オリ主 太(ふとし)
目覚めた獣【こころ×オリ主】
少しだけ懐かしい夢を見た。夢の中の僕はパーティーなんかに参列させられる時のような正装をして、自分の家よりもずっと大きなお屋敷の中に招かれている。幾度か小さい頃にも何度か来たことのあるようなそんな場所だけど、廊下の左右に厳つい甲冑像が立ち並んで、客間に剥製が並んでいるような、そういうあまりにも豪勢を尽くした内装にはやはりいつも萎縮させられてしまう。
招かれた部屋、中央のテーブルに据えられた椅子に腰掛けて数分、ガチャリと重厚そうな扉が開いた。小さい頃から何度か顔を合わせたことぐらいはある、同い年の弦巻家のお嬢様。そんな彼女がこちらを見て、声を張り上げる。
『あら! 貴方が太ね!』
それが、僕のお見合い相手、……ひいては許嫁となった、弦巻こころちゃんとの出会いだった。
「ん……?」
「あっ! 目を覚ましたのね!」
状況がよく飲み込めず、目線だけで周囲を窺う。何故か僕の視界に入るものは90度傾いて立っていて、僕の頭は柔らかいものに乗っていて……はっ。
「わ! ご、ごめんなさい!!」
僕はベンチの上でこころちゃんに膝枕をしてもらっていて、慌てて飛び起きる。すると、ちゃんと僕の視界のあらゆるものは地面に垂直に立っていた。色とりどりな建物に、向こうには高く空に伸びる塔も見える。ここはいわゆる遊園地だった。
「あら、すっかり元気になったわね!」
「そ、それよりひ、膝枕なんてさせちゃって、ごめんなさい」
こころちゃんは気にしていないようだったけど、とにかく申し訳なさが募って頭を下げる。……でもこころちゃんの太もも柔らかかったなぁ……はっダメだダメだ。そんな破廉恥なこと考えてちゃ、折角こころちゃんが倒れてる僕を休ませてくれてたのに。そんな煩悩を振り払って顔を上げた。
「いいのよ! 太が元気になったならそれでいいじゃない!」
そんな優しい言葉で僕を元気付けてくれる、そんな元気を具現化したような金髪の少女こそ、僕の許嫁の弦巻こころちゃんだった。徐々に冷静になって僕が意識を失う前の状況が思い起こされる。今日は遊園地で遊ぼうと誘われ、やはり予想通り貸し切りとなっていた遊園地で遊んでいたのだが、こころちゃんに振り回されるまま苦手なジェットコースターに乗ることになり、あまりの怖さで少し失神していた、そんな状態だった。……改めて文字に起こして考えると、僕はなんて情けないんだ……。
「さぁ、今度は太の行きたいところにいきましょう!」
「え、僕?」
「そうよ! だって太に笑顔になって欲しいもの!」
そんな彼女の優しさに甘えて、今度はそんなみっともない姿を晒したくなくて、近場にあったコーヒーカップを指差した。
「えっと……じゃあ、あれで」
「分かったわ! 行きましょう!」
「えっ、わっ、待ってまってえええ?!」
僕の手を握ったまま、コーヒーカップの乗り場まで走ろうとするこころちゃん。元気なのは良いことに違いないんだけど、僕はどうしてもこの体型のせいか走るのは苦手だからもう少しゆっくり行きたいかな……なんて考えたところで仕方ないので、どうにかついていこうと必死に足を動かした。
「さぁ乗りましょう! あそこがいいかしら」
「待ってっ、……はぁっ、はぁっ、ふう……」
乗り場についてすぐ奥の方にあったカップに乗り込むのだが、乗り込んですぐ、息が上がっていた僕は目の前の手すりを掴もうとした。
「あっ」
「あら、太の手、冷たいわね」
正直目が覚めていきなり走り出したので、息が上がって呼吸に必死だったのだが、掴もうとした手すりの上には、すでにこころちゃんの手が添えられていた。僕は慌てて離そうとしたのだが、それを止めるように握り返された。
「こうした方があたたかいわよ!」
「……ありがとう」
手の温かさとか、その幼なげな容姿から想像できそうな手の柔さに、僕の心臓は走った時以上にどくどくと脈打っている。けど、とても穏やかで、心が安らいだのは何故だろうか。
「よしっ、それじゃあいっくわよーーー!!」
「え?! う、うわぁぁぁぁ?!」
途端にカップがとてつもないスピードで回転し始める。……前言撤回。心臓は飛び跳ねた。
そんな風に振り回されながら過ごしていると、てっぺんにあったはずの太陽は沈みかけて、1日の終わりを告げていた。2人で過ごしていると、あっという間に時間は経って、名残惜しさが募る。……足は棒だけど。
「楽しかったわ! 次は何に乗ろうかしら!」
「ね、ねぇこころちゃん、そろそろ家に帰らないとダメじゃないかな」
もっと遊んでいたい、そんな気持ちは僕も同じなんだけど、それでも暗くなってしまってからでは帰りが危ない……いや、黒服さんがいるから危なくはないんだろうけど、やっぱりそういうところは誠実でありたいし、こころちゃんの親御さんにも心配をかけたくはなかった。だから、意を決して隣を歩くこころちゃんの方を見つめた。
「……もうちょっと遊んじゃだめかしら」
いつになく、物愁げな表情。こころちゃんがそんな耽美な哀愁を含んだ表情を見せたのなんて初めてで、僕は思わずたじろいだ。
「……もう暗くなっちゃうし、帰らないと」
「……うん。そうね! 私、最後に行きたいところがあるの。一緒に行ってくれないかしら!」
そうやって途端にいつもの笑顔を取り戻したこころちゃんに、ドキッとさせられながらも、今日の最後のお願いということだから、僕は聞き入れることにした。
「うん、もちろん!」
何も疑わずに、こころちゃんに返事を返した。2人で誰もいない園内を手を繋いで歩く。朝通ったゲートを潜り抜け、こころちゃんのお願いってなんだろうと色々思案していたのだが、そんな僕の度肝が抜かれるのは、そのまま手を引かれるままに連れてこられた場所のせいだった。
「……って、ここは」
「太! 今日は太とセックスがしたいの!!」
「ぶっ?!」
予想だにしないこころちゃんの口から飛び出る爆弾発言。え、セックス? セックスって言った? 僕の耳がおかしくなったのだろうか、けど、明らかに僕たちの眼前に聳え立つキラキラと光り輝くホテルは、
「えっと、その、そ、そういうのは早いかなって!」
「あら? 恋人とは2人で一緒にエッチなことをするものなのよ!」
「えっ、えっ、ええぇぇぇぇ?!」
もはや驚きを通り越してポカンと立ち尽くすしかない僕をこころちゃんはズルズルと引っ張っていく。まるで御伽噺か何かに出てかるようなお城のような外観がネオンライトに照らされて夕刻の通りに揺らめいている。陰に隠れるような通路の先、自動ドアが開くと大理石の床のロビーが現れて、目の前には巨大な液晶パネルが待ち構えていた。
「うーん、この光ってるところを押したらいいのかしら?」
大きな液晶パネルは1番真ん中の区画だけ明かりがポッと灯っている。まるで最初からそこだけがセッティングされていたかのように。こころちゃんがそこをタップすると、そこの明かりがぱっと消えた。
「よしっ、行きましょう!」
「えっ、本当に行くのっ?!」
「当たり前じゃない! 出発進行よー!」
隣にあったエレベーターに乗り込み、数フロア上がり、廊下に出た途端に出てきた仰々しいドア。廊下といってもこれより奥にはバリケードが設置されていて進むことはできなさそうだった。
「ここでいいのかしら?」
「う、うん……」
恐る恐る2人でドアを開けた。
その奥に広がっていたのは、弦巻家のような洋風にあしらわれた部屋、そして何より天井付きのお姫様の使うようなベッド。まさに……所謂ラブホテル。一度も踏み入れたことのない空間に恐れをなした。
「え、えっと」
隣にいたはずのこころちゃんの方を向き直った。そして僕は驚愕する。
「え?! ちょっと待ってなんでもう脱ごうとしてるの?!」
思わず目を掌で覆う。すでにこころちゃんはその身に纏う衣を全て脱ぎ去ろうとしていた。ただ、そんな風に内心焦りつつも、普段は絶対に見ることのないようなこころちゃんの艶やかな影にドキドキしているのも事実だった。
「セックスをする時は服を脱がないとできないって聞いたわ!」
「え、え、えぇ」
僕が止める暇すらなく、こころちゃんの衣がふわりと巻き上がりながらバサリと落ちた。幼気な雰囲気から淫靡な雰囲気を纏って、こころちゃんの肌は普段の何倍もの照り輝いて見えた。
「さぁ、太も脱ぎましょう!」
「う、うん」
正直この体型に多少なりともコンプレックスがあるというのが本音だが、それでこころちゃんがすでに裸を晒しているというのに僕だけが服を着るというのも忍びなくて、降参したように順に衣服を脱ぎ捨てていく。僕が一着、また一着と脱ぎ捨てる度にこころちゃんの興味の眼がこちらにより強く向いてくるのが羞恥心をより掻き立てたが、それでも僕は躊躇しつつも全て脱ぎ終わった。
「えっと、こ、これでいいかな……?」
「ええ! 開放的でいいと思うわ!」
開放的、これほどまでに今の状況を斜め上にその意図なく皮肉る言葉はあっただろうか……。
……ただ、こころちゃんは、僕が服を脱いで待っても、ニコニコとするだけで、二の句を継ごうとはしなかった。
「え、……その、どうする?」
「私ここからは分からないの! だから太にリードしてほしいわ!」
「え、ええぇぇぇ?!」
ここまできて、まさかの丸投げ。けどこころちゃんがむしろ性に精通してるという方がそれはそれで複雑なので、僕は覚悟を決めることにした。それにこころちゃんがこんなにも全部曝け出す勢いで僕を誘ってくれたのだ。応えないというのでは、僕はそれこそ真性のヘタレになってしまうだろう。
……よし。
「……うん、任せて!」
だから、要らぬ不安を抱かせないように虚勢を張った。もちろん不安はある。未経験の僕の限られた知識でこころちゃんに完全に満足してもらえるかは分からないけれど、それぐらいのつもりでやらないと、勇気が出せなかったから。脚の震えと声の震えを押し殺して、ゆったりとベッド際で待つこころちゃんをそっと抱きしめた。
「あら……あったかいわね」
「そう……だね」
裸でこんなふうにこころちゃんと密着したことなんて当然なく、かつてないほどに心臓の鼓動は止むことを知らないが、それでも僕の肌にくっつく柔肌は僕の未熟で背伸びをする劣情を煽り立ててくる。……すでに、本能の赴くままに貪りたい欲望に襲われるが、そんなことをしてはこころちゃんを悲しませるだけだということぐらいはわかる。
「ねぇ……こっち、向いてくれるかな……?」
「えぇ、こうかしら? ……ん」
まるで触れ合うだけのような口付け。これまで恥ずかしくてしてこなかったようなことが出来るほどには僕の理性は飛びかけていたのかもしれない。けど、こころちゃんは僕の唇をそのままに受け容れてくれた。
「……これがキスなのね!」
「……うん。すごい……ね」
言葉で形容できない多幸感と快感が攪拌されて不思議な気分になった。そんな気分に突き動かされるままに、僕はフワフワのベッドへと、こころちゃんを押し倒す。
「わっ」
小さな驚く声だけが響く。なんとも甘く、けどいつもあまり感じられない色気を含むそんな吐息が欲しくなって、僕はすぐさま口を塞いだ。さっきよりも長く、そして押し付けるような凶暴なキス。もう手加減は出来ないぞと、宣戦布告をするようなキス。準備は出来ているわ、と猛獣を包み込むキス。
「……ぷはっ! はぁっ、はぁっ」
「はぁっ、……こころちゃんっ」
そんな却って苦しいキスを終えた頃には、なぜか僕たちは躊躇など忘れて、互いをさらに求め合う。僕ももうキスは抱擁だけでは我慢できなくなっていた。既に僕の手は、こころちゃんを抱きしめるためだけじゃなくて、防御を失った胸を弄るためにも使われてしまっている。きっと僕みたいにオナニーなんてしたことはないだろうこころちゃんの吐息にはさらに色のついたものが混じり、それが僕の獣をさらに強く喚び起こさんとしている。
「ふと……しぃっ、なんか、変だわっ」
「こころちゃんっ、こころっ、ちゃんっ」
荒さを増す息。激しくなる手つき。我慢を忘れた僕の体はついに彼女の聖域まで手をつけ始めた。毛で隠された部分を触っただけで、こころちゃんの反応は天と地ほど変わる。
「やっ、そこっ、なんなのっ? んんっ……」
「んっ……、ここがっ、クリトリスかな?」
敏感で直接触るのは刺激が強いからと聞いていたからそっと上辺だけ触る。きっと男で言う亀頭のところだろうから。けれど、僕はさらに驚いた。もっと下に手を伸ばすと、ジュプリと柔らかい肉のところに指が沈み込んだ。
「あひっ、何それぇっ」
普段からは絶対に想像のつかない乱れた顔。もうすでにこころちゃんの中の雌の部分は目覚めていたのだ。だから、そんな濡れ始めている膣に少しずつ指を沈める。
「あっ、ゆっくりっ、してぇ、ほしいのっ……」
「ご、ごめん」
けどやっぱり加減が分からなくて思わず動きを止めた。こころちゃんの顔には少しだけ痛みが映った。
「だいじょうぶ……、もっと動かして?」
声に従っていると、先ほどよりもさらに蜜は増える。さっきまでは一本でもきつかったはずなのに、もうすでに二本でも指はゆっくり入れると入りそうだった。
「ひあっ、待ってぇっ……んあっ」
また痛みを感じさせてしまったのかと動きを止める。けど、今度はそうじゃなかったらしい。
「指だけじゃ、何かいやっ」
僕は悟る。きっと分からないながらも、考えていることは一緒なのだろうと。なぜかベッドサイドにこれ見よがしに置かれたゴムを取り出し、過去に調べた通りに肉棒に被せた。
「これって、ひうっ」
こころちゃんが目を見張る。きっとこんなの見たこともないのだろう。
「うん……これが」
セックスなんだと。
……そこから先のことは、正直よく覚えていなかった。
「……これで、繋がれたのね」
そんな感動の共有や。
「あっ、ゆっくり……太ぃ……」
初めての失敗や。
「ふとしぃっ、好きよっ、だいすきっ」
「ぼくもっ」
愛を捧げ合ったことや。
そんな断片的な記憶しか残っていなかった。
そのせいだろうか、自分でもよく分からないような状況に陥っているのは。
果てて、ベッドの上。
起き上がったこころちゃんと、体の汗を流しに備え付けのお風呂へ……行ったはずだった。たしかに行ったのは行った。けど……。
「ふとしっ、もう一回しましょう!」
「……え?!」
「セックスよ! とても気持ちいいわ!」
「ちょっと」
「それに太に気持ちよくしてもらいたいもの!」
「……こころちゃん」
そして。
「もっと欲しいわっ、ふとしっ」
「こころちゃん、僕もっ、気持ちいいっ!」
「あっあんっ! すきよっ、ふとしぃっ!!」
どうやら、一度目覚めた獣は眠らないらしい。