確かによくよく考えたらそうだなと思ったので、『クラウ・ソラス』から『泡沫』に変更しました。
『――楯無様、セシリア・オルコットが簪様に接触しました』
「ええ、分かってるわ。だって……目の前にいるもの」
切り裂かれたドアが鈍い音を立てて倒れる。
『こちらも、拘束対象者の捕縛に向かいます』
「ええ。気を付けてね」
楯無の目の前には、目を見開いて固まる簪と、そんな彼女を腕に抱く忌々しい女がこちらを見据えていた。微かに、けれど確かに口角を上げて。
「――人の妹に手を出したこと、覚悟できてるかしら?」
身に纏ったIS《ミステリアス・レイディ》の武装である大槍を、セシリアに向ける。いつも浮かべている飄々とした顔は、冷たいまでの無表情だった。
今まで見たことないほどの楯無の怒気に、簪は思わず悲鳴を零す。
「ヒッ……」
「っ……セシリア・オルコット。あなたには、複数の犯罪行為の嫌疑がかけられています。学園の物資の盗難、権力を笠にきた強制猥褻など、証拠は揃ってるわ。さらにあなたの犯罪行為に加担したと思われる教員、生徒も更識の者が捕縛している。簪ちゃんから離れて、大人しくお縄に付きなさい。下手に抵抗しても痛いだけよ」
簪の悲鳴に一瞬怯むも、セシリアに警告を突きつける。
自分はタイミング悪く舞い込んできた
そのことを告げても、セシリアの余裕の笑みは崩れない。
「ふむ。どうやらここにはあなたしかいないようですわね」
「ええ。これでも私、IS学園で最強なのよ。あなたって案外無知なのね?」
「ああ、そうですか……最強。ならその称号、私が貰って……いえ、奪って差し上げますわ。あなたの、何もかもを」
「あっ……んん!? ちゅぅ……えろ♡ ちゅるっ、えろ……♡」
未だに腰を抱いていた簪を強く引き寄せ、セシリアが唇を重ねた。さっきとは違い舌をねじ込み、絡め取り、唾を送り込む。楯無に武器を向けられている状況で、構うことなくディープキスを続ける。
急に行われた卑猥な行為に、他でもない簪が
「……どうやら、懸念は的中してたようね、本音ちゃん」
「いくらお嬢様でも~セシリア様を襲うのは駄目だよね~」
いつも通りの間延びした声に、楯無の表情がより険しくなる。
本音が籠絡されていたことに対して焦りは感じない。元々危惧していたことだし、寝返ったところで楯無にとっては大した脅威ではない。
それよりも、本音の裏切りで虚が心を痛めることに顔を顰めたのだ。
それでも、親友の心配をする前に問い詰めなければならないモノが目の前にある。
「あれれ~、おっかしいわねー? お姉さん、そんなIS知らないんだけどなー。本音ちゃん、
背後から襲い掛かって来た本音は、銀色のISを身に纏っていた。
身体の装甲は軽装甲だが、背部に九つの大型ユニットを装備している。両手には鋭いクローネイルが伸びており、おそらくはそれ自身が武器になるのだろう。
その姿も相まって、九尾の巫女という言葉が頭を過ぎった。
もっとも、仕えているのは悪魔のような女だが。
そして、本音が堕ちていることを知らなかった簪もまた、本音の存在に驚いていた。
「本音……!?」
「やっほ~かんちゃ~ん! かんちゃんもセシリア様のモノになったんだ~」
「……本音ちゃん、まだ間に合うわ。今のあなたを見たら、虚ちゃんがどう思うかしらね?」
「かんちゃんがお嬢さまをどんな気持ちで見てたか、知らなかったの~?」
「っ……ぐっ!」
痛い部分を突かれた楯無の動揺をついて、本音が攻撃を仕掛ける。
しかし楯無もロシア代表として、暗部の長としてそれなりの戦闘を潜り抜けてきた経験と並外れた反応速度で迎え撃つ。
爪と大槍が甲高い音を立ててぶつかった。
そのまま鍔迫り合いに持ち込むかと思いきや、本音が身軽な動きで大槍を足場に後ろに下がる。
しかし楯無は足場にされた反動を受け流しつつ、本音に肉薄する。
大槍のリーチで放たれる刺突を本音は躱すも、そこから次々と放たれる刺突に回避が間に合わなくなり、遂に吹き飛ばされてしまう。
「うぐっ!」
「本音ッ!」
格納庫の壁がへこむほどの勢いで叩きつけられた本音が、苦しそうなうめき声をあげる。それを見た簪は、未だ今の状況に理解が追いついていなくとも、親友の悲惨な姿に悲鳴を上げた。
「……残念ね。こんなことになるなんて」
壁を背に座り込む本音へ、大槍を向ける。
「新しい玩具でも貰ってはしゃいでいたのかは知らないけど、本音ちゃんと私じゃ、差があり過ぎるわ」
「それは、どうかな~!」
本音が突きだした右手からクローネイルが射出される。
しかしそれは、楯無の目の前でピタリと制止した。
ミステリアス・レイディのバリアーで弾かれたわけではない。クローネイルは、楯無の眼前に現れた水の壁に囚われていた。
「ナノマシンによる水の操作。万が一にも勝ち目はないわよ」
言外に投降を投げかけるも、本音は弱弱しい笑みを浮かべる。
その表情に眉を顰めた直後、ミステリアス・レイディのハイパーセンサーが、
「これは……BT兵器かしら?」
ハイパーセンサーには、己に突き付けられた狐の尻尾のような形のユニットが確かに表示されていた。
本音を見てみれば、戦闘前は9つあった内のユニットが1つなくなっていた。
「えへへ~、びっくりした~?」
「ええ。びっくりしちゃったわ。でもね」
ナノマシンによって操作された水の鞭が、背後のユニットを絡め取る。同時に本音の身体を水で縛り上げる。
「はい、これで終わり。後はあなただけよ」
もう用はないとばかりに本音を放置し、セシリアへと再び大槍を向ける。
「それにしても非情ね。お仲間がやられてるのに助けないなんて。私から最強の称号を奪うんじゃなかったのかしら?」
「仲間? 勘違いして貰っては困りますわ。アレは私の所有物。所有物があなたに勝てば同じことですわよ? そんなことも分からないとは」
「あら、さっきの戦闘を見てなかったのかしら? 本音ちゃんなら既に拘束して――」
その瞬間、楯無は動いていた。その速度はハイパーセンサーが伝えるよりも早く、もはや勘とも呼べる第六感によって本人が認識する前に、完全な無意識の領域で。
結果として、目の前のセシリアを無視したそれは正しかった。
背後から攻撃してきた
「……また見慣れないISなんて、本当に、何がどうなっているのかしら」
咄嗟の一撃とはいえ、それなりの威力があった一撃を食らってなお立っている3機のISに、思わず本音が零れた。
「谷本癒子さん、相川清香さん、鷹月静寐さんだったかしら? あなたたちは私の部下が拘束しに行ったはず……まさか」
そのタイミングを狙ったのかそうでないのか、楯無に緊急通信が届いた。
『楯無様! 緊急事態です! 作戦行動中に拘束対象の生徒から奇襲を受けました! 全員が正体不明のISを、ぐわあああ!』
部下の悲鳴で通信が切れる。
何が起こったのか、もはや考えるまでもない。
「セシリア・オルコット……あなたはいったい何者なの!?」
「強いて言うなら、神、ですわね」
あながち間違いでもないわねと、楯無は思わず内心でそう独りごちた。
更識でも中々気づけなかった程の行われてきた犯罪行為の隠蔽、そして本音と眼の前の3機のIS。
先ほどから起こるあまりにも意味不明な事象が楯無の余裕を削り取って行く。
「せっかくですから教えて差し上げましょう。そこの3人のISの名は<シャドウ>。特殊なステルスを搭載しておりまして、隠密時にはISのハイパーセンサーからさえも隠れることが可能ですの。スペックに関しては現行機を遥かに凌ぐ
第4世代型。
各国が第3世代型の開発にすらやっとの中で、それを遥かに凌ぐ第4世代型など、もはや馬鹿げている。
さらには、ISのハイパーセンサーをも無効化するステルス。荒事に慣れている部下たちが奇襲を受けているのもこれのせいだろう。楯無ですらさっきの奇襲を対処できたのは奇跡に等しかったのだ。これに対応できるとしたら、後は虚だけだろう。
こんな性能のステルスを作るのは、篠ノ之束がいなければ不可能ではないのか。
頭を過ぎった最悪のシナリオを振り払い、楯無は眼の前の3機を警戒する。
「……私の部下を襲ったのも、そのシャドウを纏ったあなたのシンパ。やってくれたわね」
「ついでにいえば、シャドウは既に一次移行しておりますの。そうでなければ、ハイパーセンサーを逃れるステルスは搭載できませんでしたから」
「余計な情報ありがとう!」
楯無が清香たちを拘束しようと水を操作するが、3人にノイズが走るとその姿が掻き消えた。
「(ちゃんと目視していても見えなくなるのね! でも……)」
楯無の背後から姿を現した癒子がブレードで斬りかかるも、水の鞭がうねり癒子を吹き飛ばした。
「(攻撃の際はステルスが解ける様ね!)」
左右から挟み撃ちするように清香がブレードで、静寐が薙刀でそれぞれ斬りかかるも、それを見越していた楯無は水の壁で攻撃を防ぎ、そのままブレードを伝って二人も拘束する。
「後は――!」
「忘れるなんてひどい~」
部下たちが心配な楯無は急いでセシリアを拘束しようとするが、その焦りが隙を生んだ。
「がっ!?」
背後から襲い掛かった衝撃に歯を食いしばりながらも、追撃をかわす。
もはや表情に余裕がなくなった楯無は、いつの間にか拘束を抜け出していた本音を睨みつける。
拘束は完璧だった。不測の事態は起きたものの、水の操作を誤ってもいないしそう簡単に抜け出せる拘束でもなかった。万が一抜け出したとしても、楯無にそのことは伝わるはずだ。
なのに本音は拘束から抜け出し、こうして楯無の隙をついた。
「どうやって拘束から抜け出したの!?」
「うーん。あれ見たらわかるかな~?」
そう言って本音が指さしたのは、先ほどまで本音が拘束されていた場所。
そこには、摩訶不思議な光景があった。まるで何かを拘束しているかのように、虚空を囲む水。まさしく、本音を拘束していた水である。
それがまるで、何かを拘束していると思い込んでいるかのように、拘束していた形と場所を保っていた。
「セシリア様から貰った私専用のIS、九尾ノ魂。九尾ノ魂はシャドウが二次移行したISなんだ~」
「二次移行……単一仕様能力ね」
「正解~。九尾ノ魂の単一仕様能力<
無邪気に、自慢するように話す本音に、楯無は冷や汗が止まらなかった。
本音の言うことが本当であれば、織斑一夏の白式と同じようにシールドバリアーの無効化という対ISとして破格の性能を持つ。いや、零落白夜の完全な上位互換である。
もしかしたら安全装置である絶対防御すら破るかもしれない。欠けた右腕の装甲が、その可能性を如実に示していた。
さしもの楯無も、もはや限界だった。
オリジナルIS紹介
シャドウ
・束が開発した第4世代型IS。隠密性を主体としているため、装甲は薄く機動性重視。ISコアは束によって新造されたもの。イギリスの暗部、およびIS学園の性奴隷に持たされている。待機形態はチョーカー。
最たる特徴は内部兵装のステルス機能。発動中は既存のレーダー兵装はもちろん、ISのハイパーセンサーすら無効化する。なお攻撃時に解除されることはテンプレ。
拡張性も高く、様々な武装を装備できる。
尚、ステルス機能の容量が大きすぎる為、ISコアは製造時に特殊学習装置によって一次移行している。加えて自動最適化機能があるため、一番最初に使用した人物の専用機となる。
九尾ノ魂
・元はアーキタイプブレイカーで登場した本音の専用機。待機形態はチョーカー。
造形は基本的に原作と同様だが、相違点として狐の嫁入り衣装の様な純白装甲と、背部に狐の尻尾を模したユニットが9つ装備されている。両手の鋭い爪<クローネイル>が主な武器であり射出できる。ユニットは遠隔操作によって、刺突、ビーム射撃による攻撃が可能。さらにとある機能が搭載されている。
ISコアはシャドウ同様新造。元々シャドウが渡されていたが、本音との相性が良かったのか、自動最適化した瞬間に二次移行し九尾の魂へと変化した。
取得した単一仕様能力は<狐珀妖霧>。シャドウのステルスを強化したもので、その効果は『認識を騙す』こと。通常のステルスはもちろん、自身の攻撃に対する認識を騙すことでISのシールドバリアーや絶対防御を事実上無効化できる。これを応用することで、センサー類等も誤魔化すことが可能など、それなりに汎用性がある。
次回はいよいよ楯無エロ回。気長にお待ちください。
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