。あ、もちろん凪もいます。いぇーい」
…そうだ。アオさんとユニットを組んでた双子だ。そう、テレビで見ていても、実際に目にしてみると気づけないものだ。なのにパッと話しかけられるアオさんは、よっぽど人気なのではないか。
颯サンはアオさんの腕に軽く抱きつく。その反対側には、密着して立つ…えーと、凪サンだっけ。なんか、様になっている。これがアイドルユニットというものだろうか。
「ところで、蒼さん。この方は…」
「んーと、ボクの友達だよ」
「あ、砂塚あきらデス。#よろしく」
そう言うと、颯サンは威嚇するような姿勢をとる。うーん、アオさんってやっぱりモテるんデスね。かなり懐いている…というか、それ以上カモ?
「……ほら、行きますよ。はーちゃん」
「あっ…ちょっと…!なー!」
私をじっくり見つめて、凪サンが颯サンを引きずって去ってしまった。どうしてだろう。別に私の事は気にしなくてもよかったのだが。
「あれ…どこ行くんだろ…?……ま、いっか。じゃあ、行こうか」
「あ、ハイ」
その後の時間はすぐに過ぎた。楽しい時間はいつだっで早く流れるものだ。辺りはもうすぐ暗くなる…と言ったところだ。
「ね、どこか行きたい所ある?」
行きたいところか、あまり調べてないのでこれといって直ぐに思い浮かぶものはない。でも、なんか言った方が良いだろう。
うーん…
「……じゃあ、アオさんの家…とか」
「へ?」
驚き、困惑の表情を見せるアオさん。自分としてはもう少し親密になりたいのだが…少しやり過ぎ?
「うーん…ここからは少し遠いから、ごめんね?」
「そうデスか。……じゃあ、ちょっと早いけどお開きにしマス?」
申し訳なさそうに、正面で両手を合わせて断る。まぁ、それが普通だろう。断られるのは想定済みだ。…この反応的に、自分はそこそこアオさんと親密な関係と言って良いだろう。
「じゃ、またね。あきらちゃん」
「はい、さよならデス」
手を振って笑顔で別れた。アオさんの背中は人混みに消えていった。
さて、すこし早いがホテルに行こう。
「すみません」
「…え、ハイ。な…なんでしょう」
信号待ちをしていた時、声をかけられた。長身で肩幅も広め、目付きの…良くは無い男性に。
自分、何かしましたかね…さすがにちょっと怖い。その後ろには、帽子を被って隠しているのか、ピンクの髪がところどころはみ出している女の子がいる。
……ちょっと、変な人に目をつけられたかも?
内心、ドキドキしている所に男性が切り出した。
「私こういう者なのですが…アイドルに興味はありませんか」
……こう来たかー。