「なんだあれは……」
アリーナの管理室は、突如として現れたゴーレムに大混乱していた。
さしもの千冬も最初は呆気にとられていたが、すぐに落ち着きを取り戻すと、未だに動きが止まっている教員たちに指示を飛ばし始めた。
「何をしている! アリーナのシールドを張りなおせ! 教員部隊はすぐに戦闘準備! 同時に侵入者が他にいないか確認しろ! 急げ!」
千冬の喝に慌ただしく動き始めた教員を尻目に、千冬はモニターに映るゴーレムを睨みつけた。
「(真正面から襲撃してくるとはな。オルコット……という線は薄いか)」
前回のセシリアとの模擬戦で、一瞬だけ千冬は何かの違和感を感じていた。まるで脳にノイズが走ったかのような、そんな言いようのない違和感だった為、その時はさして気にしていなかった。だが、千冬の第六感とも言えるそれが、セシリアには警告を発し続けていた。
この侵入者もセシリアが手引きしたのかと考えて、それはありえないと頭を振ってその考えを捨てた。いくらなんでも突拍子が無さすぎるし、そもそもそうする意味が分からない。加えて、ゴーレムの取った行動がその考えを否定した。
「なっ!?」
「ISが攻撃を開始! オルコットさん、聞こえますか!?」
突如として放たれたISの攻撃が、セシリアに命中したのだ。
その明確な敵対行為に、ただでさえ恐慌状態だった観客席はさらに阿鼻叫喚になった。
歯噛みする千冬に戦闘部隊の教員から通信が入った。
『織斑先生大変です!』
「どうした!?」
『IS格納庫への扉が開きません!』
「なにっ!?」
「……駄目です。こちらからも操作を受け付けません!」
「まさか、ハッキングされたというのか!?」
IS学園のシステムはいずれも最先端のものが使われている。並のテロ組織やハッカーなどでは突破することは不可能である。
だが千冬はただ一人だけ、それを可能とする人間を知っていた。
「(束……お前なのか……?)」
「織斑先生!」
あってほしくない想像をしていると、千冬の隣にいた真耶がモニターの一つを指差していた。
「えぇい! 次は何だ!」
「あれを!」
キレ気味にモニターに目を向けると、そこには驚くべき光景があった。
一夏が零落白夜を使ってアリーナのシールドを切り裂いたかと思うと、そのままゴーレムに突撃したのだ。
「織斑先生、今の一撃でシールド発生装置に強い負荷が! シールドの補強が間に合いません!」
コンソールに指を滑らせる教員が泣きそうな声で報告する。
今回ばかりは、千冬も一夏の愚行に叫ばずにいられなかった。
「何をしているんだ、あのバカ者は!」
そしてアリーナの現場でも、鈴が一夏に通信を飛ばしていた。
「あんた何やってんのよ!」
「こいつは俺が倒す! 俺が、みんなを守るんだ!」
一夏の接近に気付いたゴーレムが一夏に顔を向け、両肩からビームを放つ。
「うぉ!?」
「馬鹿! 避けちゃダメ!」
慌てて回避した一夏だったが、避けられたビームはシールドと衝突。貫通こそしなかったが、シールドの表面に大きな穴が開いた。
衝撃のためか薄ら虹色に光るシールドの穴。その穴から、ゴーレムの複眼がギロリと観客席に向けられた。
「――――ヒッ」
キャァァァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!!
死ぬかもしれないという恐怖が生徒たちを襲い、一刻も早く逃げようと、開きもしない扉を巡って押し合いになる。
「やらせるかよぉ!」
ゴーレムへと斬りかかる一夏だったが、振り下ろした雪片弍型はその鈍重そうな見た目からは想像できない身軽さで躱され、逆に殴り飛ばされた。
「あんのバカ!」
『待て、凰! 一夏とセシリアを連れて退避しろ!』
「千冬さん!? そんなこと言ってる場合ですか!? アリーナのシールドが当てにならないんじゃ、アイツにまたビーム撃たれたら終わりです! ……というか、セシリアは無事なの!?」
「鈴! 避けろ」
「っ……!」
一夏の声で、ゴーレムのビームが飛んできていることに気付いた鈴が双天牙月を盾にビームを防ぐ。何せ、鈴の背後には逃げようと扉に詰めかける生徒たちがいるのだ。
が、シールドすらも貫通するビームを防ぐにはギリギリで、
「キャアアアッ!」
ビームは防いだものの、鈴は吹き飛ばされてしまう。
「鈴! このぉ!」
『織斑! すぐに二人を連れて退避しろ! 織斑!』
千冬の指示を無視し、一夏は瞬時加速でゴーレムに斬りかかる。
セシリアに負けて以来、教科書を読み込み、箒との剣道訓練の合間に特訓し、まだ不恰好だがそれなりに形になった瞬時加速だ。
その自慢の瞬時加速を用いた一夏が雪片弍型を振るう。
「零落びゃぶッッッ!?!?」
そして、一夏の瞬時加速以上の瞬時加速で接近したゴーレムの拳が、一夏の顔面にクリーンヒットした。
アリーナの壁へと激突した一夏は気を失い、ゴーレムはビームを撃つ。照射される桃色の光線は、ゴーレムの振り向きに合わせてアリーナの壁に線を書く。
その向かう先には、膝をついた鈴がいた。
「……やばっ」
ISの絶対防御があるとはいえ、さっきから見せられるビームの威力に安心は出来なかった。
迫りくる死に、鈴はただ眼を閉じることしか出来ず、その身を焼かれる――
「――木偶の坊が。誰の許しを得て暴れているのですか?」
――前に、ゴーレムの両肩の発射口に光弾が突き刺さった。ビームの発射口が爆発し、ゴーレムがたたらを踏む。
「あれ……? 私、生きてんの?」
「まったく、あのようなガラクタごときに、随分と好き勝手させ過ぎましたわね」
「セシ、リア……? セシリア!?」
何の衝撃がないことに、恐る恐る目を開けた鈴が目に写したのは、セシリアの背中だった。
「アンタ、無事だったの? ……いや、今はいいわ。それよりもあのISを」
「鈴。少々黙っていて下さる? 邪魔ですわ」
援護に回ろうとした鈴は、セシリアからの冷たい言葉に思わず動きが固まった。口調はいつもと同じなのに、そこから感じる空気は一度も感じたことのないものだった。
だというのに、鈴は自身の心がキュンッと跳ねたのを感じた。
「(な、なんで!? セシリアに冷たくされたはずなのに……カッコイイとか思っちゃってんの私!?)」
激しく鼓動を刻む胸を押さえ、鈴は赤くなる顔を隠そうとする。今はそんなことを考えている場合じゃないと、頬を張り前に向き直ると既にセシリアが動いていた。
スターライトmarkⅡにマシンガンバレルを取り付けたセシリアが、観客席に被害を出さないように低空飛行しながら、牽制射撃する。
「(ティア、あなたの方はどうですか?)」
《全然平気だよ。ボクらはコアさえ無事なら大丈夫だしね。あれあれ? もしかして心配とかしてくれちゃったりぃ?》
「(ええ。これから少々荒っぽくなるので!)」
セシリアは怒っていた。
束に作らせたゴーレムがセシリアを狙ったということは、つまり束がセシリアを殺そうと企んでいる。いや、たとえ本人にその気が無く、この一件さえ事故であったとしても、己を狙ったことは必ずその報復をしなければならない。
そして先ほどの不意打ちを防ぐために、盾にしたブルー・ティアーズ2基が完全にお釈迦になった。その原因であるゴーレムも許しておけない。
何より、セシリアが狙っていた雌豚奴隷候補を殺そうとした時点で、目の前のゴーレムが有人であろうが無人であろうが、殲滅対象である。
《ご主人、あれの中身は無人だよ。でもおかしい。コアが入ってるのは確実なのに、コア・ネットワークから侵入できない》
「(そんなことが可能ですの?)」
《できなくはない。でもそれが出来るのは、ある程度人格形成が出来たコアだけだよ。基本的には、生まれた時からコア・ネットワークに接続されてる。あのISコアが束に作られたときにそれは確認した。人格が形成されている様子はなかった。なのに今は、まるで物理的に切り離されたみたいに繋がっていない》
「(つまりはハッキング出来ないと。まあいいですわ。どの道、今から屑鉄になるのですから)」
《それと、どうもIS学園のシステムがハッキングされてたらしいよ》
「(邪魔が入らぬよう、束にさせていたことですわよ?)」
《いや違う。束のハッキングは既に解かれてる。これは全く違うハッキングだ。もちろんボクでもない。ボクならそもそも気づかせないし》
ティアはISコアへのハッキングだけでなく、通常のシステムをハッキングすることが出来る。クラス代表決定戦で、千冬にだけプライベートチャンネルの会話が聞こえていたのは、ティアが事前にハッキングしていたからである。
だが束でもなければティアのものでもないという報告に、セシリアは眉を寄せる。
「まあ、いいですわ。まずはこのガラクタを!」
ゴーレムの視界を遮るように弾幕を張り、隙を見て2本のインターセプターを投擲する。インターセプターは両肩関節へと刺さり、腕の動きを封じる。
「ブルー・ティアーズ!」
セシリアの呼びかけに応え、ブルー・ティアーズがゴーレムの複眼と膝裏、足首を破壊した。
姿勢を保てなくなったゴーレムが両膝をつくと、近距離まで接近したセシリアがスターライトを突きつける。
「懺悔しなさい」
引き金が引かれ、秒間100発のスターライトの弾幕が叩き込まれる。ゴーレムの身体を貫通しても、セシリアは距離を取りながら射撃を続ける。
やがて全身が穴だらけにされたゴーレムは爆発した。
「……終わった、の」
「え……?」
「勝った……?」
「そ、そうだよ……セシリアさんが倒してくれたんだよ!」
観客席にいた誰かがそう言った。それを皮切りに、生徒たちから大きな歓声が上がった。
『オルコット。無茶をしてくれたものだ』
「無茶? 私にとってあの程度、無茶の内に入りませんわ。というより私よりも、あの男に言うべきなのでは?」
『……そうだな。身内として、後できつく言っておく』
「分かっておられるとは思いますが、厳正な処罰をよろしくお願いいたしますわ」
『……ああ。あいつの回収はこちらでする。凰とオルコットはピットに戻れ』
《ご主人、ハッキングは既に撃退されてる。逃げられたって言う方が正しいけど》
「分かりましたわ」
「は、はい……」
こうして、ゴーレムの襲撃事件は幕を閉じた。
その夜、事情聴取やら現場検証から解放されたセシリアは、束と今回の件に関してテレビ通話で話していた。
「つまり、今回のゴーレムの件はあなたにとっても予想外だと?」
『そ、そうですそうです! ゴーレムを発進させたまでは良かったんだよ? で、しばらくしたら反応がなくなったから、てっきり倒しちゃったのかと』
「だからハッキングを止めたと」
『そうそう!』
「では、私を害そうとしたということではないと」
『ご主人様を殺そうなんて私が考えるわけないよ!』
少なくとも、モニター越しの束は嘘をついている様子は見受けられなかった。
《ご主人、こっちも終わったよ。ゴーレムのコアがコア・ネットワークに戻ってきた。戦闘時のデータは綺麗さっぱり無くなってた。こりゃ痕跡から追うのは無理だね。コアに人格があればやりようもあったんだけど、してやられたね》
「はぁ……もういいですわ。束、次会ったときはお仕置き致しますから」
『ッッッ!♡♡ は、はぃ……♡♡』
お仕置きを想像して絶頂したのか、モニター越しの束がのけ反った。
束を放ってテレビ通話を切ったセシリアは、久々に神の力を使った。求めるのは、今回のゴーレム襲撃のシナリオを狂わせた犯人。
束を使って調べさせても良いが、相手はその束が作ったゴーレムでセシリアを殺そうとした。危険度を考えれば、己の手で見つけた方が早いだろう。
しかし帰って来た答えは『分からない』という答えだった。
「なんですってっ!?」
「セシリア様……?」
思わぬ答えに立ち上がったセシリアは、心配そうな本音の声で冷静さを何とか取り戻した。
神の力は、文字通り神のごとき力。セシリアが望めば、それこそ世界を変えることも出来るし、何よりその力でセシリアは己が辿っていたかもしれない未来に気付けた。
その神の力を以てしても分からない相手。
「(……いいでしょう。もし下手人が私の命を狙うのであれば、刺客の尽くを跳ねのけ続ければ、いずれ姿を現すはず。この私に恥をかかせたこと……必ず後悔させてみせますわ)」
次回から鈴ちゃん堕としていきます。
それと一応言っておきますが、一夏の暴走はセシリアの予定通りです。気絶するのは想定外でしたが。
正直どうよ?
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ぬける
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前の方が良かった
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ストーリーは良いんじゃない?
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エロを増やせ!