みんなに優しいアイドルが陰ではぐちゃぐちゃにされてるなんて… 作:人の心を捨てないと書けない
「やはり中々にハード…つらみ」
ダンスのレッスンが終わり、着替えを済ませて事務室…と言う名の休憩室まで向かう。
はーちゃんは早々と着替えて行ってしまった。ドアノブを取ろうとした際に…特に理由もなく、事務室を覗いてみた。事務員さんはいないようだ。
「む…あれは…」
あの後ろ姿は間違いなくはーちゃんだ。何か周りをキョロキョロして警戒しているようだ。そしてその奥には…
「すぅ…すぅ…」
ソファで横になっている蒼さんがいるでは無いか。あ、蒼紗さんで蒼さんだ。いいネーミングでしょう。
…と、今ははーちゃんだ。まさか…はーちゃん…
ちゅっ…
「…わーお、これはこれは…」
静かに、蒼さんの唇に…自分の指を置いた。そしてそれを自分の口元に持ってきて…間接キスのつもりなのだろうか。
「はっ…はっ……!」
鼻息を荒くして、それを何度も何度も繰り返している。
…意外とヘタレでした。てっきり直接キスぐらいすると思ったのですが。まぁ、犯罪ギリギリのラインですかね。犯罪者は免れたみたいなのでオッケーとしましょう。
「ん…んぅ…」
自分の指を咥えるはーちゃん。…これが思春期ってやつですか。
というか、蒼さんにガチ恋してますねこれ。蒼さんあざといですしね…
はーちゃんがガチ恋して犯罪一歩手前まで行っちゃったよ。
蒼さんが無自覚にはーちゃんを煽るせいです。あ〜あ
「円香、話ってなに…?」
「…はぁ。その…ですね」
歯切れの悪い返事を返す円香。近くに人の気配は無い、学校体育館の裏だ。
「私は…貴方の事が好きです」
え?
「え…えっと、ボクも好きだよ?」
「…そうじゃないです。こういう…ことです」
ま…円香。どうしてボクの肩を掴むのかな?そしてなんでボクに顔を近付けてるの?
「…嫌なら、払ってください」
いやいや!嫌っていうか状況が理解できない!なにこれ、ほんと…ちょちょ、円香!近い!近いって…!あ…だめ…
「ちょっと…起きて…」
「だめだよ、樋口」
「えっ…!透…何でここに…?」
いつのまにか透が背後に立っていた。さっきまで近くに人はいなかったはずなのに、どうして…
「ね…私さ、蒼紗のこと…」
「ちょちょちょ、待ってって!なんかおかしいよ!?」
「じゃあ、それは蒼紗のせいだね。私がおかしいのは」
円香を押し除け、私の前に立つ透。はわわ…なにこれギャルゲー!?
「早く起きて。蒼紗」
「ほら…身を委ねて…」
ひ…ひぃ…一体何が…!
「だ…駄目ぇ!!」
「きゃ…!」
あ…あれ?
「だ…だめだよ透!私たち女同士なんだから…!」
「何を言っているんですか、ミス・寝坊助」
「寝ぼけてるみたいだね、蒼紗」
ふぇ…?辺りを見渡すと体育館裏じゃなくて…教室だ。太陽が地平線に近い。つまり…
「な、なんだ。夢、かぁ」
「…どういう夢見てるんですか」
良かったぁ…そうだよね。円香がそんな事言うわけないし、透もあんな…って、透が…いる。
「あ…あの、透…」
「おはよ、何?」
「い、いや…な、なんでも…ない」
あれ以来、透との距離感がわからなくなっている。気まずい、とても。それなのに透は何事も無かったかのように振る舞っている。じゃああの帰り際の奴はなんだったの…?
「寝過ぎです、もうすぐ日が沈みますよ」
「あ…あはは。最近忙しくって…」
ダンスレッスンも厳しいし、いつもと違う日常にまだ体が慣れていないと言うのがある。はぁ…大変だ。
あ、ちなみに今日はアイドルはお休みだ。
「厳しいの?アイドル」
「…うぁ…透…、あ…うん。それなりに…」
…だめだ。透の顔を直視できない。ボクが気にし過ぎなのかな。
いや、あんなことされて余裕でいられるわけないでしょ。
「じゃ、一緒に帰ろっか。蒼紗」
「あ…うん」
透が手を差し出した。私はそれに…そっと手を乗せた。
「……」
それを、訝しむように見ていた円香には、気が付けなかった。
「じゃあね。円香、透」
「はい、さよなら」
「うん、また明日」
駅で二人と別れ、自宅に帰る…。そして、自室のベッドに座り込む。その時、携帯電話が鳴る。
「えっと…円香?」
円香からの電話がかかってきた。最近、円香から発信してくれる事が多い気がする。
「もしもし、どうしたの?」
『…浅倉と何したの』
「へ…ど、どうして?」
『答えて』
電話の向こうから、怒気が混じったような声で私に問いかける。
「な…何もない…よ」
『…そうですか。じゃあ良いです』
い…言えるわけ無いよ。友達とキスしたかもしれないなんて…特に円香には。透と何かしたなんて知れたらどうなるかわからない。
『私は…貴方が欲しいです』
「へ…?円香……?」
『浅倉に譲るつもりは、ないから』
そう言った円香はブツっと電話を切る。ど…どういう事?円香も透も…わかんないよ。ボクには…わかんない…
「おねーちゃーん!ゲームしよー?」
「…あ、紗南…?」
「……お姉ちゃん?どしたのそんな顔して」
今のボク、どんな顔してるんだろ。よっぽど良い顔では無いに違いない。妹に心配かけるなんて、だめなお姉ちゃんだなぁ。
「その…ごめん。今日は、ちょっとね」
「そっか。……大丈夫?」
「うん…大丈夫だよ。紗南」
なんとか作り笑いをする。大丈夫かな、ちゃんと笑えてるかな、ボク。
紗南は出ていき、リビングに降りて行った。はぁ…ちょっと、頭の中整理しよ…