身の竦むような寒風が風吹として現れる2月某日。この日の朝刊一面に載ったKCの醜聞とエキシビションマッチの中止は昨日の新型デュエルボックスで行われたU17全国大会にて最高潮に達した勢いを盛り下げるには十分な出来事であった。その反響もあり、KCの株価は暴落し早朝のニュースを賑わせていた。
身内の参加もあり臨時休業中であった武藤ゲームショップでも後にKCから正式な中止の知らせが伝わり家人は慌ただしく動いていた。
「まさか、海馬君がのう。いや、勿論、疑惑であって本当のことかは分からんが……ニュースに載る時は得てして黒寄りのグレーじゃからのう……」
遊偽に朝刊を見せ終わった後、報道されているニュースを見ながら困った顔で腕組をする双六。遊偽との付き合いもある人物であるため曖昧な言葉で濁していたが公になっていることからも事実であるかのように考えているのは明らかであった。
「……蝶野先生から電話来た。取り合えず自宅待機だってさ。まあ、今日は休みだし中止になったからってわざわざ集まる理由もないから妥当か」
こたつに身体を寄せながら双六と同様にテレビを見つめる遊偽。両親も休みの日に特等席で遊偽の晴れ姿が見れると期待していたようで残念がっていた。
そうして何もせずに時間が過ぎ去っていく中、不意に玄関から客を知らせる音が鳴り響いた。外の寒さに動き出すのが億劫な家族に代わり対応した遊偽が玄関を開けるとそこには渦中の人物である海馬が現れた。
「なっ!?海馬!?お前、どうして……」
「遊偽、お前に少し話がある」
世間の目から隠れるかのように扉を閉めて土間に佇む海馬。外からの繋がりが絶った後、海馬はおもむろに懐から箱を取り出した。
「これは……」
「デュエリストキングダムの招待状だ。ここにグローブと星、そしてカードが複数枚添えられている。イリュージョン社、いや、ペガサスが送ってきたものだ」
海馬が明けた箱には星の形の溝が付与されたグローブと星型の小物が2つ、そして硬貨が詰みあがった絵と船が描かれたカードがある。そして、海馬が最後に付け加えるかのように出したカードには海馬の弟、モクバの写真が貼られたカードがあった。
「このカードは、モクバ!?」
「そうだ。奴はモクバを人質に取った。奴の狙いは既に分かっている。我が社のビッグ5と呼ばれる重鎮どもと手を組み、我がKCを乗っ取るつもりだ。ビッグ5が所有する株は20%ほど、そこにモクバの保有する株25%と関連企業を奪えば過半数を占め、決議にて俺を解雇でき、KCを買収出来る。奴は最初からそのつもりでいたのだ」
海馬が忌々しげに表情を歪める。モクバの誘拐という手を取ったペガサスを心底憎んでいるようであった。
「だが、モクバの株を直接動かすには俺の許可が必要だ。だからこそ、奴は俺に目を向けた。先日の株価の高騰を見越してビッグ5は株を売り富を得た。そしてこの株の大暴落。初めからビッグ5を抱え込むための策であると同時に、大下らの汚職を疑惑として俺に押し付け動きを制限させるとともにモクバの身柄をかけて俺に取引を仕掛けて来た」
海馬はペガサスへの殺意を隠すことなく遊偽に事情を説明していく。ここまで遊偽に教えたのは闇の取引による利害関係もあるのだろうが、海馬自身、遊偽に対してエキシビションマッチを中止せざる得なかった負い目があったように感じられた。
「なるほど、つまりペガサスは海馬に勝負を持ち掛け、奴が勝ったらKCの株を譲渡、海馬が勝ったらモクバの返還を約束しているわけか。当然、予選で落ちてもペガサスの勝ちと。この疑惑もメディアへのリークに留めているのはKC総出での強引な動きを封じ込めているのとビッグ5への報酬の一つと」
「姑息な手だ。あくまで勝負に拘る辺りがゲームデザイナーとしての性かは分からんが反吐が出る。だが、奴らのエゴによって俺とお前の戦いの機会は奪われ、モクバに不自由を強いている!この報いは必ず受けさせてやる!」
海馬が拳を握りしめる。その表情は羅刹の如く殺気立っていた。
「ペガサスは妙にお前のことも気にかけていた。お前にも何かよからぬことを企んでいるかもしれん。奴から接触はあったか?」
「……奴は千年アイテムの所持者だ。控室にわざわざ押しかけてまでそれを明かしてきた。そして、必ず俺はデュエリストキングダムに参加するとも……。だが、一体何のことだか」
遊偽が解けぬ疑問に困り果てたように呟く。海馬もまた、ペガサスが遊偽と同じ千年アイテムの所有者ということで警戒を強めていたがその意図は計りかねているようだ。
だが、そうして時間を潰している間に、海馬の感じていた不安が的中するかのように遊偽の玄関に届け物が配達された。イリュージョン社名義となったその荷物に海馬と遊偽は察したように箱の封を切る。中にはやはり海馬と同じく王国への参加を意味する物が入っていた。そして、それとは別に包み紙が置かれており、それを解くとカードが現れる。
「っ!?ペガサス!!貴様!!」
そのカードの絵柄を見た時、遊偽の感情が爆発する。カードには呆然とした杏子が描かれていた。
「……この娘の魂は預かった。元に戻したければ王国へと来て私との勝負に勝て、か」
モクバの件で予想していたのか表情を崩さない海馬とは対照的に遊偽は動揺と怒りを隠しきれず地団太を踏む。
その後、遊偽は確かめるために急ぎ杏子の家を訪れた。そこには既に杏子の姿はなく、意識を失った杏子が童実野総合病院へと運ばれたと伝えられた。
海馬の車を使い病院を訪れた遊偽はそこで意識不明の状態で病室のベッドに横たわる杏子の姿を見る。
「なるほど、奴が千年アイテムの所有者というのは本当のようだ。この異常事態にも関わらず、家族は介護を当然のように受け入れている。医師や看護師もまた同様だ。事が済めば日常への復帰がいつでも出来るような状況にしているということか」
「……許さない。許さないぞペガサス!よくも杏子に手をかけたな!!」
杏子を人質に取られた遊偽もまた海馬と同様に激しい怒りを覚える。
「海馬、俺も王国へ行く。杏子を助ける為に。お前の大事なモクバも見つけたら助けてやるよ。お前も、杏子をもし見つけることが出来たら助けてくれ。共闘関係だ。奴を倒すぞ」
「俺にとってはお前の女などどうでもいいことだ。だが、それで奴の計画を崩せるならやぶさかでない。いいだろう」
海馬と遊偽は再び手を取り合う。打倒ペガサスを胸に新たな共闘関係を築いた。
海馬と別れた後、遊偽は友人らを集めて事情を説明した。事情を聞き、病室の杏子を見た際に皆驚いていたが、遊偽の闇の力を垣間見ているミホと城之内はその説明に納得し、全く内情を知らない本田と花咲は驚愕しいまだ半信半疑といった様子であった。
「つまり、杏子はペガサスの野郎に魂を抜き取られちまったってことか。奴を倒さねえ限りはこのままってわけだ。許せねえ!」
「そうよ。杏子ちゃんを取り戻さないと。ミホも協力する!」
杏子を取り戻そうと意気込む城之内とミホ。一方で、同じ気持ちながらもあくまで慎重な花咲が疑問を投げかける。
「でも、参加権がないと船には乗れないんじゃないかな。それに、そんな超常の力を相手に、僕らはどうすれば……」
そんな疑問に、皆一様に口を閉ざすが、
「参加権ならミホは持ってるよ。ほらっ!」
「なっ、何ぃ!?ミホちゃんいつの間に!?」
ミホが懐から船出のカードを取り出す。どうやらU17地方予選ベスト4、関東エリア予選出場のミホは参加の資格ありとイリュージョン社から判断されていたようで、遊偽と同様に参加資格の箱を郵送されていたようだ。
「クッソー!何で俺にはないんだ!地区ベスト16じゃ足りねえってのか!?」
城之内が不満げに暴れ出す。結局、参加権を持っているのはミホだけであり、王国へと潜り込む方法を3月下旬のデュエリストキングダムまでに考えることにし解散となった。
3月上旬の某日。病欠の杏子を心配し、ペガサスへの怒りを押し殺しつつクラスでは平静を装って学校での日々を過ごす遊偽。
卒業式を控えた3年は学校を去る準備をしていたが、恋人の一人である薫子は遊偽と童実野高校最後の日々を過ごす為に校内をともに回っていた。
「そっか、薫子は童実野大学に進学するのか」
「事務所のスカウトを受けても良かったんだけど、遊偽君と付き合う内にもっと進路についてきちんと考えながら選ぼうって思って。でも、ごめんなさい。杏子さんが大変な時に、こんなことにつき合わせちゃって……」
「確かに、杏子のことでいっぱいいっぱいだけど、薫子も大事な人だし、卒業なんだからこれくらいは全然いいよ」
申し訳なさそうに見つめてくる薫子にやや無理やりながら笑顔を見せる遊偽。ひとけのない所で軽くキスをした後、遊偽は薫子の卒業後のことと大学進学後も会いたいという話に付き合ってあげた。
「私はデュエリストキングダムに参加できないし、行っても足手纏いでしょうから遠くから無事を祈ってるわ。ささやかだけど、私にはこのくらいしか……」
そう言ってアウトドア用品とレアカードを渡してくる薫子。恐らくは数十万単位の贈り物に遊偽は驚愕した。困惑し無理していないかと問い詰めるとどうやら姫小路家は童実野町ではそこそこの名家らしく親に強請ればその程度は造作もないと薫子は控えめに言い放つ。遊偽は重ね重ね礼を言いながらありがたく薫子から受け取った。
それから数日後の某日。遊偽はいつもの如く友人の城之内と一緒に静香のお見舞いに米里病院へと訪れた。城之内には事情を教えたもののその妹の静香には伝えずにいつも通り接していた遊偽だが、この日は城之内の様子がいつもと違うことに遊偽は気づいていた。それに妹の静香も遊偽と同じく気づいたようで何気ない会話からも兄を気遣うような素振りを見せていたが城之内は努めて平静を装っている。自分と同じく歯がゆい気持ちを抑えているのだと同じ身の他ならぬ遊偽だからこそその真意に気づいた遊偽は病室を出た後、城之内を問い詰めた。
「……すまねえ。本当はこんなこと言いたくはなかったんだが、お前にそこまで気づかれてるんならもうしらばっくれるのは無理だな。実は、お袋のことなんだが……」
城之内が話したのは静香の手術費を工面していた母親のことであった。豪遊の一部を負担させたがそれでも母子家庭には手術費の負担は大きく、更には父親の借金まで取り立てが川井家へと来ているとのこと。気丈に振る舞っているが再開した母親は窶れておりこのままではいつ倒れてもおかしくないと城之内は語った。
「それで、諸々合計して500万が必要ってことか。賞金は1000万だから例え借金の方の利子が嵩んでも余裕で返せるな」
「ああ……だから、俺はどうしてもデュエルキングダムに参加して賞金を手にしてえ。でも、杏子が大変な目にあって追い詰められてるお前にそんな話はしたくなかったし、そもそも俺は参加権がねえ。今必死になって持ってる奴を探してるが、間に合うかどうかも」
「それなら俺が優勝したら賞金を全部城之内君に渡すよ。俺は杏子を取り戻せればそれでいいんだ。賞金なんていらないし」
遊偽が事も無げに言い放つがその言葉にまた城之内は苦悩し顔を歪ませる。
「それじゃダメなんだ。友達ってのはただ寄りかかるだけの関係じゃねえ。それじゃ世話になってるだけだ。俺は自分の手でつかみ取らねえとお前の友達ではいられねえ気がするんだ。だから、俺は参加して挑戦する。何とか期日までに参加権を手に入れて。弱音を吐いたらスッキリした。もう3学期も終わりだしこっから走り回って当たってみるわ」
城之内は吹っ切れたような表情をすると自分の中で決意を固める。しかし、当てがあるわけでもないので遊偽もまた、他に参加権を持ってる人がいたら教えるとだけ伝えた。
「…ラオ、……ファ……ラ……オ」
声が響く。まどろみの中で囁くその声は遊偽を起こそうと懸命に叫んでいるかのようであった。心地よい眠りから覚める気怠さから無視していた遊偽だったがその声は小さいながらも絶えず聞こえては遊偽の安眠を妨害してくる。
「なんだよ、いったい!」
苛立ち気に瞼を擦り、目を開けた視界に映ったのはブラックマジシャンとブラックマジシャンガールが遊偽を庇うように背を預け、白い龍と対峙している姿であった。
「なんだ!?これは!」
遊偽が飛び上がるように覚醒する。周囲を見渡せば寝間着姿の自分の周りにベッドはなく、昼とも夜ともわからない薄明るい空間の中に放り出せれていた。
「ファラオ!お目覚めで何よりです!ご指示を!」
「王子、私たちが食い止めます。お力をお分けください!」
ほっとした顔で捲し立てる二人に状況が一切分からない遊偽は戸惑う。
「ちょっと待って!ファラオって何さ!王子っていったい!」
「っ!?まだ器の心でいらっしゃるのですか!ですが、状況は切迫しています!ご指示を!」
ブラックマジシャンは落胆したような表情を見せつつ何度も「指示を!」と繰り返す。ガールもまた困ったような顔をしていた。
指示と言われても状況が掴めない遊偽は相対している白い龍を見る。その龍はまさにブルーアイズホワイトドラゴンであった。荘厳な姿で威嚇する龍。しかし、遊偽にはその龍が本気で襲い掛かろうとしているようには思えなかった。
「待って!二人とも、構えるのをやめてくれ。あの龍、ブルーアイズは威嚇はしているけど攻撃の意思があるようには思えない」
遊偽の制止に二人は戸惑うように構えてた杖を下げる。ブルーアイズはそれを確認すると唸りながら遊偽の前へと近づいた。触れ合うほどの距離となり警戒を強める二人の魔術師。しかし遊偽は構わずにブルーアイズに近づくとその鼻先を撫でた。
「お前は何を伝えようとしているんだい?すまなかった、急に戦闘の意思を見せられて焦って威嚇したんだろう?」
遊偽が撫でながら聞かせるように言葉を紡ぐとそれが心地よいのかブルーアイズは素直に遊偽に身を任せている。
「信じられない……」
そんな様子にガールは目を見開いて唖然としていた。
(……言葉を。この姿では……十分には……え……)
ブルーアイズから声がする。必死に伝えようとしているその声は恐ろしい龍の姿とは思えないほどの綺麗な鈴の音のような声であった。
「……どうすればいんだろう。そうだ、このパズルの力で何とか出来るかな?」
遊偽がパズルをブルーアイズに翳す。ブルーアイズの願うことを叶えてあげたい。その一心で遊偽が気力を振り絞って力を送り込むとブルーアイズの姿がみるみると変化していった。巨体が萎んでいき人の姿へと変わる。元の色をそのまま映したような真っ白な白髪と雪のように白い透き通った肌、青い瞳と切れ長の一重にすらっとした細身の美女が姿を現した。
「ありがとう。長らく忘れていた本来の姿に戻ることが出来ました。そして、この姿ならあなたに伝えることが出来る」
「あっ、あなたは一体……」
外国人のような姿に似つかわしい日本語で話す美女。それが日本語ではなく話したい内容を直接伝えているのだと疑問を抱いた後に何故だか分かった。
「私はキサラ。ブルーアイズホワイトドラゴンと呼ばれるモンスターの元となった人間です。あなたはセト様の仕えるファラオ、の器であった人ですね?」
キサラと名乗る女は遊偽に好意的に話しかける。何やら事情を知ってそうなキサラに遊偽は疑問を率直に投げかけた。
「俺がファラオの器?どういうことだ?そういえば二人も言ってたけど。それに、あなたがブルーアイズなのは気にしないけど俺に伝えたい事って何?そもそもセト様ってのは海馬のことか?」
「はい。そのままの意味です。あなたはファラオの器として生まれた存在。3000年前、ファラオは闇の大邪神の侵攻を食い止め、パズルのその心を封じ込めました。ですが、私のように輪廻の輪からは外れず、本来の生まれ変わりとなるべき存在として現世に顕現されました。それがあなたです。そしてパズルの完成とともにファラオは降臨されるはずだった。それが不可思議な力によって阻止され、今のあなたを保っているわけです」
キサラの説明に遊偽は納得のいかない様子で眉を顰める。自分が王の生まれ変わりであるはずの存在であったという事実を伝えられても実感が沸かないのだ。
「セト様は仰る通り、あなたの知る海馬瀬人のことです。正確には生まれ変わりではありますが。そして、私が伝えたいことは、今セト様は苦境に立たされております。本来セト様を守るはずだった私もめぐり合わせが悪くセト様をお守り出来ない状況であるからです。ファラオ、いえ遊偽様、どうか、私をセト様のもとに……!」
キサラが懇願するように平伏する。海馬が危険な状況であるから側に行きたい、つまりは海馬に双六のブルーアイズを渡して欲しいと言っているのだと遊偽は理解した。
「だっ、だけど、あれは祖父ちゃんのカードだ。親友から貰った大切なカードだって言ってたし、そんなカードを渡すわけには……。それに、海馬の奴なら本当に欲しかったら実力行使でも手に入れる奴だろう?」
「……今のセト様を詳しくは知りませんが、セト様は本来は真っすぐなお方なのです。それに、あなたとの契約でセト様は縛られております。私は、前のセト様の遺言であなたを守る身であり自分の意思でセト様に赴くことは出来ません。あなた様の許可が必要なのです。どうか、どうか……」
ひれ伏した体勢のまま乞い願うキサラ。流石に忍びなく思ったのか、
「まあ、祖父ちゃんに聞くだけ聞いてみるけど……」
っと、折れかけたその時、遊偽の頭に声が響く。
(惑わされるな!遊偽!!)
「っ!?」
はっとして辺りを見回すと突然現れる仮面の男。その男は遊偽の肩に手をやるとキサラに手を翳し衝撃波を出してキサラを吹き飛ばした。
「あっ、ううっ……」
「おっ、おい!何をする!お前……もしかして、アクナディンか?!」
遊偽を掴む仮面の男。その男がパズルに宿り、これまでずっと自分に囁いてきたアクナディンだと気づくのにそう時間はかからなかった。
「左様。我はアクナディン。このパズルに宿り、お前を手助けしてきたものだ。遊偽、この女は危険だ。この女の言葉に耳を貸すではないぞ」
アクナディンは遊偽から手を離すと両手をキサラへと翳す。その手から毒々しい赤黒い色の触手が飛び出しキサラの四肢を掴んだ。
「やっ、いやっ!何を!?」
触手は四肢の自由を奪うと首筋、胸元、腰回りと太ももへと這っていく。触手の表面には粘液腺と導管があるようで這う度に粘っこい液体を分泌し滑りをよくしていった。
「あっ、ああっ……そんな、ところを……」
麻のような生地のシースドレスを強引に触手は破き、その桜色の乳首を晒すキサラ。粘液で滑りをよくした触手は乳首を捏ねるように突きながら乳輪に添うように纏わりつく。「あっ♡」っと度々熱い吐息を漏らすキサラだが股間にもその触手は迫っていた。それに気づくと慌てた様子でばたつく。
「遊偽様!たっ、助けてください!助けっ、あっ、うっ……」
触手はこれ以上言わせるものかと口に滑り込みキサラの美しい口元を塞ぐ。更には股間に伸びた触手も邪魔なドレスを破ると遊偽に見せつけるようにその可憐な花びらを覗かせ十分に愛撫した後、肉穴へと潜り込んだ。
「ん~~~っ!んっ!んんっ!」
触手による口と膣の凌辱に苦しいような気持ちいいような、あるいは両方を感じているかのようにキサラは表情を歪ませる。触手により拘束されていた四肢は自由を奪われながらも必死に逃れようともがいていた。
「ハハハハ、どうだ遊偽よ。この女の凌辱は!遊偽、これこそがお前の望んでいたことであろう?お前が女を求めているのは知っておる。このまま儂のいう通りにしておれば数日後にはこの女を性奴隷にしてやろうぞ」
愉快だとばかりに高笑いをするアクナディン。キサラの痴態に遊偽も股間を膨らませていたが泣き叫び助けを求めるキサラの感情が遊偽に伝わっていた。遊偽の傍を侍る二人の魔術師は無言で顔を逸らしている。ガールの方は「王子……」と何か言いたげにじっと遊偽を見つめていた。
「ほれっ、気持ちいいのであろう?口の触手を解いてやるから正直に答えよ!」
「あっ、あぁぁぁぁ♡やっ、やめてぇ♡膣をゴリゴリ攻めないでぇぇ♡いぼいぼが、嫌、いやなのぉぉぉ♡」
泣き喚きながら快楽に逆らえずもがき苦しむキサラ。綺麗な白い長髪は汚液により汚れてぱさぱさになっており、端整な顔立ちも口元の唾液と粘液でべたつき鼻から垂れた鼻水で見るも無残に崩れていた。
「もっと正直になれ!ほれっ!」
「あっ、あっ、やめて、そこは、不浄の穴でっ!」
触手がお尻の穴を突き拒絶するキサラ。しかし粘液によって滑りをよくした触手がアナルに入り込むとたちまちキサラは舌を出し涙を流して快楽と苦痛と惨めさに震えた。
「ああっ♡ゆっ、ゆうぎ、さま……助け……セト、様……」
「アハハハ、どうじゃ遊偽?貴様も触手に何か指示してみよ」
いつもの冷淡さからは思えないほど熱くなり遊偽を誘うアクナディン。しかし、そんなアクナディンを遊偽は低い声で振り払う。
「やめろ」
「なっ!?」
遊偽がパズルを片手にアクナディンに殴り掛かる。避けられずアクナディンは吹き飛ばされる。それにより触手は消え、キサラは拘束から解除される。遊偽は汚液に塗れたキサラを抱きとめると寝間着をかけた。
「遊偽様……」
「これで、拭ってくれ。ガール、側にいてやってくれ」
遊偽の指示で嬉しそうにキサラの傍に侍るブラックマジシャンガール。立ち上がるアクナディンに遊偽は真向から立ちふさがった。
「きっ、貴様――――っ!よくも、よくも!!恩を仇で返しおって!!貴様も所詮は同じ穴の貉ではないか!?」
「ああっ、そうだな。確かにあんたを批判出来るような人間じゃない。だけど、俺だって力をぶつける相手は選んでる。少なくとも自分より弱い奴を食い物にするつもりはない」
言い放つ遊偽にアクナディンはみるみる殺意を高めていく。しかし、対峙する遊偽はそんなアクナディンに問うように尋ねる。
「なあ、お前は一体なんでこの女を憎むんだ?あんたのこのやり口、いつもとは違って憎悪すら感じた。あんたはこの女に対し浅はかならぬ因縁があるはずだ。俺は別にあんたと好んで対峙したいわけじゃない。俺はあなたに恩だって感じてる。答えてくれ、アクナディン」
遊偽の言葉に嘘はなく、遊偽は本当にアクナディンを自分を理不尽から救った恩人のように感じていた。それを感じ取ったのか、アクナディンは殺意を抑えて遊偽に訳を説明する。
「その女が、私の息子を誑かしたからだ!その女がいなければ息子は、セトは私の物であったのに!!何故、何故セトは私から遠ざかった!?それはその女のせいだ!!」
アクナディンとキサラの並みならぬ因縁。アクナディンは愛する息子セトの為に動きキサラにセトを奪われ自分も裏切られた。事情は分からぬがその真意を知った遊偽はキサラを庇うように説得する。
「キサラが悪いわけじゃない。だからといってあなたが悪いわけじゃない。息子が愛する女を選んだ。それだけの話だろう?もう少し冷静になって寛大になれないか?それに、今の海馬は昔のセトとは別人なんだ。もう許してやれないか?」
遊偽の言葉にアクナディンは馬鹿らしいとばかりに鼻で笑う。
「はっ、いつまでも甘っちょろいなお前は。そんな簡単に人は割り切れぬ!お前も大事な物を奪われる悲しみを知らぬからそんな他人事を言えるのだ!」
「……俺だって杏子を奪われて憎んでる。俺もペガサスを殺したいくらいさ」
「……」
そんな遊偽の言葉に感じ入ることがあったのかアクナディンは黙った。そして、今度は口元を歪ませ軽く笑う。
「くくくっ、ならば貴様がどれだけの理不尽に会えば儂と同じ気持ちになるか試してやろう。だが、この女がセトのもとに行くのであれば我が分身もまたセトに近づきこの女を監視する。それくらいの我儘は許してもらうぞ」
何とかアクナディンをおさめた遊偽。アクナディンはそのまま不満そうに鼻を鳴らすと姿を消した。
「遊偽様、ありがとうございます。この御恩は必ず……」
汚液を拭ったキサラは泣きそうな顔で再び平伏する。
「ファラオ、努々、アクナディンに気を許さぬように……」
口を閉ざしていたブラックマジシャンはそれだけを言うと姿を消した。ガールもまた手を振ると嬉しそうに姿を消す。
そうして不思議な夢は終わりを告げた。
翌日、起きた遊偽はただの夢だったのではと疑問に思ったが、パズルの中のアクナディンが不機嫌そうであったことから事実だったのだと認識した。
そして、駄目元で双六に聞いた遊偽であったが、海馬の事情を話すと「大事なカードだから失くさぬように」と気前よく貸してくれ、海馬に渡す算段が付いたのであった。