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陽はとっくのとうに沈んで、既に空高くには月が昇り、それを囲むように数多の星々が瞬いている、そんな夜半のこと、旭湯の和室の寝具の上にはそんな天体からの明かりだけが届いていた。その明かりたちが照らしている先、柔らかに体の沈み込む敷き布団の上で、私は寝転がり、不眠と格闘している。別に際立って何か理由があるというわけでもないのだけれど、ただなんとなく寝つきが悪くて、少し前から布団の上でゴロゴロと寝返りを打っていた。
「ん〜寝られへん……」
むしろ寝よう、寝ようと考えれば考えるほどに目は冴えてしまって、余計に寝られる気がしなかった。こういう時、私は決まって日課になりつつある、物思いに耽ることにしていた。今日も今日とて、私の右手は既に淡い欲情を持った秘所の方へと伸びており、ズボンの間から手を入れて、下着の上から触るだけでもじんわりと湿っていることが分かった。
「はぁ……」
僅かながらに自己嫌悪に陥りつつも、その手の動きは止まらない。ゆっくりと、ゆっくりと、私の人差し指は私の濡れ始めていた筋をなぞり始めた。そして、私の大好きな憧れの香澄先輩のことを思い浮かべた。
私は気がつけば香澄先輩の部屋にいて、勧められたベッドの方に腰掛けていた。香澄先輩らしい星のあしらわれた掛け布団をそっと撫でると、どこからか香澄先輩の明るくてそれでいて元気になれるような匂いがして、私の気持ちはさらに昂った。
やがてガチャリと勢いよく部屋の扉が開く音がした。
「お待たせ〜! おやつとジュース持ってきたよ〜!」
「あ、ありがとうございますっ!」
元気の良い朗らかな声とともに部屋に帰ってきた香澄先輩。私はぴょんとベッドから立ち上がって、私のために菓子を急いで持ってきてくれた香澄先輩からせめてお盆を預かろうとした。その瞬間だった。
「わっ!」
「えっ、きゃっ、きゃあぁ?!」
一瞬、香澄先輩の体が浮いたかと思うと、ドアのところで躓いた香澄先輩の体はジュースやお菓子の載ったお盆を持ったまま私の方へと倒れてきた。当然避けることなんて出来ず、私はそのまま香澄先輩を全身で受け止める形で倒れた。冷たい液体の感覚とずしりとした感覚がして、部屋にはドタン、という大きな音が響く。
「いたたたた……、あ?! ご、ごめんね?! ロック!!」
「い、いえ、大丈夫です……。香澄先輩こそ怪我とかしてないですか?」
「私は大丈夫だよー!!」
気がつけば倒れた私の周りにはお菓子の袋やらが散乱していたのだが、それよりも胸元のあたりが少し濡れている事の方が気にかかった。……いや、もっと言うならば、この状況の方が私にとってもっと重要で、1番ドキドキすることになっていた。
そして、私の服が濡れてしまったのは香澄先輩の目にも入ったらしかった。
「わ、ごめんねロック! 服濡れちゃってる!」
「わ、私は大丈夫です、拭けば大丈夫ですから」
「でもシミになっちゃうよね!」
テーブルに置いてあったティッシュケースから数枚ティッシュを引き抜いて、ポンポンと私の胸元を叩きながら拭いてくれる香澄先輩。その姿は優しさの権化で、とにかく魅力的で、何よりこの、偶然にも香澄先輩に馬乗りにされているという状況が私にとってとても興奮を掻き立てられる状況だった。思わず体が身震いしてしまった。
「あれ? ロックどっかこそばゆい?」
「え、あ、大丈夫ですっ!」
私の反応を見た香澄先輩は、僅かにニヤリと悪戯な笑みを浮かべた。けれど、下から見上げるそんな香澄先輩の表情は、また吸い込まれるような官能的な魅力に溢れていた。
「……ごめんねロック? やっぱり服結構濡れちゃってるし脱いじゃおっか!」
「え、えぇぇ?! そ、そんなん恥ずかしい……です」
「大丈夫だよー! ほら、ゆっくりでいいから脱ごう?」
「うっ、は、はい」
香澄先輩にそう言われてしまうと脱がざるを得ない。というか積極的に脱ぎたい。香澄先輩は目を大きく見開きながらゆっくりと上の服を脱ごうとする私を見つめている。
「……そういえば、この体勢、ちょっぴりエッチだね?」
「えっ、そ、それは」
そんなふうにこちらを見つめながら呟く香澄先輩の声色には甘い色香が混じっていた。その色香は私の中の少しだけ変態な気持ちを呼び覚まそうとする。
「ロックはこういうの好きかな?」
「えっ」
さっきまで少し引き気味に私の上で馬乗りになっていた香澄先輩は、今度はこちらへと倒れ込んできた。それだけではなく、香澄先輩の綺麗な腕は私の顔のすぐ横の床に突かれて、香澄先輩の耽美な顔が私の間近に迫ったのだ。
「押し倒されちゃうのとか?」
「え、え、はうぅ」
「それとも、それだけじゃ足りないかな?」
「えっ、んっ……」
「んっ……」
徐に迫る香澄先輩の尊顔。暗い中でも赤く光るリップから漏れ出る吐息は私の鼻をくすぐった。けど、それに意識を向ける暇もなく、私の唇は塞がれる。香澄先輩の甘くて蕩けそうな唇が私の思考を奪っていく。頭の中はどんどん快楽に塗りつぶされて、視界も白黒の反転を繰り返した。
「んちゅ……」
ゆっくりと離れていく唇。離れていこうとしながらも、名残り惜しむように吸い付いてゆく唇と余韻に浸る唾液の糸。
「ロック可愛い……、こんなに下も濡らして」
「あんっ……」
唇にばかり意識が向いていると、香澄先輩の指は不意に私の性器の筋を撫でる。普段そういった性的なことへの興味がそんなになさそうな香澄先輩なのに、慣れた手つきで私のカラダの敏感な部分を的確に責め立てようとしてくるギャップが私の心に突き刺さる。
「そんなとこぉ……んっ、触ったらあかんっ」
「え? もっと触ってほしいんだ?」
「あっ、ちがっんんっ!」
ただ下着の上から筋の部分を擦るだけではなく、僅かに指を滑り込ませて、私のクリトリスまでもが香澄先輩の手に触れる。そこから伝わる電流のような快感は、全身に巡って、私に興奮のみならず、満足感すら与えてくれた。
「えー? でもロックのここはもっと触って欲しそうにしてるよ?」
「んんっ、そんなぁ……」
途端に今度は焦らすようにおへその下あたりに円をなぞる。そこはそこでこそばゆいのだが、さっきもっと体が変になるような快感を与えられていた身からすると、そこだけでは全然物足りなくって。
「香澄せんぱぁい……もっとぉ……」
そんな懇願の声を聞き届けて、香澄先輩はニッコリと笑う。その笑顔はポピパの5人がステージ上で浮かべる笑顔のようで、その実とてつもなく淫靡な、私を捕らえて離さないような笑顔だった。だからこそ私は、こんな快楽を求め続ける。
「そっかそっかぁ、ここが切ないのかなー?」
スルスルと下される私の下着。遠目から見てもびちょびちょで、見るからに私の欲望の蜜が表出していた。けど、香澄先輩はそんな下着を一瞥して恍惚な笑みを浮かべた。そしてそのまま倒れ込んだ私の上へと覆い被さる。
「へぇ、ロック……こんなに期待してたんだ?」
「あっ、は、はいぃ……」
私の耳の奥まで響くそんな甘美な声は私の心にまで響いて、私を狂わせる。
「指挿れちゃうとどうなるかな?」
「あっ、んっ……」
私の唇が香澄先輩を受け入れる。それと同時に、ずぼ、ずぼ、と私の膣に沈み込む何か。
「んっ、んんっっ?!」
香澄先輩の柔らかな温かい指が、私の膣を犯し始めた。それだけで頭がおかしくなるような気持ちであふれる。
「あはははっ、ロックかわいい〜♪」
「んあっ、あっ、だめっ、ですっ、ひゃぁあああ?!」
「ほらほら、おかしくなろ?」
「は、はひっ、いぃっ、んあっ、んああっ」
まともに返事も返せないぐらい、私の喉の奥から快感が込み上げてきた。
「おかし、おかしなるぅっ」
「いいよぉ? おかしくなっちゃえ♪」
普段は天真爛漫な香澄先輩が、今だけはサキュバスのように見えた。搾り取るのは男性の性じゃなくて私の欲望かもしれないけど、このサキュバスに身を堕としたくなってしまうほどに心地よくて、満たされていた。
「あかんっ、ひぅっ、あっ、イクっ、イクぅ、イクぅっ♡」
私の足は、腰は、胸は、全てが全て跳ね上がって、体の隅々まで絶頂が伝播していく。私の果てた証は香澄先輩の手をびしょびしょに濡らしており、香澄先輩はそんな指を満足そうに細く長い舌で舐めとると、その顔に色気を混ざらせながら私の唇を奪った。私の膣の出す音よりも控えめな水音だったが、体の中をそのまま走るように、私の脳内に卑猥な舌の絡み合う音が響き渡る。私をダメにしてしまうようなその音と、香澄先輩から漂ってくるどこか懐かしい匂いに、私の体は悉く犯されていた。
「あひっ、あっ、あっ……」
「ロックは本当に可愛いなぁ……、私が一生いじめてあげたいぐらい可愛いね……」
「あっ、はぁっ、はぁっ」
香澄先輩にいじめられて飼われる……。なんと魅力的な提案だろうか。こんなに充足感を与えてくれるなら、そんな人生もいいかもしれない。なんて考えながらも、今も痙攣を続ける体に酸素を送り込むため、私は肩で息をしていた。
「ねぇロック……、またおかしくなりたい?」
「はぁっ、えっ、はぁっ」
私がなんとか焦点を香澄先輩の顔に合わせると、香澄先輩はこちらを見て顔をこてんと倒しながら笑った。さっきまでは出ていなかったような途端の幼さと、さりげなく漏らされる吐息のセクシーさに、私は一瞬、香澄先輩の言葉の意味を理解することが出来なかった。……しかし。
やがてその意味を悟ると、こくり、となんとか首肯する。香澄先輩は満足そうに、私にまた口づけの嵐を与えてくれる。それだけでまた頭がどうにかなりそうで、視界は真っ白に染まった。
「そっかそっか、じゃあまた欲しくなったら、……この部屋においで?」
「は、はひ……」
ポピパの香澄先輩ではなく、その姿は私だけの香澄先輩だった。一周回って恐怖すら与えるような狂気的に魅了してくる香澄先輩の瞳が私の瞳を真っ直ぐに捉えた。
「だーいじょうぶ、おかしくなる時は一緒だよ? ロック……」
「香澄……先輩……」
そうして私はまた狂気の交わりに溺れていく。抜け出そうとしても抜け出せない、そしてやがて、抜け出すことすら嫌になる、そんな狂気の沼に沈むのだ。
「はぁっ……はぁっ……んはぁっ」
幾度果てただろうか。何度も何度も快感の波が私を襲って、つい先程までも、ただ欲望のままに自分のクリトリスと膣を触り続けていた。もちろん香澄先輩が私を優しく犯してくれる、なんてことはなくて、私の妄想の世界だった。けれど、そんな妄想の世界でもあまりにもそのイメージは毒であって、私の興奮は一晩中冷めやらぬものとなってしまったのだ。自分の妄想の世界で繰り広げられた淫乱な香澄先輩の挙措は現実離れしていながらもどこか現実味があって、それは私の妄想をさらに過激にしていた。
「うぅ……びちょびちょやぁ……、え?」
窓の外から不意に耳に届いた小鳥の囀り。まるでそれは朝を告げる鳴き声かのように。
「てっ、えっ、ええぇっ?!」
窓の外に視線を向けると、すでに東の空は赤らんで見える。当然部屋は電気を消しているのにもかかわらず、物の影がうっすらと見えるぐらいには明るくなり始めており、壁に掛けられた時計が差す時間は正真正銘、紛うことなき朝の刻であった。
「う、うわぁ……最悪やぁ……」
やってしまった、なんて後悔はするのだけれど、本当にその後悔に意味はなくて、ただその無常さを私の股の下のシーツが陰鬱となるほどに伝えてくる。今日は休日だから学校こそなくて助かったものの、これからGalaxyでバイトがある私にとって、逆に休日であることは不幸なことですらあった。単に夜更かしした体にバイトは厳しい、ということももちろんあるが、何より今日はきっとポピパさんがくる。
……一体私はどんな顔をして香澄先輩も会えばいいのだろうか。つい数時間前まで自分の妄想の素材として最大限に活用してた、なんて口が裂けても言えるわけないし、言うわけもないけど、そんな事実を隠して香澄先輩とまともに顔を合わせて話せる気もしない。
「もうあかん……」
けどサボるわけにもいかないと、気を引き締め直した。努めて冷静に、何事もなかったかのように振る舞えばいい。だって香澄先輩は私のこんな夜中の痴態なんて知らないはずなんだから、私とて知らないフリをしておけばいい。
……そう考えていた時期が、私にもあった。
「やっほーロック!! あれ、目の下におっきなクマできてるけど、どうしたのー?」
「え、あ、あ、あぁ……、大丈夫ですー!!」
私は自分の持ち場がどうとかなんて意にも介さず、逃げた。きっと私の顔は過去一赤かったろうし、ポピパさんもみんな絶対訳が分からなかったろう。
というかそうであってくれ、なんてどこか重々しい虚空に呟いた……。
『……ふふ、ロックは本当に可愛いなぁ』
……空耳かな。どこか華やぐ脳内に響いた……。