「俺は、ヘラクレス・ビートル(攻撃力:1500)を召喚!更に、森フィールドの効果で攻撃力30%アップ!海馬、お前のガーゴイル・パワード(攻撃力:1600)を撃破!」
「ほぅ、30%か。随分と強化されるものだな」
ペガサスの所有する某無人島の波止場から程ない森にて行われている海馬と羽蛾のデュエル。緒戦はフィールド効果を事前に知っていた羽蛾が有利に進めていた。
「そうさ。この大会のローカルルールってやつでね。デュエリストキングダムでは種族に合ったフィールドで戦う恩恵が受けてない方と比べて段違いなんだよ。おっと、そういえば参加者は最初に戦って確認するまで知らなかったんだっけ?あっ、でも、海馬のカードに森効果で強化されるモンスターなんていなかったしどっちみちか?ひょひょひょ」
「チッ、人をイラつかせることに関してはどうやら一流のようだな、虫野郎も」
イリュージョン社のお膳立てをされた羽蛾はフィールド効果は勿論、海馬のデッキの構成すら知っていた。その上で勝てると踏んで森に誘い込んでデュエルを挑んだのである。そのことに気づいた海馬は羽蛾の嫌味にいっそう腹を立てた。
「だが、この程度の策を弄した所で俺は倒せん。俺はジャッジマン(攻撃力:2200)でヘラクレス・ビートルを粉砕!」
「やるねぇ。流石元全日本チャンプ様だ。だけど、この場では俺が圧倒的に有利なことを教えてやるよ。フライングマンティス(攻撃力:1500)、フィールド効果で攻撃力1950!更に、レーザー砲機甲鎧で攻撃力300アップ!ジャッジマンを粉砕!」
「ぐっ……」
海馬は表情を歪ませる。ペガサスの用意したフィールド効果で脆弱な昆虫族モンスターも上級モンスターに様変わりし防戦一方な状況と一々それを煽る羽蛾を好きにさせている自分に苛立ちが募るばかりであった。状況を打開するカードが手札にない海馬はひとまず壁モンスターで時間を稼ぐ。
「どうだぁ!?フィールド効果で強化された昆虫族の強さは!?続けていくぜ!俺は代打バッターを召喚!更に、魔法カード「闘虫仮装」!これでフィールドの俺の代打バッターを破壊してデッキからモンスターを手札に加える。そして、代打バッターは破壊されると手札からモンスターを特殊召喚できるのさ!俺はラーバモスと進化の繭のコンボだ!フィールド効果で守備力2600!!」
羽蛾は怒涛のコンボで一気に進化の繭を場に召喚する。森の恩恵を受けた繭は守備力2600。上級モンスターでも倒せるモンスターは一握りの鉄壁の守備力を誇るモンスターとなった。
「さあ、この繭を崩さないと6ターン後にはグレート・モスが究極完全態として孵化するぜ!?ひょひょ、海馬、これがお前のタイムリミットだ!」
羽蛾が勝利を確信し醜く顔を歪ませて笑う。実際、海馬の手札に打開策はなくこの布陣を崩すのは容易ではないのは明らかであった。
しかし、この追い詰められた状況でも海馬は薄く笑みを浮かべた。
「ただのダニかと思ったら意外とやるな。害虫にランクアップさせてやろう」
「何っ!?海馬、貴様この状況でよくもそんな事が言えるな!俺は早くお前の負け惜しみをほざく顔が見たいんだよ。そしてその後に遊偽を倒す!お前はただの俺の踏み台さ!分かったらさっさとカードを引け!」
勢いよく捲し立てる羽蛾を無視し、海馬は一度目を瞑る。
(この状況を打破するカードはある。後は引き当てるだけだ。遊偽ならこの状況何度も逆転してきた。奴に出来て俺に出来ぬはずがない。俺もまたここまで何度も勝ち進んできた。俺は、デュエリストの頂点、覇者となるべき男、海馬瀬人だ!)
どんな勝負にも負けなしであった自分。このような状況を乗り越えてきたことなど両の手では数えきれないほどである。デュエルで一度自分を打ち負かした遊偽への再戦を思いながら海馬はデッキのカードを引く。
(セト様、あなたの力に……)
女の声が聞こえた気がした。その声は初めて聞くはずなのにどこか懐かしく、また心地よい声だった。
「やはり、俺が引くのは常に勝利だ。俺は、ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴンを召喚する!」
「なっ、なにっ!?馬鹿な、その伝説のカードを、何でお前が!?」
海馬のフィールドに現れる青眼の白龍。攻撃力3000のそのカードはまさしくデュエルモンスターズの最強の攻撃力を持つモンスター。
「ブルーアイズは勝利を呼び寄せる。俺が掴むのは常に勝利のみ!繭を粉砕しろ!滅びのバーストストリーム!!」
ブルーアイズによって進化の繭が粉々に砕け散る。進化が始まったばかりのラーバモスはグレートモスになる前に消滅した。
「あっ、あっ、ああぁぁぁぁぁっぁ!!」
自慢のコンボも崩され、コンボによって浪費した手札には既に出せるカードもなくなった羽蛾。勝敗は決し、勝者となった海馬は羽蛾に詰め寄る。
「スターチップは貰うぞ。これでお前の星もなくなったな。さっさと島から出ていけ!この弱虫野郎が!!」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃ!!」
海馬の圧に押されてボックスから一目散に逃げだす羽蛾。デュエルの様子を見ていた猿渡は唖然としていた。
「やったね、海馬君!」
駆け寄る花咲に当然だとばかりに一度だけ目を合わせると視線を逸らす海馬。
「先は長い、行くぞ」
遊偽から預かったブルーアイズをデッキに入れなおすと海馬はデュエルボックスを去った。
海馬が羽蛾に勝利した一方で、荒野フィールドのデュエルボックスでは城之内と竜崎の二人がフィールドマップ越しに対峙していた。
「スターチップは1個賭けでええか?城之内」
「……いや、2個賭けさせてくれ」
城之内の言葉にぎょっとした顔になる竜崎。本田とミホも同じ表情で慌てふためいた。
「おい!正気か!?城之内。これで負けたら即座に退去だぞ!?しかも相手はあの竜崎、1個の方がいいだろ!?」
「城之内君、無理はダメだよ。城之内君がもしも負けたりしたら遊偽君に会えずに帰されちゃうんだよ!妹さんの為にも自分のことも考えて……」
必死に止める本田とミホの言葉を遮るように城之内は制止の手を向ける。
「ここで負けたらどっちみち俺には先がねえ。勝つか負けるかだ。その覚悟として俺は全ての星を賭ける。いいな?竜崎」
「……そんくらいの覚悟で臨んでるならええで。2個賭けたるわ。勝負や!城之内」
「おうっ!デュエル!!」
城之内の意地と覚悟を懸けたデュエルが始まる。
「俺のターン、アックスレイダー(攻撃力:1700)を召喚!どうだ!」
「ならワイはワイルド・ラプター(攻撃力:1500)を召喚や!そして、アックスレイダーにバトル!」
「なっ、アックスレイダーの方が攻撃力は上だぞ!?」
「馬鹿が!荒野は恐竜族を強化するんや。そして、王国ではフィールド効果で30%攻撃力がアップ。攻撃力1950になるんや!アックスレイダー、撃破!」
「ぐっ……」
荒野によって大幅に強化された竜崎の恐竜族パワーに押される城之内。
「マジかよ。ただでさえパワーがある恐竜族が強化って、そりゃねえぜ。だから2個はやめろって俺は言ったのに」
粉砕される城之内のカードを見て頭を抱える本田。ミホもまた心配そうにデュエルの様子を眺めていた。
「チッ、なら……俺は破壊のゴーレム(攻撃力:1500)を荒野に出す。こいつは岩石族だから荒野のフィールド効果を受けるぜ」
「適応が早いやないか。だが、ワイのカードはそれだけやないで!ワイは二頭を持つキング・レックス(攻撃力:1600)。攻撃力2080に強化!ゴーレムを踏みつぶすで!」
「糞っ……」
種族がほぼフィールド効果の恩恵を得られる竜崎は恐竜族モンスターと次々に展開し場を支配する。城之内は順調に追い詰められていた。
「まだだ、まだ負けねえ!俺は炎の剣士、召喚!」
「はっ、いっちょ前にまだ攻撃表示でやるんか」
城之内の代わり映えのない戦い方に竜崎がさらなる攻めを行おうとする。
「ああっ、駄目だ……城之内の奴、頭に血が上って全然状況が見えてねえ。このままじゃ……」
「ううん、まだ、まだ諦めてないよ。城之内君は。だって、妹さんの為に、そして遊偽君と親友でいたいが為に頑張って参加権集めて意地を貫きとおしたんだもん。この程度じゃ挫けないと思う」
頭を抱える本田にミホはまだ城之内を見放してなかった。友人の中でも城之内を特に特別視していることを遊偽と付き合ってきて分かっていたミホは目を離さず見ていた。
「へっ、キング・レックス!炎の剣士を攻撃や!」
竜崎のキング・レックスが攻撃を仕掛ける。しかし、予想を裏切り炎の剣士はキング・レックスを撃退した。
「なっ!?」
「見逃してたな。炎の剣士が立つマスはわずかに草と土が生えてるんだぜ。ここは荒野じゃなくて草原のフィールド効果が適応された隠しマップだったってわけさ。この効果で攻撃力は30%アップ。攻撃力2340!」
「ばっ、馬鹿な!?」
そして大幅に強化された炎の剣士が竜崎のワイルド・ラプターを撃破する。竜崎と城之内、両者のLPが並んだ。
「やったぁー!城之内君が戦況を互角に戻したよ本田君!」
「うっ、嘘だろ!?あの竜崎相手に城之内の奴、本当に……」
歯を噛み締める竜崎に表情が引き締まった城之内。戦況は互角だが流れは城之内に傾いていた。
「まだや、剣竜(攻撃力:1750)を召喚!更に、魔法カードで攻撃力200アップ!炎の剣士に攻撃!」
「鎖付きブーメラン!これで攻撃力500アップだ!返り討ち!」
「ぐぅ……ワイが、押されとるなんて……」
城之内が竜崎の手を潰し遂には優勢となる。そのまま先ほどとは打って変わって竜崎のモンスターを次々と撃破していった。
「行けるぞ!このまま押し込め!城之内!」
本田の声援にグッドサインで応えながら城之内は勢いづく。しかし、竜崎がカードを引いた時、戦況は一変した。
「引き当てたで!恐竜族のエースカード、ブラキオレイドス(攻撃力:2200)や!フィールド効果で強化されて炎の剣士を上回ったで!バトル!」
「炎の剣士が!?」
強化された炎の剣士を撃破され窮地に立たされる城之内。その後も竜崎は場に恐竜族を揃え、絶体絶命の危機に陥る。
「どうや。もう終わりかいな!?」
城之内の手札には竜崎の恐竜族を相手に出来るカードはない。ミホも本田も必死に応援してくれていたが打つ手なしの状況に城之内は挫けかけていた。
(もう、駄目なのか……俺には、もう打つ手がねえ……)
ドローする勇気もなくなりかけたその時、突然響いた大声が城之内の意識に割って入る。
「これで降参なんか!?城之内!まだデッキからカードを引けるやないか!お前は何のために星全部賭けたんや!?妹はんの為に覚悟を決めてワイと戦ったんちゃうんか!?ワイと違って重い物背負ってるお前が簡単に諦めんなや!そんな姿は対戦相手のワイにも失礼や」
「竜崎……」
敵であるのに本音でぶつかり叱咤する竜崎。自分とは違いずっと大きなものを背負う城之内が諦める姿とデュエリストとしてのプライドが黙ってればいいという下心に勝ったのか、竜崎は立場を忘れて熱くなっていた。
そんな竜崎に、消えかけていた闘志が再び城之内に燃え上がる。
「そうだな、ここで諦めてたら俺は何のためにここまで来たんだか。まだ俺にはこのデッキが残ってる。諦めるのは早ええよな!行くぜ、竜崎!」
城之内が全ての想いを込めてデッキからカードを引く。引いたカードは遊偽から貰った「時の魔術師」であった。
「この状況、お前に頼るしかねえ。俺とお前、どっちの意地が勝つか勝負だ竜崎!時の魔術師!」
ソリッドビジョンで場に現れた時の魔術師が杖のルーレットを回していく。当たれば時は進み恐竜族は全滅、外れれば自滅のギャンブル。しかし、後がない城之内はこのカードに全てを賭けた。
「ターイム・マジック!」
針が緩やかになる。外れの髑髏マークをゆっくりと進んだのち、針はギリギリ当たりのマークへと侵入して止まった。
「よっしゃーっ!これで恐竜族全滅!竜崎、お前のモンスターはフィールドから消えるぜ」
「ぐっ…ぐっ…、ワイの恐竜族モンスターが、全滅やと!?」
唖然とする竜崎にようやく息を吹き返した城之内。
そして、二人はいつの間にかエースカード、レッドアイズを場に出していた。
「なるほど、ここから先はどっちのレッドアイズが勝つかやな」
「そうだな……」
竜崎と城之内のレッドアイズが互いににらみ合う。一触即発の中、最初に動いたのは竜崎の方だった。
「ワイは闇竜族の爪!これで600ポイントアップ!これで攻撃力3000や!どうや、ワイのレッドアイズに勝てるか!?城之内!」
竜崎のレッドアイズが城之内のレッドアイズの攻撃力を大きく超える。レッドアイズの強化カードを懐に温存していた竜崎に対し、城之内は強化魔法カードが手札になく再び追い詰められた。
敗北、の二文字が頭によぎり雑念を消すために目を瞑り瞑想する城之内。そこで、翔吾にレッドアイズを貰った時の事を思い出していた。
「ある個人経営のショップでこのカードを手に入れたんだ。でも次行ったときは店が閉まってて、結局その後も全然やってなくて閉店したのかもしれないけど。その店のオーナーのお婆ちゃんが、僕が引き当ててくれた時に言ってくれた言葉が凄く頭に残ってて……」
青き龍は勝利をもたらす
しかし、赤き龍がもたらすのは勝利に非ず
可能性なり
ただし
戦う勇気のあるものだけに……
「それで、いつか僕がその勇気を振り絞ってレッドアイズで戦う時が来るだろうって、そのお婆ちゃんが言ってくれて。実際、僕は直接戦えなかったけど、城之内君に渡すくらいの勇気は出せたから間違ってなかったのかな……」
自嘲気味に笑う翔吾。そんな翔吾に、「お前は臆病者なんかじゃねえよ。お前のおかげで俺は助かったんだからな」と城之内は元気づける。
その言葉を思い出したとき、城之内ははっと気づいた。
(手札の融合のカード。確か、遊偽はこいつはソリッドビジョンシステムを生かしたカードだって言ってた。何が出るかはこのシステム次第だが、試してみる価値はある。遊偽から貰ったこいつと、爺さんから貰った、このカード……)
城之内は手札のメテオ・ドラゴン、そして融合のカードと場のレッドアイズを見比べて賭けに出る。
「俺は、この融合カードをレッドアイズに使う。メテオ・ドラゴンとレッドアイズを融合する!」
「なっ、なんやと!?融合のカード!馬鹿な!そいつは、何が出るか分からへんのやぞ!?それを……」
「竜崎、レッドアイズってのはな、可能性の龍なんだぜ。俺は一人でここまで来れたんじゃねえ。今いる本田、野坂、そしてここにはいない花咲や人質に取られた杏子、そして遊偽や爺さんがいてくれたからこの島で戦う勇気が沸いたんだ。戦う意志はある。試す勇気だって今の俺にはある。だからレッドアイズ、お前も仲間の力を借りて強くなれ!」
その城之内の熱い思いに応えるかのようにレッドアイズはメテオドラゴンの力を受けて新たな姿で顕現する。メテオ・ブラック・ドラゴン(攻撃力:3500)が城之内の場に降り立った。
「アホな!?攻撃力3500!?あっ、あかん……」
「メテオ・ブラック・ドラゴン!竜崎のレッドアイズにバトル!」
竜崎のレッドアイズが消滅する。これにより竜崎のLPが0となり城之内がこのデュエルを制した。
「ワイが、負けるなんて……くぅ~~~」
悔しそうに拳を握りしめる竜崎。だが、ひとしきり悔しがった後、踏ん切りがついたかのようにさっぱりした顔で城之内と向き合った。
「見事なデュエルや。ワイの負けや。約束通り星は2つあげるで。ワイは1個になってしもたけど、こっから這い上がって10個集めるさかい、本選で再会といこうや。次は負けへんからな」
「っ、おう!ありがとな竜崎。お前の激励がなかったら俺は諦めてた。今度は、最後まで挫けず戦うからな」
「へっ、楽しみにしとるで」
竜崎と城之内が固く握手を交わして別れる。敵に塩を送る形で城之内を立ち直らせたことで負けた竜崎だったが、負けたにも関わらず気分は悪くない様子であった。
「よかったね、城之内君♪勝てた上にいいライバルにも巡り合えて」
「全く、全国大会出場の奴に勝つなんてな!いや、俺は信じてたぜ?!勿論、アハハハ」
ミホと本田の賛辞を嬉しそうに受け取りながらデュエルボックスから離れる城之内。ミホが適当な相手を探す傍ら、城之内は誇らしげにグローブにはめ込んだ4つの星を眺めてていた。
そして、ミホも参加者に勝ち、星が3個になったところで一行は次なるデュエルボックスへと向かった。
今回は遊偽は出さずに終わり
もはや城之内君が主人公な件
東映の映画版好きです