不死の少女剣士と触手の化物 作:ななし
月夜。深い森の闇を切り裂くように銀色の光が閃いた。
グォォッと地の底から響くようなうめき声があがる。
剣士が魔物を真っ二つにしたのだ。
艶のある長い髪が風になびく。月の光を浴びてキラキラと輝くような美しさがあった。
剣を振るっているのは学園の制服をまとった少女だった。
身を翻すたび、ふわりと踊るスカートからのぞく足は黒タイツに包まれていっそう華奢に見える。
足と同じく腕も細い。
それでも軽々と剣を操る。
少女が剣を振るうたび、化物が血飛沫をあげながら倒れていく。
化物を一体や二体倒したからといって休む暇はない。
すぐに次の化物が襲いかかってくる。
数えきれないほどの数が街に迫っているのだ。
その化物に立ち向かうのは少女。
それもたった一人。
それでも臆することなく化物たちを次々と斬り伏せていく。
(強敵ね……)
少女の前に鬼のような魔物が立ちはだかった。
少女より一回りも二回りも大きいその魔物は槍を手にしていた。
魔物が先に仕掛けてくる。
少女の瞳に穂先が迫る。
(他の化物と比べたらの話だけど)
少女は冷静だった。
「はぁっ!」
剣で魔物の槍をはねあげる。
くるりと刃を返し、万歳するような格好でのけぞっている化物の肩口に振り下ろした。
(えっ……?)
少女は目を見開く。
魔物の胸板を突き破って槍が伸びてきたのだ。
どうやら魔物の後ろにもう一匹、同じ種族のものがいたらしい。
敵に囲まれた状態、周囲を警戒はしていたがまさか仲間ごと貫いて攻撃してくるものがいるとは予想外だった。
「うぐぅうううううっ!?」
少女は胸元を貫かれてしまう。
魔物がにやりと笑った。
しかし次の瞬間、表情が驚愕に変わる。
「油断したわ……まさか仲間ごと、なんてね」
槍に貫かれたまま少女が笑った。
口の端からつぅっと赤いしずくが伝い落ちる。
魔物が槍を引き抜いた。
少女の胸元にぽっかりと穴が開いている。血が滝のようにあふれだした。
「残念だったわね。私は死なない――いえ、死ねないのよ」
傷がみるみる塞がっていく。
彼女は不死。
傷を負っても、その肉体はすぐに再生する。
不死ゆえに孤独に苛まれ、精神を病んでしまったが、ある人物により、その病を克服した。
「仲間ごと貫くなんて、いけない子ね」
刃のようなまなざしが魔物に注がれる。
少女は怒っていた。
不死ゆえに精神を病み、死にたがっていた頃の彼女なら血飛沫をあげながら倒れていく魔物をうらやましいと思っていた。仲間ごと貫いた行為も、仲間を生の苦痛から解放してあげた優しさだと思っていた。
彼女はある人物に出会い変わった。
さっき彼女が口にした「死ねない」という言葉も、以前なら嘆きだが、いまは――
少女は地面を蹴った。
姿勢を低くし、魔物との距離を一気に詰める。
銀色の閃光が走り、魔物の断末魔が響き渡った。
「ふぅ……」
少女はため息をつく。
ひゅんと風を切り、剣についていた血を払った。
まだ気は抜けない。
少女のまわりには依然として数えきれないほどの化物がいる。
(キリがないわね……でも、負けるわけにはいかない。私には大切な人がいるから)
神経をはりつめたまま、ちらりと街の方角に視線を向ける。
彼女の視線の先には教会があった。
そこにいる人物のことを胸に剣を振るう。
化物を斬り倒していく。
化物と戦ううちにある場所にたどり着いた。
ある場所、それは暗い洞窟。
(ここが化物の巣穴? この洞窟からあいつらがわきだしているのかしら?)
ここを叩けば、化物の出現も終わるかもしれない。
少女はそう考えた。
街を襲撃しようとしていた化物たちはちょうど片付け終えた。
不死といっても疲労がないわけではない。
少女はためらった。
(中の様子を見てみましょう、ほんの少しだけ。深入りはしない。危なくなったらすぐ引き返せばいいわ)
少女の予想は当たっていたのか、洞窟に入ると化物がうじゃうじゃとやってくる。
(やっぱりここは化物の巣ね……)
襲いかかってくる化物を少女は斬り倒す。
(このくらいならまだ大丈夫……)
少女は化物を倒しながら奥へ奥へと進んでいく。
やがて開けた場所へとたどりついた。
(これは……?)
そこへ足を踏み入れた瞬間、おどろおどろしい強大な魔力が押し寄せてきた。
(まんまとやられたわね……)
洞窟に入ってから弱い化物ばかりだったのは罠だったのかもしれない。
彼らは餌。強大な力をもった化物は、まんまと釣られた獲物を油断させて奥へと誘うために息を潜めていた。
少女が引き返しようのない深部にやってきたこのタイミングで本性を現したのだ。
踵を返し、駆け出した少女の背に触手が迫る。
振り向かず剣を後ろに振り抜いて、それを切り飛ばした。
目もくれず出口めがけて疾走する。
(速い……マズいわね……)
触手が行く手を塞いだ。
それも一本や二本ではない。
無数の触手が鳥籠を編むかのように立ちはだかる。
少女は唇を噛んだ。
触手めがけ剣を振り下ろす。
血飛沫をあげ肉の鳥籠が裂けた。
「そんな……」
少女は愕然とした。
退路がすぐに塞がってしまったのだ。
「再生……そう、あなたも私と同じなのね」
冷や汗を流しながら少女は笑った。
あまりの絶望感に思わず笑みがこぼれたのだった。
触手が四方八方から押し寄せてくる。
逃げ道は塞がれてしまった。
触手の群れに邪魔をされて魔物の本体は狙えない。
くわえて少女は数えきれないほどの化物と戦ったあと。
絶望的な状況だが少女は諦めず剣を振るう。
「ハァアアアアアアッ!」
れっぱくの気合いとともに斬撃が放たれ、触手が切り飛ばされていく。
しかし、その切り口から肉が盛り上がりすぐに再生してしまう。
「はぁ、はぁ……本当にキリがないわね……」
不死とはいえ捕らえられてしまったらおしまい。
状況は絶望的。
「でも、負けられない……大好きな人を守るために勝たなきゃいけないの!」
自らに喝を入れるように叫んで少女は刃を走らせた。
少女の気迫に圧されたかのか触手の動きが鈍くなる。
しかし、出口はしっかりと塞がれたまま。
切っても切っても再生し、迫ってくる触手のせいでそこにたどりつくことすらできない。
少女の動きが鈍くなる。
それを察知したのか、少女の斬撃を警戒するかのように距離をとっていた触手たちの攻撃が大胆になってくる。
無数の触手によって編まれた肉の鳥籠の大きさも、じょじょに小さくなっていた。
「きゃっ!?」
触手を切り飛ばした少女の手首に、別の方向から伸びてきた触手が巻きついた。
「このっ……離しなさい……」
力を込めるが、振りほどけない。
「うぐぅっ!?」
鞭のように唸りをあげ突進してきた触手が少女の腹部に直撃した。
あまりの衝撃に少女は体をくの字に曲げる。
その首に別の触手が巻きついた。
少女は無理やりひっぱりあげられる。
ギリギリと締めあげられた。
自由な方の手で触手に爪を立てるが効果はない。
首を締めあげられ、意識が朦朧とする。
「あがっ……あぁっ……」
大好きな人を思い浮かべて、最後の力を振り絞る。
しかし、剣を封じられた今、どうすることもできなかった。
少女の爪程度では化物――それも再生能力をもった触手はびくともしない。
(ごめんなさい。神父さん……)
剣を手元に引き寄せようと抵抗していた腕がぴんと伸びきる。
力が抜け、剣がすべり落ちた。
無数の触手が少女の体に押し寄せた。