王国と呼ばれる無人島にてデュエルが行われた初日。時間はそろそろ夜に入ろうとしている頃であり、インセクター羽蛾との最初のデュエルを終えた海馬と同行者の花咲が森を抜けて山が連なる渓谷へと入ったところであった。
「チッ、弱虫どもが。デュエリストの誇りもないとは」
日が沈みつつあるのを確認して海馬が愚痴る。羽蛾に勝利した後、戦いを眺めていた参加者らにデュエルを挑んだが遊偽と同じく悉く断られ、初日の成果は結局羽蛾に勝って得られた2個だけであった。
「その、仕方ないよ。海馬君は有名だし、初戦であんな凄いデュエルを見せられたら他の参加者も萎縮しちゃうのは分かるというか……」
「何だと!?チッ……仮にも診査と船での予選を通った奴らなのだ。強者に挑む意地すら見せぬことが嘆かわしいだけだ」
一瞬、ぎろりと花咲を睨み花咲をぎょっとさせたが、怒りをぶつけるのはお角違いだと思いなおしたのかばつの悪そうな態度でぼやく海馬。海馬の苛立ちをぶつけられずに済んで「よかった…」とほっと溜息をつく花咲であったが、この調子がずっと続くのかな、などとすぐに不安を抱き始める。
「あっ、そっ、そろそろ暗くなってきたしキャンプ場所を決めようよ。向こうに川が見えるし、河原付近は最適だと思うんだ。もっ、勿論僕が準備するから……」
暗い空気に耐えられずに無理して明るく振る舞う花咲。それが分かっているのか海馬も「ふんっ、ただで世話になる気はない」っと一応は協力したようだ。
「お前のような非力なチビでは力仕事など出来ないだろう。お前はさっさと火と食事の準備をしろ」
邪魔だとばかりに花咲をテントから追い出す海馬。海馬がテントを広げてペグを地面に打ち込んでいる間、花咲は言われるがままにせっせと焚火を起こし食事を用意していた。
「遠くでもちらほらと焚火の煙が見えるね。僕ら以外の参加者も野宿してるみたい。ここは川辺だからまだマシだけどいい場所が見つからなかったらもっと歩いてたのかな…」
「ふんっ、イリュージョン社はコテージも用意出来んのか。食料も寝場所も参加者の自腹とはペガサスはとんだしみったれな奴だな」
非常食を齧りながらペガサスを罵る海馬。頭の中にあるのはモクバを人質にとる卑劣なペガサスへの報復のみであった。
「海馬君はモクバ君のこと本当に大事に想ってるんだね……。敵地に単身乗り込もうとしたくらいに」
「当然だ。弟でありたった一人の肉親だからな。俺にはお前らの方が不可解だ。たかだか他人の為にこんな危険な場所に乗り込もうとするなど理解出来ん」
「そりゃ、友達が大変な目にあってるし、見過ごせないよ」
「友達とやらはそんなに大事か?お前は本当にこれから戦うことになる敵の恐ろしさを理解しているのか?勝負の世界では信用などという言葉は打算ありきだ。裏切りの前振りでありメリットを互いに享受できる限り友好が続く。お前がここまで付いてきたのもまた自分にとって都合がいいからだ。違うか?」
海馬の厳しい言葉に黙る花咲。すぐに反論したかったが海馬の言葉が理解できるからこそ言葉が口からすぐに発せられることはなかった。
「……そうかもしれない。僕はあまり人に馴染めないタイプで、似たような遊偽君が声をかけてようやく友達が出来たんだ。一緒にいて楽しい。だからこそ僕は遊偽君についていきたかった。でも、今の遊偽君は前と違って強くなって先へ進んでる気がしたからまだ遊偽君と友達でいたくてここまで付いてきたのかも……」
花咲の自問自答をするかのように絞り出した言葉に海馬は興味なさげに顔を背ける。
「遊偽は強い。お前とは違う。だが、お前が必死で付いていこうとするなら奴は突き放しはしないだろう。奴はとんだ甘ちゃんだからな」
「確かに、強くなったよ遊偽君は。でも、最近は一人で溜め込んでるような気がするんだ。強くなることは凄いことだと思う。だけど強くなろうとして自分に無理を課してるのは辛いことなんじゃないかなって……」
「っ、お前に何が分かる!強者であろうとするのは美徳だ。敗者に甘んじればそいつは一生敗者のままだ!強さがなければ自分すら守れない。強くあれば抱える懐が広がるのだ。それは勝負の世界においては常識。貴様のような弱者は抱えられるだけで責任を背負っていないからそんな気楽な事が言えるのだ。今の遊偽は正しい。強さを得るには必ず何かを背負い、切り捨てねばならないのだからな」
花咲の言葉にイラついたかのように表情を歪めて捲し立てる海馬。そんな海馬に押されて花咲は暫くの間絶句するが、
「そうかもしれない。僕はペガサスの怖さも海馬君ほど分かってない。強くなろうとする勇気もないし皆に頼ってばかり。でも、やっぱり怖い気持ちや弱い部分があれば誰かに頼るべきだし、誰かが困ってたら力になりたい。1人で全部抱えるなんて、無理だよ……」
っと、小声で弱気な声を出す。海馬も「ふんっ」と鼻を鳴らしたが花咲の言葉に何かしら思う所があったのかちらりと何度か見ていた。
(セト様……セト様……)
「んっ……なんだ……」
ぼやりと薄く霧のようなものに覆われて視界が晴れない場所に自分が立っていることにハッと気づく海馬。重い瞼を必死に開けながら辺りを見渡すが一面霧のせいでここがどこかも分からない。そんな場所で自分を呼ぶ女の声がする。
(よかった……聞こえているのですね。セト様……)
ふと正面にぼんやりとシルエットが浮かびそこから声がしていることに海馬は気づく。顔を確かめようと前へ進むが一向にその人物の姿は見えない。
「お前は何者だ。何故俺の前に現れる!?」
(私は、キサラ。あなたを常に見てきました。弟を取り返すために強大な敵と対峙するあなたを。そして感じている怒り、恐れ、不安。ですが安心してください。あなたの側には常に私がいます)
「俺が恐れや不安を感じている、だと!?冗談じゃない!俺はそんなもの感じていない!俺は強い!ペガサスごときに負ける男ではない!」
キサラと名乗る女の言葉に瞬時に反発する海馬。その言葉が許せないとばかりに沸き立つ感情はまるでそれを認めるのを恐れているかのようであった。
(セト様、あなたは確かにお強い。ですが、あなたを助けてくれる人たちは確かにいるのです。一人で戦っているのではありません。あなたの周りには私だけでなく、遊偽様、そして友人の方々もいます。それをお心に留めてください)
「黙れ!信じられるのはどんな時でも自分だ!信用などという不確かな物に俺は頼らん!」
キサラの言葉を遮るように海馬は喚く。勝者は常に1人。幼い頃から帝王学を学ばせられ、義父に勝ち自殺させることで自由を勝ち取った海馬にとってはそれこそが自分の中の絶対に揺らぐことはない芯であった。そんな海馬に目の前のシルエットの女、キサラは困ったような様子で海馬に紡ぐ言葉を躊躇する。
「ふふふっ、いいぞセト。それでこそ儂の息子だ」
そんな海馬を迎合するかのようにキサラとは反対方向から仮面の男が現れる。海馬はその男、アクナディンを見て突然の再会に驚いた。
「お前は、アクナディン!?遊偽のパズルに眠っているという人格か!?」
「左様、久しぶりだなセトよ」
海馬の言葉に嬉しそうにうなずくアクナディン。
「そうだ!セト!お前は間違っていない!覇道を突き進むのに犠牲は付き物。勝利を得るには常に前進あるのみ。弱者は強者が従えるものなのだ。弱者に頼るものではない。それが王。そして側にいるのはその女ではない、この儂だ!」
アクナディンの言葉に不穏を感じつつも惹かれつつある海馬。それを察知したキサラは影を消し去り本来の姿として現れる。
「セト様!闇の大神官の言葉に惑わされてはいけません!」
白き龍としてセトの前に現れたその影に海馬は唖然とした。
「キサラ、お前はブルーアイズなのか!?」
海馬を守るかのように尾を巻き付けてアクナディンと対峙するブルーアイズ。アクナディンはブルーアイズを睨みながらセトに手を翳す。
「セトっ!儂は、お前の為に言っておるのだ!お前を、お前が王となる為に!このまま覇道を突き進むにはその女を無理やり従わせお前の物にする必要がある!儂の言うことに耳を傾け、その龍を従えよセト!」
アクナディンの必死の言葉は頭では理解できるのだがブルーアイズが守る空間の中にいる今の海馬には空虚のように感じられた。
幼い頃にモクバとともに描いたブルーアイズの絵。絵のブルーアイズは実際に顕現して義父の剛三郎に引き取られて間もない軟禁状態だった自分とモクバを背中に乗せて外の景色を見せてもらった思い出がある。あれはただの夢だった、偶々モクバと同じ夢を見た。そう思っていたが、目の前のブルーアイズ、キサラの傍にいるとそれが本当の出来事であったのだと海馬は実感した。
更に記憶を遡ると褐色の肌をした自分が白髪の美しい女を抱きながらブルーアイズの絵柄の石壁を眺めている。この抱きかかえている女がキサラなのかは分からないがそんな光景がフラッシュバックした時、自分の傍には常にブルーアイズがいたのだと思い至った。
「ブルーアイズ、いやキサラ。俺に力を貸してくれるか?」
「はい……セト様の為なら喜んで……」
海馬がその鼻先を擦るとブルーアイズは嬉しそうに声を出す。ブルーアイズが放つ温かい光に海馬は自然と凝り固まっていた芯が解れ、キサラの手助けを受け入れた。海馬の協力を得たキサラはその輝きを増していきアクナディンの身体をボロボロに崩していく。セトの中で力を得ることの出来なかった分霊にすぎないアクナディンにキサラに対抗する術はなかった。
「セト、セトぉぉぉぉ!儂は、儂はお前を……」
ブルーアイズの咆哮に戦慄きながら海馬に必死で縋り付くアクナディン。海馬はその姿に普段感じることのない哀れみを覚えた。
「キサラ、あの男はなぜ俺にあそこまで固執する?」
「闇の大神官、アクナディンは……セト様、あなたの前世のセト様の実の父なのです」
「父、だと!?」
海馬は衝撃を受け狼狽する。海馬にとって父という存在は忌々しいものであった。実の父は遺産を食い荒らし自分やモクバをネグレクト状態で蒸発。義父剛三郎は自分を後継者として完成させる為に教育しついぞ我が子として愛を注ぐことなどはないまま育てた息子に敗れ自殺をした。剛三郎の自殺を持って海馬の芯を作る教育は完成されたのである。
そんな2人のろくでもない父を体験した海馬に3人目の父が現れたとしてそれをどう受け止めるべきなのか、海馬には分からなかった。しかし、目の前の男は歪んだ形ではあるが自分に向ける愛情が本物であるのは海馬には分かった。そんな父を全否定することは出来ず、かといって肯定することも出来ない海馬は暫く対応に困り這いつくばるアクナディンをじっと見つめていた、
「アクナディン、俺は貴様の息子ではない。俺は前の俺ではなく今を生きる海馬瀬人だ。貴様が縋り付く過去の妄執とやらに俺は興味はない。だが、俺に害を為さないのであれば勝手にしろ」
「……」
海馬に隅でいることを許可されたアクナディンはボロボロの身体を闇に潜ませ姿をくらませる。キサラは不安げにそれを見つめていたが海馬が捨て置けとばかりに手を翳した。
「キサラ、お前の力を借りる。俺が掴むのは勝利のみ。だが、勝つ為に狭量ではいられない。お前が俺に力を貸すのであれば、俺はお前を受け入れてその力を行使しよう」
「はい。そして、あなたのお力になるのは遊偽様、友人の方々がいるのもお忘れなく。いきなりは無理でしょうが、少しずつ心を開いてください」
「……ふんっ、検討はしよう」
ブルーアイズであるキサラの言葉に耳を傾ける海馬。以前のような棘は消え、自分を常に見守ってきたキサラに少しばかり海馬は心を開いたようであった。
「敵は強大です。ですが、危機に瀕しましたら常に私を想ってください。その想いにお応えします。そして、お仲間の方々も必ず……。セト様、恐怖や不安を恥じることはないのです。それは人としての本能であり、誰しもが感じること。ですが、誰かに頼られ誰かを守りたいと思うからこそ人は克服できるのです。この言葉を心に刻んでおいてください」
ぼんやりとブルーアイズの姿が霞んでいく。そうして自然と海馬の視界も暗くなっていき、瞼が完全に落ち切った時、海馬は現実の世界で目を覚ました。
「あっ、海馬君!おはよう」
無人島での2日目となる朝。起きた海馬に何事もなかったのように接する花咲。既に寝袋も焚火も片付けており、花咲は纏めたバッグを横にしてメモ帳を眺めていた。
「……昨日はごめん。海馬君の気持ちを考えずに僕は自分の考えを押し付けてた。海馬君は、海馬君で僕とは違うしね……」
花咲が眼鏡越しに申し訳なさそうな目で海馬を見る。
「俺が起きるまでに何をしていた?」
「あっ、これは……昨日の船着き場からここまでの道中の経路と昨日の焚火があった方向を見比べてて。もしかしたら、この山には僕らの船以外の参加者も野宿していたんじゃないかなって……。だから山のフィールドのデュエルボックスを見つければ他の船の皆にも会えるんじゃないかな、っと思ったんだ」
花咲が海馬の表情を伺うようにおどおどと問いに答える。海馬も道中までは覚えていたが花咲はぽつぽつっと立っていた火の位置を見て書き写していたと知り、その考えを理解する。
「……ふんっ、なるほどな。まあ遊偽と合流したところでやることは変わらん。城の場所が分かれば話は別だがな。それと、一々俺の表情を伺って話すな。話すなら堂々としろ。つまらん内容でない限りは気になどせん。お前はお前のやるべきことをしてついてくればいい。行くぞ、花咲」
「えっ……!?あっ、うっ、うん!」
昨日よりも僅かに柔らかくなった海馬の態度に驚きながらも花咲は重いサバイバルバックを背負って海馬の後ろについていった。そしてふと初めて自分の名前を言われたのに気付いた花咲は心なしか嬉しそうであった。
川に沿って歩いていく海馬と花咲。上流へと上るにつれてごつごつした岩が目立ち始め、次第に川の流れも強まっていく。
「……デュエルボックス全然見つからないね。もしかしたら山のフィールドは麓の方だったのかも……」
「ふんっ、やはりな。正確な地図もない以上は山を一度登り付近を見渡した方がいいだろう」
空振りだったことに落胆する花咲に海馬はある程度は予想していたとばかりに先へ進む。大きく迂回する形で山道を登り始めた二人は途中で傾斜がなだらかになっていくのを感じた。
「そろそろ峠だと思う。あそこからなら向こう側が見えるはず」
自然と足を早めながら二人は山頂を目指す。しかし、その先に海馬らを待つ人影がいた。
「ふふっ、よくここまでたどり着いたなセト」
「貴様は、猿渡!また性懲りもなく俺の前に現れたか。俺の足を引っ張る為にここまで来るとは結構なことだな」
目の前にいたのは海馬に羽蛾を差し向けたイリュージョン社の猿渡。
「くくっ、お前らと違ってスタッフは車を使えるからな。この先の道からなら容易に来れるのだよ」
「そうか、つまりはこの先に貴様らの本拠地の王城があるわけだな。そして、ペガサスの喉元に迫れるわけだ」
「ぬっ……」
嫌味をサラリと受け流し自慢をする猿渡に言葉の裏を読み取り絶句させる海馬。海馬の読み通り、山頂から先の道は王城へと繋がっていた。
「チッ、減らず口を。だが、セト、貴様もここまでだ。ここから先に山頂のデュエルボックスがある。そして、貴様を倒すプレイヤーを既に用意してあるのだ。そう、貴様ら参加者を狩るプレイヤーキラーをな」
猿渡は自信ありげに語ると、海馬を山頂へと導く。稜線をなだらかにしたその場所にはデュエルボックスがあった。
「まさかカードの貴公子様とお相手出来るとはな。俺はPKのウィラー・メット。よろしく頼むぜ、海馬様よ」
「ウィラー・メット……。確か、賞金稼ぎ集団の中にその名前があったな」
「ほぅ、まさか俺の名前を憶えて下さっていたとはな。そう、俺はあんたと遊偽にかけられた懸賞金の為にここに来たのさ。デュエルと行こうぜ。勿論賭ける星は4つ全部だ」
「所詮はハイエナか。いいだろう、貴様を蹴散らして王城への道を拓く。デュエル!」
海馬とPKとの山頂でのデュエルが始まる。
「見ての通り、この山頂フィールドはマップのほぼすべてが山。つまりは山のフィールドの恩恵を得られるモンスターがここを支配できる。俺はランサー・ドラゴニュート(攻撃力:1500)を召喚!ドラゴン族はフィールド効果を得て30%攻撃力をアップ!」
「ならば、俺はジャッジマンを召喚!ランサー・ドラゴニュートを撃破!」
「くっ、流石は海馬。強いカードを出してくるな。だがここでは俺が圧倒的に有利なんだよ!俺は、アックス・ドラゴニュート(攻撃力:2000)を召喚!そして、フィールド効果で攻撃力は2600!」
「何っ!?」
バトルによりジャッジマンが破壊される。
「なるほど、ドラゴン族使いか。つまりはこの場はお前の為に用意されたフィールドというわけだ。ペガサスにお膳立てされて三下として戦うデュエル、さぞややりやすいだろうな」
「ふんっ、デュエルってのは勝てばいいのさ。それで賞金が手に入るんだからな!それと、お前のデッキの構成は既に知ってるんだぜ。さっさと出したらどうだ?あの伝説の龍をよ」
ウィラーが顔を歪めてにやつく。既に羽蛾戦でデッキの構成は知っているようで、海馬のデッキにブルーアイズが出ても対応できると仄めかしていた。
「いいだろう。貴様の挑発、あえて乗ってやる!」
(ブルーアイズ、キサラ、来い!!)
海馬は想いを込めてデッキからカードを引く。それに応えるかのようにブルーアイズは海馬の手元へと加わった。
「ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン!フィールド効果を受けて攻撃力は3900!アックス・ドラゴニュートを蹴散らせ!」
場に召喚されたブルーアイズによりウィラーのモンスターは破壊され一気に1300ものLPが削られる。しかし、その攻撃を受けてもウィラーの表情から余裕は崩れなかった。
「流石は伝説の龍。凄い威力だぜ。俺はモンスターを守備表示で召喚」
「ふっ、守備固めか。ならば貴様のモンスターを全て蹴散らしてやる!ブルーアイズ、攻撃しろ」
「馬鹿め!かかったな!俺が伏せたモンスターは「ホワイト・ホーンズ・ドラゴン(攻撃力:2200)」!!こいつは敵の魔法攻撃を一度のみ吸収し自身の攻撃力に加える!」
「なにっ!?」
ウィラーの伏せたホワイト・ホーンズ・ドラゴンは元々の2200にフィールド効果とブルーアイズの攻撃力を加えて一時的に攻撃力は6760にまで膨れ上がる。その攻撃力に海馬は唖然とした。
「勝負あったな!ホワイト・ホーンズ・ドラゴン!ホーン・ドライブ・バスター!!」
海馬のブルーアイズが破壊される。ウィラーは勝利を確信した。だが、海馬のLPは変わらず、そのことに気づいたウィラーは訝しむ。
「伏せカード、スピリットバリアを発動させた。これにより貴様のモンスターの攻撃によって発生したダメージは0となり俺のLPは削られない」
「くっ、くくくっ、悪あがきだな。確かにこの攻撃でホワイト・ホーンズ・ドラゴンの攻撃力は2860に戻るがお前のデッキにこれを超えるモンスターはいるか!?いないだろう?それを俺は知ってるんだぜ」
ギリギリのところで敗北を防いだ海馬であったがPKウィラーの言葉通り、デッキにはその攻撃力を越えるモンスターはいなかった。苦虫を嚙み潰したように顔を顰める海馬。魔法、トラップのコンボで倒す手立てはあるが時間がかかり対処される可能性があり海馬はここで勝負を決めたかった。
(もう一枚、ブルーアイズがあれば……)
ありもしない願望が一瞬頭をよぎるか、そこでふと夢で見たキサラの言葉を思い出す。
(危機に瀕しましたら常に私を想ってください)
馬鹿な妄想だ、っと一度は頭で切り捨てるも海馬はそれが“出来る”ような予感がした。誇大妄想かはたまたこの感触が正しいのか、道を切り拓くのは自分だけであった海馬は衝動に駆られるまま初めて本当の意味でキサラに頼りカードを引いた。
(セト様、あなたが願うならば私は常にあなたをお守りします)
カードを引いた瞬間確信した。そのカードは海馬のデッキには存在しない二枚目のブルーアイズであったと。
「勝負の世界では信用などはただの戯言。だが、キサラ、お前が応える限りは俺はお前の力を信用する。来い、ブルーアイズ!!」
「なんだと!?2枚目の、ブルーアイズ!?馬鹿な!!海馬には武藤遊偽から渡された1枚しかないはず……!」
「俺の覇道。突き進む為に必要なものならば俺は甘んじて受け入れよう。奴のモンスターを破壊しろ!滅びのバースト・ストリーム!!」
ブルーアイズがウィラーのホワイト・ホーンズ・ドラゴンを消滅させる。このバトルによりデュエルは海馬の勝利で終わった。
頭を抱えながら現実逃避するPKウィラーと驚愕で絶句する猿渡を後目に座席に置かれたスターチップを海馬は奪い取る。
「やったね!海馬君!」
花咲が海馬の勝利に喜び駆け寄る。海馬は無言でその称賛を受け取ると引いた2枚目のブルーアイズを握りしめた。
「……ペガサスを倒す。奴を倒してモクバを救う。行くぞ、花咲。ここから先は王城だ」
デュエルボックスを出ると山頂からペガサスの居る王城が見える。スターチップを8つに増やした海馬は花咲を連れて山を下った。