「おまえ気に入ったぜ!」 酒場で意気投合した冒険者からアーティファクト(付け耳)を貰ったので獣人の村へ行こうと思う 作:Rオウ
第1話 アーティファクト
「なぁおい、ウサ耳族って知ってるか?」
「何? 知らないだって?」
「いくら田舎から出てきたばっかりだっていっても、おまえ本当に知らんのか?」
「まじかー、まじかよ、おまえ人生損してるぞ?」
と、酒場で意気投合したその飲んだくれのおっさん二人組冒険者は、何も知らなかったボクに獣人について
そして話の締めでこう
「確かに繁殖期のウサ耳族の村には人族は近づいちゃならんってのが暗黙のルールさ」
「だがな? この付け耳があれば話が違ってくるんだよ」
と、何やらもったいぶった仕草で右のおっさんが腰に下げていた革袋から動物の耳らしきものを取り出した。
「そ、それは?」
「アーティファクトだ」
椅子に座ったまま腕を組んで、ふんぞり返ったおっさん冒険者が自慢げに語る。
「あんときは大変だったよな、兄弟?」
「ああ、まさに九死に一生を得たってやつだったな、兄弟」
「……えっと何か凄いアイテムなんですか?」
「──かぁ、まじかよ! このアーティファクトを目にして第一声がそれかよっ!」
「えっ? えっ?」
「これはなぁ? 北ザイル山脈中腹にある大迷宮を俺たちが探索している時に見つけたものさ」
「地下第二階層の隠し扉の奥にあった宝箱から手に入れた一品だ」
「まあその後、命からがら二人揃って逃げ出したんだけどな」
と言ってボクから見て向かって左に座っているハゲのおっさん冒険者が「がはは」と笑う。
「す、すごいアイテム……なんですね?」
テーブルの上に置かれた動物の耳は、ボクにはラクーンベアの耳に見えるけどどうやら凄いアイテムらしい。
あ、ラクーンベアというのはボクの田舎にもいる畑の作物を荒らす子犬くらいの大きさの害獣のことだ。
クマをスケールダウンしたような感じで、退治したときは毛皮をよく剥いだもんだ。
丁寧に血抜きすれば臭みがあるけどモモの肉は独特の旨味があってボクの大好物でもある。
「ワシの予想だと最低でもA級の価値はあるんじゃないかな、兄弟」
「はは、ずいぶん謙虚だな? 俺は下手をするとS級に届くかもしれんと思っているぞ、兄弟」
「え、S級……」
ボクはS級にも届くかもという凄いアイテムを今、見せられてるんだ。
「で、坊主。おまえ童貞だろ?」
「え? えぇまぁその……分かりますか?」
ボクのいた村はそんなに大きくなくて、畑を拡張できそうな肥えた土地なんてほとんど無い。
ボクが村に残ればそれだけ人頭税だって払わなくちゃならないんだ。
そんな状況だから……次男坊、三男坊は成人すると村を出る事が多い。
どうせ、村から出ていってしまうボクのような立場の若い男性に色目を使う女の子は少なくてそのせいでボクは童貞のまま村を出ることになった。
それが先月の話だ。
ボクが童貞であるのを認めたら右のおっさん冒険者さんがニヤリと笑った。
「そんなお前にプレゼントだ」
「え?」
「そのアーティファクトをお前にやるよ」
「いやいや、頂けませんよこんな貴重なもの」
「いや実はな。俺たち二人は故郷に帰る途中でなぁ。この町もそうだが帰郷の道中の街には冒険者ギルドの出張所くらいしかなくてな。金貨1000枚もの大金を扱える冒険者ギルド支部がないんだ」
ハゲた方のおっさん冒険者が片方の話を引き継ぐ。
「ワシたちが持っていても換金もできんし、宝の持ち腐れなんだ」
「はぁ……」
「さっきも言ったウサ耳族の村に行って活用するにもワシらはもうそこまで息子は元気じゃないしな」
「おいおい、一緒にするなよ。俺の息子はまだ辛うじて現役なんだぞ?」
「で、ではせめて代価を貰ってください。S級アイテムをただで貰うわけにはいきません!」
「……おぅ、まあお前がそう言うならな。じゃあ金貨1枚で譲ってやることにしよう」
「え? き、金貨1枚?」
「ん? どうした? A級だったら金貨100枚の価値はあるし、S級なら1000枚だ。たしかに換金するには冒険者ギルド支部のある街まで旅をする必要はあるがな」
「えぇ、そうなんですけど」
ボクのいた村では金貨1枚は大金だ。
だけど多分成功した冒険者にとっては小銭の感覚なんだろう。
金貨1000枚もの価値のあるアーティファクトをボクに譲ってくれようとしてる善意の人たちに、今更金貨1枚も出せないとは言い難い。
いや払えなくはないんだ。
ボクの財布の中には村を出る時に母親が渡してくれた金貨が1枚入っている。
一家の少ない収入の中から節約してずっと貯めてきた大切な金貨だ。
銀貨も持っているから金貨1枚を払っても冒険者ギルド支部のある街まで節約すれば旅を続けることもできなくはない。
「……あーあ。せっかくお前に童貞を捨てさせてやろうってワシたちの気持ちが分かってもらえんとはなぁ」
「いえ! お気持ちありがたく思っております!」
さっき、ウサ耳族の話を聞いたときからボクのおちんちんは勃起したままなんだ。
ズキズキと痛みを感じるくらい膨らみ勃起したおちんちんが、財布から金貨を出して彼らに払えって煩いほど主張している。
「まあ俺たちもどうしてもってわけじゃないしな?」
そう言ってテーブルの上においていたアーティファクトを革袋の中にしまおうとする右のおっさんを慌てて止める。
「ま、待ってください。金貨ならここにあります!」
ボクの差し出した金貨1枚をハゲた方のおっさんがすごい速さで掴み取り、自分の懐に仕舞いこんでしまった。
「おう、お前ならそう言ってくれると思ってたよ」
「これでそのアーティファクトの付け耳はお前のもんだ。良かったな?」
「え、ええ。あり……がとうございます」
ボクの掌から一瞬にして金貨1枚の重みが消えて、なんだか不安になってきた。
母さんがボクに金貨を渡す時の顔を急に思い出してしまった。
ボクが村を出る時、母さんは泣いていたんだ。
いや、でもこんな美味しい話を見過ごすようじゃ、だめな気がするし。
金貨1000枚もあれば村だと大金持ちだ。
都会だと無理だろうけど、村なら死ぬまで遊んで暮らせる。
……まあ評判は最悪になるだろうけど。
そうだ、チャンスには飛びつかないと誰も助けてなんてくれない。
心の隅に湧いた不安をなんとかして押し潰す。
股間で勃起してしまっているおちんちんもそれを後押ししてくれた。
「話していて楽しかった。じゃあ、俺たちは行くよ。坊主も達者でな?」
「え? もうですか? まだ料理もお酒も残ってますよ?」
「ああ、それは坊主が食っていいよ。じゃあな」
「え? あ?」
冒険者のおっさん二人組は急に席を立って酒場から出ていってしまった。
どうしてあんなに急いでるんだろう?
二人の行動はちょっと変だと思うけど、まあせっかくなのでテーブルの上に残された料理を食べることにした。
町では大したことのない料理かもしれないけど、村の基準なら収穫祭のときにしか食べられないような料理が並んでいるんだ。
もったいないよな。
おっとテーブルの上のアーティファクトをボクの鞄に入れておこう。
金貨1000枚の価値があるかもしれないんだ。不用心すぎる。
アーティファクトの付け耳を触ると、田舎で捕まえたラクーンベアと同じ感触だった。
耳の根本を見るとまるで切れ味の悪いナイフで荒く無造作に切り落としたような感じに見える。
へー。
アーティファクトと言っても見た目は本当にラクーンベアの耳にそっくりなんだな。
ボクは一番上等な布でアーティファクトを包むと鞄に仕舞い込んだ。
本当に自分にこんな幸運が舞い込んでくるなんてな。
金貨1000枚もあるなら商売だって始められるし、節約すれば街でかなりの期間遊んで暮らせるだろう。
もちろん、遊んで暮らす気なんか無いけどね。
テーブルの上に並んでいた料理を平らげた。
お酒はちょっとボクには早すぎるから残しちゃったけど。
成人したとはいっても、お酒を飲むにはボクはまだ若すぎる。
満腹になるまで食べられたので席を立って宿屋に戻ろうとすると、給仕のお姉さんがボクの側にやってきた。
「銀貨3枚ね」
「え?」
「銀貨3枚」
給仕のお姉さんが手を突き出してボクに払えという。
「あの……ボク、自分の料理を注文する時に前払いしましたよ?」
「あんたが注文した分じゃないよ。さっきの二人連れの分さ」
「えっ? えっ?」
「二人連れはあんたが払うって言って帰っちまったし、あんた残ってたの食ってたじゃん。あたし見てたよ?」
「えぇ!?」
給仕のお姉さんの目がきゅうっと細くなって顔が険しくなった。
「払えないってんなら自警団呼ぶけど?」
「い、いえ! 払います、もちろん払います!」
ボクが財布から銀貨3枚を取り出して渡すと、給仕のお姉さんは険しい顔から一転してにっこり微笑んだ。
「まいどありっ!」
【補足】
アーティファクト:古代魔法により作られた魔導具
A級、S級:アイテムの効果によるランク
アーティファクトであってもE級の「寒いときに少し暖かくなる丸い石」とかあります。