2月下旬の某日。この日、海馬ランドのスタジアムは日本全国から集結した観客により満員御礼の状態であり、スタジアムの外ではアトラクションで楽しむの忘れて設置された巨大モニターで試合を観戦する客が群をなすほどであった。更には全国規模での実況付き中継でこの大会は放送されており、デュエルの様子を固唾を呑んで見つめる数はかなりのものであった。
「セト様。今大会の視聴率は去年を遥かに上回っているようです。スポンサーらも喜んでおり、会場となった我が海馬ランドも注目度が高まっています」
「いい兆候だ。予想以上の数字も出ている。明日のエキシビションマッチでは更に盛り上がること間違いなしだな」
海馬KC社員であり側近の磯野の言葉に海馬は満足気に頷く。実際、海馬の見立てを超える数字をたたき出しており、これまで進めて来たデュエルモンスターズの販促は成功だったと言えるほどの認知度であった。
「セト様、どうやら成功のようですな。ご覧ください。我が社の株価が上がっています。今回の全国放送で娯楽産業へのシフトが完全に成功したと投資家らが判断したのでしょう。この成功で今後扱うお金の規模を拡大できますな」
「ふんっ、結果が出たらすぐ飛びつくか。奴らはいつも後から乗ってくる。だが、そいつらには精々俺の夢に投資してもらおうか。それはともかく、どうだ?大下。これがデュエルモンスターズだ。将来性のあるビジネスだっただろう?」
「……ええ。今更になって気づくこととなったのはひとえに私の節穴故。セト様の慧眼には頭が下がる思いであります」
これまで反対的な態度を取ってきた大下に対し嫌味のように言う海馬であったがひたすらへりくだる大下に溜飲を下げたのか、
「だが、イリュージョン社の全面協力を取り付け、先月から大会運営に協力的であったこととその功績は中々のものだった。よくやった。大下、下がっていいぞ」
と、働きを認め下がらせる。
「はっ……」
そんな海馬に終始、大下は腰を低くして対応していた。
トーナメントの4回戦、シードの遊偽にとっては3回戦であるこの試合はこのトーナメントの準決勝に当たる試合であった。アイリーンとの何連戦もの情交で持て余した闘気を吐き出した遊偽は急ぎ支度をしデュエル場へと向かう。
準決勝の相手は九州エリアの男であった。戦士族を中心に装備カードで強化、落とし穴や地割れなどのコンボカードを駆使してきた強敵であったがその前の梶木に比べると攻めの狡猾さは劣り、ブラックマジシャン、シルクハットと六芒星のコンボで遊偽は順当に勝利した。
「やったな遊偽!これで後は決勝だ!これに勝てば優勝じゃねえか」
会場から立ち去る際に控室前の廊下で城之内が嬉しそうに飛びついて来る。城之内に追随して部の友人らも姿を現す。
「遊偽君!優勝したら童実野高校の全校集会で表彰よ!顧問として私も期待してるからお願いね!勝ったら祝杯が待ってるわよ♪」
「遊偽、気負いしすぎないでね。遊偽なら大丈夫よ」
控室に入るまで遊偽を応援の言葉をかけてくれる顧問の蝶野と友人たち。遊偽な声援を心地よく受け取りながら決勝への準備を進めていた。
遊偽の準決勝が終わった後に行われたもう一つの準決勝。同じ関東エリア予選の選抜ながらトーナメントを勝ち上がってきた影山リサとインセクター羽蛾のデュエルがそこで行われた。
「……あんた、許さないわよ」
「ひょひょ、何のことかな?ほらっ、早く座ろうよ。デュエルの時間なんだからさ。君みたいな可愛い子とデュエルするのは楽しみなんだあ、ひょひょひょ」
開幕から険悪ムードで始まった二人のデュエルは大方の予想を覆して羽蛾が終始リードする形で進んだ。
「森に進化の繭!そして「火器付機甲鎧」で強化した昆虫人間を守りに付かせる。これで後はターンを稼ぐだけで究極完全態グレート・モスに進化するんだ。さて、どうかなリサさん。君のカードに勝てるカードは…おっと、ゴーゴンを出された不味いなあ、ひょひょひょ」
「……チッ、白々しいことを。私は、イエローヘカテーで昆虫人間を攻撃!」
「おっとっと、危ない危ない。伏せカード「レーザー砲機甲鎧」で更に強化!迎撃!」
羽蛾は巧みな戦術でリサを翻弄していく。しかし、リサもいつものリサとは勝手が違い、ゴーゴンの誘いやヘカテーを揃えるまでの慎重な戦い方ではなくどこか勝負を焦っているかのようであった。控室で観戦していた遊偽もその違和感に疑問を抱く。直接リサと戦ったことのある遊偽だからこそその違和感は大きなものであった。
「アハハハ、6ターン目!これが究極完全態グレート・モスだ!!攻撃力3500!君の最後のヘカテー、レッドヘカテーを撃破!これで僕の勝ちだ、ひょひょひょ」
「ぐっ……」
羽蛾が終始リードしたまま準決勝は羽蛾の勝利で終わった。影山リサがボックスから出た後も羽蛾を睨みつけていたが羽蛾はどこ吹く風と言った様子でニヤニヤしながらその怒り顔を見つめている。
「いやーっ、もしもゴーゴンが出されてたら危なかったなあ。森ではゴーゴンも強化されるし進化の繭の防御も貫かれてしまうし……ひょひょひょ」
「……あんたの手口、絶対暴いてやるから。それと、あいつはあんたなんかに負けない。それだけは言えるわ」
「ああっ、武藤遊偽君?彼も、同じ目に合ってるんじゃないかなって、ひょひょ」
「まさか……!?」
はっとした表情になるリサ。リサは目の羽蛾を無視して会場から急ぎ足で立ち去った。
その頃、遊偽はリサと羽蛾のデュエルの行く末を控室のモニター越しに見ていた。違和感が拭えなかった遊偽であったが、羽蛾の実力は本物で結果的に何らかの不調でリサが破れただけと判断した遊偽はデッキの最終調整を行っていた。
そんな時、控室をノックする音が部屋に鳴り響く。
「えっと……誰?」
遊偽が扉を開けると、見知らぬ少年たち3人が目を輝かせて遊偽を迎えた。
「あの、俺ら遊偽さんのファンなんです!それで、サインが欲しくて……」
訪れた少年たちは立ち入り禁止になっていたはずの控室とその廊下に無断で侵入したのは明らかであり、その姿に遊偽は困惑したものの、サインを求められて嫌な気になるわけでもなく、
「分かった。これが終わったらすぐ出てくんだよ。見られたらヤバいからさ」
と、事も無げに対応する。
そうしてサイン色紙を受け取りサインを書き始めた頃、一瞬、少年たちがしゃがむ形で色紙によってできた死角へと入りこむ。遊偽が「えっ……」と呆然としながら声を出したころには、二人の少年が体を抑え込み、もう一人が遊偽の腰のホルダーに入っていたデッキをつかみ取った。
「やりぃ!レアカードが沢山入ったデッキゲット!」
「なっ、何するんだ!?この坊主!」
遊偽が取り返そうとすると身体を抑え込んだ少年らが妨害する。更には殺虫スプレーと思しきスプレーを視界に吹きかけた。
「ぐわっ、クソっ!こいつら!!」
「よっしゃ!今の内に逃げるぞ!」
遊偽を抑えていた少年らが体から離れ一斉に走り出す。そのおかげで身体が自由となった遊偽はバッグにしまっていたパズルに手をやると少年らに対し闇の力を行使した。
「ふざけるなよ!クソガキども!!デッキを返してもらうぞ!」
遊偽がパズルを光らせることで3人の少年らの動きが止まる。更には瞬時に爆発した怒りによって闇の空間が出来上がっていた。
「なっ、何だこれ……うっ、動かない……ひっ!」
遊偽が少年らにゆっくりと近づき、最前方の少年を追い越して顔の前まで迫ることで少年は悲鳴を上げる。見た目は小学生高学年程度であるが、この慣れたやり口からして初犯ではないのは明らかであった。
「さて、デッキを返してもらうか。それと、お前らが何でこんなことをしたのかと、その報いを受けてもらわないとな」
遊偽はデッキを奪い返すと闇の力を高めて少年らの尋問をする。四半期に渡って使い続けた闇の力も慣れたもので、最初のころよりも格段と使い方も上手くなり、力も強まっていた。そんな遊偽の力に、大した気力もない少年らは簡単に口を割る。
「何!?インセクター羽蛾の差し金だと!?俺のブラックマジシャンとデーモンの召喚を使えなくさせるために?」
「はっ、はい。警備してるKC社員もずっと見てるわけじゃなくて巡回コースとかも把握済みだからここまで侵入できたし、それに、仮に見つかっても俺たちは小学生だから悪戯や行き過ぎたファンの行動で軽く処理されるだろうって、羽蛾さんが。それと、報酬も結構だし、うちの地区の代表だから……」
「ふんっ、だからお前らみたいな半端な不良を使って工作したってことか。それで、俺だけにじゃないよな。洗いざらい吐いてもらうぞ」
遊偽が闇の力で更に隠している闇を探る。少年らは耐えきれずに準決勝前に行った悪事を吐いた。
「……まさか、お前らがリサのバイオレットヘカテーを奪っていたとはな。通りで先ほどのデュエル、おかしかったわけだ。本当はヘカテー全部を奪う予定がリサに取り返されて何とか逃げ切ったってわけか。取り合えず、このバイオレットヘカテーは返してもらうぞ」
遊偽は少年の懐からリサから奪ったバイオレットヘカテーを奪う。後でリサに渡すのは当然として、今回の件をどのように処理するかを遊偽は考えていた。
(公にしても羽蛾は間違いなくしらばっくれるだろうな。まあ、こいつらの証言があればそれなりに大事に出来るだろうが、甘いな。もっと苦しんでもらう。そして、奴が仕掛けて来たこの手を利用してやるか……)
遊偽は少年らに再び闇の力を行使する。少年らは遊偽の指示に従う形で羽蛾を逆に嵌めるように動いた。
そして、いよいよ全国大会も大詰めとなる決勝の時間となった。対になっている入口から決勝まで勝ち上がった遊偽と羽蛾、二人の選手が現れ、ゆっくりとした足取りでデュエルボックスに近づく。両者が向き合った所で、遊偽は怒髪天を衝くと言った様相で、そんな遊偽の表情に羽蛾は満足気に笑っていた。
「ひょひょひょ、折角の決勝なんですから楽しみましょうよ、武藤遊偽さん」
「羽蛾!やりやがったなお前!」
「さてさて、何のことやら。まあ、僕たちはデュエリストですし、話は全てこのデッキで語ろうじゃないか?ひょひょひょ」
遊偽と羽蛾が互いにフィールドのパネルにデッキをセットする。全国大会優勝を争い、互いの思惑が交差したデュエルが始まった。
「昆虫人間(攻撃力:500)を召喚。更にカードを伏せて終了だ」
(あからさまに攻撃を誘ってるな。それなら……)
「エルフの剣士召喚!攻撃!」
「おっと、俺は伏せカード火器付機甲鎧LV5!これで弱い昆虫人間も攻撃力2000になる!反撃!」
エルフの剣士が強化された昆虫人間により爆散する。ソリッドビジョンで映像化された迫力ある演出によるバトルシーンに観客は盛り上がった。
「へへっ、これで一気にLPが600も減ったな。ヤバいなあ、遊偽。早くエースカードを出さないと……ひょひょ」
「チッ…なら、俺はグレムリン(攻撃力:1300)!更に一角獣のホーンで攻撃力700ポイントアップ!」
「ならば俺は「レーザー砲機甲鎧」で更に攻撃力300アップ!バトル!グレムリンを蹴散らしてやるぜ」
「ぐっ……」
遊偽のLPが更に削られる。戦況は羽蛾が優勢であった。
「凄えな。あんな雑魚モンスターがあれだけ強化されるなんて……」
「攻撃力の弱い昆虫族には専用強化カードが沢山あるじゃ。だが、序盤であれだけのコンボ攻撃を繰り広げることが出来るのは間違いなく対戦相手の実力じゃよ」
観戦していた城之内の独白に隣りにいた双六が評価する。事実、羽蛾の反撃からの怒涛の攻めに遊偽は押されていた。
「一気に勝負を決めてやる。フライングマンティス(攻撃力:1500)召喚。そして、昆虫人間でお前の場のホーリー・エルフを攻撃!撃破!」
「なら、俺はマジカルシルクハット!そしてモンスターをその中に忍ばせる」
「へぇ、モンスターをその中に入れてターン稼ぎのつもりか。いや、そのモンスターがお前のエースモンスターだったら不味いな。だけど、そうじゃないことを俺は予想してるんだよね。ひょひょひょ」
羽蛾は余裕の表情で攻撃を行う。実際、羽蛾は裏工作で使った少年らから遊偽のデーモンとブラックマジシャンを奪うことに成功したという知らせを受けていたため強気で攻めることが出来た。そして、羽蛾はフライングマンティスでシルクハットの中のモンスターを引き当てた。
「よし、これでお前のモンスターを撃破……」
「ふっ、そいつはどうかな。俺は、忍ばせたモンスター「ブラックマジシャン」で反撃する!」
「なっ、何ぃ!?そっ、そのカードは……!」
シルクハットから飛び出したブラックマジシャンがマンティスを撃破した。遊偽の手元にはないと予想していたモンスターからの手痛いしっぺ返しに羽蛾は動揺する。
「そして、俺のターン。俺はブラックマジシャンで強化された昆虫人間とバトル!撃破!」
「くぅ~!」
遊偽のブラックマジシャンの出現に動揺した羽蛾は戦況が一変して防戦一方となる。しかし、羽蛾にはこの想定外の事態においても勝機を掴んでいた。
「よしっ!俺は、森を出現させる。そして、ラーバモスに進化の繭を使う。これで守備力2600の繭が出来上がった」
羽蛾の繰り出すグレート・モスの凶悪コンボの布石が出来上がる。
(あのコンボ、何とか崩さないといけないな)
グレート・モスが出る前に崩す。それを意識した遊偽は強化カード「秘術の書」を引き当てる。
「よしっ、これでブラックマジシャンの攻撃力2800!進化の繭を打ち崩せる!」
「おっと、伏せカード、マジックジャマ―!これで秘術の書を打ち消す」
「くっ!」
遊偽のブラックマジシャンの攻撃は繭に遮られ、逆に遊偽のLPが削られる。羽蛾は遊偽が強化してくることも読んだ上で展開していた。
その後も遊偽の大嵐を除去したり鉄壁の守りを見せる羽蛾。既に経過ターンは4ターンになり、グレート・モスに進化する6ターン目が迫っていた。
(これ以上時間はかけられない。ここで決める…!)
遊偽は闘気を集めて意識してカードを引く。そして、遂に最後のキーカードを引き当てた。
「俺は、カースオブドラゴン!そして、魔法カード「燃え盛る大地」を発動!」
「何っ!?そのカードは!」
カースオブドラゴンが吐き出した炎で羽蛾の展開した森が焼かれる。その効果で進化の繭の守備力は2000に戻った。
「ブラックマジシャン!進化の繭に攻撃!」
ブラックマジシャンの攻撃で進化の繭が砕け散る。羽蛾は怒りのあまり歯ぎしりをしていた。しかし、
「ふふふっ、アハハハ!グレート・モスは健在だ!攻撃力は2750にまで落ちたが、お前を倒すには十分だ!更に、この鱗粉でお前のモンスターの攻撃力は減少する!」
砕けた進化の繭から最終進化まで到達出来なかったグレート・モスが姿を現す。進化の途中とはいえその脅威は健在であった。そして、遊偽のモンスターの攻撃力を弱める鱗粉をまき散らしている。
「ブラックマジシャン撃破!どうだ!俺の勝ちだ遊偽!」
勝利宣言をする羽蛾。しかし、遊偽には既に勝つ布石が整っていた。
「やっぱり、ブラックマジシャンを攻撃してきたな。予想外で現れたエースに気を取られ過ぎだ羽蛾。俺は、融合!これで暗黒騎士ガイアを出しカースオブドラゴンと融合させる!竜騎士ガイア(攻撃力:2600)召喚!」
場に残っていたカースオブドラゴンが新たに出現したガイアと融合し竜騎士ガイアとなる。ブラックマジシャンをも上回るカードが出たことに少しだけ動揺した羽蛾であったがすぐに強気へと戻った。
「だが、俺のグレート・モスには勝てない!更にまき散らした鱗粉でお前のモンスターは攻撃力を下げるだけだ」
「いや、既に勝負はついてる。俺は磁力の指輪をお前のグレート・モスに装備させる。これによりグレート・モスは攻撃力500下がり更に鱗粉はグレート・モス自身に集まる」
「なっ、何だと!?」
グレート・モスのコンボ攻撃が不発に終わり更に竜騎士ガイアに攻撃力を抜かれる事態についてに羽蛾は動揺を隠しきれなくなる。そして、遊偽のガイアの炎がグレート・モスを焼き払った。
「グレート・モス撃破!これで終わりだ、羽蛾!」
「おっ、俺の、グレート・モスがぁぁぁ!!」
羽蛾の必勝コンボを打ち破った遊偽はそのままデュエルに勝利した。羽蛾が呆然と立ち尽くす中、奇跡の逆転劇にスタジアムは沸き立つ。実況の勝利宣言とともに歓声と熱気がスタジアムを包み込み、全国大会決勝が終わった。
「あっ、あぁ…」
呆然とする羽蛾に遊偽は近づくと怒りを露わにパズルを押し出す。
「これで終わりだと思うなよ。リサの分、そして俺にやったことの報いを受けさせてやる。罰ゲーム!」
闇の力を受けて飛び上がる羽蛾。その力により、羽蛾は表彰式を終えた後、悪夢に苛まれて不眠症が続き精神的な苦痛を受け続ける羽目となったがそれは後日の話である。
「素晴らしいデュエルでした。遊偽ボーイ。優勝おめでとうございます。優勝カップとカードをどうぞ」
表彰式で遊偽に金色のカップとブラックマジシャンガール、賢者の宝石のカードを渡すペガサス。ペガサスはカメラが回る中でカードとカップを遊偽に手渡すと、チャンピオンの遊偽を大々的に宣伝し、今後のデュエルモンスターズの発展についてと自身が所有する無人島にて近々新たな大会を開くことを宣言した。
「そして、そのデュエルキングダムにこのチャンピオン、武藤遊偽君を招待いたします。更には今大会の上位入賞者も参加権を与える予定です。優勝賞金はなんと、10万ドル!実績のあるデュエリストたちを招待した我がイリュージョン社主催の大会を楽しみにしていてくだサーイ」
会長ペガサスによる締めの言葉でインタビューは終わり、その後の海馬のエキシビションマッチの布告で全国大会は終了する。
カメラの視線が別のところに向いたところでペガサスはこっそりと遊偽に耳打ちした。
「デュエリストキングダムは3月に開催予定です。是非、来てください。もっとも、あなたは絶対に来ることになりますが、ね」
したり顔で笑うペガサス。その心の内を感じさせないペガサスに遊偽は一抹の不安を感じた。
ペガサスと入れ違う形で閉会の挨拶をした海馬が遊偽に接触してくる。
「遊偽、見事な戦いだった。だが、お前の優勝は俺にとっては前座にすぎない。明日のエキシビションマッチで俺はお前に復讐を果たす。本当の決勝は明日だ。覚悟していろ、遊偽」
海馬の燃え盛るような闘志を受けて遊偽もまた火がつく。
「ああ、俺もそのつもりだ。明日を楽しみにしている」
「ふっ……」
遊偽の言葉に笑みがこぼれる海馬。そこで遊偽もふと疑問を感じた。最初は敵同士で始まり、今もまた利用し合う関係であったはずだが、いつの間にやら海馬との間に友情とは違う奇妙な絆が生まれているような感覚があった。「楽しみにしている」などと自然に言葉に出たのがその証明でもあった。
海馬が何も言わずに立ち去る。既に二人の間に言葉はなかった。どちらが上か、デュエルで決着をつけるという思いだけは二人の間で一致していた。
「たっ、確かにいいデュエルだったけど、明日は兄様が勝つんだからな!覚えてろよ!」
海馬にくっつきながら吐き捨てるモクバもまた遊偽は微笑ましく感じていた。
そして、海馬から視線を逸らすと表彰式からちょうど離れたばかりのリサが視界に映った遊偽は、駆け寄るかのようにリサに近づき声をかける。
「リサ、ちょっといいか?少し話がしたいんだ」
「なっ、何、いきなり……」
唐突に声をかけられ驚いたのか顔を赤らめながら警戒する様子のリサ。そんなリサに遊偽は少年から取り返したバイオレットヘカテーのカードを渡した。
「これは、私の……」
「あいつらから取り返したんだ。あいつら、俺のところにも来てね。そのおかげで奪い返すことが出来たんだけど。今頃はこの力で自首してるよ。よかった、ちょうど返すことが出来て」
リサの手を取りカードを渡しながら遊偽が笑顔を見せる。その笑顔にリサは沸騰したかのように茹で上がり真っ赤になった顔で強引にカードをしまうと後ろを向いた。
「よっ、余計なお世話よ!本当は私が取り返すつもりだったんだから!あんたみたいな奴に借りを作るなんて最悪だわ!」
憎まれ口を叩くリサ。しかし、遊偽をちらちらと見ながら吐き出す嫌味には力がこもってなかった。
「……だけど、あっ、ありが…、かっ、感謝してやってもいいわ、遊偽。だっ、だけど!それとこれとは別よ!別だから!次こそは絶対あんたを叩きのめしてやるから覚悟しなさい!!」
リサはそのまま振り向かずに後ろ向きのまま言い放つと走り去る。遊偽もここまでくると慣れたもので「まあ和解は無理か」とため息をついていた。
そうして、遊偽は友人らの待つ本部へと戻った。遊偽を満面の笑みで待ち受ける友人たち。城之内やミホは嬉しそうに遊偽に抱き着き、杏子、花咲、本田、蝶野、双六もお祝いの言葉をかけてくる。
その日は、遊偽の全国優勝記念に双六と蝶野が奮発して高めの店でパーティーとなった。
杏子やミホ、蝶野はアフターとしてそのまま遊偽とよろしくやりたかったようでこっそりと誘ったが流石にエキシビションマッチが控えていることもあり、日をまたぐまでは自重して遊偽は恋人たちに1回戦ずつ行うだけにとどめたようだ。
そして、翌日、目が覚めた遊偽に双六が慌てた様子で部屋を訪れる。双六が持ってきた朝刊にはKC代表取締役の海馬瀬人が、KCでこれまで国の要請で培った基幹技術を某国に横流しした疑惑で容疑をかけられたこと、そして海馬ランドでのエキシビションマッチが中止となったことが一面を埋めつくしていた。