---妃英里---
あのヤロー、身重な蘭を置き去りにして、『ちょっと調査に行って来ます』だと…どこへ行ったんだ?
有希子に連絡をすると、自宅にパスポートが無く、海外に行ったみたいって…探偵小僧だけでなく、その母親も脳天気なのか!
「お母さん、新一は?」
泣きそう名顔で私を見つめる娘。
「調査だって…あの唐変木はどこ行ったんだか?」
「なんの事件?まさか、新一のお父さんの件?」
心配そうに見つめる蘭。
「わからない。ちょっと、目暮警部に聞いてくるわね」
◇
「潮目が変わったって、どういうことですか?」
「警視庁、警察庁も困惑しておるんです。あの本のモデルの人物はえん罪だったとICPOが認める声明を出しまして、スコットランドもFBIも手配者リストから削除したと連絡が来ました」
容疑者が一転、無関係な者になったらしい。
「もしかすると、工藤君は、その辺りを調査しているのかもしれない」
それって、危険でしょ?捜査関係者内の勢力図が変わったとしか言いようが無い事態である。
「そうなると、まさか…あの子、イギリスに向かったのか…」
「可能性は大です。父親があんな目に遭わされて、頭に血が上ったのかもしれませんね」
可能性は大だ。だけど、蘭があんな状態なのに…スマホが鳴動した。液晶を見ると有希子からだ。
「ちょっと、すみません」
断りを入れて、通話モードにした。
「ねぇ、大変よ~」
もの凄く混乱した有希子の声がした。
「どうしての?」
「新ちゃんが結婚しているの、戸籍上で…」
「それはそうでしょう?蘭と式を挙げたんだから」
「違うのよ。相手の名前が『宮野志保』になっているの」
えっ!?蘭じゃなくて?宮野志保って、誰?
目の前にいる目暮警部に状況を説明して、宮野志保なる人物を調べて貰うことにした。
---目暮十三---
戸籍上の工藤君の妻、宮野志保…調べても、何も出て来ない。出てきた事実、宮野医院の次女という事柄だけで、経歴などがわかない。犯罪者データベースでの検索でヒットすらしない。
「一般人か?」
「そもそも、どこで知り合ったんでしょうね」
私のつぶやきに反応するように、佐藤刑事が独り言を呟いた。
工藤君の通っている高校には在籍していない。宮野医院は昔に廃業をして、宮野医師一家の消息がまるでわからない。
「警部!二人の出国記録がありました。行き先は英国です」
出入国管理局から戻った高木刑事が、調べた結果を部屋全体に届く様な声を上げた。
「英国大使館で確認が取れました。宮野志保は英国の永住権を取得しています」
高木刑事の報告を受けて、英国大使館に聞き込みに行った千葉刑事から報告が上がった。
「永住権?彼女は英国に必要な人材ってことか。で、現住所は?」
「それが個人情報に当たるので、犯罪者で無い人物の情報は渡せないそうだ」
それはそうだが…工藤君は嵌められたのか?