デュエリストキングダム開催から三日目となったこの日の夕方。本選出場が決定した遊偽一行と一部のプレイヤー以外の参加者はほぼ全員が参加者同士、あるいはPKによって星を狩りつくされ船での退去となっており、現時点で城に到達した参加者のみで本選を行う旨を運営側の黒服の男が発表した。
「これから本選出場者を祝うための晩餐会があります。くれぐれも欠席なさらぬように」
船の男や猿渡とは異なり品のある印象を受ける初老の黒服がそれだけを告げると別塔に集まっていた遊偽らから離れる。
「ほぅ、晩餐会ねえ。だが、食料や寝床すらケチるイリュージョン社の用意するもんなんざたかが知れてるってもんだ」
悪態をつく城之内。どうやらいまだにこの寒い外で野宿させられたことを根に持っているようだ。遊偽もいくらか思う所があるのか苦笑いでそれに応える。
「でもぉ、遊偽君に会えてミホは本当に嬉しい♡あーん、遊偽君がいないこの四日間本当に寂しかったよ~」
すりすりと遊偽の腕に頬ずりしながら抱き着くミホ。同じ島にいながら離れ離れだったことが悔しかったようで寂しい思いをした分を取り戻すかのように洞窟で再会してからこの王城までの間、ずっと遊偽にひっついていた。そんなミホを気に入らないかのようにリサは逆の腕に抱き着きながら隙を見てはミホを引き離そうとしている。
一方で、舞はそんな若い少女たち二人を呆れるように見つめていた。
「はぁ、遊偽君は相変わらずモテモテのようでうらやま……いや、やっぱりあの状況は遠慮したいかな……。なんかあの付近だけ空気がひりついてそう」
「ううっ、久々の再会だから許すが……後で覚えておけよ遊偽!」
そんな遊偽とその周りを見て溜息をつく花咲と歯ぎしりをしている本田。遊偽一行は合流してからはいつも通りの光景であった。
「月行、モクバの居場所は分からんのか?」
「……恐らくはここだろうと思われる場所はあります。ただ、今は警備が厳重な上に本選を控えて救出するのはおすすめしません。今夜はその場所を確信に至るよう調べた上で、ペガサス様とスタッフらの注目を集める明日の本選の最中に行うのがいいかと」
遊偽らから少し離れた場所でPC画面を見つめる月行と海馬。モクバが監禁されている場所はイリュージョン社においても極秘情報らしく、アジア支部を纏める月行ですらその場所は把握していなかった。しかし、王城の構造と昔ながらの牢の存在を知っているためかモクバが囚われている場所の予想はついていたようだ。
「それなら今夜は僕と本田君でその場所を調べるよ。いいよね?本田君」
「んっ?ああっ、勿論だ。デュエルは出来ねえが俺が来たのはこういう時の為だからな」
花咲が会話を聞き、その調査に名乗り出る。城之内も二人では心配だからと加わろうとしたが本選出場を控えているため二人はそれを断った。
「私も花咲君や本田君と同行します。私がいれば見つかってもある程度は誤魔化せるかと」
「頼むぞ、月行。それと二人も。お前たちがモクバを救えればペガサスが追い詰められた際にモクバを盾にする手を封じることが出来る。奴ならやりかねんからな。モクバを確保した上で完膚なきまでにペガサスを倒す」
二人を頼りながら意気込む海馬。海馬から頼られるという状況に二人は驚きながらもその言葉に強く応えた。
「俺も花咲君と本田君には期待してる。ただ、捕まりそうなら無理せず逃げて欲しい。モクバの救出も大事だけどそれで無理をしたら元も子もないから。そろそろ晩餐会の時間だ。行こう」
二人の身を案じる言葉をかけながら時計を見て時間を確かめた遊偽は皆を引き連れてペガサスが招待する晩餐会へと向かった。
「うひゃーっ!?こっ、これ、マジで喰っていいのか!?こんな、凄え高そうな料理を、俺たちが!?」
白いナプキンに包まれたテーブルに着いた城之内は置かれた数々の料理に目を輝かせて一人はしゃいでいた。目の前にはフレンチの高級料理が置かれておりその芳醇な香りに我慢できず涎を垂らしていた。ちなみに貧乏暮らしの城之内にとっては目の前にある食事はリゾットくらいしか名前が浮かばなかったのであるが香りと見た目から美味しいことは間違いないと直感していた。
「ちょっと行儀が悪いよ城之内君!ちゃんとテーブルマナーを守らないと」
「うっ、うるせえな!そういうのとは縁がなかったんだよ!それに、俺だけじゃねえ!遊偽もそうだろ!?」
「まっ、まあ確かに俺もこういう料理をご馳走になったことは……あっ、最近海馬と何度かあった気がする。取り合えず涎はしまって手はテーブルの裏に隠して、紙エプロンもつけるように……」
「なっ、なんだよ……この場を経験したことないの俺だけなのかよ……」
仲間だと思っていた遊偽からも裏切られ涙を軽く浮かばせる城之内。小さなゲームショップ屋の息子の遊偽も最近は海馬に連れられて最低限のマナーが出来るようになったようで顔に似合わず城之内に色々とアドバイスをし、城之内からは裏切り者と罵られていた。
そんな城之内を見て「可愛い♡」っと、向かい合わせだった舞がくすりと笑う。化粧と香水のばっちり決まっているイケてる美女の舞に艶やかな目で見られたことで顔を真っ赤にさせながら照れる城之内。
「あっ、これは情けねえ所を、アハハ。お姉さんは凄く落ち着いてますね。こういう所、慣れてそうっていうか。おっ、俺は全然なんで、あっ、このタラコとか美味しそうですね」
「くすっ、それはカラスミよ。ボラの卵巣をスライスしたものでタラコでもそれっぽく作れるから当たらずとも遠からずかしら。そこのチーズで塗したカリフラワーのソテーとかは私は好みだしあなたも好きになれると思うわ。私、これでも豪華客船でディーラーとして働いてた経験あるからこういう場には確かに慣れてるの。だから、一緒に楽しみましょ♡遊偽のお友達君♡ダメな所は優しく教えてあげるから♡」
城之内の初心な反応はどうやら舞には好印象だったようで、遊偽の友達ということもあり舞は城之内に優しく接してあげたようだ。これに舞い上がった城之内であったが、「主催者が話すまでは黙って」っとミホに厳しく言われてすぐさましゅんっとしていた。
また今回の晩餐会に招待されたのは本選出場者のみで同行していた花咲、本田とギャラリーとして残った竜崎、梶木は別の場所で食事をとることとなっていたが、王城から歩いてすぐの場所に海があると聞き梶木が漁をしてその腕を発揮していたがそれはまた別の話である。
そうして、少しした後、ペガサスが扉から堂々とした様子で現れ席へとついた。
「さて、時間ですので食事と行きましょう。ここにいる7人の本選出場者の皆さんは予選通過おめでとうございます。皆さんも知っての通り、この城までの間に至る所にPKを配置しました。そのPKをも倒しここまでたどり着いた皆さんは真に実力のあるデュエリストと言えるでしょう。明日の朝には本選となりますが、今晩は我々イリュージョン社が抱えるシェフ自慢の料理を堪能し、王城の一室にて英気を養んでその実力を発揮してください。主催者としてその皆さんの白熱したデュエルを楽しみにしておりマース」
長くもないが短くもない簡潔な挨拶を済ませた後、食事の乾杯を取る。成人にはワインを、未成年にはブドウジュースを振る舞い、今までの扱いが何だったのかと言いたくなるほど豪勢な食事をこの場に集まった参加者は堪能した。
晩餐会に集まった本選出場者は7人。遊偽、城之内、ミホ、舞、海馬の遊偽一行以外の2人の中には見知った顔もいればそうでない者もいた。
「けけっ、まあ食事は悪くねえな。今までケチってた割には。ここで賞金を頂いてお前を倒すのはこのバンデッドキース様だぜ、へへっ」
その内の一人、城之内らを閉じ込めた男であるキースは出されたワインに気分を良くしながら食事を楽しんでいた。そんなキースを目にして城之内は憤ったが、同じく目を吊り上げていたミホに止められて舌打ちをしながらも大人しくしていた。
もう一人はどうやらキースとは顔馴染みのようでキースとともにワインを楽しんでいる。
「奴はテッド・バニアス。キースと同じく賞金稼ぎだ。キースと同じチームに所属していた時期があったらしく個人的に付き合いがあるようだな。ただ一つ言えることは奴もキースと同じく金に群がるハイエナだ」
海馬が遊偽にもう一人の出場者について軽く説明する。キースと同類というのは本当らしく、酔って机に足をつけるキースと咎めることなく椅子に胡坐をかいて一緒に楽しんでいることからも素行の悪さは伺えた。
「他の出場者が誰だろうと関係ない。俺はペガサスを倒す、それだけだ」
「ふっ、それでこそだ」
遊偽の言葉に満足気に鼻を鳴らす海馬。大事な人を奪われた者同士なためかこうして長々と言葉で交わさずともペガサスへの憎しみで共感し合う所が二人にはあった。
晩餐会もたけなわとなった頃、ふとスープにある物が浮かび上がる。それは千年眼を模したカプセルであった。
「うげっ、なんじゃこりゃ!?いきなり浮かんできたぞ!?」
スプーンでそれを掬い上げて叫ぶ城之内。他の参加者も城之内ほど騒ぐことはなかったが何事かとペガサスへ視線を向けた。
「HAHAHA、面白い催しでしょう?私がつけているこの義眼のレプリカです。そのカプセルを開けると組み合わせの番号が出てきマース。そして、トーナメント表はこちらに。さて、誰がどの番号なのでしょうか?楽しみデース」
ペガサスの言葉を聞きカプセルを開ける参加者たち。遊偽の番号は1番、海馬の番号は7番と角で分かれているところが遊偽は作為を感じたが、トーナメント表は面白いほど因縁を感じさせる分け方がされていた。
1番の遊偽は2番の舞が初戦の相手であり、3番の城之内は4番のキース、5番のミホは6番のテッドが相手で7番の海馬が最後に位置していた。
「まさか、遊偽が初戦の相手とはね……」
「舞、本選で最初に当たる相手になるとは驚いた。舞は嫌だった?」
「ううん、むしろ逆よ。あの時の借りを返すって言葉、嘘にならなくてよかった。遊偽と戦えるのは嬉しい。遊偽には杏子ちゃんを取り戻すって目標があるけど、私はこの遊偽との再戦の為に、借りた恩を返すことを考えて予選を抜けたの。明日は本気であなたにぶつかるわ。覚悟しておいて」
舞は遊偽に挑戦的な視線をぶつける。遊偽もまた舞に全力で答えると視線で返した。舞はその答えに満足してウィンクを見せる。既に王城への道中で互いの理解を深めた二人にとってはこれだけの仕草だけで互いの気持ちを通じ合うことが出来ていた。
一方で、晩餐会がお開きとなった頃、城之内は酔ったキースに絡まれていた。
「おう?お前、よく生きてここまで来れたな~。ってことは、迷宮兄弟に勝ったのか。俺の予想以上にやるようじゃねえか。だが、へへっ、この俺が相手とは運がねえ。軽く捻ってやるぜ、ガキ」
「んだと!?やい!キース!てめぇ、よくも俺を洞穴の中に閉じ込めてくれたな!おまけにお前を兄貴と慕ってた奴らを裏切ってボコるとは人の心なんざ持ち合わせていねえ畜生だ!お前みたいな奴はこの俺、城之内克也様がボコボコにしてやるぜ!明日覚えておきな!!」
城之内の毅然とした態度にキースは「このクソガキ!」っと悪態をつく。キースが掴みかかって喧嘩に発展しかけたが黒服が止めたことで事なきをえた。
「へーっ、こいつがあの迷宮兄弟をな。こんな馬鹿そうな見た目で結構出来るんだな。おい、キース。あんたもうかうかしてられねえんじゃねえの?まあ、俺はあのおつむの弱そうなお嬢ちゃんにサクッと勝って海馬を倒して懸賞金と賞金を貰わせてもらうが」
「あん?」っとキースから睨まれてもどこ吹く風の様子でテッドはミホを見ながらへらへらと笑う。この態度にミホもムッとし、「負けないんだから!」っと闘志を燃やしていた。
こうして少し荒れながらも組み合わせ発表とともに晩餐会は終わりとなり、黒服らが一夜を過ごす部屋へと出場者を案内していった。
夜
綺麗に整えられた個室へと案内された海馬は寝間着へと着替えるとベッドへとすぐに横たわった。
モクバのことは気がかりであったが花咲や本田と月行に任せたこと、そして月行の言葉通り今動いても仕方がないと自分で言い聞かせ、明日のデュエルで万全のコンディションを得られるように海馬はこの日の夜は早めに就寝となった。
そうして、いつしか意識を失っていたはずの海馬は何もない白い空間へと身体を漂わせていた。
「んっ、ここは……」
妙な浮遊感とともに覚醒し辺りを見渡し疑問を抱く海馬。そんな海馬の疑問に答えるかのように一人の男が現れる。
「セト……よくここまで辿り着いた。もっとも儂はお前の腕を疑ってはおらんかったがな」
「貴様はアクナディン!?どうしてここにいる!?いや、そもそもお前はほぼ消し炭になったはず」
「……遊偽と再会した際に分霊の情報を得て再びパズルから分霊として送られ力を得た。あの時の出来事もしっかりと覚えておる。お前の中に生まれた甘さもな」
アクナディンは責めるかのような口ぶりで答える。これに、恥じることも間違いも一切ないとばかりに毅然とした態度で返す海馬であったがアクナディンはそれに対して咎めるようなこともせずただ海馬を見つめていた。
「セト、お前は強い。だが、奴を目にして確信した。お前はまだペガサスには勝てん。そしてここに着いた時に分かったことだが、ここにはシャーディーもおる。奴ら2人が本気で掛かってきたら儂の力を借りたとして勝てるかは……。悪いことは言わん、今すぐここを立ち去れ。もしくは奴らに決して対立しないように動くのだ」
「っ、ふざけたことを!何のために俺はここに来たと思っている!モクバのためだ!!俺はモクバを取り戻しKCを取り返す。その為にペガサスを倒す!それをやめろだと!?冗談ではない!」
海馬は馬鹿げた提案だといらつきながら一蹴する。ここで諦めるようならはなからこの島には来ていない。自分の全てを賭けてでもモクバを救う、そのために来たのだ。負ければ死が待ち受けていても構わない。それが今の海馬にとっての行動原理であり、己の野心よりも重きをおくものであった。
海馬の梃子でも動こうとしない態度にアクナディンは深く溜息をする。
「そうか……。セト、お前は野心高き男だ。だが、この世界のセトには野心よりも大きな家族がいるのだな。そして、その家族は儂ではない……」
「……家族も野心もどちらも捨てなどはしない。どちらか一方を捨てろなどと言われたら跳ねのけるまでだ。どちらも掴み取ってこそ成功者であり、この俺海馬瀬人なのだ!それをはき違えるな。だが、いやに素直だな今日は」
大切な家族と野心をどちらも捨てるつもりは毛頭ないと豪語した海馬であったが、いつもとは異なり傲慢さを振りかざすことなくただ黙るアクナディンに違和感を持ち尋ねる海馬。
そんな海馬に突如として側にブルーアイズが現れる。
「それは私がいるからです。私がいる限り、セト様の心の中に踏み込んだ分霊にすぎないアクナディンは無理やりセト様の心を操ることなど不可能なのをアクナディンが理解しているからでしょう。私は常にセト様の傍にいます。あなたが信を置いた時から、いいえ、それ以前からずっと……」
ブルーアイズの姿をしたキサラが海馬を守るように側を侍りアクナディンに睨みを利かせる。そんなキサラを恨めしそうに見つめながらアクナディンはその口をゆっくりと開いていった。
「悔しいがその女の言う通りだ。今の儂ではセトをどうすることも出来ん。だが、それだけではない。これより前の分霊の儂もまた、セトにその存在を許され、ずっとセトを見ていた。今のセトは、前のセトとは違う。今のセトは優しく、そして甘すぎる……。儂の知る息子のセトならば、儂の思い通り王となってくれたはずだ。儂の知るセトならば……」
「違います。それはあなたが一方的に押し付けているあなたの理想のセト様です。セト様はあなたの道具ではない。あなたが王になれなかった悔しさを晴らす道具などでは決してないのです!それを何故分からないのですか!?」
「ぐっ、お前に何が分かる!?我らの悲しき宿命が!」
「経緯は分かります。同情もします。ですが、私にはセト様を巻き込むことが不当に思えます」
「なっ、なにっ!?」
キサラからばさりと両断され怒りを露わにするアクナディン。しかし、その心理を完全に見抜かれたせいか即座に反論することなく言葉を詰まらせている。そんな二人を見て海馬もまた疑問をキサラに問いただす。
「この男の宿命だと?それはなんだ?キサラ」
「……アクナディンは、ファラオの弟なのです。もし兄より先に産まれていたら、もし自分がファラオだったら、その想いを捨てきれなかったのです。そしてそんな自分の不当な境遇への復讐心をセト様に晴らしたいだけなのが私には分かるのです」
「ちっ、違う!儂はただセトに、セトに王になってもらいたかったのだ!国が強大な隣国の侵攻で危機となった時、王家は闇の錬金術によって千年アイテムを作ることを決意した。その内容は罪もない町の村人を強盗の仕業に見せかけ殺戮し、その生贄の血を溶解した金属とともに混ぜ合わせて儀式により作る凄惨なものであったのだ。儂は、その儀式に参加することとなった日、妻と息子のセトとは今生の別れを告げた。儂の経歴を闇へと抹消するために家族は平民へと落とされ、その後も儂は王の影として闇を担うこととなった。だが、セトは平民となった後も想像を絶するような努力をし神官へと上り詰めた!これを運命とせずして何とするか!?片や兄である王は平和に浸りその息子もまた争いなどは拒む甘い子供。才もあり努力もしたセトこそ王に相応しい。ファラオとして栄華を手にして欲しい。それこそが親心であろう!?」
捲し立てるアクナディンに対し静かにそれを否定するキサラ。二人の口論は平行線へと達したとき、海馬はゆっくりと二人の間に割って入った。
「アクナディンはこう言ってるが、キサラ、当時の俺はどういう人間だったのだ?」
「……セト様は、優しく、そして気高い高潔な精神を持ったお方でした。貧しい村で育ったセト様でしたが貧しさや差別といった理不尽を許さず、純粋で弱者に対しては優しさをもって接していました。私が異国の難民として国を彷徨い奴隷商人に捕まった際も見ず知らずの外国人の私を命を懸けて助けて下さった。そんな、お方でした。それは成長し神官となったアクナディンがよく知るセト様となった時も変わりはありません。政治を正し、腐敗を許さない、そして闇の軍勢が攻めて来た時も命を懸けて戦ったのです」
そうして、一拍を置いてキサラは睨むようにその長い首をアクナディンに向けて突き出す。
「そう、それなのにあなたはセト様のお考えを無視して自分勝手にセト様の道を無理やり敷こうとした。闇に堕ち、セト様が最も嫌う民を操り人形とする闇の力によってです。だからこそ私はあなたを許せない!」
キサラがアクナディンと対峙し一触即発の空気が漂った所で、海馬はキサラの側に立ちつつアクナディンへと振り向いた。
「キサラが言うのであればそうなのだろうな。だが、アクナディン、貴様の息子への愛もまた本物なのだろう。しかし、恐らくはそのセトにとっては迷惑であったに違いない。そして、今の俺に対してもだ!俺はお前のセトではない!俺は俺だ!それを理解してから俺の前に出直せ。お前がその愛を偽りにしたくなければそのくらいの分別はつけろ。お前の中にひとかけらでも人の情が残っているのならばな」
「セト……」
海馬の言葉に複雑な感情が湧き上がるアクナディン。それは自分を否定された怒りであり、真理であると悟る理性であり、セトから愛を認められた嬉しさでもあり、様々な感情がないまぜとなりアクナディンはこの感情を言葉で言い表せず動くことも出来なかった。
そんなアクナディンに、怒りよりも哀れみの感情が勝ったのか、キサラも口調を和らげて諭すように声をかける。
「あなたにも、本当の意味でセト様を愛し、その成長を喜んでいた時期があったはずです。そんなあなたが悪と闇に染まったのは何故だったのかを思い出してください。出来れば、あなたとは別の出会い方をしたかった……セト様のお父様」
キサラがその言葉をかけたちょうどその時、何もない白い空間に温かな光が輝く。その輝きには様々な今の海馬を培った記憶が流れた。
モクバとの孤児院での思い出。モクバにチェスを教えていた時、純粋だったころの瀬人。そして、海馬家に引き取られた後もつらい扱きの合間にモクバに励まされ癒された日々。デュエルモンスターズ、そしてブルーアイズがモクバと瀬人を元気づけ、そしていつの日か海馬ランドを立てるという原動力となったこと。そこから海馬家の後継者となった後は薄暗い感情が強まっていくが、瀬人の源泉には確かにモクバへの愛、子供や貧しい弱者を守りたいという高潔な魂が伺えた。
「前のセト様も今のセト様も関係ありません。セト様はやはりセト様なのです……」
キサラのその言葉に感じ入ることがあったのか、アクナディンはそのまま暫く立ち往生した後、姿を消していった。この温かく明るい場所に自分はそぐわないと恥じたのかか、はたまた気に喰わないと不快に思ったのか、どちらかは二人には分からなかった。
「キサラ、お前は常に俺の側にいろ。お前の力が必要だ。モクバを助けるために、そしてその先へと進むために」
「……はい」
海馬がその鼻先を撫でるとキサラは嬉しそうに鼻先を震わせて鳴く。
尻尾を巻きつかせ体を寄せるキサラの体温を感じながら海馬はその温かさを暫くの間堪能していた。
そうして、白い空間が閉じて現実世界にて覚醒した海馬は朝日の明かりに心地よさを感じながらもペガサスを倒すため、四日目のこの日の本選へと臨んだ。
今回はほぼ海馬視点の物語に。
本来はこの後色々展開させる予定だったのですが海馬のエピが長くなり過ぎたので次に持ち越します。