「はぁっ、はぁっ……あんっ」
先程までの歓声も全て消え失せて束の間の静寂を取り戻したCiRCLEに私の情けない喘ぎの声が響く。個室のトイレにいるせいか、視界も完全に周囲からは隔絶されて、声は目の前のドアに、タイルに反響して、淫らな声が自分の耳に嫌と言うほどに聞こえてしまうのに、私は暴れ回る右手の指たちを抑え込むことは出来なかった。
「んっ、あっ、いくっ……はぁ」
また、またやってしまった。そんな後悔の気持ちも湧き上がるけれど、それよりも大きいのは胸に抱えた蟠り。誰にも弱音を吐くことなど出来ずに、溜まりに溜まり切ったこのモヤモヤはこうして己の身を辱めに晒すことでしか晴らすことは出来なかった。勿論こんな慰めもただの一時凌ぎに過ぎなくて、また日常に帰り、そして私は同じことを繰り返すのだろうけど、それでももう良かった。こうやって性の鬱憤を晴らすという形で今だけでも楽になればそれで満足だった。
「……はぁ」
ガチャリと鍵を開けて、ギギギという重苦しい音がまたトイレに響く。そして。
「やっほ沙綾☆」
「……え」
最初聞こえてきた声が現実のものだとは思わなかった、もとい思いたくなかったのだけれど、目の前に現れた茶髪の女性はそれが現実であることを否応なしに私に突きつける。
「え、ええぇぇぇぇぇ?!?!」
……まずい。私が一人で果ててから個室を出るまではそんな大した時間はかかっていない。だって水気を拭き取って、服をまた着て、それですぐ出ちゃったのだから。
「き、聞こえてました……?」
「うんー? バッチリねー」
「あ、ああ、ああ」
身体中を冷や汗が走る。そんなスリルこそ愉しんだいたのだろうと言われればその通りなのだが、まさか知り合いに聞かれているとは思わなかった。いや、見ず知らずの人も嫌だけど。
「あ、あの、忘れてください……」
私の弱々しい懇願を聞いて、リサさんは小悪魔のように笑う。
「……うんうん、色々辛いこともあるもんねー」
「あ、あう……」
けれど、そんな小悪魔の笑みは別に私を嘲笑したりするものではなくて、リサさんの細い腕が私の頭にそっと伸びた。
「……大丈夫だよ、沙綾」
伸びてきた腕は私の髪をそっと撫で続けて、私を優しく包み込んだ。
数日後。私は学校も休みで、お店もお母さんから手伝わなくていいと言われ、約束通りにリサさんの家に向かっていた。
『お姉さんに任せて♪』
そんなふうにCiRCLEで甘く囁かれた声だけが私の耳奥をずっと反芻していた。その声に誘われるままに、私はリサさんの家へと招かれている、というわけである。
「はぁ……」
だが、そんなことは言っても自分の情けない自慰の声を聞かれていたと考えるとひどく憂鬱になる。きっとリサさんは優しいから誰かに言ったりはしないだろうけど、それでもやはりそんなふうに弱みを握られるのは気分のいいことではなかった。元を辿ればあんなところで慰みに耽る私が悪いのに。
「……ここかな?」
表札には『今井』と書かれている。隣に添えられたインターホンを一度押すと、『はーい』という明るい声が聞こえて来る。
「おお〜、キタキタ☆ どうぞ上がって〜」
「お、お邪魔します……」
複雑な事情が絡みあったせいか跨ぐことが躊躇われる敷居を超える。玄関に上がった私はリサさんに誘導されるままにリサさんの部屋に通された。部屋は小綺麗に纏められていて、濃いピンクで統一された部屋が柔らかに包み込んでいるようだった。
「うーん、そうだなー」
リサさんは部屋をキョロキョロしてあれこれ考えているらしく、そのままゆっくりとベッドの端に腰掛けると、健康的な肌を露出させた太ももをこちらに見せるかのようにポンポンと叩いた。
「えっ?」
「『えっ?』じゃないよ〜、こっち、おいで?」
「あ……」
リサさんの隣に腰を下ろすなり、私の頭は流れるようにリサさんの太ももの上に乗っていた。未だ嘗てリサさんとこんなに近くの距離でくっついたことはなかったし、話すことはあってもこんなボディタッチを一杯するようなことなんてなかったから、無性に胸が騒いだ。
けど、頭を擡げた途端に僅かに沈み込んだ私の鼻腔が甘ったるい香りに囚われた。良い匂い。けど、みんなが私に言うようなパンの良い匂いとか、そんなんじゃなくて。オンナの香りが私の鼻をくすぐる。一瞬でも気を抜けばそのまま卒倒してしまいそうな、そんな危険な甘い香りに私の意識は完全に奪われた。
「リサさん……」
気がつけば私の前髪の絡まるおでこにはリサさんの掌が添えられている。摩って慈しむように、その掌は私の頭を何度も往復した。
「沙綾……大変だったんだね」
「……うん」
思わず敬語にすることなんかも忘れて、その甘い楽園へと沈み込んでいく。全てをその大きな愛で受け止めんとする姿に、私は女神を見た。
「辛かったこと、全部言っても良いんだよ」
「……ドラムも上手くいかなくて、ポピパのみんなといる時は楽しいけど慌ただしくて疲れちゃって……。純や紗南の面倒も……私がみなきゃっ、いけなくてっ」
本当だったらどれも当たり前のように、別に辛くも何ともないように過ごせたはずだったのに。いつの間にかやることが山積みで余裕がなくなって、けど、いざそれに向き合おうとするともう心労がピークに達していたのだった。きっとこれまでそれらを無意識にストレスにしないよう努力していたのだ。しかし、そんなことに今更気づいてもどうしようもなくて、私の心に積もった蟠りは私をどんどんと崖の端まで追い詰めていたのだった。
「そっかそっか」
「……わたしっ……つらくて、けどっ、誰にも言えなくてっ」
「……今までよくがんばったね。沙綾はお姉ちゃんだから色々我慢しなきゃだもんね」
リサさんの甘くて優しい声が響いて、温かくて安らぐ手つきで撫でられた瞬間、溜まっていた涙がどっと流れ出た。ダメダメな私を大きすぎるほどの愛で包み込んで、ありのままの私を受け入れてくれるリサさんの眼差しに私は吸い込まれた。
どれほど経っていただろうか、私がリサさんのお腹に顔を埋めて、声を上げて嗚咽を漏らし始めてから10分ぐらいは経っていたのかもしれない。その頃には私の心の溝の澱みはある程度押し流されて、ただせいぜい顔に涙の筋が残るぐらいだった。けど、本当に心の奥底に蓄積したものは流れきっていなくて、惜しむかのように名残ながら私の涙は溢れ続けていた。
私の体はいつしか起こされて、リサさんの白い肩が私の肩と触れ合っていた。けど、リサさんは徐にこちらを向いて、私の肩はそんな細い腕に包まれていた。
「不満とか全部溜め込んで、辛かったね。……だから今日ぐらいは一杯甘えていいんだよ?」
「……リサさん」
「お姉さんに甘えて?」
その一言で、私の堰は決壊した。心の奥底に溜め込み続けた悪しきものを全て吐き出す。人には言えないような、醜い感情も、誰にも言いたくないはずの、重たい悩みを全部、全部。
「私はっ、ひぐっ……お姉ちゃんだからっ! うわぁぁぁん!!」
「……沙綾」
私の体を包み込む熱はその温度を上げる。柔らかな抱擁が泣き叫ぶ私の体を、心を包む。今まで経験したこともないような、人に甘えていい、というそんな状態は新鮮だったけど、癖になりそうなほどに甘ったるく、すでに私はそんな甘さに飲まれている。
だって、今まさに、涙を流しきった私の瞳は、慈愛の女神の口づけで潤い始めたから。今まで頑なに拒み続けた心が蕩けるように力が抜けていく。ただその麻薬のような甘さを頬張ることしかできない。トロリという細く撓んだ銀線がベッドの上には引かれている。
「んちゅ……ぷはぁ……、リサさん……」
「……あは、沙綾……もっと力抜いて?」
言われた通り、私の体重の全ては自分では支えられなくなって、そのままリサさんに倒れ込むようにしなだれかかる。私の素肌は徐々にその毒の掌に侵されていて、恥ずかしがることもなく姿を現す。
「んんっ、あっ……」
みるみるうちに晒された乳房を円を描くようになぞられて、私の体は震え上がる。自分1人では決して得ることのできない快楽が私の身を堕とそうとしていた。
「ほら沙綾……もう下もこんなことになってる」
「あっうそっ、んあっ……」
湿り気を得た私の下着はスルスルと脱がされていき、私の膣はもはや止めどなく液を溢し続けている。リサさんの指は優しく挿入されて。
「ひあっ、ああっ?!」
揉み込むように膣壁を擦り上げた。その瞬間私は視界が数度チカチカと点滅して、また力が抜ける。
「あはは、イッちゃった?」
「リサ……さんっ」
ピクピクと痙攣する私の体をわずかに抱き締めると、リサさんはベッドサイドからガサゴソと何かを取り出す。
「それって……」
「あっ、沙綾も知ってるんだ? オトナだねー☆」
リサさんの手にある玩具が私のクリへと伸びる。少しだけ熱を持ったその玩具は、リサさんがスイッチを入れた瞬間。
「ひっ、あっ、んああっ?!」
震えを持って私の体に快感を送り込んだ。
「沙綾可愛い〜、じゃあもっとやろっか」
「へっあっ、あっ」
最早返事をまともに返す余裕もなく、喘ぎだけが漏れている。リサさんの手は緩むことなく、気がつけば私の両の乳首にもその震えは与えられていた。自分がどんな状態かも定かではなく、私の体はビクリと何度も跳ね上がった。
「あっあっんああぁぁぁ?!」
全身の力が抜けて倒れ込む。そんな倒れ込んだ私の隣にリサさんは寝転がって私の耳元へと恍惚と蠱惑する唇を寄せた。
「指だけじゃ足りないよね?」
「……へ」
そんな風に囁かれ、視界を下半身へ向けると、リサさんの手にはローターとは違う、長い棒状のブルブル震える何かが握られていた。
「あっ……ん」
「ん……、じゃあ挿れちゃおっか」
音を立てながら、そのバイブは私のずぶ濡れの膣に挿入される。
「ひああっっ?!」
身体中を襲う振動は体の中からも私の快感を揺さぶり、私の体はさらに敏感に快楽を求める。どう体を捩ってもその快楽から逃れることはできなくて、ただ体を跳ねさせることしかできなかった。
「んあっ、あっ、あぁっあっ!」
「ほらほら、おかしくなってもいいんだよ〜?」
「あっ……」
震える私の上へと覆い被さり、私の唇はリサさんに塞がれる。嗚咽のような喘ぎが漏れて、もう頭の中は真っ白になっていた。
「ねぇ沙綾……」
「あっ、んあっ、リサさん……」
そう呟くとまた私の唇は優しく紡がれた。
「
「リサ……お姉ちゃん……?」
「〜〜! 沙綾偉いね、偉いよ……」
「あっ」
私の体を激しく、されど優しく抱き締めるリサお姉ちゃん。私の唇は慈愛に包まれる。
「リサお姉ちゃんっ」
けど、そんな慈愛は優しく私をいたぶってくる。
「沙綾、もっと素直になって?」
「んあっ、もっと、もっとぉ、リサお姉ちゃんっ」
私の身体を温かく満たしてくれるリサお姉ちゃん。もっと、もっと、もっと欲しい。リサお姉ちゃんの愛がもっと欲しい。
「はあっ、はぁっ」
「あはは、一杯甘えてくれて嬉しいな☆ それじゃ……」」
「リサお姉ちゃん……?」
徐にその身に纏う衣をバサリと脱ぎ捨てるリサお姉ちゃん。そしてどこからともなく取り出したそれを腰につけるとこちらを向き直した。
「それって……」
「流石に知らないかな? んっ……ペニスバンドって言うんだけどね」
そんな凶悪に反り返る棒を抱えながら、リサお姉ちゃんが私に覆い被さる。そのペニスの反対側はよく見るとリサお姉ちゃんの膣にも挿入されていて、先端は私の洪水を起こす谷間に擦り付けられている。もう、我慢の限界だった。
「リサお姉ちゃん……それ、挿れてっ」
「うん、もちろんっ」
ズブり、と膣が広げられるように棒が沈み込んでいく。なぜか震えるその棒はとてもゆっくりと私の膣の奥まで突き刺さった。途端にこれまでの快感とはまた違う種類の快楽が溢れる。
「あっ……?! なにこれぇっ」
「ふふっ、沙綾可愛いなぁ。それじゃあ動かすよ?」
本当ならばそんなに太い棒が入っていれば簡単には動けないはずなのに、私の膣はまるで寵愛を返すようにその棒を、リサお姉ちゃんの愛を受け容れた。最初はゆっくり動いていたはずのリサお姉ちゃんの腰は次第にリズムを刻み始める。
「まっ、てぇっ、リサお姉ちゃんっんんっ」
「はぁっ、あっ、沙綾っ? どうしたのっあっ」
「はぁっ、んあっ、おかしくなるぅっっ!」
体を裏側からひっくり返されるような波が私を押し流す。私の口から漏れる懇願の喘ぎはリサお姉ちゃんの唇に貪られた。
「んんっんっ、んんんん?!?!」
「あっあっ、沙綾っ、いいよっ、おかしくなってぇっ」
「お姉っちゃんんっ! 好きぃっ、好きっ」
激しく突き立てられるペニスは私を激しく狂わせる。でも気が狂いそうな快楽以上に私を呑み込んだのは、リサお姉ちゃんの大きな愛だった。
「アタシも、んっ、沙綾のことっ、大好きだよっ、だから甘えてっ?」
「お姉ちゃんっ、リサお姉ちゃんっ!」
すでに私の蜜壺から溢れ出す水音は2人の喘ぎで掻き消されて、私の目の前で腰を振ってくれるリサお姉ちゃん以外のことなんて、私には分からなかった。
「キスっ、してぇっ、お姉ちゃんっ」
「沙綾っ、んんっ、んっ、んあんっんああんっ!」
もはや口づけだけでは快楽の声は抑えられない。そして。
「んっ、沙綾ぁっ、アタシもうイ……クっ!」
「私も、んっきちゃうっリサお姉ちゃんっ、イクっっ♡」
私たちは重なり合った。
「……あ、リサさん」
私は荒い息をなんとか抑えると、私の体を抱き締めながら頭を埋めるリサさんへと視線を向けた。私が名前を呼ぶと、リサさんは徐に顔を上げて、こちらに微笑み返す。
「あは……沙綾ぁ? どうしたの」
蕩けた顔を曝け出してこちらを向いたリサさんに私は感謝の言葉を告げた。
「その……ありがとう、ございました」
「……いいんだよ。甘えたくなったらいつでも甘えて良いからね?」
温かな掌が私の前髪をそっと撫でる。そして唇が重ねられた。
「……うん、ありがとう、リサお姉ちゃん」
私たちはその日1番長いキスをした。
蔵に私たちの音楽が響き渡る。最後の1音が蔵の壁に反響すると、みんなで少しだけ一息ついた。
「てか沙綾? 最近調子よくねーか?」
「え? そうかな?」
「うん。きっとオッちゃんも沙綾のドラム聞いたらビックリしそう」
「あはは……それは音の大きさに驚いてるだけじゃないかな?」
「でもでも今日のさーやのドラム、いつにも増してすっごいカッコいい!!」
「沙綾ちゃん何かあったの?」
「うーん、ちょっとね♪」
だって私にはお姉ちゃんがいるから。