異世界 定食屋 朝日食堂 異世界セックス漂流記 エロイラスト付❤️ 作:みなぽん
月姫(かぐや)
フィンランディアヴィーキングの血を引くエッダの魔法騎士。
真紅の瞳と白銀の髪を持つ少女。天真爛漫で食べることが大好き。
朝日屋ではウェイトレス兼護衛役。
ヴィヴィ・アンタイオス
ラーマ共和国十二神将の一人「乙女座(バルゴ)のヴィヴィ」。
金髪とヘテロクロミアの瞳を持つ英雄。双剣アガートラームの使い手。
月姫の親友。
「キャハッ ねぇねぇ、ヴィヴィが金貨になってるよ!」白銀の髪を揺らして月姫が笑う。
870年に発行されたラーマ革命の記念金貨には「双剣を十字に構えて祈る乙女」アンタイオス家の家紋が刻まれている。
「しょうがないじゃない、コーネリアスが勝手に作っちゃったのよ。私は英雄という名前の政治のおもちゃみたいなものよ。」
ヴィヴィアンタイオスはほろ苦く笑った。
ラーマ歴869年をラーマの歴史家 グレゴリウスはラーマがより高次元の理想国家としての脱皮を果たした年として言葉を極めて賞賛している。そしてその立役者は1人の少女の手によってなされたのである。
「我がラーマ帝国は今存亡の危機に陥れたブルータス将軍は我らが誅した。わが国を戦争と反乱の無限の連鎖に追い込んできた奴隷制度を我々ははここに捨て去ることを決意する。我らはブルータス将軍のクーデターのように、自らの私欲を満たすために立ち上がったのではない!我らが求むはただ一つ!自由なるラーマ!差別なきラーマ!民主主義国家としてラーマが反映していくことだ。奴隷制度を捨てる事は、富を捨てることではない。今まで以上の平和と富を約束するものだ。奴隷を賃金労働者へと転換するのだ!アルキメデスはアカデミアにおいて、その実践をし、生産効率が奴隷の時よりも上がることを立証した。これは雇用主である貴族、商人、市民にとっても損な判断では無いはずだ。そして今わが国の軍費の70%は奴隷の反乱の制圧に費やされている。この無益で愚かな死と破壊と浪費もこの改革を受け入れればなくなると約束しよう。元老院の賢人たちよ!市民達よ!奴隷階級から解放される人々よ!今日からこの国は帝国からラーマ民主共和国となる!ラーマの栄光に続く新たな道に共に手をとって、歩み出そうではないか!」
アーレスブルク宮殿のバルコニーでバルゴの十二神将ヴィヴィ アンタイオスは詰めかけた聴衆を前に新たなラーマの建国を宣言した。名門アンタイオス家の令嬢で祖母ヴィシュマはラーマ中興の祖、ユリウスカエサルシーザー神聖皇帝の姉にあたる。ヴィヴィは一見するとオートマタのような無機質な美しさを感じさせる少女だ。
金色の長髪を彼女のパーソナルカラーの赤と緑のリボンでおさげにまとめている。
瞳は赤と緑のヘテロクロミア、手足はすらっと長い。
愛用の武器は父から受け継いだ双剣アガートラーム だが格闘技も十二神将でトップクラスの力を持つ。
御前試合でラーマ皇帝 ユリア カエサル シーザーのまえで同じ十二神将の獅子の獣人の美女、レオニダス テルモピュライと激しいどつき合いをしたのはラーマ中の語り草になっている。
ヴィヴィは頭の良い少女だ、年若い娘でありながら、政略家のコーネリアスの政治と組織論をしっかりと把握している。それでいて、滲み出る彼女の誠実さと優しさが、人々を惹きつけるカリスマになっているのだ。
また彼女は勝利と同時に自らが帝位につく可能性については断固否定した。生涯、一人の十二神将として生きると宣言したのだ。絶対君主のいない完全な民主制は人々の戸惑いを招いたが。ヴィヴィの権力に執着しない潔さが市民たちの心に民主主義の真髄を伝える。何よりも見本となった。
もちろんすぐに民主的な国家ができるわけではない。ヴィヴィは1年間と言う期限付きで、新しいラーマの絶対統率者となった
彼女が短くも多忙な一年で真っ先にやったことはラーマ史上例のない大改革だった。奴隷制の廃止、貴族の自領を十分の一に減らし現金で国が買取り奴隷階級に借与し内乱を収め、そして外にあっては周辺諸国と電撃的な講和条約を結ぶことだ。
隣国のドルメキア帝国は奴隷解放を国是としており、価値観の共有ができたことで講和がスムーズに進んだ。
また、従来の属国についても、それぞれの王による自主独立を認め、希望するものは、ラーマ連邦の友邦国としての地位を与えた。同じくアンチラーマの逃亡奴隷国家ガガーリン人民国もラーマは正式に国家として認めて友好条約を結んだ。また彼女は最重要の国としてカルザス辺境地帯を日輪兵団の領土として割譲。正式に承認し友好条約と軍事同盟を結んだ。(帝国陸軍が異世界に来たらシリーズ参照)
また軍事の近代化を目指し日輪兵団大佐の志茂兵平を軍事顧問に迎え日輪製兵器の輸入と魔装兵団式装備の採用で新たなラーマ軍の発足を目指した。
ヴィヴィと肝胆相照らす仲のユリア皇帝の統べる東ラーマ共和国は実質的には日輪兵団の代理統治であり、ベルゲンのクラーラゼーゼマン公(サトクリフ王国、ルカシェンコ公国も併合)ギーミヤのレオのレオニダス テルモピュライ、マーヤターガのアクエリアスのミューズ ミューラー、アオリモツンガルシアのクリムゾン アンタレスらを臣下に強固な結束を誇っており、ユリアもヴィヴィもラーマの東西統合をすることを望まなかった。ヴィヴィがラーマ民主共和国を起こした翌年の870年に東ラーマ共和国は歴史から姿を消す。
神聖皇帝 ユリア カエサル シーザーが日輪兵団の総統 鬼塚一貴と結婚し東ラーマの統治権を禅譲したためだ。もとよりラーマ浄化のためのカウンターパートであり目的が達せられた今、ラーマは以前のような超大国でないほうが健全な発展ができるとユリアは考えたのだ。
日輪兵団の鬼塚総統はユリアを国の象徴とし、この国を公平なる太陽が照らす国!立憲民主国家 大日輪帝国と名付けた。
両国は互いを姉妹国とし講和条約を始め、自由貿易協定も締結した。
結果としてラーマに変わり大陸に強力な帝国が生まれることとなった。
ヴィヴィアンタイオスはこれらラーマ再生の偉業を革命の同志達と共にわずか1年やり遂げたのだった。
この一年後、ライブラのカッサンドラ、サジタリウスのアイリスは十二神将としての任務を続け、アリエスのジンは初代の西ラーマ国防軍の元帥となった。若き天才アルキメデスは奴隷制なき新たなラーマの思想的なリーダーとして政治学者として辣腕を振るう道を選んだ。ブルータスから寝返ったスキピオはヴィヴィ達の義挙の正当性を示す証人となったことで刑罰を免れた
ヴィヴィの後見者たるコーネリアスはラーマ議会を巧みに操縦し自らは大与党「ラーマ自由民主党」の領袖となり、議会の議長の席に治り新生ラーマの中核となった。
キャンサーのアストライア ブルーレインはヴィヴィ アンタイオスの勧めでラーマ警察機構のトップに就任した。
そして最大の功労者ヴィヴィは権力より自由を愛するヴィヴィはラーマ救国の英雄として国民の圧倒的な支持を受けながら十二神将の地位に留まった。
ラーマ国民は彼女への感謝と親愛を込めてRama's Knight of Freedom 「ラーマの自由の騎士」の称号を与えて彼女に司法行政立法に独自に介入しうる超法規的権限を与えた。
ラーマでの一年間の専制統治を終えたヴィヴィは情勢視察と称して、アーレスブルクを旅立った。中枢に残っていれば彼女の顔顔色を伺うものが多くいるという理由は表向きで、本音の所では久しぶりに自由な旅がしてみたかったのだ。
そこで、旅の友として呼ばれたのが月姫だった。朝日屋のポンコツ娘は小日向マスターから人生初の「有給休暇」をもらって、そのたびに同行した。彼女の首から下げたガマ口には小日向がくれたお小遣い60,000ゴールドが入っている。彼女がさっき眺めていたラーマ金貨はそれだった。
ヴィヴィが最初に選んだのは隣国となった大日輪帝国だ。国名を大日輪帝国に定めた日輪兵団は根拠地である軍都タバログに加えて
カルザス辺境地帯と東ラーマ地域の中間にある城塞都市ベルゲンを大規模開発して新たな拠点都市を設けた。
都市に面するベルゲ河は大ゴムール川と並ぶ大陸を南北に縦断する大河である。
カルザス辺境と接するこの流域の右岸には、早くから文明が発展し神聖ラーマ帝国の属国が多く存在しており、今回の大日本帝国建国によりその多くが傘下に収められ1つの経済圏を形成しつつあった。
そしてその経済の発展を後押ししたのが、日輪兵団の焼き玉エンジンの技術だ。電気やプラグの必要のない原始的なエンジン。
これによって、陸運と水運の効率が格段に向上したのだ。
ヴィヴィはかつて牧歌的であった。ラーマの東北地方の変貌ぶりに目を見張っている。道路は舗装され、焼き玉エンジンで走る馬車が荷物や人を乗せて走っている。縦横に巡らされた上下水道はかつて不衛生だった地方都市を格段に衛生的な物へと変えていた。
「すごい!日輪兵団の技術とユリア陛下の政治力の賜物ね、私たちのラーマ民主共和国も頑張らなきゃ、こっちが田舎になっちゃうわ❤️」ヴィヴィは楽しげにつぶやいた。
日輪兵団はユリアのカリスマを東ラーマ地域を統治ために巧みに活用し、軍事は鬼塚が内政面は内務省統括の兎山美月が握っている。また、かつての十二神将達は近代的な日輪兵団の兵制を取り入れ新たな軍団を編成している。
「おうヴィヴィアンタイオス 久しぶりだな❤️」雑踏の中に紛れている彼女を目指とく見つけて声をかけてきたものがいる。
カ2式黒鉄四駆に乗ったかつての獅子座の十二神将 レオニダス テルモピュライだ。今は大佐として騎士団の近代化教育に邁進中だ。
彼の四駆の後ろにはかつての騎士達がカルザス4式装甲馬車(戦車➕兵員輸送車)カルザス3式装甲馬車 (戦車)
カルザス2式装甲馬車(兵員輸送車)に分乗して付き従っている。
「ああレオニダス、昔のどつきあいをしていたのが懐かしいな。他の仲間は元気?」
「私のスイートハニーのミューズミューラーはフリューゲルの特性を活かして空挺団を結成しもう訓練に明け暮れている。
カルザス1式戦闘機(隼 軽戦闘飛行艇)カルザス4式戦闘機(疾風 戦闘爆撃飛行艇)カルザス1式陸上攻撃機
カルザス1式輸送機などを装備した新設の部隊だ。アオリモツンガルシアにいるスコーピオンの軍団も来年から近代化編成へと移行する予定だ。10年前が遠い昔のようだ、皆が新しい時代に心を躍らせて、新しい技術を身に付けていく。」レオニダスが笑った。
彼女の言葉通り、街は大きく変わっていたヴィヴィはベルゲンの街頭で犬族の獣人の男の子が売っていた「新しいベルゲンの歩き方 狐宮書房刊」を片手にワクワクした。
ベルゲ河の心地よい河風に吹かれながらヴィヴィはレオニダスに紹介された食堂を探す。
アマゾネス達が経営する喫茶「甘ゾネス ベルゲン港通り店」でおしゃれなランチを食べた。アマゾネスの定員たちがヴィヴィの隣にいる
月姫を見ると、笑顔で出迎えてくれた。この店はどうやら朝日食堂の小日向が入れ知恵した店のようだ。美味しいケーキとおしゃれなカフェ飯をきれいに着飾ったアマゾネスたちが給仕している。
「戦うために生まれてきたようなアマゾネスでさえも、この街では穏やかで幸せな生き方ができるのね」
ヴィヴィはアマゾネスの店員に声をかける。
紺のバンダナに黒髪が印象的なつぶらな瞳の可憐な少女 ピンクのドレス アイラ レーミアだ。
「ええ、人は生まれながらにして自由に選ぶことができるんです。でもそういう生き方ができる場所ってこの世界でそんなに多くは無いですよね。私はユリア陛下も鬼塚総統も尊敬してます❤️」
街角の1人の少女のユリアへの暖かい評価がヴィヴィは我が事のように嬉しかった。甘酸っぱいショートケーキをニコニコ顔で口に運びながら、彼女は河面を見る。
その河を力強く遡上してくる貨客船がある。「ベルゲン発→港湾都市国家アーゼルハイドラド行」
日輪帝国の友邦、マリーダ ハイドラド女侯爵の収める国だ。
⭐️船旅
ベルゲ河を遡ってきた貨客船は、ベルゲン港の桟橋へゆっくりと船体を寄せていった。
焼き玉エンジンが、ぽん、ぽん、ぽん、と一定の間隔で低い音を響かせている。
巨大な船ではない。
だが、甲板には木箱や樽が所狭しと積まれ、その隙間には旅人たちが腰を下ろしている。船腹には貨物室があり、上層には簡素ながら客室も用意されていた。
船首には、青い鱗を持った水棲人の船員が立っている。
彼は岸壁へ向かって大きな声を上げた。
「ベルゲン発、アーゼルハイドラド行き! 乗船する人は急いでくれ! 出航したら次の停泊地まで半日は戻れないぞ!」
「ヴィヴィ、あれ乗ろうよ!」
月姫が目を輝かせた。
白銀の髪が河風に吹かれ、ぱたぱたと揺れている。
その隣ではヴィヴィが、先ほど買った観光案内書を胸に抱えていた。
「ええ。私も乗ってみたいと思っていたの」
「やったぁ!」
月姫は嬉しそうにヴィヴィの腕へ抱きついた。
「船旅だよ、船旅! 私、大きな船に乗るの初めて!」
「私もよ」
「ヴィヴィも?」
「軍用のガレー船なら何度か乗ったけれど、焼き玉エンジンの貨客船は初めて」
「じゃあ一緒だね!」
「そうね」
ヴィヴィは笑った。
英雄と呼ばれ、金貨に肖像を刻まれ、国民から「ラーマの自由の騎士」と呼ばれる少女。
けれど今の彼女は、ただ船に乗ることが嬉しくて仕方のない旅人だった。
そのことが、ヴィヴィ自身にも少し可笑しかった。
受付で乗船券を買う。
月姫が自分の財布から代金を払おうとしたところで、ヴィヴィが止めた。
「待って。ここは私が払うわ」
「え?」
「旅の同行者なんだから」
「でもマスターからもらったお小遣いがあるよ?」
月姫は首から下げたガマ口をぽんぽんと叩いた。
「六万ゴールドもあるんだから、月姫、けっこうお金持ちなんだよ?」
「六万ゴールド……」
ヴィヴィがじっと月姫を見る。
「な、なに?」
「あなた、普段からそんなに小日向さんに甘やかされているの?」
「えへへ」
「褒めてないわよ?」
「でも嬉しい!」
結局、ヴィヴィが二人分の乗船料を支払った。
月姫は少し申し訳なさそうにしながらも、船に乗り込んだ途端にそんなことは忘れてしまった。
「わあっ!」
船内は思った以上に賑やかだった。
人間だけではない。
獣人。
エルフ。
ドワーフ。
水棲人。
そして、船尾近くの甲板では人魚たちが忙しそうに働いている。
魚を入れた籠を運ぶ者。
氷を砕いている者。
網を修繕している者。
焼き玉エンジンの燃料を確認している者。
まるで一つの小さな町が、そのまま船の上に乗っているようだった。
「すごい……」
ヴィヴィが呟く。
「河を走る船なのに、人魚さんがいるよ」
月姫が指を差した。
すると、魚籠を運んでいた若い人魚がこちらに気づいた。
「こんにちは!」
「こんにちは」
ヴィヴィが微笑み返す。
人魚の少女は、ヴィヴィの顔を見て一瞬だけ目を丸くした。
「あれ……もしかして……」
「え?」
「ラーマの……」
少女の視線がヴィヴィの顔から、胸元へ移る。
そこにはラーマ民主共和国の旅券があった。
「ヴィヴィ・アンタイオスさん?」
月姫が笑った。
「バレちゃった」
ヴィヴィは苦笑した。
「はい。そうです」
「本物!?」
人魚の少女が目を輝かせる。
「ラーマの自由の騎士!」
「その呼び方、ちょっと恥ずかしいのだけれど……」
「だって私、ラーマの学校で習いました!」
「学校で?」
「はい! 奴隷制度をなくした人!」
ヴィヴィは少し困ったように笑った。
「私一人じゃないわ。たくさんの人たちが一緒にやったことよ」
「でも、革命に立ち上がったのはヴィヴィさんですよね?」
「それは……そうだけど」
「すごいです!」
人魚の少女は満面の笑みを浮かべた。
「私、お母さんから聞いていたんです。昔は人間の国では、水棲人も人魚も動物みたいに扱われることがあったって。でも今は、ラーマの川では私たちも普通に商売できます」
「そう」
ヴィヴィは河面を見る。船の周囲を水鳥が飛んでいる。岸辺では子供たちが船に手を振っていた。
「それなら……戦った甲斐があったわ」
微笑むヴィヴィに、人魚の少女はにっこり笑った。
「じゃあ、今日はアーゼルハイドラドまで楽しんでいってください!」
「ありがとう」
少女は船尾へ走っていった。
月姫がその後ろ姿を眺めながら言った。
「ヴィヴィって、やっぱり人気者なんだね」
「そうかしら」
「金貨になってるくらいだもん」
「それはコーネリアスのせいよ」
「キャハハ!」
船がゆっくりと動き始める。
ベルゲンの街並みが少しずつ遠ざかっていった。
ヴィヴィは船尾から街を眺める。
新しい道路。
煉瓦造りの倉庫。
河岸に並ぶ市場。
煙突から煙を吐く工場。
そして、その向こうに見える古い城壁。
新しい時代と古い時代が、同じ風景の中に混ざり合っている。
「綺麗ね」
「うん」
月姫が隣に立った。
「ヴィヴィ、これからどこ行くの?」
「アーゼルハイドラドよ」
「そのあと?」
「決めてないわ」
「え?」
「決めてない」
ヴィヴィは楽しそうに笑った。
「これまでの私は、いつも予定表があったの。会議、軍議、外交、視察、演説……朝から晩まで全部決まっていた」
「うん」
「だから今回は決めないことにしたの」
「じゃあ、行きたいところに行く?」
「そう」
「食べたいものを食べる?」
「そう」
「寝たいときに寝る?」
「もちろん」
「面白そうなところがあったら寄り道する?」
「大歓迎」
月姫の顔がぱっと明るくなった。
「最高の旅じゃん!」
「でしょう?」
二人は顔を見合わせて笑った。
二人が笑っていると、船内から声が聞こえてきた。
「昼食の用意ができました!」
月姫の耳がぴくっと動く。
「ご飯!」
「反応が早いわね」
「朝ご飯食べたけど?」
「食べたから何?」
「お昼ご飯だよ!」
「そうね」
ヴィヴィは笑いながら船内へ入った。
客室兼食堂は、船の中央に設けられていた。
長い木製のテーブル。
天井から吊り下げられたランプ。
そして、そこに並んでいた料理を見た瞬間、月姫の目が丸くなった。
「うわああああ……!」
テーブルいっぱいに魚介料理が並んでいた。
蒸した川エビ。
香草を詰めた白身魚の丸焼き。
大きな貝を酒蒸しにしたもの。
海藻と魚のスープ。
焼いたイカ。
蟹の身をたっぷり使った炊き込み飯。米は最近、日輪兵団が新たな国持ちとして栽培している。
さらに、薄く切った魚を香辛料と柑橘で和えた冷菜まである。
「すごい……」
ヴィヴィも思わず言葉を失った。
厨房から出てきたのは、二人の人魚と、水棲人の料理長だった。
料理長は大柄な男性で、青緑色の鱗を持っている。
「ベルゲンからアーゼルハイドラドまでの船旅は長いですからね。腹いっぱい食べてもらわないと」
「これ、全部この船で?」
「もちろん」
料理長が胸を張った。
「ベルゲンで積み込んだ魚だけじゃありません。途中の河港で水棲人の漁師たちが獲ったものも入ります」
「新鮮なんだ……」
月姫が目を輝かせる。
「さあ、お嬢さん方。遠慮せずに」
料理長が笑う。
「水棲人の船では、海や川の食事を楽しんでもらうのも船員の仕事です」
「じゃあ……」
月姫が箸を取った。
「いただきます!」
まずは焼き魚。
表面は香ばしく、中は驚くほど柔らかい。
「んんっ!」
月姫の頬が膨らむ。
「おいしい!」
「でしょう?」
人魚の給仕が嬉しそうに笑う。
「河魚ですけど、アーゼルハイドラドでは海の魚も積み込みます。ベルゲ河は海まで繋がっていますから」
ヴィヴィも蟹を一口食べた。
ぷりっとした身。
濃厚な旨味。
その後にほんのりした甘さが広がる。
「……美味しい」
ヴィヴィの顔が緩む。
「本当に美味しいわ」
「ありがとうございます」
料理長が嬉しそうに頭を下げる。
「うちの船は貨物も運びますが、料理長として食事だけは妥協しないんですよ」
「料理長として?」
月姫が首を傾げた。
「さっきから料理長って言ってるけど、あなたがこの船の料理長なの?」
「はい。私がこの船の料理長です」
水棲人はそう答えた。
その声を聞いた瞬間、月姫の手が止まった。
どこかで聞いたことのある声だった。
料理長もまた、月姫の顔をじっと見つめている。
やがて料理長の目が大きく見開かれた。
「……月姫、ちゃん?」
「え?」
月姫が顔を上げる。
料理長の唇が震えた。
「月姫ちゃん……月姫ちゃんだよね?」
「うん。そうだけど……」
次の瞬間、料理長の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「月姫ちゃん……!」
彼女は両手で口元を覆い、肩を震わせた。
「えっ、えっ? どうしたの?」
月姫が慌てて立ち上がる。
料理長は涙を拭おうともせず、月姫の前へ駆け寄った。
「本当に、、まさかこんなところで会えるなんて……!」
「ええと……」
月姫は困ったようにヴィヴィを見る。知っている人かもしれないなぁ。でも名前がわからないなぁと言う顔だ。ポンコツな彼女はもの覚えが悪い。ヴィヴィも驚いた顔で料理長を見つめていた。
「あなた、月姫を知っているの?」
「知っていますとも!」
料理長は涙声で答えた。
「忘れるはずがありません。小日向マスターが私を助けてくれた日のことを……!」
料理長は涙を拭いながら、深く頭を下げた。
「申し遅れました。私の名前はセイレーンです」
「セイレーン……?」
月姫が目を丸くする。
「もしかして……あのまだ子供だった セイレーン?」
「はい」
セイレーンは、泣き笑いの顔で頷いた。
「小日向様たちが、奴隷商人から助けてくださった水棲人のセイレーンです」
「セイレーン!」
月姫の顔がぱっと明るくなった。
「わあっ! すっかり大きくなって美人になったから、気づかなかったよ。久しぶり!」
月姫は勢いよくセイレーンへ抱きついた。
セイレーンも彼女を強く抱きしめる。
「月姫ちゃん……月姫ちゃん……!」
「元気だった?」
「はい……はい! 元気でした! ずっと、ずっと会いたかったんです!」
「私も!」
月姫はセイレーンの胸元に顔を埋めたまま、嬉しそうに笑った。
「朝日屋の海の家で、料理を運んだり、皿を片づけたりしていました。そこで初めて、人間のお客様に自分の料理を食べてもらったんです」
「それがきっかけで料理人に?」
「はい」
セイレーンは照れたように笑った。
「小日向マスターが仕事の合間に教えてくれたんですよ。魚を焼くと、香りが変わる。貝を蒸すと、旨味が増す。海藻に調味料を合わせると、まったく別の味になる。料理って、海の恵みを別の形に変える魔法みたいでしょう?」
ヴィヴィが感嘆の声を漏らす。
「奴隷商人に捕まっていた少女が、船の料理長にまでなったのね」
「はい。小日向様たちが、私に未来をくださったんです」
セイレーンは月姫の手を握った。
「だから、月姫ちゃんが元気に旅をしている姿を見られて、本当に嬉しいです」
「私もセイレーンが元気で嬉しい!」
月姫は満面の笑みを浮かべた。
「月姫、素敵な再会になったわね」
「うん!」
「それにしても、あなたたちの知り合いは料理人になる人が多いのね」
「そうかな?」
「アマゾネスもセイレーンも」
「みんな料理が好きなんだよ」
「あなたも?」
「私は食べるのが好き!」
「なるほど」
ヴィヴィは料理を見つめた。
「国を変える方法は、戦いや政治だけではないのかもしれないわ」
「これからも美味しい料理を作り続けます」
セイレーンは嬉しそうに笑った
「うん!私、いっぱい食べるからね!」
月姫が元気よく頷く。ヴィヴィはその月姫の表情に、自然と心が和らぐ。
彼女にとって、月姫は親友であると同時に妹のようでもあり、愛娘のようでもあり、自分を誰よりもわかってくれる恋人のようでもあった。
食堂には、再会を喜ぶ笑い声と、料理を楽しむ音が広がった。
ヴィヴィはこの瞬間、心から安らぐ思いを感じていた。英雄として何かを期待されることに疲れていたのかもしれない。
彼女の1年間はまさにラーマ革命の偶像として振る舞った一年であった。もちろんそのことに後悔は無い。
しかし、たわいもないことで笑い合うことができる。決断も勇気も求められることのないこうした瞬間にこそ人間の幸せがあるのだと、
彼女は改めて思い出していた
船はゆっくりと河を下り、アーゼルハイドラドへ向かって進んでいく。
⭐️異変
その異変は、あまりにも突然だった。
ぽん、ぽん、ぽん、と穏やかに響いていた焼き玉エンジンの音を切り裂くように、けたたましい警報が鳴り響いた。
――ヴォォォォォォン!
「え?」
月姫が魚の身を箸でつまんだまま固まった。
ヴィヴィも顔を上げる。
食堂の空気が、一瞬で凍りついた。
次の瞬間、船員たちが一斉に立ち上がった。
「警報だ!」
「川下を見ろ!」
「何が起きた!?」
水棲人の船員たちが甲板へ駆け出していく。
さっきまで笑顔だったセイレーンの顔から、血の気が引いていた。
「……まさか」
「セイレーン?」
月姫が尋ねる。
答えは返ってこなかった。
セイレーンは甲板へ飛び出した。
ヴィヴィと月姫も後を追う。
そこから見えた光景に、ヴィヴィは息を呑んだ。
川下から、船が逃げてきていた。
一隻ではない。
二隻。
三隻。
十隻近い船が、我先にと上流へ向かっている。
漁船もあれば、貨物船もある。
小舟に乗った水棲人たちは、櫂を折れそうなほど必死に動かしていた。
船同士が衝突しかけても構わない。ただ逃げている。
「何なの……?」ヴィヴィが呟く。
すると、一隻の小型漁船がこちらへ近づいてきた。
甲板から水棲人の男が叫ぶ。
「逃げろ!」声が裏返っていた。
「川下から来るぞ!」
「何が来る!?サーペントか?スキュラか?」
船員が問い返す。
男は震えながら答えた
「ヒトガタだ!」
その名前を聞いた瞬間。
甲板にいた水棲人たちが、一斉に青ざめた。
「ヒトガタ……?」
月姫が首を傾げる。
セイレーンが震える声で呟いた。
「海の……化け物です」
「化け物?」
「人間を食べるんです」
その言葉に、月姫の表情から笑顔が消えた。
遠くで何かが水面から跳ねた。
白い。人間のように見える。だが、あまりにも細い。
異様に長い腕。細長い二本の脚。
頭部には目と口らしきものがある。
体長は三メートル近い。
白い皮膚は水に濡れて不気味に光っている。
そして――群れだった。
「……あれが」
ヴィヴィが呟く。
「ヒトガタ……」
次の瞬間、川下から悲鳴が聞こえた。
遠くに小さな港町が見える。
河岸に沿って作られた、人口八百人ほどの町。
市場。船着き場。宿屋。小さな教会。
普通なら、夕方を迎える穏やかな港町だった。
だが今、その町は地獄になっていた。
「逃げろ!」
「港から離れろ!」
「家の中へ!」
人々が走っている。子供を抱いた母親。
荷物を放り出した商人。老人の手を引く若者。
しかし、白い怪物たちは河から次々に上陸していく。
水面からぬっと立ち上がり、細長い腕を伸ばす。
逃げ遅れた男が一人、捕まった。
「うわああああっ!」
細い腕が男の身体に巻きつく。
そして、怪物の口が大きく開いた。
「いやだぁぁぁ!」ぐしゃぐしゃしゃくしゃく咀嚼音
悲鳴。それは途中で途切れた。
白濁した粘液に塗れた異形が、町を蹂躙していた。
ヒトガタは捕食対象として男や老人を見るやいなや、その異常に発達した顎で頭部からかじりついた。骨を砕く不快な音と共に、鮮血が噴き出し、断末魔の叫びは一瞬で途切れる。彼らにとって男は「餌」に過ぎなかった。
だが、女には違う反応を示した。鼻先を蠢かせ、発情した獣のような唸り声を上げると、細長い腕で女たちを乱暴に捕らえたのだ。彼らの腹の中心には、人間のそれとは似つかない、先端が膨らんだ触手のような生殖器が充血して逸り出していた。それは新たな宿主──「孕み袋」を求めていた。
「やめろ! ニャアン! ニャアンから離れろッ!!」
水棲人の漁師・ウベは絶叫した。二人のヒトガタに両腕をねじり上げられ、地面に押さえつけられていても、彼は必死に足掻いた。視界の先には、最愛の妻ニャアンがいた。
美しい青緑色の鱗を持つ水棲人の妻は、一人のヒトガタに腰を掴み上げられ、四つん這いにされていた。スカートが乱暴に捲り上げられ、下着が引き裂かれる音がウベの心を抉る。
「いやっ! ウベッ……助けてッ!!」
ニャアンの悲鳴が響く。ヒトガタは人間の言葉など理解せず、ただ本能のままにその細い腰を引き寄せた。先走り液でぬめる触手状の生殖器が、ニャアンの秘所に押し当てられる。
「あぐっ……! 来るなッ! 来るなぁッ!!」
容赦ない貫通。ヒトガタの生殖器は異様に冷たく、そして硬質だった。ニャアンの華奢な身体が弓なりに反り返り、口からは声にならない悲鳴が漏れる。彼女は助けを求めてウベの方へ手を伸ばしたが、それは虚しく空を切った。
「見るなぁッ! 俺のニャアンを……壊すなぁぁッ!!」
ウベは目の前で妻が犯される光景を見せつけられながら、指一本動かせない無力さに嗚咽した。ヒトガタはニャアンの腰を強く打ち付けながら、体内に白濁した粘液を注ぎ込んでいく。彼女の青緑色の肌に白い体液が垂れ流され、彼女の瞳からは絶望の涙が溢れ出していた。
町外れの商家でも悲劇は起きていた。
「お母さん……」
「静かに。……お父さんと一緒に絶対に出ちゃダメよ」
商人の妻・ライザは夫と幼い息子を頑丈なタンスの中に押し込み、外から鍵をかけた。タンスの中からは夫の心配そうな声が聞こえたが、彼女は無視した。扉が破られる音はもうすぐそこまで来ている。
ドンッ! と扉が蹴破られた。飛び込んできた巨大な白い影に、ライザは胸の十字を握りしめた。
「……私を連れて行ってちょうだい。代わりに、奥には手を出さないで」
彼女は震える声で言った。タンスの中の二人が見つかれば殺される。それは男たちへの餌としての死だ。彼女は自らが「孕み袋」となることで時間を稼ごうとしたのだ。
ヒトガタはライザの申し出など理解しない。ただ目の前に発情できるメスがいるというだけで十分だった。彼女の胸倉を掴み上げると、そのままテーブルの上に押し倒した。
「あうっ……!」
テーブルがきしむ音と共に、着ていたワンピースが引き裂かれた。豊満な乳房が露わになり、ヒトガタの粘液まみれの手がそれを無遠慮に鷲掴みにする。痛みと屈辱に顔を歪めながらも、ライザは必死に声を殺した。
(あなた、ミハイル、、騒いじゃダメ……聞こえたら殺されちゃう……!)
ヒトガタの生殖器が太ももの間に割り込んでくる。冷たくて濡れた感触に背筋が凍りつく。
「うぐっ……くっ……!」
激しい突き上げ。彼女の子宮をこじ開けるような暴力的な侵入に、ライザは唇を噛み締めて耐えた。声を漏らせば夫が飛び出してくるかもしれない。彼女の愛は、自らの貞操よりも重かった。
「んんっ……っくっ……ああっ……!」
耐えきれず漏れる甘い吐息と苦痛の声。彼女の身体は屈辱的に反応し始め、ヒトガタの放つ大量の粘液を受け止めようと内壁を収縮させていく。彼女は天井を見上げながら、ただ家族が助かることを祈り続けていた。
「ぐきゅるるる」ヒトガタは呻くと彼女の膣の中に、大量の精液を流し込んだ。
ビクンビクンと痙攣するライザ、彼女の周りには3匹のヒトガタが集まっていた。
「逃げろ! 早く船へ!!」
行商人のエルフ・リディナは、長弓を引き絞りながら叫んだ。山岳エルフ出身の彼女の矢は正確にヒトガタの眉間を射抜いていたが、数が多すぎた。矢筒は空になり、短剣を抜いて応戦したものの、数体のヒトガタに囲まれてしまった。
「離せッ! 汚らわしいッ!!」
プライドの高いエルフである。彼女は決して屈することなどないと思っていた。だが、細腕はいとも簡単にねじり上げられ、短剣は遠くへ弾き飛ばされた。
ヒトガタたちは獲物を無力化させると、一斉にリディナの服に爪を立てた。上等な革の旅装は一瞬でボロ布と化し、滑らかな肌が露わになる。エルフ特有の細身だが引き締まった肢体に、白濁した手が這い回った。
「やめろ……触るなッ! エルフである私に触れる資格などないぞッ!!」
屈辱に顔を赤らめながら抵抗するが、ヒトガタには通用しない。一人が彼女の背後から両腕を拘束し、胸を突き出すような体勢を取らせる。別のヒトガタがその前に立ち、硬直した生殖器を彼女の秘裂に擦り付けた。
「いやっ……! そんなもの……入るわけがないっ……!」
先端が割り込んでくる感覚にリディナは目を見開く。エルフの身体は人間よりも華奢だ。そんな異形を受け入れられるはずがない。
「ぎゃあああああッ!!」
裂けるような痛みと共に侵入が始まる。リディナの高潔な精神が肉体の苦痛によって砕かれていく。彼女は自分が今、「孕み袋」として扱われているという事実に涙した。誇り高いエルフが、下等な怪物に種付けされるという極限の屈辱。彼女の中にドクドクと注ぎ込まれる粘液が、彼女の自尊心を根こそぎ溶かしていくようだった。
「行けっ! 早く行くのよッ!!」
教会の前で、アーミターヴァ教の聖導女・アリエスは子供たちを叱咤した。子供たちは泣きながら避難所の方へと走っていく。彼女はその背中を見送ると振り返り、迫りくるヒトガタたちの前に立ちはだかった。
「これ以上は通しません……神の御名において!」
彼女は聖印を掲げたが、信仰心だけで怪物は止まらない。ヒトガタたちは聖女の純白の法衣に目をつけると、獲物を見るような欲望に満ちた目で群がった。
「あぐっ……!」
法衣が引き裂かれ、聖女としての清らかな身体が露わになる。彼女は神に祈りを捧げた。これは試練だと。自分が身代わりとなれば子供たちは助かると。
「……神よ。私の身体をお使いください……」
彼女は自ら足を開いた。抵抗すれば子供たちを追いかけるかもしれない。一刻も早く彼らの欲望を満たし、満腹させれば子供たちは助かる。
ヒトガタたちはその従順さに興奮したのか、次々と彼女に覆いかぶさってきた。冷たい生殖器が彼女の口と秘所に同時にねじ込まれる。
「んぐっ……むぐっ……! んんーーッ!!」
口内を犯される苦痛と秘所を貫かれる衝撃。彼女は必死に神の名を心の中で唱え続けた。だが身体は裏切るように熱くなり、注ぎ込まれる濃厚な精液の味に吐き気を催しながらも飲み下さざるを得ない。
「んぐっ……ごぼっ……ああっ……!」
次々と交代で放たれる精液が彼女の身体を汚していく。顔も髪も胸も腹も全てが白濁に染め上げられ、彼女はただの肉便器のように責め苛まれた。だがその濁った瞳だけはただ一点、子供たちが逃げていった方向を見つめ続けていた。
⭐️日輪兵団
甲板からその惨状を見下ろしていたヴィヴィの拳が白くなるほど握りしめられていた。
「……ひどい」
月姫の笑顔は消え失せていた。その瞳には怒りが燃えていた。
船内に怒号が飛び交った。
「総員、戦闘配置! 上陸用意!」
川上操六少尉の声が甲板を裂いた。二十代半ばの若い士官だが、その双眸には決断の炎が宿っている。彼は日輪兵団海兵団の守備分隊十五名を率いていた。本来この貨客船の護衛が任務であり、港町の救援など任務外である。
だが川上は迷わなかった。
「アリスレーゼ軍曹! ドング兵長! ミアアリス伍長! 分隊全員、装備を整えろ! 港町を守るぞ!」
「「「了解!!」」」
船が港町へ舵を切る。焼き玉エンジンが唸りを上げ、舳先が白波を立てて進んだ。
港に接岸すると同時に海兵たちは跳び出した。三八式歩兵兵銃の銃声が響き渡る。日輪五式機関銃が港の倉庫の屋根に据えられ、制圧射撃を開始した。
「撃て! 撃ちまくれ!」
機関銃手の狼獣人・ミアアリス伍長が吼える。機関部を握り、弾丸が白い異形の群れを薙ぎ倒していく。三八式の小銃弾はヒトガタの頭蓋を確実に貫いた。
だが数が違いすぎた。
「南東から二十体! 北西からも来るぞ!」
「三式装甲馬車、前へ!」
ドング兵長が駆け回る。背丈ほどしかないドワーフの老兵は、しかしその腕で装甲馬車の砲塔を回していた。焼き玉エンジンの低い唸りとともに、車載砲が火を噴く。
ドンッ!
砲弾がヒトガタの群れを吹き飛ばした。一瞬の静寂。だが次の瞬間、別の方向から新たな群れが押し寄せる。
「弾薬が足りねぇ!」
「擲弾筒だ! 九七式を構えろ!」
迫撃砲のような弧を描いて擲弾が飛び、着弾点で炸裂する。白い肉片が飛び散った。
だがヒトガタは怯まなかった。
彼らは人間の悲鳴を聞くと、より興奮して突進してくるのだ。
「畜生…!」
川上が拳銃を構えながら叫んだ。港町の人々は、この海兵たちの奮戦の隙に次々と船へと逃げ込んでいた。それが唯一の救いだった。
だが戦線は崩壊しつつあった。
「アリスレーゼ軍曹! 左翼が突破された!」
「わかってる!」
エルフのアリスレーゼ軍曹は三八式を構え、正確な射撃でヒトガタを撃ち抜いていた。金色の長い髪をなびかせ、その美貌は戦場にあって異様なほどに映えた。彼女はエルフの中でも特に射撃の才能に恵まれていた。
「この…っ!」
彼女の弾丸が三体のヒトガタを倒した。だが弾倉が空になる。予備の弾倉を取り出そうとした、その瞬間だった。
――ぐしゃり。
背後で三式装甲馬車が砕かれる音がした。ヒトガタの群れが一斉に飛びかかり、焼き玉エンジンを覆う装甲板をこじ開けたのだ。操縦していた兵士が悲鳴とともに引きずり出され、その首が噛み砕かれる。
「ドング兵長!!」
アリスレーゼの叫び。ドワーフの老兵は装甲馬車の下敷きになりながら、まだ手榴弾のピンを抜いていた。
「うおおおおおッ!日輪帝国に栄光あれ!!」
彼は叫びながら手榴弾を抱え、ヒトガタの群れの中へと突っ込んだ。
爆発。
ドング兵長の壮烈な最期だった。
「ドングさん…!」
アリスレーゼが唇を噛む。しかし彼女が立ち止まる暇はなかった。
「アリスレーゼ! 後ろだ!」
ミアアリスの警告が遅かった。
。
一匹のヒトガタがアリスレーゼの背後から襲いかかった。細長い腕が彼女の腰に巻きつき、その身体を持ち上げる。
「きゃあっ! 離して! 離しなさい!」
三八式が手から落ちる。彼女は必死に抵抗したが、ヒトガタの力はエルフのそれを遥かに凌いでいた。
「アリスレーゼ!!」
川上が援護しようと駆け寄るが、別のヒトガタに阻まれる。ミアアリスも機関銃を撃ち続けているが、弾道に味方がいるため撃てない。
アリスレーゼは地面に押さえつけられた。彼女の軍服が引き裂かれる音が戦場の喧騒の中に響く。
「いやっ! やめてっ! 川上少尉! ミアアリス伍長! 助けて…!」
悲痛な叫び。だが誰も彼女を救えない。
ヒトガタの生殖器が彼女の太ももの間に割り込む。
「あああああッ!!」
エルフの耳を劈く悲鳴だった。
彼女の美しい体を醜いモンスターたちが蹂躙した。
彼女と川上は除隊したら結婚する約束をしていた
「アリスレーゼ!!」
川上の目が血走る。彼は拳銃を撃ち尽くし、軍刀を抜いてヒトガタの群れに突撃した。その剣技は凄まじく、三体のヒトガタの首を一太刀で跳ね飛ばす。
だが多勢に無勢。
「少尉! 下がってください! 死んじゃいます!」
ミアアリスが叫ぶ。しかし川上は止まらない。
「全員…この港町を…守り抜け…!」
彼は血まみれになりながら、それでも前に進もうとした。
その背後で、アリスレーゼがヒトガタに犯されていた。白い異形が彼女の華奢な身体を揺さぶるたび、金色の髪が地面に散らばる。彼女の口からは抵抗の言葉ではなく、苦痛と屈辱の嗚咽が漏れていた。
「や…あ…操六さん、、助けて、ああっ…」
エルフの誇りは、異形の精液によって汚されていく。
そしてミアアリスもまたその光景に呆然としていた。彼女は恐怖で身体が動かなかった。機関銃の引き金を引くことすら忘れ、ただ立ち尽くしていた。
「あ…あ…」
彼女の背後に、ヒトガタが迫っていた。
「ミア! 後ろだ!!」
川上の警告。だがミアアリスは反応できなかった。
細長い腕が彼女の身体を掴む。狼獣人の毛皮を引き剥がすように軍服が裂かれ、華奢な身体が露わになる。
「いや…いやだ…」
彼女は震える声で呟いた。戦士として育てられ、数々の戦場を経験してきた彼女が、今、恐怖に支配されていた。
ヒトガタはそんな彼女の恐怖を楽しむかのように、ゆっくりとその身体を組み敷いた。
「いやああああッ!!」
港町に響く悲鳴。
川上は一人、軍刀を振るい続けた。もはや勝ち目はない。彼の部下は次々と倒れ、あるいは犯されている。
それでも彼は戦い続けた。
「日輪兵団…海兵団…! 我々は…!」
彼の軍刀が五体目のヒトガタを斬り伏せる。だが、その身体には無数の傷が刻まれていた。左腕は力なく垂れ下がり、右足は深く裂けている。
それでも彼は叫んだ。
「一人でも多く…一人でも多くの命を…守り抜く…!」
その姿はまさに狂気じみていた。
だがその狂気こそが、港町の人々の命を救っていた。
船は満載になり、次々と岸を離れていく。人々は泣きながら、港で戦い続ける海兵たちの姿を見つめていた。
「ありがとう…! ありがとうございます…!」
老婆が叫ぶ。若者が拳を握りしめる。
だが、その代償はあまりにも大きかった。
海兵たちは一人、また一人と倒れていく。
そして川上の前にも、遂に最後のヒトガタの群れが立ちはだかった。
彼は軍刀を構え、満身創痍の身体で笑った。
「…上等!死ぬ時はアリスレーゼといっしょだ」
最後の突撃。
彼の軍刀が光る。
そして、その光は、白い異形の群れの中に消えていった。
まさに状況は絶望的であった!
⭐️自由の騎士 ヴィヴィ アンタイオス
甲板に、二つの影が立った。
ヴィヴィ・アンタイオスが双剣アガートラームを抜き放った。赤と緑のヘテロクロミアの瞳が、港町の惨状を映して燃え上がる。
隣で月姫が魔剣ミストルティンを構えた。白銀の髪が河風に舞い、真紅の瞳から笑顔が消えていた。その代わりに、ヴィーキングの血が謳っていた。
「月姫」
ヴィヴィが短く呼ぶ。
「うん」
月姫は頷いた。言葉はいらなかった。
ヴィヴィの意图を月姫は瞬時に読み取った。二人で戦場に降りても、数の暴力は覆せない。ならばやるべきことは二つ。一つは時間を稼ぐこと。もう一つは人々を立ち上がらせること。
「私は避難した人々のもとへ行く。あなたは──」
「わかってる。川上さんたちを助けて、時間を稼ぐ」
「……戻ってきてね」
「もちろん!」
月姫が笑った。戦場にあっても、彼女は笑った。
「行くよ、ヴィヴィ!」
月姫が船舷を蹴った。
白銀の流星が甲板から港町へと飛び降りる。着地の衝撃で石石畳が砕け、舞い上がった塵の中を月姫は疾走した。
一騎当千と言われるアイスガルドのエッダ騎士団中でも選ばれしヴァルキューレの白き乙女、フラズグズ・スヴァンフヴィートの前にヒトガタなど敵ではない。愛刀、ミストルティンが輝きを放つと、彼女は静かに呟いた。
「フラズグズ・スヴァンフヴィートの名において命ずる!我に力を貸し給え!悪を滅ぼして正義を示すのだ!」
ヒトガタの群れが気づくより早く、ミストルティンが弧を描く。
一刀。二刀。
三体のヒトガタが同時に両断され、白い体液を撒き散らしながら崩れ落ちた。
「こっちだよ化け物たち! おいしいのこっち!」
月姫が叫ぶ。ヒトガタたちは新たな獲物の気配に反応し、一斉に月姫へ向きを変えた。
その隙を突いて、ヴィヴィが港の反対側へ走る。
アガートラームが右へ左へと閃き、行く手を阻むヒトガタを薙ぎ払う。十二神将の格闘技はトップクラスだ。双剣を持たずとも彼女は凶器だが、剣を持った彼女はまさに無敵に近い。
だが──数が多すぎた。
月姫は炎の中を走った。
港町の通りは混乱の極限にあった。逃げ遅れた人々の悲鳴。ヒトガタの不気味な唸り声。建物が崩れる音。
その全てを背に、月姫は川上操六が立っている場所へ向かった。
「川上さーん!!」
月姫の声が戦場を切り裂いた。
川上は血まみれの身体で膝をついていた。軍刀は折れ、左腕は力なく垂れ下がっている。それでも彼は立ち上がろうとしていた。
アリスレーゼは地面に伏し、ヒトガタがその上で腰を振っていた。金色の髪は泥と体液に塗れ、エルフの誇りは砕かれ、彼女の瞳から光が消えかけていた。
ミアアリスもまた、別のヒトガタに押さえ込まれていた。狼獣人の軍服は引き裂かれ、彼女はもう抵抗すらしていなかった。
「離せえええッ!!」
月姫の咆哮。
ミストルティンが閃いた。
アリスレーゼの上に乗っていたヒトガタが、胴体を両断された。白い体液が飛び散り、アリスレーゼの上に降り注ぐ。
「大丈夫!?」
月姫がアリスレーゼの手を取る。
「……月姫、ちゃん…?」
アリスレーゼの虚ろな瞳に、ゆっくりと光が戻る。
「助けに来たよ! 川上さんも! ミアも!」
月姫は次の瞬間には動いていた。ミストルティンを振り回し、迫るヒトガタを次々と斬り伏せる。その動きは疾風のようだった。
ミアアリスの上に乗っていたヒトガタも、一太刀で斬り捨てられた。
「た、助かった…?」
ミアアリスが呆然と呟く。
「立って! 早く! 船に戻って!」
「アリスレーゼ! ミア! 逃げて! 私は時間を稼ぐから!」
「でも月姫ちゃん、あなた一人じゃ…!」
「大丈夫! ヴィヴィが来てくれるから! 早く!!」
川上とアリスレーゼとミアアリスは、互いに支え合いながら船の方へ走った。月姫はヒトガタの群れの中心へと走り込んだ。
「こっちだよ! みんなこっち! おいしい月姫はこっちだよ!」
月姫は叫びながらミストルティンを振るい続けた。ヒトガタたちは月姫に集中し、逃げる三人には目もくれなかった。
それが月姫の作戦だった。
自らを囮にする。
港の反対側で、ヴィヴィは走っていた。
避難した人々は港の桟橋の先に集まっていた。貨客船の周りに折り重なるようにして、恐怖に震えている。
女たちの泣き声。子を抱く母親。傷ついた老人。
そして男たちがいた。
逃げてきた男たちだ。妻子を連れて逃げてきた男たちの顔には、安堵と、そして恥辱が混じっていた。港町で仲間が戦い、女が犯されている間に自分だけ逃げてきたという屈辱。
ヴィヴィは彼らの前に立った。
血のついた双剣を握ったまま、赤と緑の瞳で一人一人を見据える。
「あなたたち」
静かな声だった。だがその声は、港の騒音を切り裂いて全員の耳に届いた。
「愛する者はそばにいますか」
男たちが顔を上げる。
「妻がいますか。母がいますか。娘がいますか。姉妹がいますか」
沈黙。
「彼女たちは今、あの化け物に蹂躙されています」
ヴィヴィの声が震えた。怒りを、必死に抑えていた。
「海兵たちが命を懸けて時間を稼いでくれました。十五人の兵士が、あなたたちの逃げる時間のために血を流しています」
男たちの顔が歪む。
「そして今、私の親友が一人であの群れの中に突入し、あなたたちの代わりに戦っています」
ヴィヴィは剣を上げた。
「私が先陣を切ります」
男たちが息を呑む。
「ファランクスを組むのです。盾を持てる者は盾を。武器を持てる者は武器を。持てない者は石を。棒を。何でもいい」
ヴィヴィの瞳が燃えた。
「我々の数の力で、あの醜いモンスターを圧倒するのです」
「……できるのか?」
一人の老人が震える声で聞いた。
「できるわ。ラーマの自由の騎士 ヴィヴィ アンタイオスが指揮を執ります!一人は弱くても、十人は強い。百人はさらに強い。あなたたちが並べば、私は敗れない」
「なぜ…そこまでしてくれるんだ?」
「私はラーマの自由の騎士よ。自由とは、誰かが守ってくれるのを待つものではない。自分の手で勝ち取るものよ」
ヴィヴィが手を差し出した。
「立ちなさい。あなたたちの愛する者たちを、自分の手で取り戻しなさい」
静寂。
やがて、一人の若者が立ち上がった。漁師の男だ。その手には錨が握られていた。
「妻が…町に残した妻がいるんだ」
次に商人が立った。
「娘が逃げ遅れたかもしれない」
次。次。次。
一人、また一人と男たちが立ち上がっていった。漁師、商人、大工、鍛冶屋。手には各自の得物が握られていた。
「総員──363名」
ヴィヴィが笑った。
「行きましょう」
港町の通りに、鋼の壁ができた。
先頭はヴィヴィ。双剣アガートラームを構え、赤と緑の瞳が前を見据える。
その後ろに363人の男たち。漁師が網と鉈を持ち、商人が棒を握り、大工が金槌を構える。整然とはしていない。だが彼らの目には、逃げてきた男たちの恥辱を燃やし尽くすほどの炎が宿っていた。
その後ろに川上とアリスレーゼとミアアリス。彼らは満身創痍だったが、三八式を抱えて列の最後尾についた。
「前へ!」
ヴィヴィが叫ぶ。
ファランクスが動いた。
港町の入り口で、ヒトガタたちが気づいた。新たな獲物……いや、違った。これは獲物ではない。これは牙だ。
「突撃!」
ヴィヴィが先陣を切った。
アガートラームが光った。
右の剣がヒトガタの首を斬り裂き、左の剣がもう一匹の胸を貫く。その隙間を縫って、後ろの男たちが武器を叩き込む。
「うおおおおッ!!」
漁師が錨を振り回し、ヒトガタの頭を砕く。大工が金槌で指を叩き折り、商人が棒で膝を突く。
一匹のヒトガタが倒れる。別の一匹が倒れる。
「押せ! 押せ!」
ヴィヴィの声が響く。ファランクスは前進した。一歩、また一歩。
ヒトガタたちは混乱した。今までの獲物は逃げるだけだった。だがこの集団は、逃げない。向かってくる。
「数の力よ! 圧倒しなさい!」
男たちが叫びながら前進する。一人が倒されても、後ろの者が前に出る。六十三人の意志が一つの刃になった。
ヒトガタたちは後退し始めた。
「今! 擲弾筒を!」
川上が船で叫ぶ。残っていた九七式擲弾筒が火を噴き、ヒトガタの背後で炸裂した。
退路を断たれたヒトガタたちは、ファランクスの前に潰されていく。
「素晴らしい! あなたたちは戦士よ!」
ヴィヴィが叫ぶ。男たちの目はもはや恐怖ではなかった。誇りだった。
-⭐️月姫の限界
だが、戦場の中心で、月姫は限界を迎えていた。
「はぁ…はぁ…」
ミストルティンが重い。腕が鉛のようだ。傷だらけの身体に、ヒトガタの粘液がへばりついている。
斬っても斬っても、後から後から湧いてくる。
川上を助け、アリスレーゼを助け、ミアアリスを助け、人々の逃げる時間を稼ぐために突入し続けた。その代償は、あまりにも大きかった。
「…まだ…まだやれる…」
月姫は震える腕で剣を構え直した。だがその足元がふらつく。
ヒトガタたちはそれを見逃さなかった。
一匹のヒトガタが横から飛びかかり、ミストルティンを弾き飛ばした。剣が石畳の上で派手な音を立てて滑る。
「あっ…!」
月姫が手を伸ばす。だがその前に、もう一匹が背後から腕を絡めた。
「きゃっ…!」
白い異形の腕が月姫の身体を締め上げる。細いが恐ろしく強い力で、彼女の両腕が封じられた。
「離せ…離せえッ!」
月姫が暴れる。だが抵抗する力は残っていなかった。
そして──奥から現れた。
他のヒトガタとは明らかに違う個体。体長は四メートルを超え、白い皮膚には血管のような赤い筋が浮き上がっている。頭部には二つの大きな瞳があり、そこには明らかな知性が宿っていた。
ボス個体だ。
「…お前が、ボスなの…?」
月姫が見上げる。
ボス個体は月姫を見下ろしていた。その視線は、獲物を見る目ではなかった。もっと深い、もっと粘着質な欲望の目だった。
ボス個体が太い腕を伸ばし、月姫の服を掴んだ。
ぶちっ。
白銀の髪と共に、布が裂ける。
「いや…!」
月姫の白い肌が露わになる。エッダの魔法騎士として鍛えられた身体は、傷と血で彩られていたが、それでもなお美しかった。
ボス個体は月姫を地面に押し付けた。細長い脚が彼女の足を開かせる。
「いやだ…やめて…!」
月姫の目に涙が溢れる。ヴィーキングの血を引く戦士の娘が、今、初めて恐怖の涙を流していた。
ボス個体の生殖器が膨らみ、月姫の秘所に押し当てられた。それは他のヒトガタのものよりも遥かに大きく、そして異様に熱かった。
「あぐううッ!!」
貫通の衝撃に月姫の背中が反り返る。ボス個体は一瞬の躊躇もなく、その細長い腰を激しく打ち付け始めた。突き上げられるたびに、彼女の体が人形のように揺れた。
剛直が最奥を貫き催淫性の体液を流し込む。
心も体もおぞましい、モンスターに支配される恐怖!雌堕ちの絶望!
彼女の白い乳房もヒトガタの細い腕に蹂躙され乳首が勃起させられる!
「いやっ…いやぁ…! ヴィヴィ…ヴィヴィ…!!」
月姫が助けを求めて叫ぶ。だがヴィヴィはまだ港の反対側にいた。
ボス個体は月姫の腰を強く掴み、深く突き上げるたびに、その身体の中に粘液をさらに注ぎ込んでいく。
月姫の白い肌に青い痣が浮かび、その瞳から次々と涙がこぼれ落ちる。
「ああっ…あああッ…! もうおちんちん、やらぁやだ…やだよぉ…!」
彼女はまるで子供のように泣いた。
彼女の抵抗が次第に弱くなっていく。体力だけでなく、精神も削られていた。
朝日屋でマスターの料理を食べ、お客さんに笑顔で接し、ヴィヴィと旅をした楽しい記憶が、異形の暴力に塗りつぶされていく。
「……マスター…」
月姫の唇から、最後の言葉が漏れた。
「……ヴィヴィ…」
「クキャァアアアア」
どびゅううううううううーーーーーーーー!奔流のようにヒトガタの性が打ち込まれた
「だしゃれてりゅ、あぐっ!いぐぅ❤️いぐぅーーーーーーーーーーーーーー!」
空気を切り裂くような甲高い叫び
ビクンビクンビクゥッ!月姫の腰が痙攣した。
ヴィヴィが港町の中心広場に達した時、それを見た。
白銀の髪が、泥と体液に塗れて地面に散らばっている。
犯された月姫が、ボス個体の下で揺れていた。
「────」
ヴィヴィの思考が、一瞬停止した。
そして爆発した。
「あああああああああああああッ!!!!」
それは声にならなかった。獣の咆哮。神の怒り。大地を震わせるほどの殺意が、ヴィヴィ・アンタイオスから噴き出した。
アガートラームが輝いた。
双剣が、今まで見せたことのない光を放つ。それは剣技を超えた何だった。彼女の怒りそのものが、剣に宿ったのだ。
「わたしの月姫に 触れるなッ!!」
ヴィヴィが跳んだ。
アガートラームが右の剣を逆手に持ち、左の剣を正手に持つ。獅子座のレオニダスと御前試合で殴り合った彼女の体術が、双剣術と融合する。
ボス個体が反応するより早く、ヴィヴィはその懐に飛び込んだ。
右の剣が、ボス個体の腕を断ち切る。
「月姫から──!!」
左の剣が、もう片方の腕を斬り飛ばす。
「手を──!!」
回転。双剣が十字の軌跡を描く。
「離せえええええええッ!!!!」
ボス個体の頭が、両断された。
白い体液が噴水のように飛び散り、月姫の身体からボス個体の死骸が崩れ落ちる。
ヴィヴィは即座に月姫を抱き上げた。
「月姫! 月姫! 返事をして!」
「……ヴィ…ヴィ…?」
月姫の目がゆっくりと開く。真紅の瞳は潤んでいたが、確かにヴィヴィを見ていた。
「……来てくれた…」
「約束したでしょ。戻ってくるって」
「……戻ってきてくれた…」
「ええ。私が来たわ。遅くなってごめんね」
ヴィヴィの目から涙がこぼれた。英雄と呼ばれる少女が、初めて戦場で泣いた。
だが──彼女は泣くためにここに来たのではない。
ヴィヴィは月姫を優しく地面に寝かせると、立ち上がった。
ボス個体の死骸を越えて、残ったヒトガタの群れがこちらを見ていた。彼らはボスを失い、混乱している。
だがまだ数はいた。
ヴィヴィが前を見据える。
その背後で、ファランクスが到着した。
363人の男たちが、港町の中心広場に立っていた。彼らはヴィヴィの背中を見ていた。そして、その足元に横たわる月姫を見て、何が起きたかを悟った。
「……勇者を守れなかった」
一人の男が呟く。
「俺たちがもっと早く戦っていれば…」
「今からでも遅くない」
ヴィヴィが言った。
「彼女が時間を稼いでくれた。海兵たちが血を流してくれた。だから今、私たちがいる。今からでも遅くない」
ヴィヴィが剣を上げた。
「全員、かかれ!化け物を根絶やしにしろ!」
「「おおおおおおおッ!!」」
男たちが叫んだ。それは戦士の雄叫びだった。
ファランクスがヒトガタの群れに突入する。
ヴィヴィが先陣を切った。アガートラームが縦横無尽に閃き、ヒトガタを次々と斬り伏せる。その後ろから男たちが押し寄せ、獲物でヒトガタを打ち砕く。
数の暴力を、数で返す。
「押せ! 押せ! 押せ!」
「うおおおおッ!」
男たちの怒号が港町に響き渡る。ヒトガタたちは遂に潰走を始めた。川へ向かって逃げていく。
「1匹も逃すな!殺せ!町を守れ!」
ヴィヴィが指示を出す。男たちは全てにヒトガタを打ち倒した。
戦いが終わった。
夕陽が港町を照らしていた。
港の桟橋には、助かった人々が集まっていた。怪我人を手当てする者、抱き合って泣く者、ただ呆然と空を見上げる者。
その中心に、ヴィヴィがいた。
泥と血に塗れた双剣を下ろし、ただ静かに立っていた。
月姫はアリスレーゼとミアアリスに支えられ、船の客室で休んでいた。幸い命に別状はなかったが、心の傷は深い。
川上少尉は船の甲板に座り、包帯を巻かれた腕で敬礼していた。
「ヴィヴィ・アンタイオス殿。あなたがいなければ、この町も、私の部下も、全て失われていたでしょう」
「彼らの命がそれを救ったのよ。あなたの部下たちの犠牲が」
「……ドング兵長は、死にました」
川上の目が潤む。
「彼は最後まで戦った。装甲馬車が壊されても、手榴弾を抱えて突っ込んだ」
「……立派な兵士だったわ」
「はい。誇り高い、日輪兵団の兵士でした」
二人は沈黙した。河風が吹き、夕陽が水面を橙に染める。
やがて、人々が集まってきた。
港町の住民たちが、ヴィヴィの前に立った。
一人の老婆が前に出る。
「ラーマの英雄よ、、あなたが、私たちを助けてくれたのね」
「私だけじゃない。あなたたちの男たちが戦ったのよ。海兵たちが戦ったのよ。あの白い髪の娘が戦ったのよ」
「でも、あなたが声をかけてくれなかったら、私たちは逃げたままだったでしょう。妻も娘も、助けられなかった」
老婆がヴィヴィの手を取った。
⭐️ ヒトガタフルコース
沈黙が続く中、突然大きな音が響いた。ぐるるるるるるるるるるっ。
全員が固まった。
月姫だった。アリスレーゼとミアアリスに支えられ、客室のベッドに横になっていた彼女のお腹が、まるで遠雷のように鳴ったのだ。
「…えへへ」
月姫は赤くなった顔を布団に埋めた。
「お腹すいちゃった」
「あなたね…」
ヴィヴィが呆れたように笑う。さっきまで戦場で泣いていた少女が、腹を減らして顔を赤くしている。そのあまりの落差に、ヴィヴィは堪えきれずに吹き出した。
「はははっ! 月姫ったら、本当に月姫ね」
「だって動き回ったんだもん! お腹すくよ!」
「わかったわよ。何か食べるものを探しましょう」
だが港町は襲撃で食料の多くを失っていた。倉庫は破壊され、市場は略奪され、店は閉ざされている。
その時、セイレーンが厨房から顔を出した。
「あの…食材さえあれば、皆さんにお料理を作って差し上げられるのですけれど…」
水棲人の料理長は、船の厨房だけは守り抜いていた。鍋もフライパンも調味料も無事だ。だが食材が足りない。
「魚は残ってる?」月姫が身を起こす。
「少しは。でもこんなに大勢の方にはとても足りません」
「困ったわね…」
ヴィヴィが顎に手を当てる。そしてふと、窓の外を見た。
港町の広場には、斬り伏せられたヒトガタの死骸が転がっていた。白い皮膚。細長い腕。そしてあの不気味な生殖器。
「…ねえ」ヴィヴィが言った。
「このヒトガタ、食べられないかしら?」
全員が沈黙した。
「「「…………」」」
月姫が目を丸くする。川上が絶句する。アリスレーゼが眉をひそめる。ミアアリスが耳を伏せる。
だがセイレーンだけは、真剣な顔で頷いた。
「ヒトガタでしたら、フライにしても美味しいですよ」
また沈黙。
「それと、はらわたを抜いてお米を詰めて煮込んでも美味しいです。身は締まっていますし、旨味も強いので濃い味付けによく合います」
セイレーンは淡々と語る。水棲人にとって海や川の生物を料理することは日常だ。ヒトガタが人間に似た姿をしていようと、彼女にとっては「食材」の候補に過ぎなかった。
「…それって要するに、イカじゃないですか?」
アリスレーゼが言った。エルフの軍曹は、まだ服が破れたままだったが、食欲は隠せない様子だった。
「そうですね。身の質はイカに近いです。水分が多くて、焼くと香ばしく、揚げるとふわっとします。皮を剥けば身は白くて透明感があります」
「じゃあイカ焼きもできる?」
月姫が目を輝かせる。
「それは自分に任せて欲しいであります。自分は大阪出身ですので、イカ焼きも作れるであります」
川上少尉が胸を張る。
「大阪?」
「はい。小麦粉と出汁を混ぜて、イカの切り身を乗せて、鉄板で焼く。ソースと青のりと鰹節をかければ完成です。ヒトガタでもいけると思います」
「はいはい。じゃあ作りましょう」
ヴィヴィが立ち上がった。
「セイレーン、あなたが料理長。全員の配膳を頼む。足りない食材はヒトガタで補う。足りない道具は…」
ヴィヴィが港の外を見る。壊された三式装甲馬車が転がっていた。焼き玉エンジンは破壊され、装甲板が剥き出しになっている。
「川上少尉」
「はい」
「あの装甲板、二枚もらえる?」
「装甲板? 何に使うんですか」
「イカ焼き鉄板にするのよ」川上は一瞬言葉を失った。そして笑った。
「…わかりました。工兵班の手が空いていますので、溶断して平滑にしましょう」
「ありがとう。頼むわ」
川上少尉はすぐに動いた。残存していた海兵たちと協力し、壊された三式装甲馬車から装甲板を二枚切り出した。溶断して表面を平滑にし、簡易の脚を溶接して鉄板台を作る。
「完成です。ただし焼き玉エンジンの廃熱を利用しますので、そちらに設置します」
川上が装甲馬車の残骸の横に鉄板を設置した。エンジンの排熱を利用して、鉄板を加熱する仕組みだ。
「流石は日輪兵団の技術力ね」ヴィヴィが感心する。
セイレーンは既に動き出していた。船の厨房から調味料と鍋を持ち出し、港町のあちこちから残っていた食材を集める。
水棲人の料理長は手際が良かった。ヒトガタの皮を剥き、身を切り分ける。透明感のある白い身は確かにイカに似ていた。はらわたを抜き、綺麗に洗う。頭部以外はほぼ全てが食用になった。
「身は三種類に分けます。フライ用、煮込み用、イカ焼き用。それと肝はソースに混ぜると美味しいです」
「肝まで使うの?」
「イカの肝醤油は絶品ですよ。小日向マスターに教わりました」
セイレーンの手指は踊るように動いた。
フライ用の身は一口大に切り、小麦粉と水を混ぜた衣にくぐらせる。船の厨房から持ち出した油を鉄鍋に注ぎ、火にかける。
じゅああああっ。
衣が油に触れた瞬間、香ばしい香りが広がった。
「いい匂い…」
月姫が鼻をひくつかせる。
「お腹すいたー!」
「まだですよ。フライは揚がるまで待ってください」
セイレーンが笑う。
イカ焼き鉄板も熱を帯びていた。川上少尉が油を引き、アリスレーゼが生地を流し込む。
じゅうううううっ。
小麦粉の生地が焼ける音と共に、湯気が上がる。ヒトガタの身を切り身にして乗せ、裏返す。ソースを塗り、青のりと鰹節を振る。
「完成です! ヒトガタ焼き、一枚上がり!」
「いただきます!」
月姫が真っ先に手を伸ばす。アツアツのヒトガタ焼きを口に放り込む。
「んんーーッ!! おいしい!!」
「本当?」
ヴィヴィが恐る恐る一口食べる。
「…あら、美味しい」
「でしょう? 身が甘いんです。イカより少し淡白ですが、その分ソースと合います」
煮込み料理も始まった。ヒトガタのはらわたを抜いた胴体にお米を詰め、出汁と醤油で煮込む。いわゆるイカ飯のヒトガタ版だ。
ほこほこと煮える鍋から、甘辛い香りが漂う。
「これも美味しいわね…」
ヴィヴィが感心する。
「ヒトガタの身は煮込むと柔らかくなります。噛むほどに旨味が出るんですよ」
セイレーンが説明する。
「まるで高級食材ね」
「いや、もともと高級食材なんですよ。ヒトガタは深海に住む希少種です。通常は漁でもなかなか獲れません」
「じゃあ今は大量に獲れたってこと?」
「ええ。こんなにまとまって獲れるのは奇跡です。普通は一匹でも珍しいんですけれど」
「…奇跡ね」
ヴィヴィがヒトガタの死骸を見る。
「人を襲う怪物が、高級食材だったとは」
「世の中はわからないものです」
セイレーンが笑った。
港の桟橋に、長いテーブルが並べられた。
船の乗客たちも降りてきた。港町の住民たちも集まってきた。海兵たちも、包帯を巻かれたまま列に並んだ。
テーブルの上には、ヒトガタフルコースが所狭しと並んでいた。
ヒトガタのフライ。サクサクの衣に包まれた白い身は、タルタルソースと相性抜群だった。
ヒトガタのイカ焼き。川上少尉手製の鉄板で焼かれた小麦粉の生地に、ヒトガタの身がたっぷりと乗っている。ソースと青のりと鰹節の香りが港を包み込む。
ヒトガタのイカ飯。はらわたを抜いた胴体にお米を詰め、出汁で煮込んだもの。ほっこりとしたお米にヒトガタの旨味が染みている。
ヒトガタの刺身。皮を剥いた身を薄く切り、酢醤油で食べる。身は透明で、噛むと甘みが広がる。
ヒトガタの天ぷら。残りの身を衣で揚げたもの。カリッとした食感とふんわりとした身の対比が絶妙だった。
そしてヒトガタの肝醤油。セイレーン特製のソースは、ご飯にかければ最高のご飯の友になった。
「うまい!」漁師の男が叫ぶ。
「こんなに美味いもんを、俺たちは今まで怖がって捨ててたのか?」
「フライが一番うまいな!」
「いや、イカ焼きだろ!」
「煮込みが最高だ!」
人々が笑い合いながら料理を頬張る。さっきまでの戦いの恐怖が、料理の香りの中に溶けていく。
「セイレーンさん、おかわり!」
「はいはい、今すぐ」
セイレーンの厨房はフル稼働だった。水棲人の料理長は嬉しそうに鍋を振るい続ける。
「みんな喜んでくれて嬉しいです。小日向マスターに教わった料理で皆さんを笑顔にできるなんて」
「セイレーン、あなたは本当に料理の天才ね」ヴィヴィが感嘆する。
「それよりもこれを食べて!」月姫がイカ焼きをヴィヴィに押し付ける。
「ヴィヴィ、これ絶対食べて! おいしいから!」
「はいはい。いただきます」ヴィヴィが一口食べる。
「…美味しいわね」
「でしょう?」
月姫が満面の笑みを浮かべる。その笑顔は、さっきまでの恐怖が嘘のようだった。白銀の髪はまだ泥に塗れていたが、真紅の瞳は元の輝きを取り戻していた。
「月姫」
「ん?」
「大丈夫?」
「うん。お腹いっぱい食べたら元気になった!」
「…そう」
ヴィヴィは月姫の頭を撫でた。月姫は気持ちよさそうに目を細める。
「ヴィヴィが来てくれた時も幸せだった。でも今の方がもっと幸せかも」
「どうして?」
「だってヴィヴィも一緒にご飯食べてるから」
ヴィヴィは何も言えなかった。ただ月姫を強く抱きしめた。
「私もよ。あなたが無事で、こうして一緒にご飯を食べていることが一番幸せよ」
「えへへ」
川上少尉とアリスレーゼも、テーブルの隅で並んで座っていた。
「アリスレーゼ、食べて大丈夫なのか?」
「大丈夫です。少尉こそ、腕の傷は大丈夫ですか?」
「俺は男だ。飯が食えれば何とかなる」
「もう。男の子みたいなこと言わないでください」
二人が顔を見合わせて笑う。アリスレーゼの金色の髪はまだ泥に塗れていたが、その笑顔は戦場の前と変わらなかった。
「…生きててよかった」川上が呟く。
「はい。生きててよかったです」
アリスレーゼが川上の手を握った。
ミアアリスは、港町の子供たちと一緒に座っていた。狼獣人の耳はまだ少し伏いていたが、子供たちが「お姉ちゃんも食べて」とヒトガタ焼きを差し出してくれた時、彼女の目から涙がこぼれた。
「ありがとう。ありがとうね」
子供たちは不思議そうに首を傾げたが、ミアアリスはそれでも笑った。
港の桟橋に、笑い声と食器の音が響き渡る。人々は、悲しみを越えてこれからも歩いていく。