---工藤優作----
いつの間に寝てしまったのだろうか。上体を伸ばし、意識を覚醒していく。何?!
「やぁ、起きたかね。大先生」
目の間に、アーサーがいた。アーサーの手には、何かのスイッチが握られ、ヤツの足下には有希子が全裸で横たわっていた。有希子の目は朧気で、口元からは何かが流れ出していた。
「貴様!有希子に何をした!!」
「気持ち良くなる物を飲ませ、体内に玩具を突っ込んである。このスイッチで蠢くんだよ」
ヤツの指先が、スイッチに触れると、有希子の口から喘ぎ声が聞こえてきた。
「なんで、こんな事をするんだ?」
「お前がウソを書き、全世界にバラ蒔いたからだよ」
「ウソは書いていない。そもそも、あれはフィクション、空想話だ」
「なら、なんで、参考資料に、モリアーティ卿の日記を挙げた?あれを真実だと、考える捜査関係者もいることを考慮しなかったんだ?」
言い返す言葉が出て来ない。あれは、捜査関係者から受け取った資料である。
「そもそもなんだが、俺はアーサーじゃない。貴様が存在を否定したアルフォンスだよ」
何?
「アーサーは俺の姉だ。俺達は一卵双生児なんだよ。顔とDNAは同じであるが、指紋は違う。スコットランドヤードに潜入していた黒の組織のヤツが、俺の指紋をアーサーの物として登録したんだよ。アーサーには指紋が無いから…」
指紋が無いだと…薬品で溶かしたのか。衝撃的な事実に目を見開いたと思う。
「後、お前は勘違いをしている。初代は女性だよ。アルセーヌ・ルパンは俺の祖母だ!」
な、なんだって…そんなはずは…
「一番の大間違いは、俺は不殺の暗殺者で、殺人はしたことが無い」
不殺の暗殺者だと…
「俺のスキルは精神支配だ。どんなヤツも思い通りに操作できる。お前の息子や、義理の娘なんかをな」
まさか…あの妊娠騒動は、コイツが……
「今、お前が見ている風景は幻かな、現実かな。どちらがいい?」
マズい、精神を殺すつもりか?
---工藤新一---
式当日の朝、父さんが壊れていた。焦点の合わない視線をし、なにやらブツブツ言っていた。同室にいた高木刑事は、後ろ手に手錠を掛けられ、ベッドの脇に意識不明な状態で倒れていた。一方母さんは佐藤刑事と共に朝までぐっすりと寝ていたようだ。
「白鳥、誰もドアを開けた者はいないんだな?」
「えぇ、居ませんでした。監視カメラの映像で確認してみてください」
ドアを含めた周囲を撮影していた監視カメラの保存映像に不審な点は無かった。どこから、侵入されたんだ?窓は内側から施錠されており、天井から入った形跡も,床から入った形跡も無かった。
式は父さんだけ居ない状態で行われ、無事に終わった。一方、不参加の父さんは病院へ緊急搬送され、毒物を含め、精密検査を行うことに。
「毒物も外傷も一切、見つからなかったよ」
目暮警部から検査結果を訊いた。式の後、披露宴を無事に熟し、病院へ直行した。新婚旅行は、高校を卒業してからと、前もって決まっていたので問題は無い。ベッドの上にいる父さんは、相変わらず、なにやらブツブツ呟いていた。あの密室で何が行われたんだ?
高木刑事によると、父さんに薬を嗅がされて、意識を失ったらしい。なんで、父さんはそんな真似をしたんだ?謎だらけである。
病院から帰路に着くと、途中でルパン3世と出会った。
「ちょっと、いいか?」
このタイミングでか…何かあるのだろう。
「あぁ」
俺はルパンの申し出に応じることにした。ルパンに連れて行かれたのは、外国資本の会員制高級ラウンジだ。
「ここなら、盗聴の危険は無い」
「父さんの事と関係あるんだろうな?」
「あぁ、そうだ。お前の父親は正義という名の大罪を犯した。いいか?正義は立ち位置によって違うんだぜぇ」
知っているよ。ルパンの行動から、読み取れるし。
「正義という行為が過ぎると、自己満足になるんだ。覚えておけ」
ルパンの目は怒りに満ちているとうだ。今まで、こんな顔のルパンは見た事がない。
「父さんは自己満足という名の正義を行い、それを忖度した捜査機関が彼に牙を剥いたのか?」
正義の名探偵が書き上げたフィクション小説を読んだ捜査機関の暴走…なのか。
「そんな感じだよ。救いは、今回の事案で死者は出ていないことだ。いや、大元の原因は排除されたけどな。だが自己満な正義を執行された側にとっては、取り返しの付かない事態だよ。お前の父親の書いた出版物は世界中にバラ蒔かれ、今更、事実無根のえん罪でしたと謝罪しても名誉の回復は出来ないだろうから」
「ルパンは、父さんをあんな目にしたヤツのことを知っているだね」
「言い方がコナンになっているぞ、工藤君」
そうだな。コナン歴が長かったから、言い方に気を付けないとなぁ
「君の父さんは、無実である別の人間を糾弾していたんだ。そのせいで、彼の大切な恩人を彼が助けられなかったんだよ」
「俺の知っている人?」
「彼が護れずに殺された方は、知っているはずだシャーロキアンな君ならね」
シャーロック・ホームズ絡みか…父さんがあの本を出してから、亡くなったホームズの関係者は…えぇっと…えっ!まさか…
「まさか…ドクターワトソン…」
「正解だ。君に取っても恩人のはずだよ。『出来損ないの名探偵』アポトキシン4869の解毒剤のレシピを残してくれたんだから」
俺が知らない間に飲まされたのは、その解毒剤か…
「じゃ、俺にそれを飲ましたのは、ドクターワトソンの関係者なのか?」
「そうだよ。ドクターワトソンが育てていたシャーロックの孫だ。彼はドクターが殺される瞬間、仕組まれて投獄されていた。別人が犯した罪により、えん罪で投獄されたんだ」
父さんの書いた本のモデルが浮かぶ。黒き血の系譜に名を連ねる人物だ。
「アーサー・ホームズか?」
「違う。それが工藤優作が犯した罪だよ。別人を完全無欠の暗殺者に仕立てたことだ」
父さんは間違えたのか。
「いや、あの犯罪卿であるモリアーティ教授の日記を見て書いたはずだ」
「その日記は本物かい?本物はモリアーティ家の金庫に、今も眠っているんだが…その金庫は俺でも破れないのに、誰が盗み、工藤優作に渡したんだ?」
「偽者の日記?何の為に??」
「正式な現代の犯罪卿を潰す為に、現代の犯罪卿であるあの黒の組織が仕組んだんだ」
「なんで。ルパンが知っているんだ?」
「俺の父ちゃんとアイツの父親は兄弟だよ。アイツは俺の従兄弟に当たるんだぜ」
そうだ、本にも書かれていた。ホームズの血脈とルパンの血脈が混じり合った傑作だと。
考え込んで顔を伏せていた俺が、ふと顔を上げると、ルパンは目の前から消えていた。