古き良き魔法の時代が終わり、科学技術と魔法が調和する時代。
魔法学園都市内にある寮の一室で、僕は学校に向かう準備をする。
僕が通う私立マルマル魔法学園は、生徒数百万人を誇る世界最大の魔法を専攻とする高校だ。
百万人規模の生徒数を保持しているために、複数の校舎、百万人の生徒が利用する施設や寮を用意していった結果、魔法学園の周囲は世界最大の学園都市となった。
専攻する魔法や本人の資質によって通う校舎が変わり、魔法の武器を作る魔法金属加工科や、主に魔法的なアクセサリー製作を専門に扱う高等魔法細工科、生物への治療を専門に扱う生命魔法科学科など、様々な校舎で高校生たちが日々の学問に励んでいる。
そんな中、僕が通うのは総合魔法戦闘科といって、主に魔法による戦闘技術と生存技術を手に入れるための学校だ。
この世界には各地にダンジョンが存在していて、ダンジョンから魔法資源を手に入れることで世界が支えられている。
魔法金属であるミスリルやアダマンタイト、魔法燃料に使う魔石などがダンジョン資源としては有名だろう。
ダンジョンには滞在者を襲う魔物が多数出現するため、魔法資源を手に入れるには武力が必要になるというのが、この世界の一般的な常識だ。
そして、そのための技術を学ぶのが、総合魔法戦闘科となる。
総合魔法戦闘科は生徒自身が持つ資質と能力によって、明確に優劣がつけられている。
魔法戦闘において高い資質と能力を持つ生徒たちをエリート組を呼び、低い資質しか持たない生徒たちを劣等組と名付け、学園内では利用できる施設すらも明確に分けられていた。
それはなにも、総合魔法戦闘科が生徒に対していじめをおこなっているわけでない。
その証拠に、申請すれば試験を受けて、劣等組からエリート組へといつでも昇格することができるし、エリート組と劣等組とで利用できる施設が分けられているだけで、生徒に対する職員の対応はいつも丁寧だ。
では、なぜ生徒間の待遇が学園内で明確に分けられているかというと、これも、ダンジョンに潜るための訓練である。
魔物に襲撃される恐れのあるダンジョンに戦闘能力を持たない者が入り込むと、あっという間に命を落とす。
安全が確保されている外の世界と違い、ダンジョン内では、人の生き死にが本人の能力に全てかかっていた。
だから、高い生存能力を持つ者が、ダンジョン探索において優先されるのは当たり前。
その厳しい現実にぶつかる前に学園がやさしく、ダンジョン探索の冷酷さを教えてくれているのだ。暴力が存在の全てである魔物には、人間の理論なんて通じない。
また、待遇の区別は、資質の低い生徒に、ダンジョン探索の道とは違う道を進ませるための処置でもあった。
劣等組からは、違う学科に転校していく生徒がいつも絶えない。でも、多くの生徒は、自分の持つスキルに合った道に進むことで、幸せな人生を手に入れていた。
低い戦闘能力で、嫌々とダンジョンに潜り続けることだけが、人生ではない。そんな時代は、とうの昔に終わった。文明が進んだ今では、ダンジョンの外でも自分のスキルを活かし、幸せに生きていくことができる。
それでもダンジョン探索に夢を描き、スキルも資質もなくダンジョンに潜るのならば、学園内での冷遇に耐えられる精神力すらなくては無駄死にする。
この理念は、まだ魔法技術も科学技術も未熟な二千年前に、私立マルマル学園を創設した初代校長である勇者ハンゾーが掲げた言葉でもあった。
僕が通う私立マルマル学園を創設した勇者ハンゾーは、異世界のニホンという国から転移してきたとされており、忍術を用いてダンジョン探索で財を成し、学園を作ることで後進の育成に努めた人格者だ。
この世界には異世界のニホンから多くの勇者がやってきていて、魔王に侵攻されていた世界を救ったり、異世界の便利な知識や科学技術を世界中に広めたりもしてくれていた。
そして、僕の名前であるキトーフトシも、千年前に魔王を退治した偉大なる異世界の勇者である、キトー・セージ、オーノ・タイシの二人から、それぞれもらった名だ。
孤児だった僕は、十歳になったときに、自分の名前を自分でつけた。
勇者の名前を本で調べたときに、タイシの字が漢字で書いてあったために、フトシと読み間違えてしまったのは、今ではご愛嬌だ。
そして、自分の名前をつけた後になって、異世界の言葉でキトーフトシの意味を調べた僕が愕然としてしまったのは、僕の中の小さな秘密でもある。
まあ、今までの僕は、偉大なる言語である異世界の言葉が示す意味にふさわしくないイチモツを持つことにコンプレックスを持っていたが、それも今日、マジカルチンポによって解消された。
ちなみに、異世界の言葉を自分の名前に入れる行為は、昔と違い、今の時代は非常に一般的な行為となっていた。
異世界に関する知識が未熟だった昔とは違い、過去の勇者によってニホン語が伝えられた現代には、ニホン語が全世界に浸透しきっている。
今の時代はニホン語の辞書だってあるし、ニホン語とこの世界の各言語間の翻訳魔法すらも開発されている。
そのために、この世界の多くの人物が、この世界を幾度も救ってくれた勇者への敬愛を込めて、自分の名前に異世界言語を入れていた。
そんなことを考えながら、僕は朝の通学路を、のんびり歩いていく。