※この作品はR-18です。

遊戯王のパズルの悪い使い方   作:菓子ラムネ大好き

14 / 41
第14話

「ひっ、ひぃぃぃ!くっ、来るな!!」

 

 

 深夜、童実野町にある童実野大学のある一角で一人の男が悲鳴をあげながら走っている。男の名前は吉森、この大学の考古学分野を纏める教授である。吉森は研究室に押し入ってきた一人の男から逃げていた。

 

 

「こっ、この階段を抜ければ後は出口に……あっ!?」

 

 

 階段を降り切った所で待ち構えていた追手に出くわす吉森。

 

 

「ばっ、馬鹿な……さっきまで上の階にいたはずなのに、どうして……」

 

「アヌビスの裁きを受ける覚悟は出来たか?王家の墓を暴いた報いの時だ」

 

「ひっ……近寄るな!」

 

 

 吉森は後退る。目の前の男、肌の濃い褐色が目立つエジプト関係者と思しき男が秤を握りしめ近づいて来る。先日、一緒に墓を発掘したエジプト展美術館の館長、金倉がショック死しファラオの呪いとして誌面を騒がせたが目の前の男は金倉の死に間違いなく関係している、と吉森は直感した。

 

 

「こっ、これは外交問題となるぞ!私は、歴史の真実を探求したくて発掘しただけだ!やましいことなど何も……」

 

「罪の多寡はこの千年秤が計る。欲望のままに肉体を安置として眠りについたファラオを辱めた罪をお前は償わなければならない。金品の為に暴いた金倉と同様に」

 

「あっ、あぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 秤が光り輝くとともに吉森がもがき苦しむ。男は感情の見せない冷たい表情でその様子を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 文化祭が終わり11月も終わりが見えてきた頃、遊偽はもはや恒例のように登校中に海馬に連れまわされ海馬コーポレーション本社に顔を出していた。

 

 

「それで、解析は済んだのか?海馬」

 

「……現時点の科学力ではこのパズルを解明することは不可能ということだけが分かった。何故お前があのような力を使えるのかは全くわからん。バラバラにしてパーツの一つずつを解析すれば少しは分かるかもしれんが」

 

「そんなことさせるわけないだろ。返してもらうぞ」

 

 

 精密機械に囲まれているパズルを取り出してカバンにしまう遊偽。海馬は少し残念そうにしている。

 

 

「後は、古典的な検証法だが力の使い方を実践で試していくくらいか。現状分かっているのはパズルを手に持っていなくても弱いながらもある程度は力が使えるということ。そして闇のゲームのような空間を隔絶しカードを実体化する強大な力は強い怒りの感情や使命感のような感情の昂ぶりによって使えるといったところか」

 

「普段は使えないけど使える時は何となく頭の中で分かるんだよね。使えるってのが。不思議な事だけど」

 

 

 遊偽と海馬は検証した結果を話し合う。遊偽の使える力は直感的な部分が大きいため、それらを整理し条件付けをしていくのに時間を要した。しかし、いまだにどのような力を使えるのかは謎の部分が多く、今後はあらゆる状況と仮説をもとに実験を行っていくこととなった。

 

 

「しかしパズルの力をも解明しようだなんて驚いたよ。デュエルモンスターズのこと以外に興味がないと思ってたから」

 

「パズルの技術が解明されればソリッドビジョンシステムにも応用できる。それに、現代の人類の英知を集めても解析出来ない技術が用いられているのだ。興味くらいはある。脳内に干渉作用のあるナノマシンが組み込まれているのでは、と我が社の研究者たちは仮説を立てている。研究材料としては非常に面白い代物だそれは」

 

「海馬……このパズルのことは……」

 

「ああ、我が社の限られた人間以外には漏らさん。わざわざ敵を作る必要もない」

 

 

 海馬は楽し気な様子でそんな海馬に遊偽は内心複雑であった。嫌な奴を仲間に引き入れたな、っと遊偽は思う。闇の力を使った契約で協力関係を築き、海馬の力は遊偽にも様々な恩恵をもたらしたが、一方で海馬にも体よく利用され振り回されていた。

 

 

「兄様!そろそろ食事の時間だぜ!おらっ、遊偽!お前みたいな庶民じゃ味わえない料理を出してやるんだぜ?兄様に感謝して食べな!」

 

 

 

 一息ついたところで研究室に海馬の弟のモクバが訪ねて来た。いつも通り遊偽にでかい態度で生意気な台詞を吐くため「このクソガキ……」と内心思いながら我慢してモクバに付き合う遊偽。

 

 

「お前が兄様に勝っただなんて俺は認めねえからな!高校生のくせして俺とそこまで変わらねえチビなのに偉そうにしやがって!兄様が本気になったらお前なんて……」

 

「モクバ、前置きはいい。出るぞ」

 

「はーい!兄様!」

 

 

 遊偽には常にツンツンで海馬にはデレデレなモクバに不満を感じるも、海馬から「モクバには優しくしろ」と釘を刺されているので「まあ小学生だし可愛いもんだ」と無理やり押さえながら遊偽は接していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高級料理を味わうことが出来た遊偽は上機嫌で家へと帰っていた。祖父の双六も怪我が治り退院して店番に戻ったので最近は用事が遅くなっても問題はなかった。鼻歌混じりに家に戻るといつも通り新聞を見ながらカウンターに座っている双六にただいまの挨拶をかける。しかし、この日はいつもと違って双六の顔が真っ青で気持ちが沈んでいた。

 

 

「えっ、どっ、どうしたの!?祖父ちゃん。そんな青くなって……」

 

「ああっ、遊偽か。実はの……」

 

 

 双六は見ていた新聞を遊偽に渡す。双六の友人で、入院中に見舞いにも来てくれた童実野大学の教授の吉森が原因不明のショックで現在昏睡状態となっているとのことだ。誌面には更に同じ発掘メンバーだった金倉の死も絡めてファラオの呪いとして取り上げている。

 

 

「えっ!?あの吉森さんが昏睡状態……」

 

「吉森君は一昨日会った時も元気じゃった。それが突然、のう。本当にファラオの呪いとやらじゃろうか……」

 

 

 双六は難しい顔で唸っている。そんな双六を元気づけるように遊偽は声をかけた。

 

 

「今度は祖父ちゃんが見舞いに行こうよ。場所は童実野総合病院だし、明日は休みだから明日にでもさ」

 

「……そうじゃのう。入院中には世話になったし花でも持っていかねば。儂らにファラオの呪いとやらが降りかからねばいいが……」

 

「心配し過ぎだって!」

 

 

 双六を元気づけながら遊偽はファラオの呪いという言葉にパズルを握りしめながら一抹の不安を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日・童実野総合病院にて、双六と遊偽は吉森の見舞いに病室を訪ねた。双六が声をかけてくるからと仕切りを開いて様子を伺う。吉森は目を閉じた状態で安らかに横たわっていた。

 

 

「ふーむ、花はこの瓶にでも刺しておくかの……」

 

 

 双六が持ってきた花を花瓶へとたどたどしくも移し替える。吉森の様子を見ながら暇を持て余していた遊偽。不意に周りの音が掻き消えた。

 

 

「なっ!?じっ、祖父ちゃん!どうした!?」

 

 

 双六の動きが止まる。揺らすとそのまま無言で倒れこんだ。

 

 

「こっ、これは……」

 

「なるほど、君が千年パズルの所有者か」

 

 

 唐突に後ろから気配がし声がする。振り向くとターバンのようなものを巻いた肌の黒い外国人がたたずんでいた。

 

 

「だっ、誰……」

 

 

(遊偽!気を付けろ!そやつは千年アイテムの所有者だ!)

 

 

 状況がいまだ飲み込めない遊偽にパズルから力強い警告が流れてくる。対して男は遊偽に近づくでもなくじっと見つめていた。

 

 

「この男の記憶を探っていたらパズルを手にした君がいた。過去にこの病院でこの男に完成させたパズルを見せていたようだ。そのおかげで、この男は殺されずに済んだ。君を釣る餌として命を留めておいたのだ。そして、君は私の期待通りに来てくれた。安心したよ」

 

 

 男は遂に動き出す。手には金色に輝いた秤と錠を持っていた。

 

 

「千年アイテムの所有者。千年アイテムって、このパズルと同じ……」

 

「そう、君の持つパズルと同じく王家の所有する宝物だ。この秤は人の犯した罪を計り、この錠は君の心を覗くことが出来る。君が本当にパズルに選ばれた人間か、試させてもらおう」

 

 

(逃げろ!抗うなら力を使え!!奴の力を受けるぞ!)

 

 

 パズルの中の声に従い遊偽はパズルを翳し力を行使する。しかし、その光に対抗するかのように謎の男は秤で受け止めた。

 

 

「邪悪な念を感じる。なるほど闇の力に負けたか。君の犯した罪の数々をアヌビスの使徒である私が裁こう」

 

 

 男は錠を遊偽へと指した。遊偽は咄嗟にパズルでそれを防ごうとする。しかし、男の力に抗いきれず遊偽の動きが固まる。

 

 

「心を覗かせてもらう」

 

 

 男は遊偽の深層へと潜り込んだ。

 

 

「ほぅ……」

 

 

 男は思わず声を漏らす。遊偽の心の中に忍び込んだ男が見たのは4枚の扉。1枚は扉が既に開いており光が差し込んでいる。

 

 

(中は玩具が散らばっている。まるで無邪気な子供のような部屋だ。だが、所々闇が侵食しているな)

 

 

 散らばる玩具にはカード、ボードゲーム、ゲーム機など様々だ。そしてテーブルには写真がありその中には一緒に見舞いに来た祖父の姿も映っている。別の写真にはクラスメートと思しき集団が写っており特に活発そうな少女は別の写真にも単独で写っていたりと特別な存在なのが伺えた。

 

 

 一方で隅では暗い影の塊が出来ており千年パズルを模したものや醜悪な顔のものたちが浮かんでいる。

 

 

(パズルに出会う前は純粋な子供であったようだな。だが、徐々に闇が進行している。今はまだ光が優勢で闇を隅に押しとどめているといった状態か)

 

 

 男はそんな分析を意外に感じていた。即座に闇の力を行使して阻んできた少年とは思えないほど部屋は明るい。ならば何故あのような敵対行動を見せたのか。

 

 

 男は部屋を出て他の部屋に視線を向けた。通常、心の中には一つの部屋しかない。二つの部屋がある心は極端な躁鬱状態が悪化し二重人格のように部屋が分裂したもの、複数の部屋を持つ者は外的な要因が考えられる。3つの扉を見ると一つは微かに空いており少年の部屋に近い位置にある。もう一つは施錠がされている。そして最後の部屋は禍々しい形で幾重もの鎖で封印されているかのように閉ざされている。

 

 

(この千年パズルはファラオの意思が眠っている。であるならば、この三つの内の1つにファラオがいらっしゃるはず)

 

 

 男は微かに空いた扉へと入った。その扉の前には仮面をした男がたたずんでいた。左目には千年眼を宿している。

 

 

「お前は……闇の大神官か!?」

 

「なんだ貴様は?土足で勝手に入り込みおって」

 

 

 パズルの中の人格、アクナディンは男が入ってきたのを確かめると臨戦態勢へと移る。男は錠を翳して警戒しながらも語りかける。

 

 

「この少年に闇を植え付けたのはあなたのようだな」

 

「ふんっ、儂はそんな大層なことなどしておらん。ただ、囁いただけよ。世の理不尽に負けたままでよいのか、とな」

 

 

 アクナディンはせせら笑う。事実、アクナディンは無理やり遊偽を闇に染め上げたわけではない。パズルの闇の力を遊偽が自ら受け入れ行使したのだ。アクナディンはそんな遊偽を煽り、闇へと誘導しているだけなのだ。

 

 

「なるほど、直接は関与出来ないということか。縛られてるのだ、お前も。あの二つの扉と同様に」

 

「おおかた墓守の一族といったところか。その千年秤と千年錠で遊偽を屠りパズルを手に入れ管理をするつもりか?保守に凝り固まった貴様ららしいことだ。だが、そうはさせん!貴様をここで抹殺し、遊偽の力を使いゾーク様を復活させ世界を闇に染め上げるまで儂はやられるわけにはいかんのだ!!」

 

 

 アクナディンが力を行使する。遊偽には直接干渉できないアクナディンも自身の心の部屋の中ではその力を発揮できるようで闇の大神官に相応しい力を見せつける。男は二つのアイテムを使い必死にその力に対抗した。

 

 

「強いな。流石は大神官、といったところか。だが、お前は勘違いをしている。私はこの少年を害するつもりなどない。そのつもりなら部屋に出る前に部屋を破壊しているだろう。私はこの少年にパズルの候補者としての可能性を感じている」

 

「何っ!?」

 

「そして、大神官、お前もまた大いなる葛藤に悩まされている。この部屋に来て分かった。闇で覆いつくされているはずの部屋に一点、差し込む光がある。その光をいまだ失わないところがお前がわずかながらでも人間でいられる拠り所となっている」

 

 

 男のその言葉を受けてアクナディンは攻撃の手を緩める。そして探るかのように問いかけた。

 

 

「お前は、何者だ……?」

 

「私はシャーディー。千年アイテムの候補者を見つけ、アイテムを相応しき者が持つことでファラオの心を高次の世界へと導く者。アヌビスの使徒として罪人を裁く傍ら、高次元で世界を導くに足る候補者を探している者だ」

 

 

 謎の男、シャーディーの言葉にアクナディンは狼狽える。男はファラオの忠実な僕であるとともに過去の争いとは異なる目的を持った男であった。

 

 

「貴様、より高次の存在だと!?だが、世界を闇で覆わなければ我が野望は果たせんのだ!我が息子、セトが王となる世界のために!」

 

「闇に堕ちて曇ったお前には分かるまい。私がお前を滅してやりたいところだが、ここでは些か難しいようだ。大人しく去るとするが、もう一度考え直すがいい。闇の力に囚われた神官よ」

 

 

 シャーディーは踵を返す。力が拮抗しているためか、はたまたシャーディーの言葉に惑わされたか、アクナディンは追撃をしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はっと目を覚ます遊偽。目の前には錠をおろした男がいる。遊偽はすぐさま後退った。

 

 

「もう、力は行使しない。身構えずともよい」

 

「何を言っているんだ、あんたは!?今更そんなこと言っても信用なんて……」

 

 

 遊偽の言葉を意に介さず男はただじっと遊偽を見つめてくる。そんな態度に遊偽も恐る恐ると構えを解いた。

 

 

「千年アイテムは7つある。その内の3つが光を、3つが闇を携え、最後の1つが光と闇の入り混じった状態で存在する。君が持つ千年パズルはその最後の1つ、光と闇が交じり合ったものだ。今の君と同じく」

 

「……」

 

「君をパズルの器の候補者と見ておこう。このまま闇に飲まれないままであるならば、所有者に相応しい。そして、それが問われる試練が待ち受けているだろう。私の名はシャーディー。名乗ったのは久しぶりだ」

 

 

 シャーディーは秤と錠を懐にしまうと病室を後にした。シャーディーが立ち去ったことで静寂が破れる。止まっていた双六が動き出した。

 

 

「いたた……ありゃ?儂はなんで寝転んでおるのじゃ?」

 

「じっ、祖父ちゃん!よかった。戻ったんだ!」

 

 

 遊偽は双六に抱き着く。双六にとってはほんの一瞬意識が飛んでいた程度であったようだが遊偽はほっと息を吐いた。

 

 

「それにしても、何だったんだ?あいつは……」

 

 

 遊偽がいまだに晴れぬ疑問を口にする。千年アイテムの関係者と思われるエジプト人らしき男、名前はシャーディーで自分をパズルの候補者と見なして観察をすると言っていたが謎の多い男である。最後に言い放った「試練が待ち受ける」という言葉が頭から離れなかった。

 

 

 そんな疑問に頭を悩ませている頃、心音を感知していた機器がアラーム音を鳴らす。

 

 

「よっ、吉森君!?君、目を……」

 

 

 双六の叫び声に振り向くと昏睡状態となっていた吉森が目を覚ましていた。双六の友人、吉森はこの日意識を取り戻し、後に復帰するがそれは暫く先の話である。

 

 

 

 




海馬戦に引き続きエロなし
シャーディーがちょっと絡んでくる話
吉森教授は歯を全損する世界線よりはマシなはず……
金倉さんには慈悲はなかった
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。