王城にあるとある一室。本選出場者である遊偽が借りたその部屋に朝日が差し込んだ頃、日の光の眩しさと温かさにふと目を覚ました遊偽は両脇を固めるミホとリサを起こさないように注意を払いながらベッドから抜け出した。
そうして、目覚ましの為の洗顔を行おうとしたところで遊偽以上に早く活動を始めていた舞にばったりと出会う。
「あら?遊偽……あなたも早く起きたのね」
洗面台の前で化粧道具を展開していた舞が挨拶をしながらいそいそとそれをしまっている。遊偽が挨拶を返しながらその片付けをゆっくりと待っていると不意に舞の動きが止まった。
「そうだ。今がちょうどいいかな。遊偽、ちょっといいかしら?」
遊偽を洗面台から連れ出すとバルコニーへと誘導する舞。バルコニーへと出ると朝日を浴びるように両手を広げて舞は背伸びをした。
「う~んっ!いいわねぇ。こういうお城、いつかは住んでみたいわ。こんな城を持てる大富豪の奥さんになって、セレブの仲間入りして、あの船みたいな豪華客船でナイトクルージングして、プライベートジェットで飛び回って大都市でのショッピング!最高じゃない?」
舞は大袈裟に身振り手振りを交えながらそんな妄想を楽しそうに語る。だが、呆気にとられる遊偽をちらりと見ると、ふっと軽く鼻で笑ってその作り笑顔を解いた。
「なーんって、ここに来る前は思ってたのよね。今にしてみればつまらないものだわ。デュエルで味わえるひりつくような勝負の楽しさや遊偽との日々に比べると。私、デュエルを金儲けの手段にしてたんだ。でも、カードを信じる遊偽を見て純粋に楽しかった昔を思い出したの。それと、打算なくまた恋をしたことも。出来る賢い女でいたはずなのに面倒くさく嫉妬して自分勝手に拗ねたりとか…らしくないのに初めて自分らしさを感じた。ありがとう、遊偽」
「……どういたしまして、なんていうべきなのかな?正直、俺も舞には何度も助けられてるからそんな実感沸かないんだよな。ただ、それで舞が満たされたのなら俺も嬉しいよ。以前の舞は確かにそうだったのかもしれない。でも、デュエルには常に真剣で熱い心を持ってる負けん気が強いお姉さんな今の舞が俺は好きだ」
「遊偽……私も好きよ。あなたが私の為に星を全部賭けて取り返してきてくれた時、あなたの愛を感じて、胸は経験したことがないくらいドキドキしてたし、凄く濡れたの。セックスは男は性欲、女は打算だと割り切ってたのに、あなたとは性欲に愛を上乗せ出来た。愛してる」
そう言って衝動的に遊偽と唇を重ねる舞。塗ったばかりの口紅が艶やかで唾液の交換とともに遊偽に紅を移していく。そのまま高まる性欲とともにセックスに移行しそうな気持ちを無理やり抑えた舞はキスをほどほどに唇を離す。
つーっと繋がり合った証拠の糸を蕩けた表情で見つめる舞であったが、そこから凛とした表情を作ると遊偽の口元に指を添える。
「今日は本選だからここまで。デュエルになったら遊偽の女としてではなく一人のデュエリストとしてあなたと対峙するわ。そして、あなたの実力を認めているからこそ私は全力で戦う。あなたのひたむきで高潔なデュエリストとしての在り方を尊敬して私が今までやってきたデッキの予知、アロマタクティクスの手の内を明かすわ」
舞はおもむろにデッキを取り出すとカードを一枚一枚並べる。そして、そのカードにはそれぞれ別々の香水をつけていることを話した。
「カードの香水を嗅ぎ分けることで次に引くカードが何なのか判断していたの。そしてそのカードも考慮に入れた上で戦術を組んでいた。だけど、これからはこの戦術、いえ、イカサマは使わないわ。デュエリストとして正々堂々と戦う。私は持てる力を全てぶつけるつもりであなたとデュエルをする。あなたにイカサマなしで勝った時、初めて本物のデュエリストになれる気がするの。賞金なんて関係ない。私はデュエリストであるが故にこの大会で優勝したいのよ」
言い放った舞の瞳には強い信念が感じられた。遊偽の傍に居続けたことで舞の中に久しく燻っていたデュエリストとしての魂に火がついたようだ。
「分かった。俺も全力でお前と戦う。俺もデュエリストとしての誇りにかけて戦う。ペガサスを倒すという俺自身への誓いはあるが、それを持った上でだ」
遊偽の言葉に満足出来た様子で舞は嬉しそうに頷く。そうして、暫くバルコニーで過ごした二人はミホやリサが起き上がった所で出発の準備を進めた。
昨夜晩餐会を行った広間で朝食を取り終わると、遊偽に月行と花咲、本田が人目を避けるように近づく。どうやら3人の調査は成功したようで予想通りの場所にモクバが監禁されていたようだ。その報告を遊偽は勿論だが海馬も珍しく顔を綻ばせながら聞き、3人を短い言葉ながら褒めていた。
「攫った衣服のままで地下に監禁とは、ペガサスめ!この報いを必ず受けさせてやる!」
3人がモクバを救出すると約束し離れたところで海馬はペガサスへの憤りの言葉を漏らす。遊偽もまたペガサスへの怒りを言葉にすると、二人であることを約束し本選の行われるデュエルマシーンへと向かった。
「いやーっ、本選が遂に始まるのですネー。ここにいるのは誰もが実力のあるデュエリスト。どんな激しいデュエルが繰り広げられるのか、想像すると楽しみで仕方ありまセーン。私は特等席で観戦させていただきマース。どうか存分に戦ってください」
大型のデュエルマシーンの様子を俯瞰するかのようにマシーンの中央にある高所から椅子に座りながら見下ろすペガサス。ペガサスは楽し気に軽い挨拶をする。
次に、初老のサングラスをかけた黒服の男が初戦の組み合わせを発表すると高らかにデュエルの開始を宣言した。
「これよりNo.1武藤遊偽とNo.2孔雀舞の第一試合を行う!両者、スタンバイは済んでいるな!?これより、デュエル開始!」
男の宣言と同時に向かい合った遊偽と舞がデッキから手札となるカードを引く。
二人の間に言葉はなかった。本選のこの場に立っている以上、二人にあるのはデュエリストとして誇りをかけて戦うことのみであった。
「俺はグレムリンを召喚!更に、装備魔法「一角獣のホーン」で攻撃力を700ポイントアップ!攻撃力2000!」
「やるわね。でも私には通用しないわ。私は「ハーピィの狩場」を発動!そして、ハーピィレディを召喚!狩場によって攻撃力は200ポイントアップ!更に、ハーピィが召喚されることでこのカードの効果であなたの装備魔法を破壊するわ!これでグレムリンは素のステータスに戻る!ハーピィレディ!グレムリンを攻撃!」
ハーピィレディの攻撃により遊偽のグレムリンが消滅する。
「フィールドカード!?くっ、そのカードがある限りは召喚される度に俺の魔法罠カードが破壊されるというわけか。俺はホーリー・エルフを守備表示」
遊偽が体勢を立て直すべく守備固めを行う。しかし、そんな遊偽に舞はすかさず攻撃を仕掛ける。
「私は「ヒステリック・サイン」を発動!この効果により「万華鏡-華麗なる分身-」をデッキから手札に加える。そして手札に加えたこのカードを発動!ハーピィレディは分身し三姉妹になるわ!」
場にハーピィ三姉妹が現れる。三姉妹によるコンビネーションでホーリー・エルフが撃破された。
「さあ、あなたの壁モンスターはなくなったわ!どうするの!?遊偽!」
舞の果敢な攻めに一気に劣勢に立たされた遊偽。この状況に観戦していた参加者らも思わず感嘆の声をあげる。
「すっ、凄えな。あの舞ってイケてる姉さん、滅茶苦茶強え!」
「美人なだけやないってことかいな。くぅ~、ワイもお手合わせしたいもんやと思っとったけどあれだけ展開されると厳しいで……」
「こーらっ!遊偽君をちゃんと応援してよ!鼻の下伸ばしてないでさぁ!ふーんっだ!」
城之内と竜崎の言葉にぷんぷんとお冠なミホ。一方でリサは舞の戦いぶりを褒めつつも大して動じてはいなかった。
「まあ、あれくらい遊偽なら何とかするわよ」
遊偽の力量を認めてそれを信頼していたリサにはこの程度は危機とは言えないようだ。そんな様子に「むむっ、それはミホだって信じてるし!」っとすかさず対抗するがリサの言葉通り、遊偽はこの状況をすぐに打破してみせる。
「大嵐!これで舞、お前の魔法、トラップカードを全て破壊する!そして、俺はカースオブドラゴンを召喚!フィールド効果のなくなった三姉妹を攻撃!」
カースオブドラゴンがハーピィ三姉妹を撃破する。形勢はこれにより遊偽に傾いた……かのように見えたが、舞はこの手に不敵に笑った。
「確かにこれでフィールドは破壊されたけど、そのおかげで出来ることがあるわ。ヒステリック・サインは破壊されることでデッキからハーピィ3枚手札に加えることが出来る。私は手札に加えた「ハーピィ・クイーン(攻撃力:1900)」を墓地に捨てることで再び「ハーピィの狩場」を手札に戻し場にセット!更にハーピィレディを召喚することであなたの伏せカードを破壊するわ」
「ぐっ……」
舞のコンボにより遊偽が伏せていたミラーフォースが破壊される。更に舞は畳みかけるかのように「銀幕の鏡壁」を発動し攻撃を封じた。
「これであなたのモンスターは攻撃力が半減し攻撃が封じられたも同然よ!」
再び守りを固めることになった遊偽。遊偽が守りを固める一方で舞は着々と盤面を支配していった。
「私はハーピィズペット竜を召喚!場の3体のハーピィにより攻撃力は2900!セイントファイアーであなたの壁を撃破!」
遊偽が壁として出していた岩石の巨兵も破れ場にモンスターがいなくなる。状況は圧倒的に遊偽が不利であった。
「孔雀舞、やるぜよ。流石本選の選手。あの遊偽がここまで追い込まれるとはな……」
「あの鏡壁とハーピィコンボと竜が厄介だな。だが遊偽なら諦めねえ!遊偽!お前ならやれる!頑張れ!!」
冷静に分析した上でこの状況は厳しいとため息をつく梶木と熱くなり手すりを握りしめながら叫ぶ城之内。ミホやリサは手を握りしめて固唾をのんで試合の様子を見つめていた。
「くっ……」
遊偽もまた以前戦った時よりも追い詰められ、この絶体絶命の危機に冷や汗をかいていた。
この状況をどう打破するべきか、そんなことを頭の中で必死に考えていたところ、不意に脳内に囁く声が聞こえる。
(王子!私を信じてください!)
聞こえたのはガールの声。はっと手札を見つめるとガールが必死に自分をアピールしていることに気づく。そして、そのガールの活用を考えた瞬間、蟠りが霧散するかのようなある種の清涼感を得る。
「俺はこの手札にかける。ドロー!俺が引いたのは「天よりの宝札」!これにより互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードを引くことが出来る!」
舞が驚愕する。この危機的状況で手札補充を引き当てる遊偽の豪運、そしてここからの遊偽の類まれなる戦術眼と引きの良さを知っているからこそ舞は強烈な不安に襲われた。まるでこのターンで勝負が喫するかのような、そんな不安に。そして、それは現実のものとなる。
「カードはそろった。俺はブラックマジシャンガールを召喚する!」
(私は王子、遊偽様のために戦います!)
強い意気込みを感じさせるポーズとともに愛らしい美少女魔術師が場に現れる。ギリギリでの戦いのとき、ガールは常に遊偽に囁き、勝利へと導いてきた。遊偽にとってガールはまさしく勝利の女神であった。そして、今回もそれに違わない活躍をしてみせた。
「俺は手札から賢者の宝石を発動!これによりデッキからブラックマジシャンを特殊召喚!」
(ファラオ、私はあなたの剣です。どんな戦場だろうと何なりと!)
遊偽の呼びかけに現れるのはもう一人の魔術師。遊偽にとって頼れるエースの一角である。
「そして、俺はこの「ブラック・マジック」を発動!マジシャンの攻撃により、舞、お前の場の魔法、トラップカードを全て破壊する!」
「ぐっ……私の鏡壁と狩場が!?でも、それでもドラゴンには勝てない!」
「いや、まだだ!ガールはマジシャンがいることで力を発揮する。黒魔導強化!これによりガールの攻撃力を1000ポイントアップ!」
「あのカードは!?」
舞とほぼ同時にリサも反応する。リサのゴーゴンが破れたのもあのカードだったのだ。魔術師二人が揃った時、攻撃力は格段に強化される。これによりハーピィズペット竜の攻撃力をガールが上回った。
「行け!ガール!ドラゴンを破壊しろ!」
(はい!ブラック・バーニング!!)
ガールの魔導攻撃によりハーピィズペット竜が破壊される。また、残ったハーピィには「拡散する波動」によるブラックマジシャンの攻撃により残らず一掃された。一瞬呆けていた舞が正気に戻った頃には自身のLPが0となり遊偽に敗北したのを悟った時であった。
「私の、ハーピィが、負けた……。私が……」
「勝者!武藤遊偽!第一回戦は武藤遊偽の勝利となります」
初老の黒服の声とともにデュエルが終わる。
観戦していた仲間は飛び上がるほど喜んでおり、友人らの称賛を浴びながら遊偽は舞に駆け寄った。
「ギリギリだった。以前の俺だったら一瞬だけでも負ける光景が浮かんだだろう。でも、舞と誓ったようにデュエリストとして誇りをもって戦ったこと、自分に恥じないように全力でぶつかることが出来た。舞…お前のおかげで俺は成長できたみたいだ」
遊偽の言葉に暫く黙っていた舞だったが、一度だけふっと笑みを見せるとそのまま遊偽に抱き着いた。
「もう!嬉しいこと言っちゃって。負けたのは、凄く悔しいけど……それを言われちゃうと嬉しくなっちゃうじゃない!私、デュエリストとして本気で戦ったけどそれでもあなたに負けた。凄く……うっ、ううっ、悔しい……。絶対、絶対次は勝つから!だから、っ…それを胸に誓って抑えるわ……。後は、あなたの応援してる。……暫く、こうさせて……」
舞は遊偽に抱き着いたまま顔を伏せる。その声はとぎれとぎれで詰まらせたような声から、すすり泣いているがそれを見せたくないのではないかと察した遊偽はそっと舞の頭と体を撫でてあげた。それが嬉しいのか悔しいのか、舞は更に遊偽を強く掴む。
そんな二人をミホとリサはジト目で見つめていたが遊偽は舞を優しくあやしながらデュエルマシーンの外へと誘導していた。
こうして、初戦は終わりを告げ、城之内とキースの組み合わせの次なる試合へと移った。