蒼穹のファフナー 新生ペルセウス中隊による異世界活動記 作:ジョージ
ナレインは、体をトローンズモデルのままにルヴィリアスをお姫様抱っこで運んでいた。スラスターを使い、地上を滑るように走るトローンズモデル。
「え?」
その時、お姫様抱っこされていたルヴィリアスが何かに気づいて空を見上げた。
「ナレイン様っ!左方より何かこちらへ向かって来ますっ!」
彼女はこちらに向かってくる3つの影に気づいた。が……。
「ん?あぁ。あれは大丈夫だ」
「え?」
「あれは私と同じ力を持った私の部下だ」
こちらに向かってくる機体、それはトローンズモデルと同じくスカイブルーに彩られたファフナー、『パワーズモデル』。その空戦機である『アリエル』だった。その数3機。
アリエル3機はナレインのトローンズモデルの傍へと降下してきて、その傍を並走するように飛ぶ。
「ナレイン将軍、ウォルター少佐の指示で援護に参りましたっ!」
「ご苦労。こちらの状況は先ほど伝えた通りだ。少佐たちはどうしている?」
「先ほどまで最前線にて敵部隊と交戦中。ですが敵の大多数は撃滅。現在は奪還した村や町へ防衛戦力の配置と被害者の救助や治療などを行っておりますっ!」
「分かった。お前達は私に同行してこれから彼女達の王都へ向かう。そこでこちらの軍に事情を説明する。すまないが私はこの通り手が塞がっている。念のために援護を頼む」
「「「はっ!了解しましたっ!」」」
そうして、ナレインのトローンズモデルを守るように展開する3機のパワーズモデル。
ルヴィリアスは、それに戸惑いながらも頼もしそうにナレインであるトローンズモデルの横顔を見つめていた。
そして、王都を守っている門の傍まで来ると……。
「な、なんだありゃっ!?」
「新手の魔物かっ!?」
ファフナーなど知りもしない衛兵たちは、ナレインらの突然の来訪に戸惑っていた。一触即発の事態か、と思われたが……。
「待てっ!この方達は我々人間の味方だっ!」
「あっ!?あれは聖騎士ルヴィリアス様だぞっ!」
衛兵の1人が彼女に気づいた。
「彼等が敵ではない事は私が証明するっ!」
彼女は衛兵達にそう叫ぶと、後ろのナレイン達へ振り返る。
「ナレイン様。それに部下の方々も。出来れば人の姿にお戻り下さい。そうすれば皆も安心するでしょう」
「分かった」
ナレインがそう言って頷くと、彼等の体を緑色の結晶が包み込み、それが砕けて、その下から人間となった彼等が現れた。
「おぉっ!?」
「ほ、本当に人間なのか?」
それに驚く者、戸惑う者。
「大丈夫だっ!彼等は私たちの味方っ!そしてここに居るナレイン将軍は単独で魔王ヴォイスを撃ち倒し、その側近である魔神を退けたお方だっ!」
「えっ!?魔王ヴォイスをっ!?」
「1人で倒したってマジかよっ!?」
ルヴィリアスから伝えられる事実の数々に戸惑うのも無理は無い。なにせ魔王は絶望の象徴のような存在だ。それを1人で倒したなど、安易には信じられない。しかしそれを言っているのが、聖騎士であるルヴィリアスだ。その立場こそが信頼を勝ち取っていた。
「それと、現在各地でナレイン将軍の部下である者達が戦っている。彼等の特徴を伝えたいっ!今すぐ各地の前線に早馬の用意をっ!」
「わ、分かりましたっ!」
「加えて聖女フォニカ様へ謁見したいっ!取り急ぎ用意をっ!」
「は、はいっ!」
彼女の指示を受けて、衛兵達が慌ただしく動き出した。それを確認した彼女はナレイン達の方へ振り返る。
「ナレイン将軍。それと、部下の方々も。これより王城までご案内します。そこで聖女フォニカ様たちとお話し下さい」
「ありがとう、ルヴィリアス。貴殿の助力に感謝する」
そう言って右手を差し出すナレイン。
「あっ、い、いえ。こちらこそ。助けて頂いた恩もありますし」
するとルヴィリアスは少し顔を赤くしながら彼の手を取って握手を交わした。
『あぁ。将軍の手、温かい』
彼女はしばし、繋がれたままの手を見つめていた。
「……どうかしたのかね?」
「えっ!?あ、あぁいえっ!何でもありませんっ!それでは城へと案内しますっ!こちらですっ!」
見とれていた事が恥ずかしいのか、彼女は顔を赤くしながら足早に歩き出し、ナレイン達4人は彼女の後を付いていった。
その後、王城へと通されたナレイン達。部下の3人は別室で待機となり、ナレインはルヴィリアスによって一つの応接間らしき所へと案内され、待っているように言われた。
1人部屋に残されたナレイン。彼は、周囲を見回すと静かに目を閉じ、遠く離れた場所にいる仲間へと通信を開いた。だがそれは普通の通信ではない。それは『クロッシング』と呼ばれる、通常は特殊なシステム無しには出来ない通信だ。だが、ミールの加護があり、人の存在を越えた彼等ならば出来るのだった。
『こちらナレイン。ウォルター少佐、聞こえるか?』
『ッ、将軍ですか?こちらウォルター少佐です』
通信の相手は、ペルセウス連隊の隊長でもある『ウォルター・バーゲスト』少佐だ。
彼は前世の世界で少佐まで上り詰めたものの、とある命令違反から少尉に降格。その後はナレインの部下になった人間だ。そして、転生に際してナレインによって再び少佐に昇格。今はペルセウス連隊の隊長をしている。
『無事のようだな少佐。今はどこで何をしている?』
『私は今、少数の部隊を率いて占領されていた町で防衛ラインの構築や民間人の救助を行っています』
『そうか。それで、町の様子はどうかね?』
『…………』
ナレインの言葉に、ウォルターは少し言葉を詰まらせた。
『少佐?』
『……酷いもんです』
彼がもう一度問いかけると、ウォルターが絞り出すような声で答えた。
『男と老人、子供は皆殺し。町の建物もボロボロで。特に酷いのは、女性達です。若い女は、殆ど陵辱されていました。運良く隠れて難を逃れていた者以外、全員です』
『ッ!』
≪ギリッ≫
ウォルターの報告に、ナレインは奥歯から音がするほど強く歯を噛みしめ、拳を握りしめた。
『女は陵辱目的で生かし、それ以外は皆殺しか。フェストゥムにも劣る外道どもめ……っ!』
ナレインは、その瞳の奥で静かに怒りの炎を燃やしていた。
『そうですな。……これでは、アザゼル型やディアブロ型とこいつら、どっちが悪魔なのか……っ!』
対してウォルターも、魔族の非道なやり方に怒りを覚えていた。
『……少佐、保護した女性達はどうか?』
『そっちも、酷い者です。奴らの体液には特殊な効果でもあるのか、一種の薬物中毒のような状態でした。幸い、これらは俺達の持っていた治癒能力で何とか出来たのですが……。魔族に陵辱された自分への拒否反応から、精神に異常を来した者、殺してと言って自害を望む者まで。……酷い人では、こちらと受け答えも出来ない程にショックで植物状態になった人まで』
『くっ!それが魔族のやり方か……っ!』
聞けば聞くほど、ナレインの中で魔族に対する反発心と怒りが芽生える。だが、彼も指揮官だ。怒りは視野を狭くする。ナレインは数回深呼吸をして自分を落ち着けた。
『……少佐、分かっていると思うが……』
『えぇ。怒りにまかせて突撃、なんてバカな真似はしませんよ。今俺達が優先するべきは、人々を守る防衛ラインの構築と、彼等を助ける事。……攻めるだけが戦争じゃありませんからね』
『そうだ。防衛と彼等の身の安全を第1に考えろ。それと、魔族が襲撃してきた場合は……』
『そちらも心得てます。……俺も男です。女性をこんな風にめちゃくちゃにした奴らに、そうそう手加減などしませんよ……っ!』
『分かった。だが気をつけろ少佐。私が遭遇した敵には、魔神と呼ばれる女性の姿もあった。魔王ヴォイスと呼ばれた存在は倒したが、その魔神は今だ健在だ。くれぐれも油断はするな。いいな?』
『はっ!』
と、そこまで話すと2人はクロッシングによる通信を終えた。それから数分ほどすると……。
「失礼します」
部屋の扉が開いて、ルヴィリアスと黒髪の青を基調とした服を纏った女性が入ってきた。
ナレインはすぐに立ち上がる。
「お待たせして申し訳ありません、将軍」
「いえ。お気になさらず。それで、そちらの女性は?」
「こちらは我ら聖騎士が守るべきお方である、聖女フォニカ様です」
「はじめまして。ご活躍は彼女より聞き及んでおります」
ルヴィリアスに紹介され、会釈をするフォニカ。
「こちらこそ。新生人類軍総司令、ナレイン・ワイズマン・ボース大将であります。お会いできて光栄です。聖女フォニカ様」
ナレインも挨拶を交わし、敬礼をする。
その後、ナレインはフォニカと彼女の護衛と言う事で同席したルヴィリアスと様々な事を話した。まず話題に上がったのはナレイン達の事だ。
「それで、ナレイン将軍達は一体どちらからお出でになられたのですか?」
「我々が基幹基地としている場所は、敢えて言うのならば世界と世界の狭間、次元の狭間にあります」
「そのような所から?でも、そんな所で人は生きていけるのですか?」
「普通ならば無理でしょう。しかし、我々にとっての神とも言うべきミールの力によって、本来ならば何者も存在出来ないはずの場所に特殊な空間が作られ、我々はそこで生活をしています。我々はこの特殊な空間を『エリアシュリーナガル』と呼んでいます」
「では、ナレイン将軍たちはそのエリアシュリーナガルから私たちの世界へ?」
「はい。エリアシュリーナガルには、様々な世界へと繋がるゲートが開かれており、我々はそれを使うことによって様々な世界へと行くことが出来るのです。ですが我々もそのエリアシュリーナガルで生活を始めたばかりでした。そして今日、我々はゲートの力を確認するテストのために、この世界を訪れたのですが……」
「……見られたのですね。魔族の侵略を」
静かに漏らすフォニカ。
「はい」
ナレインも、小さく頷いた。
「……我々はこの世界に帰属しないとは言え元は軍人。ましてやあのような非道な行為を前にして何もしないと言う選択肢はありませんでした。我々は速やかに部隊を編成して各地の戦線へと向かわせました。私は1人、こちらの国、あるいはそれに準ずる規模の組織に接触しようとしていた所」
「魔王と魔神、それらと戦っていたこちらのルヴィリアスと見つけ、助けて頂いた、と言う事ですね」
「はい」
「しかし、ナレイン将軍たちは特異な姿になって戦ったと彼女より聞き及んでおります。それは一体?」
「あれは我々がミールより加護を受けた結果、変化する事が出来るようになった姿です。あれは本来、40メートルを超える巨大なロボット、兵器でした。しかしミールの加護を受けた結果、人間のサイズまで縮小した形に我々が変化出来るようになった、と言えばよろしいか。我々はあれを、ファフナーと呼んでいます」
「ファフナー」
ルヴィリアスは、トローンズモデルとなったナレインの姿を思い出しながらその単語を繰り返した。
「ファフナーとなる力を持った我々は、現在魔族を相手に戦闘と、奪われた貴国の領土奪還。それと、捕えられていた民衆の救出と治療を行っています」
「そうですか。……国王陛下に代わり、お礼を申し上げます。ありがとうございます、ナレイン将軍」
立ち上がり礼をするフォニカ。ルヴィリアスもそれに倣い頭を下げた。
「人々を助けるのが軍人の役目、どうかお気になさらず。それよりも地図と何かペンはありますかな?現状をお伝えしておきたい」
「分かりました。ルヴィリアス、お願い」
「はいっ」
フォニカに言われ、ルヴィリアスは廊下の外にいた衛兵に地図とペンを持ってこさせた。それをナレインの前に置くと、ナレインは地図にペンで記しを付け始めた。
「現在我々が奪還した町は、こことここ、それから……」
地図の上にある町に、奪還した事を示す○を次々と書いていくナレイン。その数は、すでに10に昇っていた。
「更に、現在我がペルセウス連隊は各地で防衛ラインを形成しています」
ナレインは魔族の勢力圏と奪還した町などを分断するように線を引く。
「凄い。……短時間でこれだけの町を奪還するなんて……っ!」
「ですがまだ油断は出来ません。リーダーである魔王、あの男を倒しこそしましたが、魔神がまだ残っています。それに恐らく、奴の妹も」
「妹?魔王に妹がいるのですか?」
「はい。我々にはミールの加護により『読心能力』と呼ばれる力が備わっているのです」
そう語るナレインの瞳が金色に輝く。それに2人が驚いている。
「そして、奴を殺す間際に心の中を読んだのですが、それによれば奴には妹がいるようです。となると、その妹が新たな魔王を自称し、兄であるあの男の仇討ちとして仕掛けて来る可能性があります。それに、リーダーを失った事で統率を失った魔族が無数の小規模なグループに分れ、散発的な襲撃を行ってくる可能性もあります」
「……魔王ヴォイスを倒したとは言え、未だにその下にあった魔族の軍勢は残ったまま、と言う訳か」
ルヴィリアスはナレインの言葉にそう返した。
「残念ながら、そう言う事になるだろう。また、私は魔王と呼ばれるリーダーを討った。奴の求心力の度合いがどの程度かは分からないが、仮にそれが高いのだとしたら。魔王を討たれた事に反感を持たれ、和平交渉の席に彼等を引き出すのは難しいだろう」
「……残念ですが、将軍。奴らは和平に応じるような理知的な種族ではありません。ご覧になられたでしょう。占領地を奴らがどのようにするか。人をどう扱うか。……奴らは人の形をしたただの獣です」
ルヴィリアスは軽蔑と敵意を持って魔族をそう語った。
「交渉の余地は無い、と?」
「あったとしても、数年と立たずに和平条約は反故にされるでしょう。やがて力ある者が再び魔王を名乗り、我々に宣戦布告するのは目に見えている事です」
そう、ナレインの言葉に応えるルヴィリアス。
「……戦う以外の道は無い、か」
ナレインは深刻な表情で考えつつ、今後どうするべきかを思案していった。
一方、ルヴィリアスとフォニカは彼が今後どうするのかが気になっていた。ナレインの部下たちの力は圧倒的だ。フォニカもその力をルヴィリアスより聞き及んでいた。
彼女達にしてみればナレイン達の助力は欲しい。現に国は魔族を相手に敗戦濃厚な状態が続いていた。このままでは国家の崩壊も考えられる。それを阻止し、更に民や兵士の士気を上げるためには強力な味方、つまりナレイン達が必要なのだ。
「……とにかく、まずは最前線の立て直しが急務ですな」
「え?」
突然のナレインの発言にフォニカが首をかしげた。
「ナレイン将軍、ご無礼を承知で伺いたいのですが、今後も我々に協力して頂けるのですか?」
「む?もちろんです。我々は自らの意思でこの世界の戦争に介入しました。そして、私も男だ。罪も無い淑女たちが暴漢どもに好き勝手される様を見て、静かにして居られるほど、私は静かな性格では無いのでね」
そう言って鋭い視線で窓の外を見つめるナレイン。
『……この人は……』
そんな彼の横顔を、ルヴィリアスは頬を赤くしながら見つめていた。
彼女がこれまで見てきた中で、最も紳士的であり最も強い男性。それがナレインだった。そんな彼の、カッコいい発言などが彼女の中のハートを高鳴らせた。
そして窓の外に向けていた視線をナレインは2人の方へと戻した。
「我々新生人類軍は、貴国への援助と協力を惜しまない。我々の力で、共に脅威を退けよう」
「ッ!はいっ!ナレイン将軍っ!」
ナレインの言葉に、ルヴィリアスが反応し応える。
こうして、ナレイン率いる新生人類軍と彼女達の国の、共同戦線が作られたのだった。
第2話 END
感想や評価、お待ちしてます。イケおじ達と美少女達の絡みはもう少々お待ち下さい。