「涼音さん、おはよう。・・・夕べはゆっくり眠られたかな」
食卓の台所にやって来たのは義父。
昨夜の事は夢だったのかと思わせる程な義父の態度。
「あ・・・はい・・・」
「あ~。夕べはよく寝たなぁー」
つづいてやって来たのは夫の邦彦。
「涼音さん・・・・・・何かあったの・・・」
口数が少ない涼音を気づかう義母。
義父の一人をのぞき、何も知らない2人の視線が肌に突き刺さる。
今日は15日。
お盆の送り火の日でも、次から次へとやってくる客。
「お義母さん、いつもこんなに・・・」
「今年は特別だよ。涼音さんたちの顔もみたくてねぇ・・・みんなが・・・・・・」
本家株の来客に驚きながら、家督相続後の事を想えば気が滅入る涼音だった。
邦彦が家督を継げば、来客の接待は涼音がしなければならない。
「涼音さん・・・今夜も・・・・・・」
義母が口を開いた時だった邦彦のスマホに着信。
―・・・・・・。・・・・・・―
「ハイ。分かりました」
緊急の呼び出しで邦彦は涼音を残し勤務先の会社に向かった。
こんな時の邦彦は涼音が口をはさむ暇もないほどに急ぐ。
義母に寄れば、15日の夜は主婦だけの集まりが町内の集会場で催されるとのことだった。
「わるいけど・・・おとうさんの食事をお願いしますね」
義父が近所まで出向いたころを見計らい、涼音は義母から集まりの趣旨を簡単に聞かされた。
「お盆行事で疲れた女性の慰労会があるのよ。涼音さんも顔だけ出してよ」
午後から夕食の用意が簡単に済むようにと下ごしらえをして、涼音は義母に連れられ集会場に着いた。
「遅かったねぇ・・・・・・」
義母を見かけた一人の女性がやって来た。
歳の頃なら50代。義母と変わらない年回りだろう。
「邦彦の嫁で鈴音さん」
「涼音ですヨロシク」
「こちらは町内の婦人会の会長さん」
「涼音さんも参加するのかな・・・」
若い女性のサンかは珍しく快調さんは舐めるような視線を涼音に投げかけた。
「いずれは・・・今日は顔見世だけですよ」
会長と義母が立ち話をしているところにやって来たのは、古希は過ぎていると思われる老婆。
「こちらが噂の涼音さんかね?」
本家株の若嫁となれば皆の関心を呼ぶ。
「詳しい話は・・・?」
「まだです」
涼音は義母に視線を送りながら返事した。
「いいかい・・・」
やって来た70代の女性が義母に尋ねた。
「涼音さん。美智子さんから話を聞くといいよ」
やって来た老婆の名は美智子。
集会場に人が集まり出したころ涼音は美智子に連れられ別室に向かった。
「涼音さん心して聞いておくれ・・・・・・」
女性の慰労会といえ、連れ合いを亡くし新盆を迎えたご主人も集まるらしい。
女性は旧盆の行事で疲れた体を癒すために集まる。
男性は最愛の妻を亡くし気を慰めてもらうために、女性が多く集まるこの行事に特例としての参加を許されている。
「涼音さん、この話は門外不出で、たとえ愛する主人でも口外はなりませんよ」
強く念を押された。
女性の慰労会は明け方まで、一晩中お酒を飲みかわし、気が合った男性と身体を慈しみ疲れをいやす。
男性は女性の優しさを身体で受け止め、慰めてもらう行事だった。
この話を他人に漏らしたものは村八分に遭い、この町内で過ごすことは金輪際できなくなる。
義父も知らなければ、やがて家督を相続する夫の邦彦も知らないことだった。
美智子の話を聞いている途中で、女性の声に交じって男性の声も聞こえるようになってきた。
嬌声にも似た女性の声に対し、男性の声に明るさが見られない。
美智子の話を聞き終わり、集まっていた集会室に行けば、数組の男女が一糸まとわぬ格好で激しく抱き合っている。
「美智子さん、・・・お義母さんは?」
姿が見えぬ義母を尋ねた。
「あ~、おかあさんだったらいつものところじゃよ」
義母はいつも近くにある神社の祠の中で、新盆の男性と嬌声をあげ楽しんでいると教えてもらった。
義母がいると思われる神社は、涼音が実家に帰る道の脇にひっそりと在るそうだ。
集会所を後にした涼音は、寄り道を決め神社の祠へと足を向けた。
美智子さんと言ったあのおばあちゃんも集会に参加するのだろうか?
「あ~。いいよ~・・・・・・もっと・・・もっと」
義母の喘ぎを知らない涼音は、確かに艶がある女性の声を耳にし、実家へと急いだ。
食事を済ませていない義父が待っているはずだ。
つづく