本選第二回戦。
トーナメント準決勝となるこの試合は四日目の昼を越えて午後から開始となった。
本選出場者たちが昼食休憩を取り終えた後、再びデュエル会場へと戻る。
会場へと戻る途中、対戦相手となった遊偽と城之内の間には普段のような気安い会話はなく、ぴりぴりとした張り詰めたような空気が漂っていた。
その雰囲気を感じ取りながら遊偽の仲間たちは口々に次のデュエルについて話し始める。
「ついに遊偽君と城之内君がデュエルをするんだね。親友の関係のあの二人が行う真剣勝負……これから観戦することになると思うと何だかもやもやする……。あっ、でも!どちらかをって選ぶなら勿論ミホは遊偽君を応援するけどね!」
沈んだ声で心配しながらもあくまで遊偽を支持するスタンスを崩さないミホは結局いつも通りであり、
「まあそれなら私も同じよ。遊偽の彼女としては当然遊偽側で応援するわ」
「ナイーブなおセンチを口に出してる割には変わらないのね、ミホちゃんは。リサもあっけらかんとしちゃって……」
そんなミホに即座に追随するリサとその二人に溜息をつく舞。だが、やれやれといった様子ながらも舞はやはり当然の如く遊偽側に立っている。
そして遊偽の女たちから離れて海馬もまた「遊偽が勝つのは分かり切っている」っと事も無げに言い放つ。
そんな一行の会話を耳にした城之内は沈黙を崩して思わず剥きになっていた。
「クッソーっ!黙ってりゃお前ら好き勝手言いやがって!皆、遊偽側かよ!」
地団太を踏む城之内に遊偽もまた困りきった様子でシリアスの仮面を破り表情を崩す。
だが、そんな城之内に対して寄り添う者もいた。
「まあ落ち着かんかい城之内。ワイらはお前側に立って応援するで。へへっ、ワイを倒した男が遊偽を倒して優勝まで駆け上るとかこれほど誇らしいこともないわ」
「そうじゃ!そんなつまらんことで剥きになるな!俺らがお前を応援してやるからお前は全力で遊偽にぶつかればいいんじゃ!」
竜崎と梶木、二人のライバルは城之内側に立ち遊偽とのデュエルを観戦する。
二人の声援に気恥ずかしさを感じたのか城之内は鼻を啜りながら目を泳がせて慌てて反論する城之内。
「べっ、別に遊偽が羨ましいとかそういうこと思ったわけじゃねえからな!おっ、俺は俺のやるべきことをやるだけだ。お前らの言う通り、な……」
そこでちらりと遊偽と目が合うことで今まで張り詰めていた空気が霧散したようで、城之内も一拍置いた後、遊偽と正面から向き合った。
「遊偽……俺……俺は、一人のデュエリストとしてお前と戦いたい!お前が杏子のことを大事に想ってるのは分かるしその為に戦ってるのも俺には分かる。だが、それでも俺はこの戦い、譲る気はねえ!俺はお前を倒して本物のデュエリストだって証明して、賞金を手に入れて俺自身の手で静香の眼を治す!親父の借金だって返してやる!それに、ここまでの間に竜崎や梶木のような強い奴らの夢を踏み越えて俺はここにたどり着いたんだ。そいつらが託した分も俺は戦わなきゃいけねえ。それこそが俺のデュエリストキングダム。遊偽、勝負だ!お前にも譲れねえもんがあるなら俺を踏み越えていきやがれ!」
指をさして堂々と宣言する城之内。これに遊偽もまた闘志が燃え上がる。
「ああっ!城之内君のその想いは俺も理解してるし俺もそのつもりだ。たとえ親友だろうと時には戦わないといけない時がある。覚悟を持って立ちはだかるなら俺はそれを打ち破るだけだ。デュエルで決着をつけよう。俺も全力で打ち破ってみせる」
遊偽が懐からデッキを取り出すと城之内は満足したように歯を見せて笑う。
既に二人の間には言葉はいらなかった。
それぞれの覚悟を胸に二人は無言で分かれデュエルマシーンに向かう。
「これより準決勝第一試合、武藤遊偽と城之内克也の試合を始める!デュエル開始!!」
審判の宣言とともに二人はデッキから手札を引きにらみ合う。
二人の譲れない意志のぶつかり合いの代理戦争であるデュエルが始まった。
「俺はエルフの剣士を召喚!」
「なら俺はアックスレイダーだ!バトル!」
遊偽のエルフの剣士が破れLPが300ポイント失われる。しかし、これは遊偽の誘いであった。
「カース・オブ・ドラゴン!これでアックスレイダーを撃破!」
攻撃表示を誘われた城之内のモンスターはあっさり敗れLPの優位は失われる。だが城之内は予想の範囲内とばかりに不敵に笑い表情を崩さなかった。
「ふっ、流石遊偽のデッキだ。攻撃力の高い上級モンスターがわんさかいやがる。だが、モンスターの性能差だけで勝てると思ったら大間違いだぜ!俺はいつだってそれを覆してきたんだからよ!」
城之内はカードを取り出す。それは「右手に盾を左手に剣を」のカードであった。
「これでカース・オブ・ドラゴンの攻撃力は1500になる!そして、俺は炎の剣士を召喚!撃破!」
城之内のエースの一角、炎の剣士によってカース・オブ・ドラゴンが倒れる。
遊偽はこれに警戒を強めると引き当てた上級モンスターを場に召喚した。
「俺は暗黒騎士ガイア!炎の剣士に攻撃!スパイラルシェイバー!!」
ガイアの槍が炎の剣士に突き刺さる……かのように見えた瞬間、城之内は伏せていたカードを発動させた。
「おっと、俺は鎖付きブーメランを発動させる!こいつで攻撃を封じ炎の剣士の攻撃力は2300にアップだ!」
城之内が遊偽の攻撃を抑えて得意げに笑う。
「へへっ、俺はこのカードを場に伏せてターンを終了するぜ。遊偽、こいつはトラップカードだから注意するんだな。攻撃をしないってのも手だと思うぜ?」
勢いづいた城之内は遊偽を挑発するかのような発言で煽る。
これに対し遊偽もまたその挑発に敢えて乗った。
「ふっ、それがハッタリか本当か……恐らく本当に罠を張ってるんだろうな。だが、受けて立つぜ。俺は今引き当てたデーモンの召喚を召喚!バトルだ!魔降雷!!」
遊偽が切り札の一つ、デーモンの召喚を場に出し攻撃を仕掛けた。
「敢えて乗るか。だが、その選択は間違いだぜ!トラップカード、「マジックアームシールド」!こいつで遊偽、お前のガイアを雷の盾にする!」
壮絶な断末魔とともにガイアはデーモンの攻撃で消滅し遊偽は自身の攻撃によりLPを失う。
だが、城之内の手はそれだけではなかった。
「更に、俺は今回の俺のターンで「サラマンドラ」を炎の剣士に装備!攻撃力700アップしその攻撃力は3000だ!バトル!デーモンを破壊!!」
ガイアを破壊せず敢えて盾にした後、強化した炎の剣士で城之内は遊偽のエースモンスターの一角であるデーモンを潰す。
これにより遊偽のLPは半分まで減少し、一気に追い詰められた。
「どうだ!遊偽!お前なら更に上のモンスターを引き当てるだろうって信じたからこその手だ!」
遊偽は冷や汗をかく。対戦相手である城之内は以前とは異なり数多の強敵を打ち破った実力者である。更には遊偽の手を知り尽くしている仲間でもある。
容易な相手ではない、っと感じ取ったからこそ遊偽は顔を強張らせた。
「やるやないか!城之内!あの遊偽をここまで追い詰めるとは脱帽や」
「お前ならやれる!このまま押し込むんじゃ城之内!」
城之内側の位置に立って盛り上がる竜崎と梶木。
一方で、遊偽側に立つミホ、リサ、舞はやや沈んだ空気が漂っていた。
「城之内って子、強いわね。遊偽の戦い方をよく知ってるってのもあるんでしょうけど、それ以上に遊偽を抑え込もうとする気迫を感じるわ。それに一歩先を読んで仕込んだトラップの手腕も見事と言ったところかしら。キース戦でも見たけどハッタリやフェイント、挑発も上手いようだし手強い相手ね」
「……あいつ、あんな強かったんだ。遊偽にここまで迫るなんて」
「城之内君は最初から強かったわけじゃないよ。苦労して参加権を手に入れて、いろんな相手と戦ってその想いを受け取っていって、その過程で強くなったんだ。そして譲れない想いがあるからこそ遊偽君相手に一歩も引かず戦えてる。今の城之内君は強いよ」
舞、リサの感嘆にミホは予選での城之内の姿を思い出し懐かしむかのように感じ入る。
その上でミホは「それでも」っと一言置いた後、
「遊偽君も負けてないよ。だって、遊偽君も想いを背負ってるもん。優しすぎて沢山の人の悩みを背負い込んじゃうくらいだけど、頼もしくて、強くて、そして孤独で……そんなとこが大好きなミホの好きになった遊偽君は負けないよ!むしろ、城之内君に勝ってその想いも背負う気で頑張ってると思う」
途中から惚気たっぷりで自慢しながら応援するミホ。
そんなミホに若干呆れながらも半分は同意出来るとばかりにリサも舞も表情を和らげながら静かに頷く。
「そうね……そういう支えてあげたくなっちゃう所が私にはグッとくるのよね♪」
「まっ、まあ?遊偽が負けるなんてことはないって私も信じてるけど?あんたなんかに言われなくても!遊偽、この状況くらいあなたならどうってことないわ!遊偽ならやれる!頑張って!」
しみじみと感じ入る舞とミホに対抗しつつ声を張り上げるリサ。
こうして黄色い声援が遊偽に降り注ぐ中、遊偽は冷静に勝ち筋を見出すとキーカードをデッキから引き当てた。
「何っ!?俺の攻撃が!?まさか……!」
「そう、俺が伏せたカードは「六芒星の呪縛」!これで攻撃を封じる上に攻撃力を700ポイント下げる!」
城之内の炎の剣士が攻撃の瞬間に呪縛に囚われ動きを止める。
更に、遊偽は守備のモンスターを攻撃表示に変更した。
「ブラックマジシャン!いけっ!炎の剣士を攻撃だ!ブラックマジック!!」
姿を現した魔術師、遊偽を何度も支えてきたブラックマジシャンが動けない炎の剣士を一瞥するとその必殺魔術を披露する。
炎の剣士はこれにより消滅した。
「ぐっ……炎の剣士が!くそっ、だが、俺はまだ負けてないぞ!!ドロー!」
城之内は起死回生を狙いカードを引く。
城之内の想いにデッキが応えたのか、城之内のデッキが淡く光る。それに連動するかのように遊偽のパズルもまた薄っすらと輝いていた。
「俺はレッドアイズを引いた!来い!お前の力、借りるぞレッドアイズ!!」
城之内の切り札の真紅眼の竜が現れる。そして城之内の手札にはブラックマジシャンを倒すだけのカードが揃っていた。
「闇竜族の爪!こいつでレッドアイズを強化だ!レッドアイズ、ブラックマジシャンを破壊しろ!ダーク・メガフレア!!」
レッドアイズの砲撃がマジシャンを襲う。
これまでかと思われた瞬間、遊偽は伏せカードを発動させた。
「マジカルシルクハット!これでブラックマジシャンの姿をシルクハットに隠す!」
これによりレッドアイズの攻撃は空振りし遊偽はその場を凌ぐ。
「「カオス-黒魔術の儀式」を発動!俺はクリボーとブラックマジシャンを儀式に捧げ、最上級魔術師であるマジシャン・オブ・ブラックカオスを召喚!そして、この秘術の書により攻撃力を3100にまで上げる!」
遊偽の最強格のモンスターが現れ遂にレッドアイズの攻撃力を上回る。
遊偽側の声援が一層盛り上がり、城之内側は唖然とした。
「いけっ!デス・アルテマ!!」
「ぐっ……モンスターBOX!これで攪乱する!!」
遊偽と同じく危機一髪で攻撃を躱す城之内。
両者一歩も譲らない手に汗握るその激しい攻防にギャラリーは皆固唾を飲んでそのデュエルを見つめていた。
「おおっ!なんと素晴らしいデュエルでしょうか!アンビリーバボー!デュエルモンスターズ創始者の私も思わずため息が漏れるほどデース」
ブルーチーズを摘まみながらワインを片手に楽し気にデュエルの様子を見つめるペガサス。
二人の実力はまさに拮抗しており、最高潮に燃え上がった闘志がぶつかり合う様を千年眼で観察したペガサスは思わず自分の目的を忘れて一人のデュエリストとして興奮を隠せない様子であった。
「どちらが勝ってもおかしくない試合ですが……願わくば私の手でこの勝者を叩き潰したいですね。もっとも、遊偽ボーイを倒してこそ私の目的は果たされるのですが……」
ペガサスはそこでふとこの場にいないシャーディーを思い起こす。
シャーディーと交わした約束があったからこそペガサスはこの場にいるのだ。その目的を思い出しペガサスは無理やり湧き上がる思いを抑えて冷静さを取り戻していた。
「俺は伝説のフィッシャーマンを召喚だ!梶木、お前の力を借りるぜ。融合!こいつでフィッシャーマンとレッドアイズを融合させる!現れろ、レッドアイズ・スラッシュドラゴン!!」
二つのモンスターが混ざり合い、一つとなって降臨したのは迷宮兄弟やキースを倒す鍵となった城之内の懸ける可能性の収束した竜。
その新たなレッドアイズは倒れて託してくれた仲間たちの魂を集めて力にする能力を持っている。
「攻撃力は3体の戦士たちの力を借りて3400!いけっ!レッドアイズ!ブラックカオスを撃破しろ!!メガフレア!!」
レッドアイズの咆哮とともに動きが止まったブラックカオスはレッドアイズが放った砲撃の光に呑まれ消滅する。
遂に遊偽の最大戦力の魔術師を打ち破った城之内は勝利を確信した。
「やった!やったぜ!!これで遊偽の最強モンスターは倒した!俺の勝ちだ、遊偽!!」
気が逸り勝利宣言をする城之内。
しかし、遊偽の目は勝利を諦めたものの目ではなくここからの逆転を狙っていた。
「なっ、その目は……まさかっ!?」
「ああっ、まだ逆転の手はある!俺は散ったブラックカオスの分も受け継いでレッドアイズを倒す!ドロー!!」
勝利を願い、想いを込めたドローは遊偽に応える。
引いたのは遊偽の傍に常にいて支えてきたもう一人の魔術師にて勝利の女神。
「ブラックマジシャンガール!」
(あなたの為なら喜んで!参上しました!)
可愛らしく現れた金髪美少女魔術師の愛らしい姿に場はどよめく。
師に劣る攻撃力の未熟な魔術師に何が出来るのかと思われたが、遊偽はガールのその芯の強さを買っていた。
「ガールは亡くなった師匠たちの力を受け取ることが出来るんだ。そう、今そこにいるレッドアイズのようにな!」
「何っ!?そんな能力が!?」
ガールは生贄となったブラックマジシャン、そして散ったブラックカオスの力を借りて攻撃力を2600にまで上げる。
そしてそこから遊偽が更に力を与える。
「黒魔術強化!これでガールの攻撃力を1000ポイント上げる!これで3600!スラッシュドラゴンの攻撃を越えた!いけっ!ガール!未熟な女魔術師の汚名を振り払い本当のお前を示すんだ!」
(王子!お師匠様!あなたたちがいれば私は誰にも負けません!はぁっ!!ブラック・バーニングっ!!)
凛としたガールの姿は既に一人前の魔術師のもので、振りかざした杖からマジシャンと遊偽の力を受けて強大な爆炎の塊を形作る。
そしてガールの、そして遊偽の想いを込めた爆裂破はレッドアイズに直撃し爆散した。
「あっ、ああっ……俺の、俺のレッドアイズが……」
「城之内君の想いを込めたのがレッドアイズなら俺の想いを込めたのがこの魔術師たちだ。城之内君の想いが劣るとは決して思わない。だけど、俺はそんな城之内君の想いをも踏み越えて、背負う覚悟がある。押しとおらせてもらう!」
城之内に対し踏み込む遊偽。そんな遊偽が眩いのかふっと城之内は笑みを見せて張り詰めた空気を解く。
「それは、頼もしい台詞だ。だが、こいつらはまだ諦めてねえのに俺は諦めるわけにはいかねえな。悪いが、最後まで抵抗させてもらうぜ、遊偽」
その言葉に遊偽はハッとした目で城之内を守るように盾になるモンスターたちに気づく。
レッドアイズスラッシュドラゴンが破れたことで装備されたモンスターたちが場に蘇ったのだ。
炎の剣士、アックスレイダー、そしてフィッシャーマンがまだ負けてないとばかりに立ちはだかる。
「ああっ、そうだな。まだ城之内君のLPは残ってる。この言葉は倒しきった後でだ」
強い意志を持って城之内と再び対峙する遊偽。
最後まで抵抗した城之内とモンスターたちは善戦するもガールと遊偽に敗れ散っていった。
デュエルマシーンがゆっくりと下降する。
実力伯仲の接戦となったこのデュエルを制したのは遊偽であった。
「遊偽……やっぱり、お前は強え。腕も心もな。そんなお前に俺は勝ちたかった……。俺は、静香の眼の費用も、親父の借金返済もその手で掴み取れず、竜崎や梶木の想いも、そして俺のデュエリストとして矜持や魂を貫けなかった。俺は……俺は……」
「……城之内君、俺は城之内君を一人のデュエリストとして、誇り高く強い男と見込んでこれを渡すよ」
「これは……王国の栄光のカード!?これは賞金を手にするのに必要なカードじゃねえか!何で、なんでだよ!前に言っただろ!?俺はお情けでなんて貰うつもりはねえって!!」
「違う。同情してという気持ちがないと言えば嘘になるかもしれない。だけど、城之内君の覚悟とその努力と勇気を示した結果に称賛と尊敬の念を込めて渡したいんだ。俺の願いはペガサスを倒し杏子を取り返すことだけ。城之内君に勝って進む以上、その想いを背負って戦うつもりだ。城之内君とのデュエルで勇気を貰った。そして、絶対にペガサスに勝つという覚悟を持って挑むつもりだ。だからこそ、その覚悟の証明としてこれを受け取って欲しいんだ」
遊偽の嘘の一切の混じりのない真剣な表情と覚悟を感じ取り押されるがままに城之内はそのカードを握る。
自分のデュエルが遊偽に勇気を与えた。強敵に挑む勇気を。
その言葉と意味に心が震え、一人のデュエリストとして認められたことに感動のあまり無意識に瞼から涙が溢れ城之内の頬を伝う。
「あらあら、気づいてなさそうだけど涙流してるわよ。ほらっ、私のハンカチあげるからゆっくりと拭きなさい。……人から施しを受けるのって恥ずかしさと惨めさで嫌になるわよね。それが親友だと特に。男だと見栄とか面子とかって言葉が強いのも分かるわ。でも、相手を思わず感動させて衝動的に手助けしたいって思わせたのは凄いことだと思うし誇っていいわよ。それに遊偽のようなデュエリストに認められるのって、やっぱり嬉しいでしょ?」
舞が城之内の背中に手を回してよしよしとあやしながらハンカチを渡す。
その言葉は城之内の核心を突いたようで舞の温かさを感じさせる介抱に城之内は染み入ったようだ。
「……男が人前で涙を見せるなんざ情けねえな。だけど、ありがとう、姐さん。あんたいい女だな。俺は本当はずっとプライドなんか捨てて遊偽や海馬に縋ってお金を借りるべきなんじゃねえかって心の奥底は迷ってたんだ。だけど、遊偽や姐さんの言葉を聞いてようやくこの道が正しかったって自分で納得出来た。このデュエルを通して竜崎や梶木、そして仲間たちが託してくれた想いを俺の偽りのない想いとして遊偽に託すことが出来たみてえだ。遊偽、俺はお前を応援してる。必ず勝てよ!」
立ち直ったと舞の肩を振りほどくと遊偽に対して拳を突き出し激励の言葉を送る城之内。
遊偽はその城之内の言葉に勇気づけられたようでそれに強くうなずくことで応えた。
それからほどなく海馬とミホの準決勝第二試合が始まる。
ミホは海馬を相手に善戦したが圧倒的な力を持つブルーアイズを前に戦況を覆すことは出来なかったようで、デュエリストとしての意地を見せて海馬のLPを1/3ほど削ったところで敗れた。
「ブルーアイズ、その力を示せ!滅びのバーストストリーム!!」
「きゃああっ!ミホの女神さまが!」
ブルーアイズの光の砲撃がミホの切り札である逆転の女神を消滅させる。
三体のブルーアイズは海馬を守るように取り囲むと主である海馬にその冠通り勝利をもたらした。
「ミホちゃん!大丈夫!?」
「うっ、うん……ミホなりに頑張ったけど、やっぱり海馬君強いね。モクバ君を取り戻すって強い想いをデュエル中もびんびんと感じたよ。デュエルでここまで歯が立たなかったの凄く悔しい……。でも、海馬君が勝ち上がるのは納得してるミホがいるんだ」
そう言ってミホは遊偽の胸にうずくまる。
「慰めて」っとばかりに甘えるミホを立ち直るまで遊偽は抱きしめていた。
こうして、決勝となりデュエルマシーンに並び立つ遊偽と海馬。
ペガサスは最高の組み合わせだとばかりに楽し気に並ぶ二人を見つめていたがここでデュエル場に乱入する者が現れた。
「遊偽君!海馬君!モクバ君を連れて来たよ!」
ぼろぼろになりながらもモクバを背負って遊偽らに駆け寄る花咲。その傍には同じく顔を真っ赤に腫れさせて痛みに身体をよろけさせながら付き添う本田がいた。
「花咲君、本田君!二人とも……よく、よくやってくれた!」
「モクバっ!?モクバ!!」
顔を綻ばせる遊偽と即座にデュエルマシーンから飛び上がってモクバに駆け寄る海馬。
モクバの魂はカードに封印されているため意識はなく虚ろな瞳で海馬の呼びかけに反応を示さないがモクバの姿を見れたこと、それだけでも海馬は感極まった様子でモクバを抱きしめていた。
「うっ、ううっ……よかった。こんなにもボロボロで、さぞ辛かっただろう。花咲、本田、お前たちに礼を言おう。よく、やってくれた……」
海馬に頭を下げられ照れる二人。
普段は絶対にしないであろうその行為の衝撃に照れながらもどう対応していいか分からず困惑しているようだ。
「モクバの身柄は確保できた。これでペガサス!貴様と心置きなく戦える。デュエルだ!遊偽、いいな?」
「ああっ、打ち合わせ通りだ。俺とお前の決着をつける場所はここじゃない。ペガサスのお膳立てされたこんな大会ではないんだ」
海馬の提案に当然とばかりに強く頷く遊偽。
本選前から既に二人は決勝まで勝ち上がったらペガサスへと挑むことを話しあっていた。
「ペガサス!貴様にデュエルを挑む!俺と遊偽の順でだ!お前に勝ったらカードに封印されたモクバと真崎を開放しろ!優勝者を決めたいのなら遊偽にその座をくれてやる!俺の目的は初めから貴様に勝つことそれだけだ!貴様の戯れにわざわざ乗って本選まで参加してやったのだ、文句はあるまい」
海馬が溢れんばかりの感情を爆発させてその闘気をペガサスへと向ける。
余興とばかりに観戦していたペガサスであったが海馬と遊偽の本気を読み取るとその重い腰をゆっくりと上げた。
「ふむっ、私はあなたたち二人の決勝戦を見たかったのですが……ここまで熱烈なラブコールを受けてしまっては無視しても無駄ですか。どちらにせよ海馬ボーイは遊偽ボーイとの決勝戦をする意志が既にない様子。ああっ、こんなことならもっと厳重にモクバボーイを守っておくべきでした。魂のない抜け殻だと軽く見ていた私の落ち度ですね。いいでしょう、相手になってあげましょう。海馬ボーイ、まずはあなたからです」
ペガサスは仕方がないとばかりにやれやれと溜息をつくとゆっくりと二人に近づく。
にらみ合う海馬、遊偽とペガサス。
遂に対峙する主催者であり大会最後の敵の登場に遊偽の仲間たちはその緊迫した空気を息を呑んで見つめていた。
前話で活躍したミホちゃんですが海馬相手にはあっさりと敗北
次は海馬VSペガサスの話
シャーディーがもうそろそろ暗躍してきます