エロティックハザード TS添え DiscDoll 作:ムメイ
Slip in
悪夢というのは滑り落ちていくようなものだ。
気がつけばそこに立っていて後戻りというのは出来ない。
そしてそれはいつだって唐突に襲いかかってくる。
多くの悲鳴が聞こえる……それに釣られて意識が浮上してくる。
ぼんやりと霞がかったような意識と記憶……はて、私はどうしてここに立っている?
空を見上げれば真っ暗な空に薄っすらと赤く染まっているように見える。
パトカーのサイレン、うめき声、火の爆ぜる音……大凡普通ではない。
私の横を腕を抑えて走る人が行く……何かから逃げるように。
逃げてきた方向を見れば……納得した、尋常じゃない事が今起きている。
見るからに致命傷を受けたような人間がこちらに歩いてきている。
いや、ソレだけではない。明らかに肌が白く死んでいるように見えるのに歩いている。
グジュ…グジュ…と嫌な音を立ててゆっくりと確実に……
それも一人ではない、何人もの男がそうなって歩いている……
私を視認したのかうめき声をあげ……腕を前に出しながら迫りくるではないか。
「悪夢なら醒めてくれ」
放った言葉に違和感がある、甲高い……私の声はこうだったか?
いや、それだけではない私の身体はこんな身体ではない。
一般的な痩せ型の男性だったはずだ、それが何故女性になっている?
これは悪夢なのか?いや、それは無い…この肌に当たる炎の熱が答えを言っている。
これは現実だ、紛うことなき自分が直面している現実。
逃げなければならない……足は自然と動いてくれた……
逃げ惑う人々はどこへ行ったのかあれだけ聞こえていた悲鳴が消えたように思える。
その代わりに聞こえるのはうめき声ばかり……それと肉を引きちぎる音か。
ゴリゴリとおろし金で神経を削られるような思いだ。
銃声もする……ここはどこなんだ?私はなんでこんなところに……
「走りづらい……それに、はぁっ……息切れも早い……!」
走りづらいのはこの奇抜な格好もあるのかもしれない。
しかし一番の要因はこの大きすぎる胸が言えているか。
目測でG以上はある胸は走る際に大きく弾み重心を揺らしてくる。
腕や足を見る限りでは線が細い美女……だと思うが体力はてんでない。
数メートル走るだけで息が上がってしまう……スタミナが絶望的だ。
速歩きをしてなんとかゾンビに追いつかれないで済んでいるが……
銃声だけじゃなくて爆発音まで……この街は一体どうなってる…!
この街に希望が無いのは薄々と感じていた……しかしそれを目の当たりにすると気概というのは折れてしまう。
メインストリートと思わしき道路が見えた……そこにあったのはゾンビの海だ。
多少の差異はあれど全員正気を失っているのは明白だ
目は白く、肌も真っ青……腹部などは欠損していて……新鮮な肉を求めて彷徨っている。
そんなところに私が入っていけば…貪り喰らわれ何も残らないだろう。
迂回せざる得ないが……元々いた道はゾンビが迫ってきている……
袋小路に出ない事を祈って小道へと逃れよう。
ただゾンビの迫っている方向には……おそらく生存者も居るのだろう。
もしかしたら避難所があるのかもしれない……そう心を強くもって行こう。
しかしこのゾンビ騒ぎは一体何が原因だろうか……
私の脳裏に浮かんでいるのはウィルス災害という明確なビジョンがあった。
なぜか……そう、なぜかそう思えていた。
閉店した店が並ぶ通りに出た……ここに何か見覚えがあるように思える。
これはブティック……入った所で何も無さそうだが……
鼻につく独特な匂いはなんだろう……この小さな鉢植えか?
緑の中々大きなハーブが生えている……これにも見覚えがある。
既視感が拭えない、私はコレを知っている?
ピースがバラバラ抜けたパズルを見ているようだ……
イライラしたまま顔を上げる……そうしてはじめて自分の今の顔を見た。
なんてこった、今の自分は……
「FAL……の、そっくりさんか」
とあるゲームのある意味での顔役と瓜二つな女性になっていた。
自分に関するピースがハマった……確かに自分が熱狂的なまでにしていたゲームだ。
それを忘れていたとは思いたくないが……となるとこの状況は一体何だ?
現実に限りなく近い悪夢か?それとも……本当に現実なのか?
理解を拒みたくなる状況だ、確か自分は男であり日本人で……
それから先が思い出せない!一体何だ、どうなっている!
頭を掻き毟っても出てこない……
「ククリナイフの一本でもあれば違ってきたが……それも高望みか」
この今の身体のそっくり……もとい、元々のキャラがFALという軍用ライフルの擬人化……という味付けだった
設定が二転三転した名残でククリナイフを持っているのだがそれを持っていたら……とは思った。
しかし現実は特徴的とも言える服装だけで拳銃の一個もない。
ゾンビ相手に戦える程の腕力もないし体力も存在していないと思う。
更に言えば銃声を聞きつけたゾンビがこっちに寄ってくるのは明白。
緊急時以外に使えたものではない。
「この標識は見れるな……」
焼けただれたり車が突っ込んだりとまともじゃない標識ばかりだった。
そんな中ようやく巡り会えた読み取れる標識だ……
それを見て現在の状況のピースがパチリと嵌った。
――――ラクーンシティ――――
地獄の一丁目とも言える惨劇の開始地点だった。
肝心のコア部分が欠けたままだが重要な部分は埋まった。
埋まったというのは少々違うか、思い出したというべきか。
ウィルス災害というのもここからだ……となれば自分に抗体があるかどうかが課題になる。
ウィルス名はまだ忘却の彼方だが空気感染して変異を促すウィルスだったはずだ。
感染したら最期、対ウィルス薬を投与されないとゾンビ化する。
新陳代謝が早すぎて腐っていくみたいなこと……だったと思う。
保菌者に噛まれたら感染は免れないが……ゾンビだけじゃなかったと思う……
空を滑空しているカラス……あぁこれも感染していたと思う。
それに……あぁそうだ、イヌも居るんだった……イヌに追いかけ回されると厄介この上ない。
嗅覚は人間より優れているしその足の速さは今の私には脅威だ。
奇跡的に私の身体に抗体……もしくは完全に適合できる遺伝子があるのであればだが……
噛まれたとしてもなんら問題にもならないと思う。
……いや、まぁとても痛いのは間違いないと思うが。
「これは……武器にはなるか」
振り回すと凶器になりえる……そう、シャベルだ。
重くて満足に振り回す事は叶わないが叩きつけてのけぞらせる位はできる。
最終手段はタックルや踏みつけという質量に物を言わせた暴力だ。
…ともかくこれで行く手を遮るゾンビを払いのける位は出来るだろう。
軽く振り回して……うん、やはりと言うべきか身体の違いが響く。
一回振り回せば重心がブレてよろめいてしまう。
だから複数を相手なんてできやしないし一回で仰け反らせられなかった場合は……
かなりリスキーすぎる対抗手段になるな……タックルもそうだけども。
「生存者はみんな警察署か……製薬会社の方に行ってるか?」
街はほぼ閉鎖状態に近い。恐らくでしかないが徒歩での脱出か……空路での脱出しかない。
しかしこんな状態の街に来るヘリコプターは限られる。
徒歩での脱出もこれまた困難……鉄道は……どうだろうか?
電車内がゾンビ祭りの可能性もあるからどうとも言えん。
「とにかく一度警察署へ行ってみよう……中心部……だったよな?」
かすかにある記憶は警察署のどこかしらに脱出路がある……と示す。
下水道だったか?ともかく逃げなければ……
どれほど歩いたか……ゾンビに行く手を遮られることは無かったが……
不穏な気配が周囲を取り巻いている……ゾンビじゃない。
きっともっと別な化け物が居るんだろうと思う。
「来るなら……さっさと来いよ……」
両手で頼りないシャベルを握ってつぶやくが来る気配はない。
突然変異していても本能的に狩りをするのか?
それとも何か別な要因でもあるのか?分からんが……
「うわっ……何か胸に……」
周囲を警戒しながら進んでいると両胸に何かが飛びついてきた。
何かと思えば……私の腕程の長さがある……何かが吸い付いていた。
これが周りを取り囲んでいたのか?
一気に血の気が引く……取り付かれたのだ、私の腕力で振り払えるのか?
「ぅあ!?きょ、強烈に吸ってくる…!?」
記憶と違う……なんだこの化け物……!
生き血を吸われるよりかマシだが……今、私は胸を吸われている!?
こういう化け物だったか?いや、違う、違うはずだ。
何を求めて私の胸を……いや、とにかく振り払わないと…!
「離れ……ないっ……!」
どれだけ引っ張ろうと身体を揺すろうと胸から離れようとしない。
もうだめだ、このまま移動するしか無いのか?
じゅるじゅると吸われ続けているだけで……ソレ以外に被害は……
「いっ……何か刺された?」
両胸にチクリとなにか刺された……噛まれた?
ウィルス感染した……かもしれないな。
これでは生存者がいっぱいいる所に行ってはいけない……どうしたものか。
生暖かい感触が両胸に広がっていっている……何か液体を入れられたのか?
不安が胸を満たすが……もうなってしまったものはどうしようもない。
希望的観測をするならば私がウィルスに対する抗体を持っていること……だが……
まぁそれも数分後に分かることか。
両胸に長く太い……ヒルの化け物かと思われる物が吸い付いて……
体感的に10分もした、まだゾンビになる兆候は見られない。
だが、しかし……私の身体には異変が起きていた。
「いい加減……離れろ……!!」
刺された何かが原因と思われるが私の両胸がとても熱く……
気の所為でなければ胸元もキツくなりはじめ……張っているように見えた。
両胸に吸い付いた化け物も吸引を活発化させていて……
あまり考えたくない事が脳裏をよぎる。
思えばゾンビはすべて男性、女性を一切見なかった。
上がる悲鳴の種別も男性は断末魔……女性は悲鳴といった様子だった。
生き残れるかもしれないがもしかしたら女性となったのはさらなる地獄を味わうだけなのかもしれない。
「っ……でて……る……」
胸に溜まりに溜まった熱が放出されていく……甘く匂うこれは……
もしかしなくても母乳と呼ばれるものだと思う。
これではっきりしたかもしれない……私は生物災害でもかなりイロモノな世界に取り込まれた……
この先私はどうなるのか……案外武器無くても良いかもしれない……