よく晴れた日の夜。もう外はすっかり陽が落ちてしまった頃、自分の部屋に篭りながら、香澄は数日前に見た夢のことを思い浮かべていた。とてもリアルな触感があった夢。自分がどんなことをしていたかという感覚も、手に残っているようなそんな不思議な夢だった。
「うーん?」
考えれば考えるほどにそれげ夢だったのか現だったのかよく分からなくなる。考えても考えてもどうにも答えが出ない。そんな悩みは香澄の胸にひどくつっかえていた。
「……よし!」
そしてそんな蟠りをなくすため、香澄は意気揚々と起き上がる。自分で分からないなら、と件の人物を探し始めたのだ。
……時は僅かに遡る。そんな姉の下世話な悩みなどつゆ知らず、明日香は1人のんびりと湯船に浸かっていた。のんびりと湯船に浸かっていた、とはいっても、当の明日香本人は心穏やかに湯に浸かるのではなく、何やら物を思いながら湯に浸かっているようであった。
「はぁ……」
明日香は自分が無意識のうちに香澄、つまり姉のことを目で追っているということに気がついていた。だが素直になれない自分がそんなことを許さず、結果として明日香の中で香澄との関係は微妙な空気感になっていた。
「……どうしたらいいんだろ」
熱い湯船に浸かりながらも悶々と相反する欲望に挟まれて、雁字搦めになる明日香。そんな明日香の思考を一気に掻き消すものが現れた。
「やっほーあっちゃん!!」
「ってきゃああぁぁっっ! お、お姉ちゃん?」
予想もしていなかった人物の登場に明日香は湯船から体が出るほどに驚き、飛び上がった。その表情は心なしか嬉しそうで、風呂のせいか頬が少々赤かった。
「来ちゃった、あっちゃん!」
そう言っていきなり湯船へ飛びこんで来ようとする香澄。当然の如く、お風呂に入るために生まれたままの姿を晒す香澄に思わずドキリとしてしまい、バツが悪そうにそっぽを向いた。
「あっ、先に体洗わなくちゃねー」
やけにテンションの高い香澄。先程知りたかったことがしっかりと内心で定まったらしく、明日香の心づもりさえ出来ているようであれば何のブレもなく真っ直ぐに、あの夢の真実を知ろうとしていた。
「て、てか何でお姉ちゃん入ってきてるの……」
テンション高めの姉と比べ、突然の珍入者に驚き、困惑している妹。いや、おそらくこの反応が正常なのだろうが。妹のそんな質問にも、どうやら頭を洗っている最中で聞こえなかったのか、香澄は何も明日香の反応を気にせず淡々と体を洗っていた。
「……も、もう」
答えてくれない姉に少々の不満を感じて、ジト目で香澄を眺める明日香。しかし、身体中を大粒の雫で濡らし、しなやかな肢体を見せる姉の姿は、先ほどまで姉のことを想っていた明日香にとっては強烈すぎるほど魅力的であった。すらりと伸びた手足。適度に肉の付き、自分よりも遥かに大人の女に近づいている姉の姿は端的に言って、綺麗であった。
「……は、だめだだめだ」
すっかり姉の魅力に見惚れてしまっていたことに気がついた明日香は思い切り頭を振って煩悩をなんとか退散させようとする。熱い湯船に誘われた煩悩は恋煩いの明日香に纏わりついて、なかなか離れようとはしなかった。
「よーし、それじゃあっちゃんの隣お邪魔するねー!」
「わわっ」
そして体についていた泡を全て洗い流したかと思うと、途端に湯船に飛び込む勢いで入る香澄。そこまで広いわけでもない浴槽に飛び込んできた香澄と明日香の体は必然的に触れ合って、互いの体の熱を交換していた。
「ふぅ……いい湯だね、あっちゃん」
「そ、そうだね」
まともに香澄の顔を見ることもできないのか、目を逸らしながら明日香は答える。長風呂のせいか、それとも煩いのせいか、明日香の頬は上気して、知ってか知らずかそれをなんとかして隠そうとしている。
「それにしてもあっちゃんと一緒にお風呂入るなんて久しぶりだよ〜!」
「ま、まぁ最近お姉ちゃん忙しかったし」
バンドのこともあったから、なんて言いながら直近で姉と一緒にお風呂に入った時を思い返す明日香。といっても辿ってもなかなか出てこないあたり、やはり久方ぶりであるらしい。
「あっちゃんはバンドしないの? ギターも楽しいよ!」
「えーお姉ちゃんと一緒……?」
さも嫌なことのような反応を返しているが、姉のことがとことん好きであった明日香はそれもいいな、だなんて思っていた。しかしそれが言えるほど素直でもなかった。そして、そんなことを考えている自分にも気づいて、それを恥ずかしがるという、明日香の中で負のループが完成していた。
「あれー? あっちゃん返事ないけど大丈夫?」
「だ、大丈夫だから!」
何の返事もしそうになかった明日香を不思議に思った香澄。そして微妙に会話が途切れてしまう。意を決して、香澄は先日の夢のことで口を開いた。
「ねー、それであっちゃんに聞きたいことがあって」
「え? 私に?」
「うん、この間話した夢の話覚えてる?」
「……ぇ」
予想だにしていなかった話題をぶっ込まれて絶句する明日香。香澄が風邪で倒れたあの日、熱のせいか今いるところが夢か現かすら認識できなくなった香澄を看病していた明日香。そのせいで姉の夢に付き合わされて、結局夢の中でならと好き放題されてしまったのであった。
「……う、うん」
「なんかあのこと思い出す度にキラキラドキドキして……もしかしたらあれ実は夢じゃなかったのかなー! なんて!」
「う……」
明日香は焦っていた。あの時は、翌朝は姉はそれを夢だと疑っていなかったのに、突然あれが現実のことだったなんて言い当てるなんて想像もしていなかったからだ。
明日香は悩んでいた。真相を伝えるべきか。寝ぼけた姉に襲われた時、たとえ本人が自覚していなかったとしても嬉しかったのは確かだった。けれどもしもそれが本当のことだとして、今の姉との距離感が変わってしまったらどうしよう。
「……いやー、まさかそんなことないよね、変なこと聞いちゃってごめんねあっちゃん!」
芳しくない妹の反応を見て、香澄はやはり夢だったのかと思い直す。だが、その瞬間、嘘をついて切り抜けようとしていた明日香は決心した。やっぱり本当のことを言おうと。だって、隠しきれそうになかったから。
「……お姉ちゃん、あれ、本当だよ」
「……へ?」
「あの夢で起きたのは全部現実の出来事。私がお姉ちゃんに襲われたのも本当だよ」
「……本当に?」
「……うん。でもねお姉ちゃん。私、嬉しかったんだ。……お姉ちゃんのこと、……好きだから」
「……あっちゃん」
深すぎる葛藤を吐露した妹を慈しむように見つめた香澄。そんな声と視線に囚われた明日香は顔をゆっくりと上げた。そして。
「……んっ」
襲われた時とはまるで違う。大切なものを愛でるような慈愛のキス。長すぎる口付け。何一つ音の響かぬ空間で、姉妹は愛しさを共有していた。
「……ぷはぁ」
ようやくそんな接吻が終わり、困惑するように、そして、隠しきれない嬉しさを滲ませるように赤面する明日香を見つめる。
「ありがとう、あっちゃん。……とっても嬉しい」
「お姉ちゃん……んっんんっ」
想いを伝え合った姉妹は再び唇を重ねる。しかし今度はもっと相手を求めるような、次第に激しくなるキス。妹の口の中を姉の舌が這いずり回っている。明日香は、そんな暴れ回る舌を大人しく受け入れ、力の抜ける腕で必死に姉にしがみついていた。
「んっ……、えへへあっちゃん。ずっと浸かってたらのぼせちゃうから、ちょっとあがろっか?」
「へ……うん」
目が蕩けて焦点が合わないようになり始めた妹を浴槽の縁に座らせる。そして香澄はその隣に腰掛けて、その手をゆっくりと妹の下の方へと伸ばす。
「あっ……んっそこっ」
「あっちゃんはここが欲しいんじゃなかったの?」
「……ぅ、さ、触って……」
許可を得た香澄は凶悪にもいきなり敏感なクリトリスの付近を撫で始める。明日香のか弱い悲鳴が風呂場に響く。そんな声が愛おしいと感じたのか、香澄は再び明日香の唇を奪った。
「んっ、あっ、あっ、おねえ、ちゃんんっ」
「あっちゃん可愛い……ほら、ここも指いれちゃうよ?」
「え、あっ、んああっ……」
明日香の穴の中に沈んでゆく香澄の指。風呂場だというのに決して湯船の音ではない水の音が響いている。香澄の責めに我慢しきれなくなった明日香は色っぽい声を上げ続ける。
「んあっ、い、んんっ、んはぁっあっ」
「ほらほら、お姉ちゃんに触られておかしくなっちゃっお?」
「んあ、お、お姉ちゃ、好きぃっ」
「あっちゃん、私も大好きだよ」
「んあっ、あっ、イクぅっっ♡」
耳元で囁かれた甘い言葉に明日香の興奮は最高潮に達した。
「んはっ、はぁっ、はぁっ」
「あっちゃんの体ちょっとだけ冷えちゃったね、もうちょっとつかろっか?」
「う、う、うん、はぁっはぁっ」
半ば放心状態の明日香が風邪を引かないようにともう一度共にお風呂に浸かる。明日香は香澄の腕を震えながらもギリギリで掴んでいた。そんな明日香を香澄はそっと抱きしめた。
「あっちゃんよくがんばったね……今度は私のこと好きにしていいよ?」
「え……?」
抱きしめられながらも明日香の顔がゆっくりと上を向き、見つめ合った。優しく微笑みかける香澄に、明日香の中で糸がふっと切れる音がした。
「……お姉ちゃんっ!」
「わっ、んっ、あっ、あっちゃんおっぱいっ、だめぇっ」
「んちゅ、ちゅっ」
抱きしめられながらも『好きにしていい』と言われた明日香は目の前にあった香澄の無防備な胸を思い切り吸い始めた。卑猥な水音が浴槽に反響する。惚けていたと思っていた明日香の突然の攻撃に不意を突かれた香澄は甘い声を上げ、より強く明日香を抱きしめる。明日香が愛おしくなったのか右手でなんとかゆっくりと妹の頭を撫でた。
「んあっ……あっちゃん激しい……」
「……お姉ちゃんが悪いんだよ」
「あっちゃん……? んんっ?!」
突然香澄の脚を伸ばさせたかと思うと、自分も脚を香澄の脚と組み合うように伸ばした明日香。密着し合った2人の体。そして、明日香は自らの秘所を香澄の秘所に擦り付け始めた。これには思わず香澄も大きな嬌声をあげてしまう。
「んあっ、あっ、あっちゃんん?!」
「あっ、お姉ちゃ、お姉ちゃん! すきっ」
「んひぃっ、んあっ、だ、だめっ」
突然身体中に走った快感に思わず強く明日香を抱きしめる香澄。明日香は負けじと空いていた右手で香澄の胸を揉み始めた。
「んあっ、おっ、おっぱいもっ、んんっ! いっしょはだめぇっ!!」
「お姉ちゃっ……んっんんっ」
「んんっ! んっんんっ?!」
蕩けた声を上げる香澄の口を明日香が塞ぐ。そして体の底から浮かび上がってくる快感に2人は思い切り抱きしめ合う。
「んはぁっ、あ、あっちゃんっ、私だめぇっ!」
「お姉ちゃんっ、私も、んっ変になるっ!」
「好きぃっ、あっちゃん!!」
「んあっ、私もぉっ! 大好きぃっ!」
そして2人は果てた。湯船の中で、2人は放心状態になりながら、愛を囁き続けていた。
こんこん。という音が香澄の部屋に響いた。時刻はすでに11時を回っていた。
「はーい? あ、あっちゃん! どうしたの?」
ドアを開けて入ってきたのは明日香だった。明日香はもじもじとしながら香澄の顔色を伺っていた。そしてゆっくり近づき、立っていた明日香に抱きつくようにもたれかかる。
「……ふふっ、甘えたかったんだねーよしよし」
「うぅ」
いつにもなく正直な明日香は堂々と姉に甘える。そんな妹を我が子のように撫で回す香澄。先程の情事を意識していたのか何なのか分からないが、明日香の口数は少ない。
「お姉ちゃん……好き……」
「……えへへ、私もあっちゃんのこと大好きだよ……」
「……うん」
頭を香澄の胸に埋めながら小さく頷く明日香。そんな明日香の小さな頭をそっと香澄は撫で続けている。
「……ねぇお姉ちゃん。一つお願いがあるんだけど……」
「え、お願い? どうしたのー?」
お願いがあるとは言いつつも、明日香も言い出しにくいのか、なかなかスッとは言わずに香澄に抱きついている。しかし、香澄は急かすのではなくゆっくりと明日香が落ち着いて、そのお願いが言えるようにじっと待っていた。そして明日香は決心して、その口を開いた。
「その……今晩は一緒に寝たいなって……」
「……ふふ」
「……だめ?」
「んーん、もちろんオッケーだよ!! もぉーあっちゃん可愛いなぁー」
「お、お姉ちゃんだって可愛いし……優しいし……うぅ……」
急に正直になりすぎたことに自分自身ですら葛藤しているのか、赤面しながら顔を香澄に埋めてやり過ごそうとする明日香。そんな恥ずかしがる明日香をもう一度撫でて、香澄は明日香の手を引く。そして自分が先にベッドの奥へと入ると、掛け布団を持ち上げて、小さな声でつぶやいた。
「ほらあっちゃん……おいで?」
「……うん」
ベッドは2人入るほどには広くないが、2人が密着すればそこそこの余裕はありそうだった。そんなことを知ってか知らずか、2人はベッドの真ん中に寄り、くっつき合う。布団の中は先ほどの湯船よりもあったかいものであった。
「こんなふうにあっちゃんと寝るなんて本当にいつぶりだろうね」
「私が小学校の低学年とか……それぐらいかな?」
「うん……きっとそれぐらい。……大きくなったね」
「お姉ちゃんもね」
「えへへ、心は子どもだよ……」
「それはもうちょっと大人になってほしいかなって……」
少しばかりつれない言葉を漏らす明日香だったが、自然とその頬は緩んでいた。
「……ねぇお姉ちゃん」
「どうしたの?」
「お姉ちゃん、大好き」
「……うん。私も」
2人はより強く密着し合う。腕を互いに背中へと回し、空気の入る隙間もないほどに抱きしめ合う。
「……私も、あっちゃん、大好きだよ」
「ありがとう、んっ……」
そっと触れ合うだけのキス。しかし心は深く重なり合っている。香澄の部屋に流れる穏やかな時間。そして2人はゆっくりと眠りに落ちていった。
「遅いよお姉ちゃん」
「えへへごめんごめん」
家の前で待っていた明日香に謝る香澄。昨日までであれば、そこには冷たく不満を垂れる妹とそんな不満をぶつけられる姉の姿があったのかもしれない。
「……お姉ちゃん、手は?」
「……えへへ、はい、行こう?」
「うん」
そっと繋がれた2人の手は温かな熱を持っている。まだ肌寒い朝だというのに、とても幸せな熱を帯びていた。
「あっちゃん今日はいつぐらいに帰ってくる?」
「えー、まぁ7時ぐらいかな?」
「一緒ぐらいかな? また一緒にお風呂入る?」
「……うん」
2人の間に漂う幸せのオーラは何者にも邪魔されない。戸山姉妹は仲睦まじく、手を絡めあいながら朝の道を往くのであった。