「この大きな大きな戦いにおいて、あなたは尽力されました。あなたの功績は永劫語り継がれることでしょう」
──胸元に付けられる勲章。周りからの盛大な拍手。
そこで僕は何を感じたんだろう。
終わったという安堵か。やり遂げた達成感か。表彰された誇らしさか。それらも確かにあったかもしれないけれど、僕の心の大半を占めた気持ちはもっと軽いものだったのかもね。
──ああ、平和になった世界でのんびり過ごせるんだ!
……今思い返すとさすがに表彰の場にはふさわしくなかったかもしれないね。
人間とセイレーンとの戦い。それは人間側の勝利で終結した。まぁ人間側に被害がなかったわけではなかったが。そしてその戦場で、僕はセイレーンへの対抗戦力である「艦船」……。少しひょうきんに言うならば、見目麗しい女の子達の指揮官だったのだ。
英雄と囃されるには僕は若かった。世間ではまだ子供として扱われるほどだ。まだまだ顔も幼い。声変わりだって未だ来ていない(はやくしてね)。それらを必死に隠すように、「オトナ」を取り繕ったんだ。敬語や専門的な難しい言葉などもしっかり頭に叩き込んだ。
僕は頼られる存在でなければいけなかったから。皆を指揮し戦況を勝利に導く指揮官であったから。幼少期の頃から天才と言われていた僕の責務だった。
でもそんな張り詰めた生活も終わり。表彰が終わった後、人間側のとても偉い人から優しく砕けた口調で言われたんだ。
──これからは気を張らず、歳相応に暮らしなさい。
ってね。その時は少し喉が詰まっちゃった。そこで改めて戦いが終わったことを噛み締めたなぁ。
カーテンの隙間から差し込む朝日が寝起きには眩しく、目を細めてベッドから身を起こしながら僕はひと月前の事を思い出していた。
「指揮官様、起きていらっしゃいますか。朝ごはんができましたよ」
ぼーっとしているとドアの向こうから優しい声が聞こえてきた。ついでに僕のお腹の虫も。
おはようの挨拶と、すぐ行くという事をこれまたドア越しに伝え、少し急いで身支度をする。ひゃー、顔を洗うと目が覚めるなぁ。
ちょっと早足でダイニングに行く。味噌汁のいい匂いが鼻を刺激する。。落ち着くね。
「今日も美味しそう! いただきます!」
「ふふ、召し上がれ」
ニコニコとしながら食べ始めるのは、僕と一緒の家で暮らしている天城だ。
巡洋戦艦天城。
戦争中における僕の秘書艦であり、これまた僕に負けず劣らず優秀な軍師だった。僕たち2人のコンビはとっても頼りにされてたんだよ。"双賢の司令塔"とか言われてたっけ。ちょっと恥ずかしい。
またもやそんなことを思い返しつつ、焼き鮭を箸でほぐして身を口に運ぶ。ほろっと口の中でほどけ、優しめの塩味でご飯が進む。たかが焼き鮭に! って思うかもしれないけど本当に美味しいんだ。
今日の朝ごはんは、ご飯に焼き鮭、味噌汁に卵焼きのこれぞ和食! ってメニュー。素朴でありつつも幸せな味に舌鼓を打ちつつ、他愛のない会話をのんびりと交わす。
「そういえば天城、今日はどこかお散歩にでも行かない?」
「あら、デートのお誘いですか? 是非ご一緒させてくださいませ」
「ちょっ、そん……まぁいいや。じゃあ、一緒にぶらぶらしよう」
普段は淑やかな天城だけど、やや喜色を滲ませた弾む声で。そしてからかわれた。びっくりするじゃないか。
朝食を食べ終えた僕達は2人で一緒に食器を洗う。その時に
「いつもご飯美味しいよ、ありがとう」
という天城への感謝の言葉も忘れずに。あっ、ほんのり顔赤くしてる。耳パタパタしてる。尻尾揺れてる。喜んでる喜んでる。
そうそう、言い忘れてたね。天城は狐さんのような耳と尻尾があるんだよ。尻尾は9本もあるんだ。たま~に触らせてもらえるんだけどすごくもふもふだよ。
さて、
髪よし服よし持ち物よし! ハンカチはしっかり持っていこうね。
お、天城も支度が済んだみたい。靴を履いて家の戸締りをしっかりして。
それじゃのんびりと出発!
……手を繋ぎながらなのはちょっと恥ずかしいけれど。